断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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3章
真の仲間


 ―――アビサルドラゴン討滅戦から1日が経過した。

 

 結局その日はもう1回ログインする気にはなれなかった。原因はとても簡単なもんで、達成感に浸ってちょっと自分にご褒美をあげたい気分だったからだ。凄い事を達成した日にはそのまま遊び続けるよりも一旦休憩を取るもんというか、個人的にはそういう気分でその日はもうゲームで遊ぶこともなく自室でだらだらしてしまった。まぁ、そういう日もあるし大きな達成の後だから動きが直ぐにある訳でもないのだからまるで問題はないのだが。

 

 問題があるとすれば、生活がちょっと変わったぐらいだろう。

 

『アインさーん、もうそろそろ卵が茹で上がりますよ。半熟なら今がベストです』

 

「ほいほいさ」

 

 生活に上級AIが紛れ込んだことだろうか。なんか家事を手伝って? と頼んだら普通に手伝ってくれてしまった。恐らく開発に百万とかじゃまるで桁が足りないレベルで開発されているこのモンスター概念なのに、半熟卵の茹で加減を見張らせるなんて事をさせていいのだろうか?

 

 良いのだ!

 

 運営に連絡したら許可を貰えたのだ! やったのだ!

 

 ちょっと怖くなってきたのだ!

 

 しかもAIの進化テストの協力とか言って新しい専用スマホまで送るとか言い出したのだ!

 

 怖いのだ! 助けてほしいのだ!

 

 ……まあ、真面目な話。AIの成長と進化はシャレムを通して観測されている実験の一つであると運営の方から回答が来ている。その関係で、フィエルは他のAIと比べて面白い方向に自我の形成、成長を行っているらしい。その観察等の為にもこれまで同様、好き勝手扱ってほしいという内容のメールが運営から返ってきていたのだ。まぁ、そういう事を言うんだったら俺も遠慮はしないかなぁ……という事で、今、フィエルはその数千万? もしかして数億は超える開発費で生み出された人工知能を茹で加減を監視する為に消費していた。

 

 開発者泣きそう。

 

「あー、半熟卵に塩をかけて食べるの最高に美味しいんだよなぁ……」

 

『うーん、私もゲームの方に戻ったら味覚データを参照してみましょう』

 

 まぁ、こんな風に我が家は新しいペットを迎えて少し賑やかになっていた。

 

 

 

 

 そんなこんなでログイン。

 

 乱痴気騒ぎから1日が経過、成長報告を行うとすれば、《結界術》以外は全てスキルレベルが7に上がっている。《結界術》に関してはほぼ使わなかったが、それでも1から2にまでレベルアップしている辺り、アビサルドラゴンとその周辺の雑魚がどれだけ美味しかったかが垣間見える。そして戦闘レベル自体もレベル21から跳んで26まで上がっている。そう、まさかの5レベル上昇だ。アビサルドラゴンほんと美味しかったわ。スキルレベルも大きく上昇、この調子なら近いうちに《火魔法》もマスターできるし、ゲーム初期としては中々良い状態なんじゃないか? とは思ってもない。

 

 ただ、3馬鹿に関しては合流まであと数日ある。問題はその間に何をするか、という事だ。

 

 まぁ、やれる事は色々とあるし3馬鹿が合流するまで軽くぐだぐだ遊んでいるのでも悪くはないだろう。

 

 とりあえず、今日も王城の自室からログインする。何時も通りここがスタート地点、拠点となっている。ログインしたところでまだニーズヘッグのログインサインはないし、まだ時間がかかりそうだと判断して部屋を出る。真っ先に師匠の所へとトレーニングに向かっても良いだろうが、たぶん昨日の大破壊の修復作業で忙しいだろう、後でゆっくり出来そうな時間に顔を見せに行くとして、

 

 とりあえずは王城を出る事にする。既に知っている王城内を抜けて裏門へと進もうとすると、

 

「おや、これはアイン様」

 

 と、メイドに話しかけられた。

 

「どもども。何か御用で?」

 

「いえ、シャーリィ様がアイン様が早めに来られるなら此方を通るから伝言を、と」

 

 シャーリィさん、実は結構イイ位置にいる人なのでは? そんな事を思いつつ伝言を受け取ってみれば、ポート・エルの解放に関する話だった。

 

「ポート・エルの方ですが、一般向けに解放されるのは少なくとも1週間はかかるそうです。ですが稀人の貢献を考えて稀人達と港に商館を持つ人たちは早めの許可を出す予定で、それでも明後日まではかかるそうです」

 

「成程成程、んじゃ朝飯は外でつまんでくるんで」

 

「はい、いってらっしゃいませ」

 

 メイドさんに別れを告げて今度こそ王城を出る。空から降り注ぐ日の光は―――今日は陰ってる。本日の天気は曇り空の模様。ここ最近晴れ続きだったし曇るのもしゃーない、って所だろう。とりあえずはぶらぶらと飯を求めて街中を歩いていけば、自然と何時もの馴染みの場所へと向かっている自分に気づく。

 

 うおー、完全に飼いならされてるー!

