ヤバイレベルで布陣してる。いや、やばいというか本気というか殺意凄いっすね皆さん。なんか、こう、目光ってませんか? 光ってない? 錯覚? 殺気を感知してるだけかこれ。こっわ。この人たちこっわ! あ、こっち向かってきてる! 怖い! 助けて! やばいって! 視線だけで人を殺せそうだよこの人たち!
「おぉ、稀人アイン殿!」
「貴方が我々に機会をくださったと聞きましたよ!」
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
「この手で祖国を救う事が出来るだなんて……!」
目の前までやってきた兵士たちはその殺気を一瞬で霧散させた。その代わりに笑みと、そして心の底から感謝の言葉を紡いだ。優しく手を出してそれを掴み、強く握りしめて、振る。その手の中には凄まじいまでの感情が感じられて、ちょっと圧倒されてしまう。そして最初の1人に続く様に次が、その次が、どんどん雪崩れ込んでくるようにやってきては握手しようとして、ちょっともみくちゃにされてしまう。だが直ぐに統制を取る騎士っぽい人が出てきて、集まってきた兵士たちを散らして、作戦の準備に戻す。
「申し訳ありません、アイン殿。皆、作戦の前に昂っていて」
「あ、いや、こっちも不用意に近づいたし」
さっさとPCの集まりまで進むことにするか、と思うと騎士が改めて頭を下げた。
「えーと」
「皆を代表して―――ありがとうございます」
凄い、感謝されてる感じがする。こっちの困惑を他所に、騎士が言葉を続ける。
「私たちは騎士であり、そして兵士であり、我が祖国の守護者を自負する者達です。私たちは己の国を守る事を誇りとしています。私たちは家族を、友人を、土地を、生活を、財産を、そしてこれからの未来を守る為に武器を取りました……ですが今の現実はどうでしょうか?」
騎士の視線が空へ―――封鎖領域へと向けられた。
「私たちは守るどころか抗う事すら許されなかった……どれだけ力を重ねようが、鍛えようが、まるで無意味」
そういう設定のゲームだから、と言ってしまえれば楽なんだろうが。それは此方の事情であって、彼らにはその事情は通じない。彼らからすれば理不尽に世界を縮小されただけなのだ―――その原因が俺達が遊ぶためだと知ったら、この人は発狂するのではないだろうか? いや、この世界の開闢も俺達が遊ぶためなのだ。そう思うとこの先あの人々はひたすら被害者というか、哀れというか、
こう、上手く言葉で言い表せない。
「ですがそれが今、目の前に来ています。触れられる距離に来ると」
「……」
「故に感謝してるのです。我々はこの無力感から抜け出せる。戦える。傭兵も、冒険者も、兵も騎士も英傑も、等しく無力だったこの世界で漸く、己の本懐を果たせるという事実に。ありがとうございます、我々は漸く―――漸く、この手で己の守るべきものを守れるのです」
そういうと騎士は一礼してから去って行く。入れ替わるように別の者がやってくる。今度はプレイヤーだった。
「ボス! こっちも参加できる奴は大体揃いました! 今、連合パーティーに誘いますね!」
「お、おう」
テンションたかーい。と心の中で思いつつも、ニーズヘッグともどもパーティーのお誘いを受ける。連合パーティーとは何かと思ったが、チュートリアル用のウィンドウが出現する。確認する限りは大規模参加コンテンツ用の大人数パーティーであり、通常のパーティーとは違って合計参加者が1パーティー辺り最大30人になるらしい。ただ常に結成の許可が出る訳ではなく、この手の大型レイドイベントや攻略の時にAI側が組むのに値する状況か否かを判断し、連合パーティーを組めるようになるらしい。
普通のパーティーと何が違うの? ってなると連合用ログとチャットが存在し、連合に参加しているメンバーに対して発言で会話を行う事が出来るらしい。実際に声が聞こえる訳ではなく、距離がある場合はメッセージとして連合ログに出てくるとか。こりゃあ便利だ。態々声を張らなくてもログを監視さえしてれば発言を追えるのだから。
『お、来た来た』
『ボスちーっす』
『いらっしゃいませぇ―――!』
『よろしくお願いしまーす』
『( `・∀・´)ノヨロシク』
「一気にログが挨拶で流れるわね」
顔文字の挨拶とかMMOあるあるだけどどうやって発言―――あぁ、いや、入力ウィンドウで発言を打ち込んでいるのか。そんな事もできるか、当然。ほえー、便利。これなら連合組んでいる仲間に即座に連絡を入れる事が出来る。が、参加する人数って総勢数百を余裕で超えてたよな?
