断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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真の仲間 Ⅳ

「師匠は自分に言い寄ってきた女をとりあえず保留する為に牢獄にぶち込んだ事ある?」

 

「ないから是非とも現場を見たかったのー」

 

 イェンとニーズヘッグがしばらくの間牢獄で草むしりを強制される為、いったん2人を放置して王城まで戻ってきた。目的は当然ながらレベリングだ。折角暇な時間が出来たのだから、効率的に師匠の所で消化しようという腹積もりだ。決して街中に居づらくなったわけでもなく、フォウの”解ってるよね? 泣かすなよ?”という感じの視線から逃げたくなった訳じゃない。

 

 ないったらないんだ。

 

「という訳で師匠、早く訓練しましょう。痛みとデスカウントでこの記憶を消し飛ばすんだッ! ミニアビサル君もそう言っている!」

 

「クケェ―――!」

 

「なんじゃその奇怪な鳴き声は」

 

 両手で抱えて持ち上げているこの両手に収まるサイズのミニドラゴン―――幼体アビサルドラゴンは装備枠に入るペットだ。つまり装備することで課金ペットと同様に育て、連れて歩き、一緒に遊ぶことが出来る存在だ。ただし、戦闘では一切の貢献ができないので本当に日常で戯れる為の存在だ。こいつはアビサルドラゴン討滅戦のレイド参加報酬であり、あのレイドに参加した600人のプレイヤーにのみ報酬として配布されたアイテムの1つだ。

 

 つまりあの馬鹿騒ぎの参加者たちは皆、限定ペットを入手しているという事だ。

 

 その他にもトップDPS報酬、MVP報酬、発見者報酬、ファーストヒット報酬とか細かい項目が色々とあったが、報酬全体としては中々のもんだと言えた。ただ報酬の大半はアビサルドラゴンの限定素材であり、それを使った装備というものは現在の所、プレイヤーでは作成不可だし、NPCに作成を依頼してもレベル50まで装備できないので倉庫で腐らせる以外の選択肢がない、ちょっと残念なものだった。

 

 まぁ、それでもペットとか面白い報酬は出てたので文句は一切ない。

 

「しかし”雷帝”の妹君か……ふーむ」

 

「雷帝……フォウさんの事」

 

「うむ」

 

 Aが空中に座ったまま髭を撫でつつ頷いた。杖を振るうとチョークボードを召喚し、そこにチョークが触れなくても勝手に動き出してチョークボードに書き込み始める。

 

「そもそも東国とは西部と東部で大きく文化が分かれておる事を知っておるか?」

 

 その言葉に頭を横に振った。東国と呼ばれる大陸の絵図が描かれる。そしてその横には《レオニード大陸》という名前が付けられる。たぶん此方側が呼んでいる大陸名だろう。その中央を分断するように線を引き、その中に複数のチョークで更に細かく線を引いてゆく。たぶんこれは……、

 

「……領土?」

 

「うむ、国家という形ではあるがの。現在の東国東部は群雄割拠の乱世に突入しておる……まぁ、現在というかこうなる前の話じゃが。今はどこも争えんじゃろうし」

 

「せやろな」

 

 ジャパニーズ戦国タイムだぜ! 領土の1つ1つが国で自分ルール展開しながら殴り合っている時代だ。かなり物騒で安全圏がない奴だぁ。そう思いながらAの話を聞いていると、

 

「じゃけどおかしいのー。”雷帝”は確かに東国でも名を馳せる武神の一角じゃが、その国は既に攻め落とされているという話なんじゃよなぁ。まぁ、あまり興味ないから特に驚きもせんかったが」

 

「しろよ」

 

 え、じゃあなんでこっちにいるの? もしかして逃げてきた? という割にはノリがだいぶ軽かったよな、あの兄妹。それともマジで出奔してきたのか? それともなんだろう……やっぱり事情が読めないや。なんか完全にしがらみFREEな格好をしていたんだけどなぁ、あの2人組。割と経歴というか今の動機が謎が多い。ただ、話してくる内容に関してはメリットが多いんだよなぁ。

 

「うーん、あの兄妹をスポンサーにして良いものか……」

 

「なんじゃ? 投資元を探しておるのか? なんじゃったら師弟のよしみで儂が支援しても良いぞ」

 

「マジで!?」

 

 予想外の所から話が出てきたことに割とビビる。此方のリアクションに対してAが笑いながら髭を撫でる。

 

「ほうほうほう、まぁ、意欲的な弟子じゃしな。儂の秘儀を教える事にも躊躇はない。ならば将来性込みで支援するのも決して悪くはない選択じゃ。それに金なんて使い道もなく余っておるからのぉ、少しぐらい豪遊したって儂は構わん構わん」

 

 ただし、と付け加える。

 

