断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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俺達がナンバーワンだ Ⅵ

 おさらいだ。

 

「俺達の作戦は【ヘイトリレー】作戦って言えるもんだ」

 

 言ってしまえば簡単で、タンクがヘイトを取る、そのタンクが死ぬ、次のタンクがヘイトを取る。

 

「レイドとかで使われる”スイッチ”を利用したヘイト再取得でのヘイト輸送。これを使ってアビサルドラゴンを配置から引きずり出して封鎖領域から追い出す。既にこれが可能なことは実証されているし、運営からバグ修正の類は特に通達されてないだろう? ……良し、されてないな。つまりこれは仕様の範囲で可能なアクションだ。いくつかの懸念は存在するが、それを突破してアビサルドラゴンを外へと運ぶのが俺達の役割で、仕事だ」

 

 だがこの作戦には幾つか注意しなければならないポイントがある。

 

「1つ、雑魚の介入が問題のポイントの1つだ。こうやって外に関してはエルディア騎士団と兵団が戦力を割いて掃討してくれているから邪魔はされない。つまり外へと引きずり出せた時点で実質的なゴールだと思っても良い。まぁ、実際は封鎖領域から一定の距離を稼がないと安全だとは断言できないから、ある程度距離を稼ぐ必要はあるんだが。ま、それはどうにかなる範囲だ。問題は封鎖領域内のエネミーの処置だ」

 

 視線をレオンハルトへと向ければ、レオンハルトが頷く。

 

「俺達DPS、そしてヒーラーは既にタンクを中心とした連合パーティーを組んでいる。俺達の仕事はアビサルドラゴンの誘導作戦中、街道付近に出現するエネミーを引き寄せる事だ」

 

 レオンハルトの言葉を引き継ぐ、どこかで見た姿―――あ、あの人有名なVの者じゃね? ほえー、遊んでたんか。まぁ、遊べるなら大体の奴が遊ぶか。

 

「はいはーい、そして作戦を邪魔させないように釘付けさせておくことがお仕事でーす! 昨日は丸一日レベリングに費やしてレベルは大体が18前後、高い人で19、20! 雑魚相手にレベルでは多少劣るけど、タンクで受けて戦線を抑え込むだけなら何も問題ないレベルと能力だよ。ついでに騎士団の方からバフアイテムの補給品を受け取っているから、しっかりと使おうね!」

 

 視線を騎士団の方へと向ければ、軽く頭を下げて、近くにある木箱を示された。どうやらアレからバフアイテムを回収しろ、という事らしい。本当にサービスが厚い。王国側はこの1回で一気にこの封鎖領域を突破するつもりの様だ。まぁ、俺達もこの勢いは持続するとは思っていない。突破できるタイミングで突破したい。

 

「そういう訳でPC側の配置は大きく分けて2班に分けられる。俺達誘導組と、護衛チームだ。護衛チームは絶対にエネミーを街道へと通さないようにしてくれ。倒す必要はない。殴ってある程度纏めたら街道から外れる様に誘導、そこで戦線を膠着させればオッケーだ。アビサルが突破した後は装備を脱いで即死して、デスルーラで王都まで戻れば戦場に直ぐ戻ってこれる」

 

 確か王宮が早馬を用意していた筈だ。そんな話を聞いていた覚えがある。

 

「んで2つ目。アビサルドラゴンの行動パターン変化。相手も生きている以上、その場で適応や対応をして行動が変化する可能性がある。この場合、臨機応変に対応しなきゃいけなくなる」

 

 一番怖いパターンでもある。根本的な戦術が崩壊するパターンだ。だからこれに対する対処方法も考えなきゃいけないのだが、これに関してはまだ何とかなる部分がある。

 

「こいつは俺とニグで対処する。というか対処できる能力があるのが俺達だけ、って所だ。馬を保有している俺達は封鎖領域内を高速で移動できる。トップスピードはほぼアビサルと同速だ。これに奥の手を組み合わせれば一時的に速度でアビサルを抜ける。だからこっちで対応と指示を出すことができる……って訳だな。近くにいりゃあ応援を頼むし、ある程度臨機応変に動く必要があるのは覚悟しておいてくれ」

