「まだ戻ってくるまでは時間がかかるか……」
『刑期を終えれば戻ってこれるんですけど、なんか2人とも牢内でいがみあっちゃいまして……』
何やってんだあの2人。というかイェンが思ったよりもガチな事に驚きだったわ。演技とかそういうもんも混じってると思ってたんだが。……まぁ、このことは今は忘れておこう。それよりも今は……いや、特に優先する事もないな。しいて言えばレベリングが重要だが、今の所レベリングするなら街道で格下相手の狩りか、それともちょっと離れた場所へと行く必要がある。
だけど3馬鹿とこっちで合流する予定もあるし、遠出するのはちょっと控えたい。
「いい機会だしクラフターに手を出すか」
《エンチャント》辺りは手を出そうとは思っていたし、ちょうど良いタイミングなんじゃないだろうかこれは? そう思って王城を出て、《エンチャント》の習得を行う為に魔導ギルドへと向かう事にする。記憶が正しければここで習得は行える筈だし、ついでに軽く触媒などを購入して今の装備に対する《エンチャント》練習でもすれば良いだろう。開いた時間の中でちょくちょくやってれば、まぁ、少し時間がかかってもレベルを上げる事は難しくはないだろうと思う。クラフターのレベリングに近道はないし、手を出せる時に手を出そうと思って街中を歩けば、
「お」
「あ」
「再会」
レオンハルトとレインのコンビに街中でばったりと出くわしてしまった。片手をあげて挨拶すると、レオンハルトが片手で挨拶を返してくる。しかしその視線は誰もいない横へと向けられ、
「ん? ニーズヘッグがいないようだがどうしたんだ?」
「人をセット扱いしないでくれ……いや、まあ、少し前まではいたんだけど俺にハラスメントで豚箱アタックさせて貰ったわ」
その言葉にレオンハルトがやや引いたような表情を見せた。
「身内相手に容赦ない……」
「身内相手だから容赦がないんだよ」
「節度。大事」
レインの言葉に腕を組んで頷く。最近の犬のスキンシップが興奮が原因なのかかなり濃密なので、そろそろ1回お話するべきかなー、とは思わなくもないが。まあ、まあ、そういうのは考えるとドツボにハマるし考えるのは後回しにする。それよりもレオンハルトとレインが一緒に事を再び目撃したし、そっちのが個人的には気になる。
「もしかしてレオとレインって固定?」
「いや、別にそういう訳ではないんだが……うーん」
此方の疑問に対してレオンハルトはどうしたもんか、と顎に手を当てると首を傾げる。だがレインが特に気にしない、と言わんばかりに頭を横に振った。
「兄妹」
「はあーん、兄妹で抽選突破してるのか、すげぇな。倍率恐ろしかっただろ」
うちは身内全員で抽選突破してるけどな? まぁ、それでも全世界のプレイヤーが待望するフルダイブVRMMOゲーを身内分確保して遊べるというのは中々の強運だ。第2陣が待っているとはいえ、それでさえ抽選なのだからマジでここら辺の倍率は魔境だ。しかしレオンハルトとレインが兄妹なのには納得が行く。道理で同じような武芸タイプだったのか。
「アインの方はどうなんだ?」
「俺? ニグはリアルでの飼い犬だよ」
「女性にそういう言い方はないんじゃないかなぁ」
恐ろしい程に悲しい正論。でも、まぁ、慣れちゃったしなぁ……犬扱いだ。アイツ自身も犬扱いでいいやって開き直っている部分あるしかなり今更の話だよな、これ。でも、まぁ、他の人から見られたらそういう感じもあるししゃーないのか。うーん、とちょっと首を傾げる。まぁ、雑に扱っている部分もあるし、ちょっと見直すべき案件なのかもしれない……?
