断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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俺達がナンバーワンだ Ⅸ

 ―――城壁だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 大盾の男―――城砦の騎士ダグラスは文字通り盾を構えるのに合わせて城壁を生み出したのだ。それが真正面から突撃してきたアビサルドラゴンの姿を受け止め、そしてそのまま後ろへと衝撃でノックバックさせた。文字通りこの男1人で城砦という概念が成立するのだ。個人で城壁を生み出し、それで守護をするなら個人要塞としか表現する言葉がなくなる。故に届かない、アビサルドラゴンは当然の様にその姿を堅牢な城壁へと衝突して勢いの全てを失った。盾を握る手とは逆の手にウォーハンマーを握り、

 

 城壁に衝突して1秒未満のノックバック時間の間に踏み込んだダグラスがその顔面をハンマーで殴り上げた。まるでマイク・タイソンのアッパーを喰らったボクサーの様にアビサルドラゴンの頭が跳ね上がり、その動きが全て停止する。一撃、たった一撃だ。だがそれだけで相手からスタンを奪った。それこそ技巧派プレイヤーが数人がかりで行っていた行動のスタンをこの英傑はたった1人で成し遂げていた。

 

 そこに、音速を越えて6つの着弾が発生した。

 

 両足に巨大な杭が突き刺さり、合計6本、完全にその両足を大地に射止めてた。その射出方角はダリルシュタットの方からだが―――まだ、城壁が僅かに見える程度の距離だ。それまでの間に、人の姿は見えない。

 

 

 

 

 長方形のランチャー、その砲口からは煙が上がっている。片腕でそれを握る男、ライネルは素早くそこに次弾を装填し、片腕で再びランチャーを持ち上げて構えた。だがスコープの向こう側に見える影を確認し、息を吐きながら砲口を下ろした。

 

「うーし、全弾命中。威力は悪くないけど装填回りが不便だなぁ、次弾装填まで3秒かかるんじゃ遅すぎるぜドク」

 

「うーん、まだまだ改良が必要だねぇ」

 

 

 

 

 歯を食いしばりながらアビサルドラゴンの目が開かれる。スタンから復帰しようとする姿が翼を広げる。剣状の翼は放たれれば広範囲に破壊を撒き散らす。だがそれよりも早く光の斬撃がその翼を根本から断つ。空から落ちてくるように鋼の騎士がもう1人登場する。

 

「待ちわびたぞ」

 

 ジークフリートの姿だった。たった1度の斬撃でまるでバターにナイフを通すかのような滑らかさで翼を切り落とし、振りぬいた剣でそのまま翼を蒸発させた。そのまま体を軽く回し、振り返り背中を向けるように剣を振りぬけば、大地を貫通して光の斬撃が柱となってアビサルドラゴンの身を貫く。足を縫い留めていた大地を粉砕して解放しながらも、吹き上げる斬撃によってその姿を空中へと跳ね上げた。

 

「バトンタッチだ」

 

「はい、受け取りました」

 

 そう言って飛び出したのは赤い閃光だった。赤雷を纏った黒髪の男の姿。その恰好がカンフースーツだからこそ誰か一瞬解らなかったが、空を跳躍したその顔には見覚えがあった。

 

 あの屋台の店主、フォウだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。普段から妹ともども帽子を被っているのはアレを隠す為だったのか。そう思った時には既にアビサルドラゴンの顔面の前に到達しており、

 

 その鼻先を片手で触れていた。

 

 アビサルドラゴンが投げられた。

 

 正面から、頭上を越える様に捻って、そのまま後ろへと向かって、ダリルシュタットの方へと向かって大地にバウンドさせるように投げつけられる。大地へとワンバウンドしてから再びダグラスによって追撃のアッパーが入り、アビサルドラゴンがカチあげられる。そこに射撃が入り、口を杭が縫い留めてブレスを阻止、ジークフリートが光波斬撃を放ち光の津波がアビサルドラゴンを弾き飛ばした。その上に着地するフォウが顔面を掴んで大地へとタッチダウンを決める。

 

 もはや戦いは次元が違っていた。

 

 英傑。

 

 この世界における人類キャラクターの頂点。或いはインフレの頂点。そこに座する者達が己の力を振り絞り、限界までその怒りを()()()()()()()()()()()叩き込んでいた。一撃一撃でアビサルドラゴンを軍団へと向かって誘導―――いや、もはや誘導じゃないな。強制的に攻撃でノックバックさせて移動させながら押し出していた。死を積み上げて誘導させていた俺達と比べるとあまりにも荒唐無稽でありえないやり方だ。

 

 だが出来てしまう。

 

 彼らのレベルは、おそらくは70。

 