「他にも連合あるの?」
「余裕で10を超える連合パーティーが組まれて現在作戦の下準備に封鎖領域前で待機してますよ! ボスの到着を待ってますよ」
「おー……じゃあ行くか」
「はい! いってらっしゃい! 俺はこっちで連絡員を務めるんで!」
「うす、お疲れ」
軽く手を上げながら労う。いつの間にか大きな位置に立っちまったなぁ、と思いながらノルトを召喚し、その首を軽く撫でてから騎乗する。同じようにセクエスにニーズヘッグが騎乗する。それでもまだ軽く頭を下げてこようとする殺意の集団から逃げるように、ノルトに乗って駆け出す。
だが大量の兵士たちが動員されているだけあって、封鎖領域までの道のりは安全を極めたものだった。
街道脇に出現する筈のエネミーは全て、出現したり発見された瞬間に兵士たちが一瞬で殲滅し、跡形もなく滅ぼす。フィールドという意味では狩場の独占に当たる行為だが敬礼し、そして安全を見張り、作戦の遂行を確かにするために展開されている。街道の上は完全にクリア、敵が出現してきそうな場所は片っ端からクリアリングを行っている。その規模はそれこそ殲滅作戦とさえ表現できそうな勢いで、敵の姿を見かけた瞬間には消えるからもう、いないのに変わりはなかった。
定期的に街道の安全を確認している、確保しているという話は聞いた。
だがこういう規模でやってるならそりゃあほとんどのエネミーが街道から消える訳だ、と納得せざるを得ない。
そうやって封鎖領域前まで移動すれば、大規模なプレイヤーの集団がそこにあるのを見つける―――近くにはそれを守る様に、騎士の一団も見える。かなり大規模な集団で、こんなに人が1つの目的の為に集まる姿は中々見たことがない。
「おー、来た来た! アインさーん! こっちですこっちー!」
「これでこっちはキーパーソン揃ったな!」
「バフ飯今のうちにくっとこ」
「踊るわ」
「脱ぐわ」
「踊りながら脱ぐわ」
「なんだこれ」
なんか集まりの一角でストリップショーが始まったんだが? キチガイか?
キチガイだわ。
容赦のないチェーンソーが変態に叩き込まれるのを無視していると、片手を上げながら挨拶をしてくるレオンハルトを見つける。此方も片手をあげて挨拶を返しながら、もう完全に諦めて状況把握と指揮をすることに頭を切り替える。
「調子はどんな感じ?」
「どこもやる気十分だ。今日は休日だし参加者も多い。統制が取れるかどうかだけが不安だが……まぁ、モチベーション十分だし、中核を担うメンツは昨日のうちにもう纏まってる」
「やる気ある奴多いなぁ」
「ま、そういうもんだろ? こういうイベントに参加する奴は」
レオンハルトの言葉にそうだな、と苦笑しながら答え、辺りを見渡す。どいつもこいつも珍妙だったりちぐはぐだったり、装備がめちゃくちゃだったりするが目に力を宿してやる気である事は確かだった。この場にいる全員がこのレイドを攻略する為に本気で集まったプレイヤーたちだ。ならもう信じてできる事を任せるしかないだろう。
「うし―――俺も気合入れるか」
ツブヤイッターにアクセス、配信の告知を行い、ミーツーブから配信枠を取って配信を開始する。その瞬間、大量のプレイヤーが配信になだれ込んでくる。
コメント『直前に言う事は告知じゃなくてほぼ報告って言うんだよ!! わこつ』
コメント『どうして告知しねぇんだよ! わこつ』
コメント『何時も通りのゲリラ配信わこ』
コメント『お前の配信をまってたんだよぉ!』
コメント『なんで脱いでるやつ多いの?』
コメント『開幕から突っ込みどころしかねぇ……』
「おーし、お前らやる気十分かー?」
軽めに集まりに対して声を放てば、咆哮の様な轟が返ってきた。その勢いと熱意に苦笑しながら軽く頭を掻き、自分の手に装備されている指輪を見る。それだけ、期待されているという事でもあるんだよなぁ、と再認識し、うし、と顔を叩く。
「―――作戦の最終確認を取るぞ!」
声を張り上げ、作戦開始前の最後の準備に入る。
全裸、よくあるMMOでのPC姿。
踊り、よくあるMMOでのPCの動き。
合わせるとストリップショーになる。どうして?