 

「了解!」

 

「任務拝承」

 

「はーい!」

 

「ゼンラ―スピン!」

 

 誰だ返答の代わりに全裸回転しだした奴は。対応に困っちゃうぞ。まぁ、それだけやる気があると思えば良いのだろう。此方のプレイヤー勢は誰もがやる気十分という様子。モチベーション的な意味では間違える要素はない。時間を確認し、作戦開始までどれぐらいを騎士の方へと確認すれば、騎士団の方はいつでも作戦開始に入れるという返答が返ってきた。

 

「良し―――それじゃあ封鎖領域に突入して、準備を整えるぞ! それと護衛班までは脱ぐ必要ねぇから装備しろ!!」

 

コメント『草』

コメント『全裸は正装だぞ』

コメント『全裸忍者のいる世界じゃないんだよ!!』

 

「オラ! 動け動け! 確かにアビサルを倒すのはエルディア人の連中かもしれねぇ! だけど俺達が居なきゃそもそも戦う舞台に立てもしないんだ! だったら証明してやろうぜ、俺達の凄さをよ!」

 

 馬鹿どもを蹴り出しながらため息を吐いて、支給品を受け取る。火力と防御をバフする為のアイテム、2種類を回収したらそれをベルトにセットして、いつでも使えるようにしておきながらノルトに騎乗しなおし、その首を鞍の上から撫でる。

 

「良し良し……頼んだぞ、ノルト。今日はお前が主役だからな」

 

「ブルルッ……」

 

 返答するように嘶くノルトの様子に、こいつもこの状況に少なくはない興奮を覚えているのだと笑い声を零す。まぁ、俺もその事に関しては何も言えない。なんだかんだでさっきからずっと、興奮を抑えきれずに笑みを消しきれていない。リアルで生きている間は絶対に経験の出来ない必死さだ。人を優に超える大きさ、強さ、そして凄まじさ。それを生身という感覚で渡り合う為の時間だ。これを楽しめないようなら、

 

 もう、ゲームは引退した方が良いだろう。

 

 だから自分の体を巡る興奮を抑え込む様に歯を食いしばり、他のプレイヤーたちが最高のパフォーマンスを引き出すことを信じて封鎖領域に突入する。

 

 

 

 

 作戦行動が開始されると即座にプレイヤーたちが動き出した。これは現実であり、現実とは違う。重度のゲーマーである俺達が大規模なミッションやクエスト、イベントやレイドを実行するのはこれが初めてではない。過去に何度も繰り返してきた経験だ。だがそれを実際に生身で実行するというのは当然、初の出来事だ。これが現実ではなくバーチャルであっても、動かす肉体の感覚はどこまでもリアルと一緒だ。ならこれは、リアルな経験だと言っても過言ではないだろうと思う。そしてそれを上手く実行するだけの能力や経験が俺らにはあるのか?

 

 ない、そんなもの当然ない。

 

 だけど出来ちゃうんだなぁ、これが。

 

 それがやる気になった人間の不思議というもんだ。

 

 一斉に展開しだしたプレイヤーの集団は瞬く間に配置に着きながらその役割を果たす。護衛チームは街道脇に展開し、誘導チームが間隔をあけながら街道の上に展開する。ぶっちゃけ、防具をつけてもつけなくても即死する事実には変わらないので、防具を脱いで全裸になっているのは一部だけで、大半は脱ぐことに恥ずかしさを感じて防具を装備している。まぁ、パンツ1枚でもフルティンでも恥ずかしいのは解るし、そこで脱いでしまう精神性の方が遥かに意味不明だし。

 

 護衛チームの方も1パーティー辺り5人から6人という人数で組まれている為、まず敵が抜けたり事故を起こす可能性は潰されている。その上でレオンハルトやレインといった個人で強いタイプのプレイヤーが、護衛チーム周辺を移動して警戒し、危なそうなら助太刀に入る遊撃行動を開始する。これによって安定感を更に上げ、その間に一気に誘導チームが展開、

 

 タンク部隊が一気にアビサルドラゴン周辺まで移動する。

 