いつまでも一緒にいられる訳ってもなさそ―――あ、待てアイツ執念で食らいついてきそうだ怖いぞ。
「うーん、まぁ、ちょっとは扱いに関しては考えておくわ」
「あぁ、それが良いと思うが」
レオンハルトが頷く。根本的な部分でこいつ、常識的な人間だというのを再確認した。そしてそこで納得したところでレインが言葉を挟み込んできた。
「募集」
「ん? ……ああ! 固定募集の事か」
レインがこくこくと頭を頷かせた。無口単語系キャラ、ここまでちゃんとやれているとちょっと応援したくなるのはさておき、固定募集と言えばツブヤイッターで流した例の呟きの事だろう。というか俺のツブヤイッター、追ってたんだな。ちょっと驚いた。いや、驚くほどでもないのか? 正直フォロー通知多すぎてその手の通知全部切ってたんだよな。
「知っての通り、固定の補充要員……補充というかスタメンの募集だな。ぶっちゃけた話、既に身内が5人揃ってた、フルパーティー結成に後3人足りないって所なんだよ。THDそれぞれ1枠ずつな」
「あぁ、その話実は俺達も興味を持っていてな」
「応募予定」
「マジで? いや、嬉しいっちゃ嬉しいけど1枠しかないから奪い合いだぞ」
レオンハルトとレインは此方側、エルディアサイドでは突出したDDだ。単純にDPS概念を理解していて、パーティープレイもできるし、常識があって指揮にも従える。それだけでかなり候補としてはトップに来るだろう。純粋に1度PTを組んで雑魚狩りをしたことがある、アビサル討滅戦での動きを見た事があるというのは選択肢として挙げるのに有利な要素にもなる。ぶっちゃけ、知っていて有能な人はスカウトしたい。まぁ、まだ見ないDPS自慢がいるだろうし即決! とはいかないのだが。
「アビサルドラゴン戦で気が付いたが、このゲーム最終的にコンテンツが集団戦の方にシフトするっぽい感じがあるしな……だったら早めに落ち着ける環境を見つけておきたいし」
「同上。楽しかった」
「おぉぅ……そう言われると俺も嬉しいよ」
まぁ、実際ゲームは楽しいって言える相手と一緒に遊ぶのが一番楽しいし、モチベーションが維持できる。そういう意味で言えばこの2人の意思は正しいのだ。問題はこっちはガチでワールド・ファーストを取りに行くからガチガチの戦闘構築をする為、エンジョイどまりの層とは割と相性が悪い。空気が悪くなろうが実行するだけのメンタルと、逆境とぎすぎすを逆に爆笑しながら楽しめるレベルのメンタルが必要だ。
そういう意味ではあんまり誘いたくないなぁ、と思う部分がある。
だってレオレイン兄妹、どう見てもまともだしなぁ。外道戦術とか身内煽りとか絶対受け付けなさそうな感じはする。だから、まぁ、それを含めて面接が必要だなぁ、と思っている。
「まぁ、告知はしたけど募集はもうちょい先よ。細かく言うなら30台IDの発掘できたら、かな。面接の他にIDで一緒に潜って動きを実際に見るのも審査に入れたい感じあるからな。恐らくポートを解放して船で行ける先、そこで解禁されるエリアにIDが3~4ぐらいあると思うんだよな」
「成程、船に乗れるだけの力も見てる訳か」
「最低限トップについてこれるだけの気概を見せてくれないと寄生したい奴とかHimechanとか出てくるしな」
「姫。殺」
姫という言葉に反応したレインが殺意を露わにしている。何か嫌なことがあったんだろうか? まぁ、Himeの影響で固定爆散ギルド崩壊なんてよくあるネトゲ話だしなぁ……。
「ま、レオもレインも候補としては結構良い所にあると思うし、後は他の参加者次第かなー」
「ほほう、なら期待しておくさ。それ抜きでもまた一緒に遊びたいしな」
それは是非是非、と答えようとすれば、
「ほう―――お前もその固定に潜り込もうとしているのか。なら将来的には同じ固定の仲間かもしれないな……」
「誰だッ!」
聞き覚えのない声に振り返れば、そこにいたのは見覚えのないプレイヤーだった。だがその見た目のインパクトはおそらく永遠に忘れないトラウマを刻む。
そのプレイヤーはおしゃぶりを装着していた。
紙おむつを装着し、
手にはがらがら鳴る玩具。
上半身は裸で顔はサングラス。
それはどこからどう見ても変態だった。
「俺も募集を見て―――参加したいと思った。待っていてくれボス、俺があんたの戦いを支えるばぶ。あんたの真の仲間になって見せる……!」
良い笑顔で頷く赤ちゃん男を前に3人で完全にフリーズし、視線を合わせてから頷き、GMコールを同時に連打し始めた。
「フィエル!! 助けてフィエル!! 化け物だ!! 助けてくれ!!」
募集要項に社会的常識を満たせる奴、と今後は付け加える事を硬く誓った。
MMOプレイヤーは良く頭のおかしい格好をする。