断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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俺達がナンバーワンだ Ⅺ

 アビサルドラゴンが断末魔の叫びを上げた。

 

 空へと向かって吠えればドラゴンたちが素早く亀裂の中へと逃げ去って行く。徐々に閉じて行く亀裂の向こう側へと眷属が消え去ると、今度こそアビサルドラゴンは完全にその生命を消失させて後ろ向きに倒れ、一瞬で風化するように朽ちる。そしてその存在があったはずの場所に、巨大な六方体のクリスタルが出現する。アビサルドラゴンが存在した場所に浮かびあがるそれを見た瞬間、大声で叫ぶ。

 

「それだ! それが封鎖領域を固定している触媒だ! 壊さなきゃ終わらない!」

 

 声がクリスタルの前の英傑に届く。

 

「―――ならば、此度の戦いはこれで終わりだ」

 

 ジークフリートが迷わず剣でクリスタルを切り捨てた。一瞬、斬撃が通らないようにすら見えたものの、次の瞬間にはゆっくりと、その姿がずれる。やがて両断されている事実が追い付いたクリスタルは2つに分かれて大地に落ちて砕け散る。

 

 直後、東の空が轟いた。東へと視線を向ければ展開されている封鎖領域の姿が見える。瘴気が蔓延する空間がクリスタルを失ったことによってその力を失い、徐々に色を失いながら光が満ちて行く。その内側から割れる様に光があふれ出すと―――一気に、その内側から封鎖領域を破壊して行く。

 

 やがて、数分間の光の奮闘により封鎖領域の瘴気は晴れて、魔晶石を1つも残す事無く青空をそこに移した。

 

 これにより、港まで続く街道が完全に確保された。その景色を呆然と、達成感と信じられないという様子で何も言えずにいる人たちに代わり、俺が口を開いた。

 

「俺達の、勝ちだ」

 

 言葉を失った集団に声が響き、染み込む様に受け入れた次の瞬間には歓声が爆発した。

 

「おおおおおおおおおお―――!」

 

「勝ったぁぁあああ―――!」

 

「あああ……」

 

 あまりの煩さに両手で耳を抑えてしまうが、溢れ出す歓喜の声は止められない。苦笑していると目の前にホロウィンドウが出現した今回のレベルアップや取得アイテムなどを表示するリザルトウィンドウを軽くタップして消す。ここではゆっくりできないので後でログからゆっくりと再確認する事にしておく。そこではぁ、とため息を吐きながら武器を仕舞いながらノルトの上で脱力した。

 

「はぁ……勝てた。緊張したし疲れたな……」

 

コメント『お疲れ様ボス』

コメント『888888』

コメント『お疲れ様!』

コメント『ボスめっちゃ頑張ったもんな、お疲れ様やで』

コメント『乙』

コメント『何で俺はあそこにいないんだ……』

コメント『お疲れ様ボス!』

 

 ふと配信画面を見てみれば大量のお疲れコメントが流れてきている。ついでにいくらかスパチャも投げ込まれている。どうやら収益化が通っていることに気づかれてしまったらしい。はー、別にスパチャ投げなくても良いんだけどなぁ。まぁ、貰えるもんだけは貰っておこう。サンクス。金はありがたいのだ。それはそれとして、ちょっとこの勢いが凄いし、ダリルシュタットの方へと下がることにしよう。ノルトの首を軽く撫でる。もう少し付き合ってくれ、と意思を込めるとノルトが頷きを返してくれる。本当に賢い馬だ。今日はほんと助かったぜ。

 

「よっと。お疲れ様、ボス」

 

「お疲れ、ニグ。楽しかった?」

 

「楽しかったわ」

 

 そう言って答えるニーズヘッグは返り血で真っ赤になっていた。これもアビサルドラゴンも、眷属ドラゴンも全て消えたから時間の経過と共に消えるだろうが、それでも全身真っ赤に染まっている姿は中々ホラー味が強い。

 

 でも、褒めて褒めてって顔をしているのを見ると相殺―――されねぇな、別に。

 

 でもとりあえず頭は撫でておこう。今日も理性を溶かしてるじゃん。

 

 ノルトの背にニーズヘッグを乗せる形でダリルシュタットへと向かう。周りからいろんな声が聞こえてくる。一番最初に響くのはダグラスの声で、

 

「そーら! 俺達は街道の安全確認と港の確認だぞ! 感動は後に回して仕事をするぞ! 返事はどうしたァ!」

 

 一瞬で統制を取り戻された兵団がグループから分離し、ダグラスを追う様に街道を走って行く。残されたグループを今の所ジークフリートはどうにかする様子はなく、しばらくは達成感に浸る時間を与えるようだった。残されている兵士や騎士の中には涙を流して肩を合わせている姿さえ見れていた。

 

「やった、やったよ……」

 

「あぁ、俺達の手で取り戻せたんだ……うぅ……」

 

「母さん、無事かな」

 

「ポートには行きつけの酒場があるんだけど、無性に飲みたくなってきたな」

 

「ありがとう、ありがとう稀人様。貴方達のおかげで戦えたんだ」

 

 片手で軽く会釈しながら去る。ここに残っていたらなんか延々と掴まりそうな気もするのでさっさと逃げ出したい所だった。と、横に今度はA師匠がテレポートしてきた。

 

「はあ、やはり合法的に隕石を雨のごとく振らせるのは楽しいのぉ」

 

「完全に発言が破壊魔のそれだけど」

 

「だから許される場を選んでるじゃろ? 立場があるとこうやって外に出てメテオテロもできんからのぉ。それじゃ儂は整地に行くかのぉ」

 

「お疲れ様です」

 

「うむ、お主もな」

 