 そうやって到着した大橋の上にはアビサルドラゴンが陣取っている。禍々しく、悪魔の様なドラゴンの姿は見る者すべてに恐怖と威圧感を心に叩きつけて、その戦意を萎えさせてくる。だが今日ばかりは事情が違う。誰もがこいつをぶち殺すという殺意に溢れている事もあり、燃え上がる心の炎を更に燃やす燃料となって注がれる。

 

「良し! タンクは即座に展開! 護衛チームは早速仕事開始だ! 足止め、停止系のアビ魔法があるなら遠慮なく使ってどんどん相手を止めろ! お前らが稼いだ1秒がエルディアを救う1秒になるぞ!」

 

 指示を出せばうおおお、と返答が返ってくる。ノリの良い返事に笑い声を零しながらノルトの上から大橋に陣取るアビサルドラゴンを睨む。既に今日という日の異様な空気を感じ取ってか、アビサルドラゴン自身も半分警戒したように睨んできているような気がする。完全に馬鹿という訳ではないらしい。

 

「良し―――覚悟はいいか?」

 

「全然オッケーだぜボス」

 

 盾とつるはしを装備したタンクが攻撃圏内に入らないように大橋の外側から武器であるつるはしを担ぎながらアビサルドラゴンを眺めている。どうやらこいつは1撃叩き込んでやる腹積もりの様だ、何とも頼もしい話だ。

 

 ログウィンドウを呼び出して直ぐ横で大型化する。

 

「全員配置についたか?」

 

 言葉を送れば即座にログが返答で覆いつくされる。凄まじい勢いで流れるログにちょっとだけ驚かされつつ、

 

「城門サイドは?」

 

『英雄ユニットも参戦して準備完了ですぜ!』

 

『明らかに覇気というかやる気が違くて周りの空間歪んで見えてる!』

 

『勝ったな』

 

「勝利宣言は引きずり出してからな? さて―――良いか?」

 

 確認を送れば応、という返答と、

 

『エルディア側もいつでもオッケーですわ。そっちに開始のタイミングを委ねるというか……さっさと始めてくれって言ってます』

 

 やる気十分な様子に笑い声を零し、杖を引き抜いてそれをアビサルドラゴンへと突きつける。ニーズヘッグへともう一度視線を向け、直ぐに視線を戻す。

 

「一番槍はお前だ……派手にやれるな?」

 

「任せてくれ。トップバッターだからな、整えてやるさ」

 

「良し」

 

 アビサルドラゴンを睨み、そして杖を空へと向ける。

 

「カウント30!」

 

 カウントダウンを開始する。30秒カウント。口にした途端、全ての言葉が閉ざされた。誰もがこれから始まる激戦の予感に喉を鳴らし、そして緊張で滑りそうな手の感触を拭った。一気に荒れ狂いカウントの始まる配信画面、誰もが緊張と興奮の合わさった感覚に楽しさを見出していた。

 

 そう、楽しみだ。

 

「カウント15!」

 

 これはゲームだ。これは遊びだ。彼らはゲームのキャラクターであり、死んでも現実では何の影響もない。だったらリアルである事に意味はないのか? と言ったらウソだ。

 

「10!」

 

 これはゲームだからこそ俺達は本気で遊ぶのだ。遊びだからこそ全力でこなすのだ。現実では不可能なことに挑戦する、したくなる。俺達はこの瞬間は本気で馬鹿をやる。それがゲームを遊ぶって事だ。スタイルはそれぞれ。だけどこの瞬間は勝利に走る同志。

 

「5! 4!」

 

 詠唱を開始する。頭上へと向けた杖。空をターゲットに魔法を発動させる。狙った空間、そこに紅蓮が集まり、圧縮されてから弾ける。

 

「0、GO、GO、GO……!」

 

 〈バースト〉が紅蓮の華を空に咲かせ、先頭に立ったタンクが、真っすぐ得物をアビサルドラゴンへと向けた。

 

「かかって来いよ、トカゲ野郎―――俺達が相手だ」




 次回、アビサルドラゴン討滅戦。
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