あの後解散して帰ってきたが、結構夜遅くまで盛り上がっていたのもあって、朝起きると少し頭がだるい。とはいえ、この感覚もログインしてしまえば消える。脳の働き、パフォーマンスに関しては色々とあるからなるべく最高のスペックで保つための努力はしたいのだが。とはいえ、昨晩はマジで楽しかったからしゃーなし、と諦める。
そんな訳でいつも通り朝の諸々を終わらせてから普段よりもちょっと遅めにログインする。
宣伝!
告知!
ログボ回収!
ログイン直後のスワイプ操作を終わらせて目の前の景色をすっきりさせれば、前回ログアウトした場所である王城内の自室に出てくる―――いや、実際には客室なんだが自室と言ってしまうのは完全にここに住み着いているからだ。だってそうじゃん、完全にここに住み着いているじゃん? だったらもう俺の部屋じゃんこれ。という訳でここは自室でファイナルアンサー。
そしてログインすれば今日は既にニーズヘッグの姿がそこにはあった。片手をあげて挨拶をすれば、
「おはよう、ニグ」
「おはようボス。今日はどうするー?」
「どうすっかなぁー。まだ鍋達がこっちつかないみたいだしなぁ」
どうやら一晩で機嫌と調子を復活させたらしく、何時も通りのニーズヘッグに戻っていた。うん、このニーズヘッグが一緒に居やすいし変な空気になっても困る。この調子が良いんだ、これが。という訳で普段の雰囲気に戻ったことにほっとしつつ、何をしたもんか、と思っているとドアにノックがあった。
「おはようございますアイン様、ニーズヘッグ様、そろそろいらっしゃる頃かと思いましたが……」
「はーい、おはようございます」
「おはようシャーリィ」
「失礼します」
ドアを開けたシャーリィがティーセットを持ってきた。朝からこういう贅沢が出来るのがゲーム内ファンタジー世界の良い所だ。ちょっと気分を高揚させながらテーブルに座ると、ニーズヘッグが対面側に座り込み、朝のティータイムを始める為に静かにシャーリィが紅茶を淹れる姿を眺めた。偶には特に騒ぐ事もなく、ゆっくり静かに紅茶が淹れられるのを眺め、それを口へと運んだ。
……やっぱり、美味しいには美味しいけど細かい味まで解らないなあ。そういうのがちょっと悲しい。まぁ、梅☆と一緒に肉食って酒飲んで肉食いながらがっはっは笑うタイプだからしゃーないと言えばしゃーないのだが。
それはともあれ、こういう朝もだいぶ落ち着いて悪くはない。
「アイン様、ニーズヘッグ様、宜しいでしょうか?」
「ん?」
紅茶を飲んでひと段落した所で、シャーリィから切り込んできた。割と受け身な侍女としては珍しい行動に驚いたが、思えば彼女の雇用主は王城だ。となると王城の方から何か、用事があるのだろうと直ぐに気づく。
「実は是非ともアイン様、ニーズヘッグ様と会いたいと申しているお方がおりまして。もし、都合が宜しければ……」
そう言うシャーリィの言葉の色に、結構偉い人から頼まれてるな、これ、というのを気づかされ、頭を頷かせた。
「あぁ、大丈夫です。今日はまだ特に予定もなかったんで」
「ありがとうございます。では私は伝えてきますので」
「お疲れ様です」
シャーリィ、結構上位のメイドさんっぽいけど、結構色々と裏では大変そうだよなぁ。改めて俺達に付けててもいいような人材なのかどうか怪しい所だ。そう思いながらも仕事であっても一切汗を流す事なく、疲れた様子を見せる事もなく侍女としての責務を遂行するシャーリィの背中姿は、ちょっと格好良いなぁ、と思う部分があった。
紅茶を飲み終える頃には相手の準備も整ったらしく、シャーリィに案内されて王城内を行くのだが―――案内される先は前にも来た事のある場所だ。そして普通の人間であれば絶対に足を踏み入れることが出来ない場所でもあった。