 片手で師匠に敬礼し、師匠からも敬礼を返された。次の瞬間にはテレポートで再び姿を消した師匠の姿に、俺もこれぐらいできるようになりたいなぁ、と思いつつ、プレイヤーの集団を見つける。此方に手を振ってくる姿に手を振り返す。

 

「ボス、お疲れ様!」

 

「お疲れさまっしたボス!」

 

「ボス! お疲れさまでした!」

 

「お前ら人の事ボスって呼ぶの止めない? なんか完全定着してるんだけど」

 

「ボス、お疲れ様でーす!」

 

「乙乙です」

 

「乙ボス」

 

「あぁ、誰も聞く気ねぇなこれ」

 

コメント『恨むなら最初にそう呼ばれた事を恨め』

コメント『でもなんとなく呼びやすいよな』

コメント『なんだかんだで指揮取ってくれたしなー』

 

 まぁ、そこらへんはしゃーないと諦めるしかないだろう。もはやここまで広がってしまったあだ名をどうにかする事は自分の力では難しい。まぁ、しばらく顔を出さなければ自然と忘れられるだろう。これからも配信はちょくちょく続ける予定だが。それでも今まで程でのペースではない。別に、動画で食う予定もないので必死にやる必要もないし。それよりもこれで港が解放されて、移動範囲が一気に広がったのだ。正式に港が運用できるようになる時が楽しみだ。

 

 それまではどうしよう……レベリングと、マルージャ組と合流だろうか? 目下の所、新しいメンバーの勧誘が必須だ。後スポンサー探しと協力してくれるクラフターの確保。恐らく一番重要だと言える事でもある。これがないと目標であるエンドコンテンツに参加する事が出来なくなってしまうからだ。ありあわせのメンバーで挑むような事だけは、絶対に避けたい。

 

 ともあれ、周りから飛んでくる笑い声や鳴き声、お疲れという労いの言葉に反応を帰していれば、漸く人混みを抜けて門前まで戻ってこれる。そこでは敬礼をする門番の姿があり、苦笑を零しながらこちからも軽く敬礼を返す。

 

 街中へとそのままノルトに乗って進めば、住民たちの歓声が待っている。感極まった人々の姿がどこまでもリアルな感情をぶちまけてきている。そうだ、彼らはこの世界で生きているのだから喜んだり泣いたりするのは当然だ。目の前にあった脅威を払って、取り戻した自分の世界だ。喜ばない理由がないだろう。

 

 ただこうやって全方位から感謝のビームを受け続けると、流石に恥ずかしい。ちょっとノルトを走らせるペースを上げてさっさと王城へと戻ろう。そう思った所でデスコに新しいメッセージが入った。身内連中からの連絡だった。

 

土鍋『ボス乙乙ー、動画で見てたぜー』

略剣『そっちはそっちで楽しそうだったな』

土鍋『という訳でこっちも終わらせたぜ』

 

「は?」

 

 終わらせたとは、何を?

 

 

 

 

 それは大森林。

 

 木々が生い茂る森の中では緑が溢れている―――筈だった。

 

 だがその一角はまるですべての生命の色を失ったように腐り、溶けている。命という概念が失われたような色へと変貌していた森はしかし、その惨状を生み出した主の死によって停止していた。樹齢数千を超える筈の大樹はその半ばから綺麗に砕ける様に割れ、そして倒れていた―――その先にある腐ったドラゴンの姿を押しつぶし、浄化するように。

 

 本来であれば凄まじいまでの神聖さを抱えていた大樹はしかし、ドラゴンゾンビと相打ちになる形で力を使い果たしていた。無論、その意思に反しての所業だが。だがそれを怒る様な意思が大木には存在しない。そしてそれは世界を救うための犠牲だと言えば―――誰も、何も文句は言えなかった。事実、街道を沼地に沈めたドラゴンゾンビが死亡したことで沼地を支配していた封鎖領域が解除されていた。

 

 それを3人の男たちが折れた大樹の上に座り、ホロウィンドウを叩き込みながら成果報告していた。

 

土鍋『いやあ、ドラゾンさんは強敵でしたねぇ』

 

「……っと。ボスの昔やった対ニグトラップ地獄の話聞いててよかったな」

 

「アレな。実は俺がやり方教えた」

 

「梅戦犯じゃん」

 

「は?? ただの本職なだけだが??」

 

 全身にタトゥーを刻んだ上半身裸、腰から下に布を巻いたシャーマン風の青年はクロスボウを担いだレンジャー風の男を睨み、レンジャー風の男は中指を突き立て返してる。それを見て槍を2本、交差させるように背に背負ったフルプレートアーマーの男が溜息を吐いた。

 

「それよりもさっさとマルージャ脱出しようぜ。派手にやったから街の精霊使いに見つかったら処刑されるぞ俺ら……!」

 

「勝つために環境破壊しまくったからな」

 

「リアルじゃ絶対にできないトラップ地獄楽しかったわぁ」

 

 げらげらと話しながら男たちは立ち上がるとデスコにメッセージを入力し、森から逃げるように走り出す。

 

土鍋『という訳で近いうちにそっちに行くな』

1様『お前らさぁ……』

略剣『はぁ??? なんで信頼を築かないといけないんですかぁ!?』

1様『俺が王族相手にちやほやされているというのにお前らときたら』

土鍋『効率重視で暴れてるだけだぞ!!』

梅☆『やっぱ爆破テロって楽しいわ』

1様『大体察した。はよ逃げてこい』

梅☆『ういーっす』

 

 そして男たちは行く―――マルージャからエルディアへの道を。




 そう、マルージャ側の方も相当酷いのだ。

 という訳でアビサル編は終了。次回から仲間を求めて。
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