断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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真の仲間 Ⅲ

「―――さあ、ついに始まりましたアイン争奪戦! 女と女の苛烈なるヒロイン争い。1人の男をめぐって争い会う女の姿! 創作としてみれば大変宜しい状況ですがリアルにしてみると恐ろしくてとてもじゃないが突っ込む経験をしたくない雰囲気! そんな状況を外野から実況させて頂くのは私、屋台にすっかりハマって居座ってしまった山田、PCの山田で御座います。そして隣の此方」

 

「解説はイェンの実の兄である俺、フォウ・ユンファが務めさせてもらうよ」

 

 貴様ら遊んでないで助けてくれ。ニーズヘッグが俺を逃がしてくれないんだが?

 

 ニーズヘッグが何時ログインしたのかは解らないが、凄まじい嗅覚で俺の居場所を―――いや、最近朝か夜はここで飯を食っているし簡単に察知できるから普通に来ただけかこれ。ともあれ、イェンの方からハニートラップを仕掛けられている中、ニーズヘッグがやってきてしまった。そりゃあこんな光景を見たらニーズヘッグが刺激されるのは当然の理で、後ろから抱き着いてくるニーズヘッグは絶対に逃がさない、と言わんばかりに体を密着させてなんか背中から上が柔らかいんですけどォ―――!

 

「アレは中々大胆な行動ですがアピールが激しいですねぇ……!」

 

「おや、アレは寧ろマーキングに近い行動だと思います。あのニーズヘッグさんはイェンが脅威になるって事を理解したんですよ。理解した上で所有権を主張する為に自分の体を密着させて匂いをつけているんですね。アピールというよりはアレは威嚇行動に近い……!」

 

「成程、流石ですねフォウさん。ここからはイェンさんの動きが気になる所です」

 

 マジで実況と解説始めやがった。

 

「イェンちゃん負けるなー!」

 

「白の嬢ちゃんそのまま押せ押せー! 10万賭けたからなー!」

 

 ついには外野が賭け事まで始めてるし。狂ってるのかこいつら?

 

 でも同じ状況なら俺もやってるな……。そう思うとなんか妙に納得して落ち着いてくる。いや、嘘だわ。落ち着けねぇわ。

 

 正直な話、女からのボディタッチって慣れる? って聞かれると絶対に慣れないと答える。いや、略剣の奴とか妻子持ちだしスキンシップ多めでも特になんでもなく平気らしいのだが、少なくともまだそんな関係の相手がいない自分には無理な話だ。だというのにこの駄犬は時折唐突なスキンシップを強行してくる。無論、リアルでの話だ。住所なんてもんはとっくの前に知られている。だけど心臓に悪いし勘違い―――という訳じゃないのだが、それでも俺の理性ががりがり削れるので本当にやめて欲しいのに、

 

 イェンの視線を受けて更に強く抱きしめてくると背中で体温がぉぁ―――。

 

「あげない」

 

「ほう、つまりはお前が独占できる立場にあるという事か?」

 

「そう」

 

「2人がそのような関係にあったとは知らなかったなぁ」

 

「今なった」

 

「なってない! なってないです! 俺はフリー! 永久フリーせんげ―――あ、首絞めないで」

 

 反論をした瞬間ニーズヘッグが力を入れてくるので何事かと思ったが、気づけば椅子から立ったイェンがするり、と此方側へとやってきた膝の上に座ってくる。こんな狭いスツールの上に座っているのだから当然密着してくるし、前の方からは良い匂いがしてくるし、思いっきり寄りかかってくるし、やばい、適当に思考を回し続けないとこれ相当危険な状態なのでは? 良し、年末に土鍋が全裸で神社へと向かったときのことを思い出して落ち着く。アイツなんだっけ。そうだ、飲み過ぎた影響で脳味噌が吹っ飛んだんだっけ。途中でお巡りさんに見つかって塀に上ってパルクール逃亡始めたらなぜかお巡りさんもパルクールの達人で屋根上デッドヒートが―――。

 

「フォウさん、これはどう見ますか?」

 

「バリバリの対抗心ですね。正直イェンは昔から不思議な子でした。妙に勘が鋭いというか、先を見通すことが出来るように位置取りを取って来ましたね。それで家中ではもしや未来が見えているのでは? なんて囁かれている子でしたが……」

 

「でしたが?」

 

「まぁ、その実態は割と抜けている部分も多い、普通に負けず嫌いな子なんですよ。目の前でここまで対抗されてしまったら引けなくなってしまいますね」

 

「成程、ドツボにハマるという奴ですね?」

 

「ですね」

 

 お兄様そこで冷静に解説してないで助けてくれない? ねぇ? 嬉しいには嬉しいんだけどこの件が後にどれだけ尾を引くのかそっちの方が恐ろしいのもあって早く逃げ出したいんですよ。ね?

 

 だから逃げる為に素早く立って逃げ出そうとすれば、立ち上がった瞬間に体が引っ張られてスツールの上に座り直される。しかもニーズヘッグも自分の分のスツールを用意して完全に背後を取っている。絶対に逃がさない、というよりは渡さないという表情を後ろからしている。そしてイェンもイェンで、前から腰に手を回して密着させている。気づけば尻尾もしっかりと脚にからめるように巻き付けていて、絶対に逃がさないという意思とそこはかとないエロチシズムを感じる。辛い。

 

 天国で地獄かここは?

