「―――まあ、真面目な話をするとイェンが何となくただの貴族の家出娘じゃないって事は薄々感じてる」
それにしては屋台の看板娘とかいう不思議なポジションに落ち着いているのが割と謎なんだが。後その好感度の高さは何? ってのがものすっごい不安になる要素なんだが。それでもこの女はフィエルの天然っぷりと比べると結構計算しての行動だよなぁ、って感じがある。だから、まぁ、イェンの言葉に対する驚きはそこまでないかなぁ、ってのは解る。
ただ此方のそういう風なリアクションを取っているのを見て楽しんでいるのは解る。
めんどくせぇ……!
「ふふ、困らせてしまったか?」
「いーやぁ? 反抗期の大型犬程は困らされてないよ」
「あぁ、ニーズヘッグの事か。困らされた事があったのか、アレに」
あったぞ。マジで。クッソ大変だったぞ。
フォーっぽい麺を啜りながら懐古に浸る。滅茶苦茶懐かしい話だし。
「学生時代かなぁ……アイツすっげぇ調子に乗ってた時期があってなぁ。それを後押ししたのも俺だったから何とかしなきゃいけなくてさー。それをどうにかする為にアレコレしてたんでそれが最大の反抗期だったな……」
俺の反抗期? 犬の面倒を見るので忙しくてそんなのはなかったよ……。ちなみにニーズヘッグの次に出会ったのが梅☆で、アイツとはその犬の反抗期に出会った。ニーズヘッグをどうするべきかでめちゃくちゃ困っていた時に出会って、それで色々と教わった。梅☆との付き合いはそれからだ。2番目に長い付き合いなのは確かなんだ。まぁ、この時に調子に乗っていた犬の躾を行った結果今の大型犬が完全に定着することになった。滅茶苦茶大変だったんだぞほんと。まぁ、このゲームとは全く関係のない話だから今更掘り出す話でもないのだが。
「まあ、それは置いておこう。それよりも―――イェンはスポンサーとして俺達を支援してくれる用意がある、って発言だとみて良いんだよな?」
「あぁ。港には船がある。それを動かせば稼げるのも事実だ。そして此方で商館を開く予定もある。保有している金額もまぁ、割とある。そこは心配せずとも良い」
視線をフォウへと向ければ本当ですよ、と返答が来る。
「東国を出る前に剥ぎ取れるだけ剥ぎ取って来ましたからね。ついでに軽く漁りもしましたし……」
「使わん金を後生大事にしまっておいても無駄だと思わんか兄上」
「貯蓄しておくことに意味はあるんだよイェン。有事の際に放出する為でもあるんだから」
「それが今、であろう」
「うーん、それはそうなんだけどなぁ……」
良し、金の準備と拠点の準備は出来ているみたいだ。まだ設立していないが、フォウの英傑としての実力、アビサルドラゴン討滅戦での実績を見れば社会的信用はあると見れる。つまりスポンサーとしての最低限の条件である金と場所と地位は用意できるという事だ。フォウの困り顔を見ながら軽く思考を巡らせる。さーて、こいつがどういう思惑を持っているか、どういう意図があるのか。
つまりこれはビジネスだ。契約関係になるのだから、ビジネスの話だ。
「よっし、じゃあ真面目な話をしようかイェン」
「うむ、真面目な話をしようアイン」
じゃあ聞きますね。
「何を目的にしてる?」
「家出」
はい、解散。オラ、散るぞ!