「儂のコネはほとんどメゼエラに集中しておるから、祖国を取り戻すまでは金銭関係でしか支援は出来んじゃがの。それに船なんぞ持っておらんし、テレポートすりゃあええから飛空艇も保有してないからの。そういう意味での支援は期待してはならんぞ」

 

「はー……いや、申し出はほんとありがたいんで」

 

「ま、励め若人よ。お主の成長を眺めるのが今では儂の一番楽しみよ」

 

 そう言われるとちょっとむず痒く感じてしまう。誤魔化すように首の裏を掻いてから良し、と呟き両頬を叩く。意外なスポンサー候補を発掘する事も出来たし、割とここら辺の発掘も順調だ。後は《深境》を十全に活用する下地を作る為にひたすらスキルレベリングだ。

 

 今日も地獄を見るぞい!

 

 

 

 

「さて、今日はここまでじゃ。あまり詰め込み過ぎてもつまらんしの」

 

「……おっす」

 

 鍛錬、何時も通り終了。本日は《星魔法》を全身で味わった。普通の手段では習得する事の出来ない属性魔法の1つであり、基本的な属性を全てマスターしたら教えてくれるとか約束されてしまったので今、ちょっとモチベーションが高い。だってメテオですよメテオ! 隕石落とすのこの属性らしいですよ!

 

 その他にも星光砲撃とか、天体操作とかも入るらしい。今ちょっとおかしな単語はいらなかった?

 

 まぁ、そんな訳で何時ものスパルタ特訓を受けて《火魔法》と《時魔法》がレベル8に上がった。これはいよいよ10も近いぞ。

 

 《火魔法》は7で〈イグニートジャベリン〉という使いやすいストック可能な連射魔法で、8で火ダメの上昇だ。これは前に本で読んだ通りの内容なので、驚きは特にない。問題は《時魔法》の方であり、7で習得したのは〈ストップ〉と呼ばれる魔法であり、起点指定の単体魔法で発動した場合、相手の動作、反応を含めた状態を停止させる、停止状態にさせる魔法だった。つまり相手が停止しているので一方的に殴る事が出来る神の魔法だった。とはいえ、当然ながらこれはボス等に対しては通じないので雑魚相手にしか使えない魔法だ。

 

 しかも8で習得したのは〈タイムキープ〉という時間耐性を付与する魔法。これを使うと加速、減速、停止、停滞などの効果を効果中は受けなくなるという魔法だった。つまり《時魔法》を育てれば相手をハメ殺す手段を覚えるが、同時に同じ手段を使ってくる敵に対して無効化する手段も手にするという事だ。神の魔法かぁ??? なんて最初は思ったが、PvP前提で考えてみると直ぐに耐性魔法を取得できるので《時魔法》使用環境がPvPにやってきたらお互いに停止攻撃が通じない状態が出来上がるんだろうなぁ、と思う。

 

 いや、まぁ、PvPやらんけど。

 

 ごろり、と床で仰向けになる様に転がり、あー、と声を零す。

 

「どうしよっかなー……」

 

「悩め悩め。それが青春というもんじゃろうて」

 

 青春と言える年齢は過ぎてるんだけどなぁ、高校卒業してるし。でも美女にサンドイッチされていたあの状況をわたわたあたふたしていた状況は……まぁ、青春とも言えなくはないかもしれない。あの反応を含めてマジでどうしたもんかなぁ、としか言葉が出ない。

 

「おぉぉぉ……」

 

「ほうほうほう。いやあ、若人が悩む姿は楽しいのぉ」

 

 酒を取り出して昼間から飲み始めている爺の姿を半眼で睨みつつ、溜息を吐く。イェンとニーズヘッグが檻から解放されるまでの間、どーいう反応を取ったもんか、悩む事にする。

 

 特にニーズヘッグに関してはリアルでの面識もあるし、感情の向けられ方も自覚しているし。

 

 そういう関係になってもいいもんか、でもめんどくせえなぁ、と思う部分もあるし。最近フィエルとかイェンとか出てきて良い思いも出来てるし必死になる理由もねぇしなぁー、なんて考えを脳内で転がす。

 

「……はっ!」

 

 どっちもAIじゃねぇか! 依然状況は犬が有利どころか今日の出来事で王手かけに来てるじゃん! あっぶねぇ!

 

 いや、でもニーズヘッグも同じことに気づいているだろうし、リアルでの脅威がないと分かれば自然と落ち着くか。なんだ、問題ねぇじゃん。

 

 あまり深刻に考えるのもゲームなのにどうかと思うし―――もうちょっと緩く考えて行こう。

 

 そう考えてまた床の上をごろり、と転がった。




 メイプル2では刑務所にぶち込まれた違反PCの草むしり姿を一般PCが観察できるという最高のシステムがあってじゃな?
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