断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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真の仲間 Ⅵ

「おぎゃあ! おぎゃあ! ばぶう!」

 

「はいはーい、話の続きは牢獄で聞きましょうねー」

 

「稀人って時折パンチが凄いの出てくるよな……」

 

 衛兵に両側から挟まれるように引きずられる怪奇・ばぶぅ男が連れ去られてゆく。システム的に違反する要素が皆無なので通報してもノーダメージだったが、流石に王国法的にはアウトだったらしい。これからシステムではなく王国の牢屋にぶち込まれるらしい。おぎゃりながら抵抗の声を上げて行くのがどこまで怖い。

 

「私は戻ってくるぞ! 真の仲間となる為に! リアルの社会では本当の自分をさらけ出せない! だがここでは私はおぎゃれる! 存分に! おぎゃあ! おぎゃあ!」

 

「頼むから二度と出てこないでくれ」

 

「同意」

 

「人は色々とあるんだなぁ……」

 

 もう二度と消えないトラウマを俺達の記憶に刻んで、ベビーは消えた。

 

 それから。

 

 レオンハルトとレインとは別れて、魔導ギルドへと向かった。今日は特に予定はないのにイベントが濃い部分がある。まぁ、それだけ楽しいって事だがばぶぅだけは勘弁してほしい。なんだよ真の仲間って。そんな真の仲間嫌だよ。

 

 それはさておき、魔導ギルドに到着すると結構な数のプレイヤーやNPCがいる。典型的な魔術師、魔法使いのイメージと言えば根暗で陽の入らない暗い地下工房で実験しているイメージだが、そんな事はなく日の差し込む明るくて清潔、それでいて白をベースとしたちょっとミスティックな雰囲気のある建造物が魔導ギルドの建物だ。広さはそれなり、建物は3階まで存在する上に地下もある。一般的な魔術イメージからは離れた、ちょっとおしゃれな場所だ。

 

 だからか、中にいる人たちも少し明るく見える。

 

「えーと《エンチャント》の習得は、っと」

 

 師匠が言うには本を熟読すれば普通に習得できるらしいので、ギルド内の商店で《エンチャント教本・初級》を購入する。それに合わせてエンチャント用の最下級触媒も山の様に購入する―――少なくともそれを余裕で買い込めるだけのお金が今の自分にはある。アビサルドラゴン様様である。

 

「確か触媒と消費素材が必要だっけか……」

 

 素材も触媒も消費して欲しいエンチャントが出るまで無限にリセマラ―――武器の性能を追求しようと思うと絶対に沼る奴だよなぁ、と思いながら必要なものを買い終える。これで魔導ギルドでの用事はおしまい。カウンターの方からじっとこっちを見つめる受付の視線を感じるが、欲しいものや必要な知識は大体師匠から入手したり聞けたりするので、あんまり受付を利用する必要がない。という訳でじゃあの、と心の中で告げながらギルドを出る。

 

 これでとりあえず99回分のエンチャント素材は確保した。これだけあれば良い感じに暇つぶしにはなるだろう。その前にスキルを習得する必要があるが。

 

「んー、折角だし外で読むか? だけど今日は雲ってるしなぁ」

 

 途中で雨が降ってきても厄介だ。でもちょっとおしゃれなカフェで読書とかあこがれるなぁ―――!

 

 とか思ってギルドを出た瞬間。

 

 目の前を、黒い姿が四つん這いになった状態で素早く駆け抜けていた。そのあとを、全力で王国の衛兵が追いかけている。

 

「おい! 待て! 止まれ! 止まれぇ―――!!」

 

「止まれよ!!」

 

「そこの稀人ォ!! 景観を崩すなあ!!」

 

 黒いゴキブリの様なプレイヤーは背中に今にも折れそうな程よぼよぼの爺さんを乗せたまま、全力で大通りを這ったまま駆け抜けていった。その姿を王国の衛兵たちが全力ダッシュで追い掛け、壁や屋根へと跳躍しながら追い込むために走り回っていた。そんな姿を腕を組んで頷く様に眺め、決めた。

 

「部屋に戻ろ」

 

 

 

 

 大人しく部屋に戻るとそこにはシャーリィの姿があった。

 

「お帰りなさいませアイン様。ニーズヘッグ様が出てくるまではまだ少々時間がかかるようです」

 

「あ、どうも。特に今は頼みたいこともないので」

 

「解りました。何か御用事がありましたらベルを鳴らしてくれれば直ぐに参りますので」

 

 ぺこりと頭を下げてシャーリィが去って行く。さーて、1人になったし大人しく本を読むかぁ、と呟きながらソファに移動し、横になりながら購入したばかりの本を広げる―――あ、師匠が色々と本棚に突っ込んだからそっちから発掘すりゃあ良かったのでは?