 

 これ、男女が逆ならハラスメントで訴えられたぞ?

 

 ―――ん? ハラスメント?

 

「アインは特定の相手はいないと言った―――なら別に私がそこに収まろうとも関係あるまい?」

 

「ある。ボスは私と一緒。一緒じゃなきゃ駄目」

 

「それはお前の意見であろう? 一方通行の想いだけでは関係は成立せん」

 

「問題ない。ボスは私にメロメロ」

 

 えーと、ホロウィンドウを呼び出した。あ、いや、フィエル呼んだほうが早いなこれ。

 

「そうか? 今は私にうっとりとしているように見えるが」

 

「違う、私に」

 

「体に自信があるのは結構―――」

 

「でも―――」

 

「やはり―――」

 

 良し、我慢の限界だしやるか!

 

Hey! フィリー! セクハラでこいつら牢獄にぶち込んで!」 

 

 

 

 

「ながく、くるしいたたかいだった……」

 

 ニーズヘッグとイェンは問答無用で牢獄送りにされた。フィエルともう1人、見たことのない天使だか女神に抱えられて、そのままどっかへと消えてしまった。内容的に数時間もしたら戻ってこれるらしい。まあ、許可もなくあんなに密着してきたら運営報告で是非もないよね!

 

 額の汗をぬぐいながら強敵に別れを告げ、聴衆に蹴りを叩き込んでさっさと解散させる。見世物じゃねーぞおら!

 

「お疲れ様、アインさん」

 

「あ、フォウさんどうも。もっと早く助けて欲しかった」

 

「あははは……」

 

 フォウから飲み物の入った木のコップを受け取る。中身はどうやらベリージュースの様だ。ちょっとした苦みを甘みの中に感じて、それがアクセントとして丁度良く働いている。あー、朝から馬鹿をやった気がした。

 

 まぁ、楽しいから何も問題はないのだが。

 

「ごめんね、アインさん。イェンも決してふざけてやっている訳じゃないんだ……と思う」

 

「そこは断定して欲しかったかなぁ!」

 

 いやあ、だってなんで好意を向けられているのか、割と本気で篭絡しに来ているのか良く解らないんだもん。そりゃあ裏があると思うし、怖いに決まっている。ただそれ抜きでスポンサーしてくれるって話は美味しいから個人的に乗ってもいいかなぁ、とは思っているのだが。そんな此方の考えを理解しているのか、フォウが申し訳なさそうに腕を組みつつ頷く。

 

「うん、間違いなく真面目なんだ、イェンは。さっきも言ったと思うけどあの子は昔からちょっと変わっていて時流とかの流れを先読みするのが上手な子だったんだ。それこそ未来を見ているんじゃないか、って言われるほどにね」

 

 未来視かぁ、と呟く。どうなんだろう? ゲーム的に見ればプロットやシナリオの先を見る事の出来る能力……って風に解釈できるのだが。でも今の技術力だったら高度の演算による未来の想定は行えるんじゃないだろうか? まぁ、イェンとは関係ない話か、ここは。

 

「少しだけ妹を庇わせてもらえると」

 

「うん」

 

 フォウは少しだけ溜めてから言葉を続けた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んです」

 

 こっちの大陸では神々、つまりは上級AI側から一部に対して断絶おきますよー、封鎖されますよー、と通達される所があったり、予測されたりと軽く事前に準備するだけの時間が与えられたらしいのだがそういう兆候すら東国には存在しなかったらしい。となると本当にある日突然世界が終わった、って感じなんだろうか。

 

「その中でイェンだけが唐突に東国を捨て、金を奪える所から奪って、必要なものを揃えて海を渡ってきたんですよ。まるで最初からここが唯一安全な場所であると解っていたかのように」

 

「うーん……」

 

 そう言われるとなんか一気に怪しくはなるんだよなぁ。なんだろう。フォウの話を聞いて余計にちょっと混乱してきた部分があるかもしれない。だけど同時に、フォウの言いたい事は解る。

 

「……イェンのやる事には絶対に意味がある?」

 

「うん。少なくとも俺はそう思っています。イェンがあそこまでアピール……アピール? アピールなのかなぁ、アレ……でもその手の教育全部投げ捨ててたしなぁ……イェンなりのアピールだったのかもしれないなぁ……今度相談に乗るべきなのかな……」

 

「フォウさーん?」

 

「うん? あ、あぁ、ごめんなさい。えーと、そうですね。不器用な子ですけど、実行する以上は必要だったんだと思いますから、その……あんまり、嫌いにならないでくださいね?」

 

「あんだけアタックされて嫌いになれる男がいたら凄いと思う」

 

 フォウは腕を組み、目を閉じると複雑そうな表情を浮かべながら頷いていた。この兄妹、兄は英傑の癖して結構苦労してるんだなぁ……。

 

 そんな事を思いながら朝の時間が過ぎて行く。




 勝者、フィエル。決まり手、押し出し。
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