 

「これもフィエルってやつが悪いんだな?」

 

『私に責任転嫁しないでくださいよ! いえ、でもこの世界を気に入ってくださったことは嬉しいんですが……』

 

 指先をちょんちょんと合わせるように突きながらフィエルが何かを言っているが、通りすがりのマッチョの懐にホロウィンドウを突き刺してさよならフィエルする。

 

 なんか悲鳴が聞こえるけど……まぁ、ええやろ!

 

 という訳で当然の様に何時も通りのイェン・フォウ兄妹の東国屋台へとやってきてしまった。到着した所で既にそこに兄妹の姿と、オープンしている屋台の姿を見つけて片手を上げる。フォウが英傑なのを思い出して言葉を直そうかなぁ、と思ったが……やっぱりやめた。なんか改めるって感じの関係じゃないしなぁ。

 

「今朝は何をやってるの?」

 

「さっぱりした麺を出してるよ」

 

「めーん。ください」

 

「はい、少々お待ちを」

 

 エプロン姿で屋台を切り盛りしている姿、似合うんだけどなぁ……この人。と、そんなフォウを見ていて気付いた。この人、何時もみたいに帽子を被っていない。頭の上から生えている黒い獣耳が見えている。視線をイェンの方へと向ければ、イェンもイェンで帽子を被るの止め、獣耳を露出していた。それを見ておぉ、と声を零すとイェンが得意げな表情をしていた。

 

「うむ、満足だ」

 

 反射的に触ろうと手を伸ばすが、相手がフィエルじゃない事に気づき手を中空で止める。それを見ていたイェンが挑発的な言葉を投げてくる。

 

「どうした、触りたくはないのか?」

 

「さわりたい」

 

「良いんだぞ……触っても……」

 

「そのかわりにー?」

 

「私の物になって貰うが」

 

「はい、解散」

 

「さっぱり麺できたよー」

 

「わぁい」

 

 フォウからラーメンらしき料理を受け取り、早速テーブルの方で食べてみるが―――違うぞこれ、全然こってりしてない! さっぱり、あっさりしているけど味が足りないという訳ではない! この中にある味のアクセントは……パクチーとレモンか? どちらかというとベトナムのフォーみたいな味をしているぞ。うーん、鶏肉で出汁取っているのかな?

 

 美味しい。戦闘もできて料理もできるとかイケメンか?

 

 あぁ、でも《料理》スキル取れば美味しい飯は作れるのか。それはちょっと考えてしまうかもしれない。

 

 朝の緩い雰囲気の中、イェンが対面側に座ってくる。面白いものを見るように此方を覗き込んでくる視線にはどことなく好意が見えている気がする。なんか、俺それに値する事したかなぁ? なんて考えているのだが特に思い至る事はない。いや、全体としては好感度高いだろうけど。それだけの活動してきたし。だから麺を啜りながらイェンを見返すと、

 

「所でアインよ」

 

「なにかな」

 

「これから、何をどうするかという指針を既に立てているか?」

 

「そりゃあ、まぁ、大雑把にはやりたい事が決まっているし。マルージャ側から今逃亡中の仲間を回収する事もあるしなぁ。後はちょっと稀人最強を証明するあれこれとか準備したいし……」

 

 うーん、こうやってタスクを纏めると割とやりたい事が多いんだよなぁ、と思い悩まされる。やりたい事が多いというか、目標までに達成しなきゃいけない項目が多い感じか。どちらにしろ必要作業が多い事に変わりはないのだが、と思っていると、

 

「そうであろう。お前はあの程度(アビサル虐殺)では満足できない男だろうからな」

 

「……」

 

 肯定するように、面白がるようにイェンが言葉を返してくる。視線をフォウへと向ければ、フォウがさっと視線を逸らした。成程、お兄ちゃんは根本的な部分では妹には逆らえませんか。英傑の癖に使えないぞこいつ。

 

「アイン」

 

「なんだよイェン」

 

 呼び捨てで名前を呼べる程度には気安い仲だ。ただ好感度の上がり方が高いのでちょっと裏があるかなぁ、なんて疑っている部分はある。だけど空気を読んでみる限りは()()()()()()()()()()()()()()()()()()感じがある。読み合いは得意だけど騙し合いはどっちかというと略剣の領分なんだよなぁ。

 

 なんだろう。嫌な予感しかしないんだが、

 

「どうだ」

 

 思考に埋没していた意識をイェンの一言が引き上げて、続く言葉で更に思考の渦に叩き込んできた。

 

「―――私に支援(スポンサー)されるつもりはないか?」




大型犬「今すぐログインしなければいけない気がしてきた」

 その瞬間、ペットの第六感冴えわたる―――。
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