「はー、美味しかった。やっぱ王家にスポンサーになれないか打診してみっかー」
食べ終わったので王城戻るかぁ、と思っていると肩を掴まれ、無理矢理座らされた。
「まぁ、待て。良く聞けアイン」
「結構必死だなお前……」
イェンの迫力に押さえつけられ、素直に座ることにする。良し、話を聞こうじゃないか。イェンが頭の耳をぴこぴこと動かしながら良いか、と言葉を置く。それに頷く。
「東国、と言っても今は複数の小国家に分かれていて群雄割拠している状態にある。それら全てを纏めて東国と私たちは呼んでいる。私と兄上はその内の小国の1つ出身だ―――ま、言ってしまえばそこにある国主の娘と息子なのだが」
「王族じゃねぇか!」
なんで王族が別の大陸で屋台なんてやってんだよ。そこにぶっちゃけよう、とイェンが言う。
「まぁ―――ぶっちゃけた話私は四女だからな。どうせ大した価値もないしさっさと出て行ってやろうと決めた訳だ。残ってもどうせ道具に使われるだけだしな」
「解るでしょ? 絶対にこの子を1人にさせられないって気持ちが」
解りすぎて辛い。王族がそんな形で飛び出して良いの? そんなフリーダムでいいの? 困ってない? いや、今断絶中で困るもクソもないのか。形としてはその前に家出して安全を確保した、って形になるのか。だとすればまだマシなのか? いや、生活基盤こっちに作ろうとしてるから完全に脱走じゃん。
ロックな所は割と嫌いじゃない。
「だから言ってしまえば此方側、アステラム大陸での安定した生活基盤を構築したい。その為に商館、商会を作る」
「商売のあて先はあるのか?」
「ある。港が使えるようになれば東の商品の仕入れ先にもアテがあるしな。だからこそ名声が必要だ。お前という男の名声がな」
色々とアレな部分もあるが―――理由自体はすっげぇ真っ当なんだよなぁ。というか考慮に値するレベルで。生活基盤が欲しい上に名声を求めてそれを証明する看板を用意したい。つまりアビサルドラゴン相手に一躍有名人になった俺の名前を使いたいという話だ。まぁ、ここら辺は普通に解る話なんだよな。それに金もあるなら断る必要がないし。ただ1つあるのなら、
「俺がイェンの話を断って王城にスポンサー頼み込まない理由は?」
「国の紐付きになると必然と面倒だぞ。国民向けに色々と示したり、義務が生まれたり。私が後ろ盾になれば金と自由の問題は解決するし、船も足として使わせてやろう」
うーん、恐ろしく真っ当。所々おかしな部分はあるけど話し合いの内容に関しては割と真面目だよな。ぶっちゃけ最有力候補の王家スポンサーはそこらへんが面倒だなぁ、ってあらかじめ見ていたしそのデメリットがない所に所属できるならそれはそれで良いんだよな。じゃあ次の質問するか、と視線をイェンに戻す。
「お前がそこまで俺に入れ込む理由は?」
「ふむ」
その言葉にイェンが言葉を停止させ、対面側のテーブルから身を寄せるように顔を近づけてきた。そしてそのまま囁く様に、
「お前に一目惚れした―――ではダメか?」
「うーん、さて、どうだろうなぁー」
顔メッチャ綺麗なんだが?
滅茶苦茶ドキドキする距離にまで顔が近づいている。これで普段から大型犬との戯れである程度耐性をつけてなかったら即死だったなぁ、と思う。
……割と本気で考慮に値するけど、裏の事情が見えてこないんだよなぁ。
条件は美味しいし、メリットもデメリットも見えている。それを考慮して乗っても良いと思っている。だがそれはそれとして、素直にこの態度と条件に乗っても良いもんか、とは思わなくもない。フォウの方に視線を逸らしてもヒントを出してくれる気配はない。まぁ、好感度が高いのは別に問題でもないしこれでいいかもなぁ、なんて事を考えてしまう。
ニーズヘッグがかっこいい系の美人なら、こっちは綺麗系の美人だし。ストレートな好意を見せられて嫌に思う男なんていないだろう? それがハニートラップであっても。だから結論、出しちまおうかなぁ、
と思ったときに。
後ろへとグイっと引っ張られる感覚を得た。そのまま何か、柔らかい感触に抱きしめられ、首に両手を回されている感覚を覚えた。
―――あああああああああああ!?
回された手で誰が何をしているのかを理解し、何が頭に当たっているのかを知って、脳味噌が茹だる。だがそれに関係なく、頭の上から声が放たれた。
「駄目。私の」
「ほー……」
俺の内心の叫びを無視して、ニーズヘッグは俺を後ろから抱きしめてイェンと睨み合っていた。
俺の内心の叫びを無視して。
俺の内心の叫びを無視して!!
絶対に顔に出さない男アイン。
次回、龍虎相打つ。わん! がおー! な感じで。