断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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真の仲間 Ⅶ

 まぁ、結局今日1日は《エンチャント》のラーニングと《結界術》のトレーニングだけで終わってしまった。ニーズヘッグも普段ならジークフリートに突撃しているところだろうが、留守にしているからかそれとも別の理由があるのか、今日だけは絶対にそばから離れようとする事はなかった。やっぱりいろんな意味で刺激されている部分があるらしい。まあ、長年の付き合いがあるしお互いに何も言わなくても言いたいことは大体伝わる。なので特にニーズヘッグに言う事はない。

 

 ともあれ、本を読みながらなら片手間にバフ系統のスキルは出来ると発覚したので、本を読みながら《エンチャント》を習得し、ちょっと練習して終わりという1日だった。おかげで《結界術》のレベルが3に上がった。ちなみに2で習得するのは〈攻勢結界〉であり、3で〈抗体結界〉だ。前者が攻撃UPであり、後者が異常耐性UPの効果だ。ただしどちらも対象を取らないので、敵側にも効果があるというのが問題だ。いや、師匠の言葉が正しければレベルを上げれば識別するための能力を獲得するのだ。それまでの辛抱という奴だろう。それに作業の合間にちょくちょく挟み込んで使えるのだからレベル上げは意外と早いかもしれない。

 

 そんなこんなで遊びの1日が終わり、ログアウトした所で、何時もの夜のあれこれをこなしていると、家の扉にノックがあった。

 

 大きな進展のない1日、その終わり。

 

 ノックと共に響いてきた声は、

 

「へ―イ! エージいるんだろー? 飯食いに行こうぜー」

 

 聞き覚えのある声にぶえー、と鳴き声を零しながら扉の前まで行き、鍵を開ければ知っている顔がそこにはあった。丸刈りに筋骨隆々という威圧感たっぷりの見た目をしている割には、頭がかなりアホなアメリカ人の姿だ。サムズアップに歯を見せる様なスマイルを浮かべ、

 

「偶には肉を食いに行こうぜ、肉。美味しい店を見つけたんだよ。俺のバイクに乗って行こうぜ」

 

「ちょっと支度してくるから待ってて」

 

「オーケーオーケー」

 

 またいきなりやってきたなぁ、と思いながらも苦笑を零して、とりあえず外出用の外着に着替える事にした。

 

 

 

 

 自称傭兵のアメリカ人、マイケル。本名は不明。本人はマイケルと呼んでくれと笑っている。好きなものは肉と梅干し。そう、こいつが梅☆だ。好きだから名前にした。ものすごい安直な奴だ。だけどかなり気の良い奴で、面白い奴だ。声がでかくて、態度もでかくて、良く笑って、良く泣いて、そして滅茶苦茶はしゃぐ。突発的な行動も多い、そしてお金もなんかいっぱい持っている。気が乗ったらふらっと現れては肉を食いに誘ってくる。生態が割と謎だけど、ニーズヘッグの次に付き合いのある奴だ。

 

 夜の道路を2ケツで駆け抜けながらマイケルの腹に手を回して走っている。こうやって身内と飯に食いに行くのって地味に久しぶりだなぁ、なんて事を思う。

 

「他に誰か誘ったー?」

 

「あぁ? 誘ってねぇーよー! なんだ、他に誰か誘いたい奴でもいるのか? 百合ちゃんはトシに殺されるからダメだぞ!」

 

「ロリコンじゃねぇよボケ!! サシで食いに行くの久しぶりだな、って話だよ!」

 

「ああ! なんか急に食いたくなった!」

 

 まあ、世の中そんな日もある。

 

 バイクの排気音が結構煩いもんで、ヘルメットをかぶった状態でも声が聞こえるように必然的に叫ぶことになってしまう。それでも、まぁ、声が届く。バイクのタンデムに乗るのも割と久しぶりの感覚だ。それこそ誰かのに乗せて貰わないと乗る機会もないし。バイクとかの車両って維持するのが面倒だしなぁ。1人暮らしだと節約とかを考えてそういうのを避けてしまう。

 

「なんだ! アキも誘えばよかったか!」

 

「アイツ滅茶苦茶食うじゃん! 俺達の肉残らないじゃん!」

 

「そうだな、前A4奢ったら数秒で食べられた上に”美味しかったわ、でおかわりは?”とか言われたしな……ちょっと奢る頻度考えるぜ」

 