 

「……ま、まあ、これも経験って事で」

 

 探せばありそうな気もするが、実際にあったら勿体ない気持ちに負けそうなので本棚は確かめない事にする。それよりも今は本の方だ。《エンチャント》周りの仕様や使用する素材の話を読み込んで覚えてしまおう。

 

 こういうゲームの仕様やシステム、意外と読んだりして覚えるのが楽しいのは俺だけだろうか? システムだけじゃなくてそこにフレーバー要素が混じっていると、個人的に読むのが捗るというか……やっぱり世界観を頭に叩き込んである程度そのルールをRPとして楽しむのが良いと思う。まあ、今はRPなんてやっている暇はないんだが。

 

 とりあえず読み始める。ソファでぐでぐでになりながら本を読むの、結構好きなんだよな。

 

「んー、大体は調べた通りか」

 

 武器を用意する。

 

 触媒を用意する。

 

 素材を用意する。

 

 エンチャントを実行してハイ、終わり。手順はこれだけらしい。凄くシンプルだがエンチャント行為はまず成功率が100%ではない。そして失敗しても成功しても素材と触媒は当然消費される。だから《エンチャント》のレベルと高位グレードの触媒を用意する事でエンチャントの成功率をなるべく上げないと装備の強化が行えない。そして《エンチャント》のレベルによって付与できる上限も変わってくるという話だ。

 

 素材で付与される内容もグループで分かれており、確定で欲しいエンチャントが付くわけではない。例えば《力の砂》というアイテムをエンチャントの素材に使用された場合、付与されるのは以下の能力だ。

 

 ・STR+1~5%

 ・単体攻撃補正+5~10

 ・鋼体時間+0.1~0.5

 ・固定ダメージ+10~50

 

 この中からランダムで1種が付与される。そしてエンチャントは上書きが可能。なので素材と触媒さえ用意すれば何度だってエンチャントしなおす事が出来る。問題はその度にお金が溶けるように蒸発する事実だ。エンチャント前提での強化は大量の金と素材が必要になるので、まともな脳味噌をしているならやらない。逆に言えば少しでもダメージを詰める必要があるなら必須でもあるという事だ。

 

「……パーティー単位でやる必要あるかもな」

 

 エンドコンテンツの話になるが、全員が火力を1%上昇させたとしよう。

 

 それは10分単位での戦闘において、十数秒単位の火力の補強になる。もし火力がぎりぎりタイムアップに届かない場合、全体が1%火力を向上させることを装備で補えば、その十数秒でぎりぎりタイムアップの部分をカバーできるのだ。だったら全員でやるだけの価値がある。

 

 あるのだが……やっぱり、凄い金がかかる。

 

 この下級触媒を大量に購入してきて解った。

 

 プレイヤーの資金運営でやろうとすると100%破産するわ。絶対に金を大量に持った所のバックアップ、或いはスポンサーがないと駄目だ。イェン兄妹の商会か、師匠の財布を全部喰らいつくすか、或いは国庫を食い荒らすか。前提時点で金を使い潰す発想だからダメだこれ。いや、でも実際自力調達とか狂気の沙汰ってレベルだしな……。

 

「はーん、でも夢があるなぁ」

 

 最強エンチャントを確定させればこれ、ネットにSSアップして全世界に性能で煽れそうだな。

 

 そう思っていると扉が開いた音がした。まぁ、声を発する前に誰かは解っている。

 

「おかえり」

 

「ただいまー」

 

「どうだった?」

 

「悔しいけど能力均等化された上で引き分けだったわ」

 

「そっか」

 

「ヴー」

 

 どうやら不機嫌らしい。苦笑しながら《エンチャント》を習得する為に読み進める。多分今日はこれを読んでいるだけで終わりそうだなぁ、と思っていると体に重みを感じた。また圧し掛かってきたなーと思いながら無視して読み進めていると、

 

「ねえ」

 

「んー?」

 

「……」

 

 続きを言わない。何を言いたいのか、空気的に大体解るのだが。こういう時真っ先に茶化してくれる土鍋がいてくれれば楽なんだけどなぁ。

 

 略剣はダメだ。アイツはニーズヘッグの背中押している。いや、正確に言うと略剣の奥さんだ。身内の中で唯一結婚しているアイツだけど、奥さんメッチャ性格良いし、綺麗な人だし、飯も旨くて非の打ち所のない人なんだけど滅茶苦茶押しが強いのが玉に瑕なんだよなぁ。押しが強いというか恋愛に凄いわーきゃーするタイプというか。アレさえなければなぁー。

 

 ちなみに略剣の娘にもちゃんとその遺伝子は受け継がれている。滅茶苦茶煩い子だ。

 

「……ねえ」

 

「んー?」

 

「……なんでもない」

 

 ばたり、と頭が胸の上に置かれた感触を感じ、体にのしかかってくる圧を無視して本を読むのに没頭する。

 

 何がアレとか具体的なことは言わないけど。

 

 根性ねーなー、俺ら。




 サングラス赤ちゃんだけで感想40件は流石に笑う。
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