断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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俺達がナンバーワンだ Ⅹ

 戦場は一気に混沌と化した。

 

 だがそこに恐れる様な奴はいない。

 

 アビサルドラゴンは完全に英傑達が無双状態で遊んでいた。轟音と止まぬ砲撃にアビサルドラゴンのHPはどんどんと追い込まれてゆき、発狂か或いは覚醒か、どっちかを経験して多少HPを回復させようとするのを片っ端から潰して追い込んで行く。だが登場した小型のドラゴンなどの眷属は完全フリーとなっている。

 

 それを止める為に、倒す為に俺達が飛び出す。騎乗した状態で全力で魔法を打ち込むも、ダメージがあまり伸びないのは1体1体がレッドネームであり、おそらくはレベルがアビサルドラゴンと同じ50か最低で40台。とてもだが倒せるような相手ではない。それが軍団規模で一気にアビサルドラゴンの生み出した亀裂から溢れ出してくる。

 

 それに俺達プレイヤーが群がり、そして同時に、兵団と騎士団が進んでくる。

 

「抑え込んで止めろ―――あの方々の勝利を完全なものとして飾れ!」

 

「お前らもダメージが出ねぇからって押し負けるんじゃねぇぞ! 死ね! 何度でも死ね! 死んで蘇ってまた暴れろ! それでも食らいつけ! ここで気合でNPCに負けるようじゃ恥ずかしいぞ!」

 

コメント『無茶をおっしゃる』

コメント『辛辣すぎて草』

コメント『でもこういう号令って気合入るんだよな……』

 

 背後では炎の雨が降り注いでいる。完全に地形を変える様な戦いを無視しながらノルトの上から魔法を飛ばし、リキャストの戻った〈ヘイスト〉をニーズヘッグに投げて、戦場へと送り出した。マップに表記されるパーティーマーカーを確認すれば、パーティーメンバーも封鎖領域から、或いはリスポーン地点から復帰して戦場に戻ってきている。それによってPC&NPCの大連合がドラゴン軍団との本格衝突に入る。

 

 炎のブレス、氷のブレス、闇のブレスに雷のブレス。様々なブレスが乱れ飛ぶ戦場を真っ先に騎士団が突き抜け、攻撃を受けて弾き、逸らしながら後続が切り込む道を作り出す。そこに次々と仲間が飛びついてゆき、一気にドラゴンに組み付いてゆく。ダメージを出す必要なんてない。死ねば蘇るプレイヤーがここには腐る程存在する。なら合理的に考えろ。

 

 俺達、死にながら戦った方が早いだろ?

 

 だから前に出る。そこに恐怖は多少あっても、笑い飛ばす。何よりも格好悪い所は見せられない。こんな決戦に挑むようなシチュエーションで尻込みするような奴はそもそもRPGというジャンルに向いていないだろうと言える。だから俺達は前に出る。目の前にいるのは経験値の塊だ。だったら殴らないのは損だ。

 

「オラ! 経験値寄こせオラ!」

 

「死ね! 死んで詫びろ!」

 

「死んでほしいけど死んでほしくない! 死に続けてくれ!」

 

「何時からヨハネスブルクになったんだここ」

 

「構うか! とりあえず殺せればそれで良いんだよ!」

 

「ぶーっころせ! ぶーっころせ!」

 

「ヨハネスブルクだわ」

 

 げらげらと笑いながら突撃する姿がある。爆笑しながら死にゆく姿がある。吠えながら突撃する姿がある。怯えながらも仲間を支援する姿がある。多様な姿がここには映し出されている。だがその全てが1つの方向へと向かってエネルギーを全て注ぎ込んでいた。そこにPCも、NPCも、違いは一切存在しない。全員がドラゴンとの戦闘へと向かってその意思を直進させていた。

 

 だが対応するドラゴン共も生きている。何もせずに死ぬ等ふざけた事を許すものか。そんな意思を咆哮に乗せて襲い掛かってくる。1人でも多くの存在を食い殺す為に。

 

 だがそんな事関係ないと言わんばかりに多重のバフとヒールが後方から飛んでくる。凄まじい量のバリアは一瞬でプレイヤーのHPの数倍のHPバリアを形成し、与えられるリジェネはそれこそ数秒毎にHPを全快させるだけの回復量を誇っている。間違いなく英傑級の人材が前線で暴れている連中以外にも存在している。それもアタッカーの類ではなく、ヒーラーバッファーの類で。

 

 それによって放たれる支援で能力が本来のものを超越した数値に届く。その能力値で誰もがドラゴンに戦いを挑む。

 

 その背後で、吹き飛び無惨に肉を削がれてゆくアビサルドラゴンの悲鳴を聞きながら。

 