つまり、王族たちの私室、自室のあるエリアだ。王城内でも最も警備が厳しく、そして監視され、室内でのみ個人としてふるまう事が許される場所。そこへとシャーリィに案内されるように向かっていた。もうこの時点で、誰に会いに行くのかは理解していた。途中、視線をニーズヘッグの方へと向ければニーズヘッグが首を傾げながらはにかむ笑みで答えてきた。あ、駄目だこいつ何もわかってねぇ。
早く頭脳労働担当こっち側に来てくれねぇかなぁ! と思いながら歩いていれば、前にも来た事のあるアークの私室前にまで到着してしまった。だが今日に関しては、普段よりも多めの気配を扉の向こう側から感じられる。
「失礼します、シャーリィです。アイン様とニーズヘッグ様をお連れしました」
「おー、来たか来たか! 中に入って良いぞー」
「兄上!」
「どうせ聞いてるやつは解ってるやつばかりだから肩肘張らなくていいぜアーク」
うっわ。
……うっわぁ。
シャーリィに視線を送ると”せやで”という感じの顔が返ってきた。アビサルドラゴンの討伐から2日が経過したし大体予想していたがこういうタイプかぁ、と心の中で呟きながらシャーリィの開けた扉を抜け、中に入る。そこにいたのはアークとセワスチアンの姿、そしてそれに並ぶように座る金髪長髪の男だ。ガタイが梅☆―――いや、リアルのマイケル並みに良く、かなり鍛えこんでいる肉体なのが解る。爽やかな笑みを浮かべた男の姿は万人が好印象を抱くだろう。きっと彼が、
「アインとニーズヘッグつったか、お前らのおかげでこうやって俺も戻ってこれた。本当にありがとよ! 俺はパーシヴァル、よろしくな」
座っていたパーシヴァル殿下は立ち上がると一瞬で接近し、此方の両手を取るとそれを勢いよく振り、次のニーズヘッグの手を取り、それを振る。そしてそこで一旦動きを停止させ、ニーズヘッグの姿を見つめた。
「あんた……」
「なにかしら」
「―――美人で胸がでけぇな。どうだ、ちょっと俺の愛人に……」
「ふんっ!」
「おぶっ」
迷う事無くニーズヘッグと同時にパーシヴァルの顔面に拳を叩き込んだ。
空中で1回転してから崩れ落ちたパーシヴァルの姿を確認して物凄い達成感に駆られるが、これ、完全にやっちまった奴じゃん? と冷静に頭の中のフィエルが教えてくれた。
フィエル『おめでとうございます! 称号ゲットですよ!』
本物のフィエルからは祝福されてしまった。脳内フィエルの精度甘くない? もうちょっとインプット増やして精度上げておくわ。いや、そういう事じゃねぇだろ! アウトだろ! 完全にアウトじゃん! これ終わったでしょ!
称号! 〈平等の拳〉に変えとくな! 配信してなかったのが残念だなぁ!
「あ、あの、アイン……?」
「見てよアーク君! あの窓ぶち抜いて飛び降りたら苦しみながら死ねるかなぁ!?」
「お、落ち着いてください! パーシヴァル兄上がコレなのは割といつもの事なので! 割と見慣れた光景なので! 既に王城のメイドの大半に顔面殴られた後ですから! シャーリィなんて5回は殴ってますよ!?」
「殿下、それは言う必要がなかったと思うのですが」
直ぐ近くで控えているシャーリィの姿にアークがぴぃ、と声を零し、セワスチアンがこほん、と咳ばらいをしながら場を一瞬で掌握する。
「まぁ、なんと言いましょうか―――えぇ、大変気さくなお方なのですよ、パーシヴァル様は」
「え、えぇ……」
軽く引きながら下へと視線を向ければ、そこにサムズアップを浮かべたパーシヴァルの姿が見える。……うん、まぁ、顔は良いし良く鍛えているのも解ったし、かなりとっつきやすいのも解ったよ?
だけど変人変態なのはPCだけで十分なんだ。
誰がNPCにまで奇人を増やせつった。
変な奴らばっかり増えて行くこんな世の中。