 俺達の迎えられるカンスト、レベルキャップ、それを2段階超えた先にある領域にあるのだから。

 

 大地へと叩きつけられた状態から音速を越えた拳がアビサルドラゴンに叩き込まれ、その姿が大地を抉りながら吹き飛び、城壁から連続砲撃が放たれ杭が四肢を大地に縫い付ける。直後、大地が隆起した。プレートを持ち上げるかの如くアビサルドラゴンの体が大地諸共空へと向かって持ち上げられる―――それこそ、それが処刑台に見えるように。

 

『さあ、見ておるか弟子よ。これが真の魔導というものじゃ。コストの低い土でまずは火を連鎖活性させ、それを〈エレメンタルチャージ〉で最大まで引き上げる! そのあとから火力を叩き込むんじゃ!』

 

 隆起した大地に張り付けられたアビサルドラゴンの頭上に影が差す。見上げればそこには巨大な隕石が紅蓮を纏いながらゆっくりと落ちてくる姿が目撃出来た。荒唐無稽すぎる光景に誰もが言葉を失い、

 

『さあ、刮目するが良い! 胎動せよ我が魔力よ! 真なる破滅は空の彼方より来たる! その身に終焉を刻めぇい! 〈デストラクトメテオ〉じゃ!』

 

 拘束され、動けないアビサルドラゴンに隕石が落ちた。杭を、処刑台を消し飛ばすように落ちてきた隕石はアビサルドラゴンを大地へと押しつぶしながら衝突し、轟音と地震を巻き起こしながらアビサルドラゴンを押しつぶし、その背面に着地して隠れていたフォウが更に叩き込む様に上から拳を叩き込んでアビサルドラゴンを更に大地に陥没させた。

 

 その姿を大地から湧き上がる光の斬撃が打ち上げ―――空から、3つの隕石がアビサルドラゴン目掛けて落ちてきた。逃げ出そうとするその姿を封じ込める様に杭が喉、足関節、肩に突き刺さる。リアクションを封じる砲撃が連続でアビサルを圧倒すれば、他の英傑達からの攻撃がアビサルドラゴンを一切の行動を封じ込める様に削る。隕石の衝突、聖剣の乱舞、そしてリアクション封印の先制防護打撃。フォウ、ダグラス、そしてライネルの3人で生み出す崩しによってA師匠とジークフリートが完全フリーになり、無法としか表現できない爆撃を連続できるようになっていた。

 

 明らかに生物としての格が違っている。アビサルドラゴンと英傑では子供と大人ほどの力の差があった。

 

 それでも攻撃に弾かれ、大地に立ったアビサルドラゴンは翼を再生させ、杭を引き抜きながら天に向かって吠える。全身を怒りによって刃状の結晶を生やしながら咆哮を轟かせる。それによって空間に亀裂が走り、その奥から小型のドラゴンが出現する。

 

「煩いですよ」

 

 中断させるようにフォウの拳がアビサルドラゴンの片目を潰し、大地へと引き倒し、そこに追撃するように打撃が頭へと叩き込まれ、ウォーハンマーによって頭が大地に陥没する。更に空から星光の砲撃が落とされて叩きのめされるも、亀裂は消えない。

 

 それを見て、今まで呆けていた思考を引き戻す。ノルトを走らせながら杖を2本とも引き抜き、魔法の詠唱を開始する。

 

「何やってんだ! 連中に良い所全部持ってかれるぞ―――俺が、俺達が死ぬだけが芸じゃないって事を証明するぞ!」

 

『応ッ!!』

 

 咆哮の様な応えとログを埋め尽くす言葉に一瞬でプレイヤーたちが正気に戻る。見上げるアビサルドラゴンのHPは既に半分を余裕で切っている。このペースであれば数分以内に蹂躙されてアビサルドラゴンは死亡するだろう。その前にこの雑魚の軍団をどうにかしなければダリルシュタットがアビサルドラゴンの死亡前に襲われる。

 

 だがここには俺達がいる。エルディアの兵たちがいる。守護する騎士団がいる。

 

 戦いは英傑の身で行うものではない。

 

「やるぞ、ニグ」

 

「えぇ、楽しみましょうボス。この祭りを」

 

 楽しそうに笑うニーズヘッグの姿を肩越しに1度だけ確かめたらそのまま全力で戦闘地帯へと突撃する。

 

 この戦いを勝利で終わらせるために。




 実は異種族もいる。メインシナリオを進めたり、クエストしたり、条件を満たす事で出現したりする。存在が確認されて周知されるとエディットで種族が解禁されたりもする。

 屋台の店主が実は英雄とかちょっと浪漫ある。

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