「それだけやられてまだ奢ろうって精神がすげぇよ」

 

「1人で食うのは楽しくないんだよブラザー。やっぱり飯ってのは誰かと一緒に食うのが明日の力に繋がるんだよ。これ、俺のモチベーション維持法な?」

 

「まあ、言ってる事は解らなくもないけどなー」

 

 モチベーションを維持する方法は人さまざま。俺は割と目標を立ててそれを消化する事で達成感を感じるタイプだ。マイケルは純粋に物事を楽しんで笑ってモチベーションを維持するタイプ。だから食事を誰かと一緒に取る、というのは大事な儀式の一部だったりするのかもしれない。

 

「だからエージもたまには誰かと飯を食おうぜ。美味しいもんを誰かと食べると明日のPowerになるぜ」

 

「食べに行くのを誘われて拒否る程ひねくれちゃいねぇよ!」

 

「でもアキには来てほしいと思ってるだろ?」

 

「殴るぞ!!」

 

「あ、ちょ、ちょ、バイク揺れる! 揺れる!!」

 

 バイクが大きく揺れながらも即座にコントロールを取り戻し、2人揃って爆笑しながら夜の道路を行く。段々と目的地に近づいてきたこともありバイクの速度も落ち、駐車場に停車させてバイクから降りる。リアルで夜風を浴びるってのも中々悪くはない体験だ。

 

 最近ずーっとゲームに籠りっぱなしだったし、こうやって外に連れ出されるのは丁度良い機会だったかもしれない。無論、リアルで運動する事は忘れない。VRという媒体だからこそ体を動かす事が大事なのは良く理解している。とはいえ、こうやって遠くへ行くにはどうしても時間がかかるし、足がない。となると1人でできる事はたかが知れている。

 

 お、最近話題の焼肉店じゃん。はー、やっぱ肉つったら焼肉よなぁ。心を弾ませながらバイクの確認を終わらせたマイケルを追い、焼き肉屋の中へと向かって行く。

 

「それはそれとして、そっちの調子はどうよ、マルージャ崩壊班」

 

「は? 合理的な手段を取っただけなんだが? それはそれとして二度とあの森には戻れない気がするわ」

 

「だろうなぁ……」

 

「ま、移動の方の解決もしたし心配しなくて良いぜ。鍋の馬鹿が《調教》のスキル取得して野生の魔猪をテイムしたからな。それに乗って爆走してるぜ。木々を薙ぎ倒して進む魔猪は楽しいぞお!」

 

「もう二度とあの国の土踏めねぇなぁ……」

 

「いらっしゃいませー」

 

「2人、禁煙で」

 

 店内に入ると焼ける肉の良い匂いで充満している。今夜は特に成功も失敗もなかったし、ほどほどに普通の晩御飯を食べようかなぁ、と思ったがこんな匂いを嗅いではもはや肉以外では満足は出来ない! 今夜は肉! 肉で決定! 良し、食うぞ、食うぞ!

 

 店内を店員に案内され、テーブルに相対するように座り込み、上着を脱いで椅子に腰かけながらメニューを取り出す。

 

「肉!」

 

「肉!」

 

 パーフェクトコミュニケーション。あ、お酒は当然ながら禁止で。バイクに乗ってきたのに酒なんて飲めるかよ。それはそれとして、何か美味しそうなものは飲みたい―――あ、ノンアルのカクテルあるじゃーん。

 

 適当に肉と肉と肉と肉に野菜と肉を頼む。

 

「待てエージ、牛も鶏も豚も羊も草を食って生きてる。つまりこれは実質的に野菜だ」

 

「天才では? 良し、野菜(肉)追加だな……!」

 

「そうだそうだ、もっと食うぞ!」

 

 こうやって騒いで食べていると、また皆で集まって騒ぎたいなぁ、という欲が出てくる。

 

 ワールド・ファースト、取得したら祭りだろうしその時打ち上げとしてどこかを貸し切りにして盛大にやるのも悪くはない。

 

 そんな、1日の終わりだった。




 リアルでの出来事は大事ではないけれど、同時に絶対に存在する必要不可欠な存在でもある。我々がMMOを遊ぶのはリアルあっての物であるのを絶対に忘れてはならない。

 真の仲間。
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