「良くも好き勝手国を荒らしてくれたなこいつ!」

 

「俺達の怒りを知れこの野郎!」

 

「死ね! 早く死ね! 今すぐ死ね! 砕け散れ! 滅びろ! 死ね! 死ね! 死ね!」

 

 一部の凄まじい殺意に笑い声を零しながら魔法を使っていれば、直ぐ横にテレポートで出現する姿があった。師匠のAだ。此方も此方で楽しそうな表情を浮かべており、背面に6つの杖を浮かべた状態のまま、手を振るう。それに合わせるように一瞬で氷河がアビサルドラゴンを包み込み、その存在を停止させた。

 

「ほうほうほう、どうじゃ、見ておるか我が弟子よ。我が魔導の神髄はどうじゃ? かっこいいじゃろ? 派手じゃろ? 砲台として吹っ飛ばしてなんぼじゃぞ、見ておれよ?」

 

「師匠テンション高いっすね」

 

「合法的に大魔法を連射できる場所なんぞ中々ないわい! いやぁ、楽しいのぉ! ……まぁ、崩れた地形直すの儂なんじゃけどね?」

 

 

「壊れた地形の大半師匠が原因だから当然では」

 

「じゃよなぁ―――まぁ、苦労は後の儂がしてくれるじゃろ! ほうほーう!」

 

 楽しそうにまた隕石を落とし始めた師匠の姿に苦笑を覚えながら戦場をノルトに騎乗して駆け抜ける。誰もが笑い、吠えながらドラゴンを狩っていた。この場にいるすべての存在が協力し、ドラゴンスレイヤーとなっている。もはや流れは変えられない。雷鳴、咆哮、斬撃、闇波、熱風。様々な攻撃が戦場を駆け抜け、双方を削って行く。だがロールにその使命を尽きるプレイヤーが最初に死んでゆく。死んで、立ち上がり、盾となり、喰らいつき、そしてNPC達が攻撃を叩き込む致命的な瞬間を与える。

 

 たとえそれが敵に届かない能力であれ、仲間が通る道ぐらいは作れる。

 

 そしてそれを躊躇なく実行できるのが―――ここに集まった馬鹿達だ。

 

 だから俺達は勝つ。絶対に勝てる。

 

 そして勝利する。

 

 もはや、この流れを覆せるだけのものが相手にはない。

 

「はははは―――鍋達も可哀そうだなぁ、こっち側にこれないのは」

 

 こんなにも楽しいのにな、と息を吐きながら飛んで来たドラゴンの顔面に〈バインド〉を叩き込んで移動を停止させ、そのまま空から落としてやる。落ちてきたドラゴンをニーズヘッグがチェーンソーで串刺しにし、地面に縫い付けた状態のまま刃を回転させて体を両断させた。解体作業を終わらせると満足そうな表情を浮かべて顔についた血を拭おうとする。

 

 その瞬間、背後にドラゴンが現れた。大きな口を開いてニーズヘッグに噛みつこうとして―――その前に、横からクロ―が頭に突き刺さった。

 

「危険」

 

「来るのは見えてたから避けなかったのよ」

 

「嘘。気ぬけてた」

 

「そんな事ないわ」

 

「ある」

 

「ない」

 

「レインは突っかかるのを止めろ!」

 

 仲裁するレオンハルトの言葉が上から来て、真っ二つにしたドラゴンの死体と共に落ちてきた。近くにいるドラゴンを空から落とす為に〈スロウ〉を連続で放ち、それから炎で焼く準備に入りながら、笑い声を零す。

 

「見慣れた顔が揃ってきたな!」

 

「ああ! 封鎖領域側もデスルーラで脱出したそうだ! 今こっちへと向かってPCを射出する装置を使ってプレイヤーを直接飛ばしてきてるからガンガン増援が来るぞ!」

 

「え、なにそれ?」

 

 ダリルシュタット側の空へと視線を向ければ、ぽんぽんぽん、とプレイヤーが空へと射出されて飛んでいる珍妙すぎる姿が見えた。カオスすぎるその景色に笑い声を放ちながら魔法でドラゴンたちへの追撃を重ねる。自然と見慣れた連中で集団を作り、お互いを守る様に動きながらドラゴンの相手を進める。

 

 もう、何かを難しく考える必要はない。

 

 ここからはアビサルドラゴンが死ぬまでのボーナスタイムだ!




 ボーナスタイム。アビサル君が死ぬまでに狩ったドラゴンの数だけ経験値入るよ! いっぱいいっぱい倒そうね。

 という訳で次回、ついに生きる地獄から解放されるアビサル君。

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