断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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海へ Ⅲ

 ポート・エルに到着して馬車から降りた。

 

「パーシヴァル殿下は既に港の方で待っておりますので」

 

「ありがとう。すぐ行くよ」

 

 観光したいのは事実だったが―――それでも先に終わらせるべきことを終わらせてからの方が良いだろう、それは。

 

 という訳でついにポート・エルを拝むことが出来るようになった。

 

 街道側が一番高くなっているこのポートは、港へと近づくにつれてなだらかに街の高さが下がって行き、港の部分が一番低く、海に面するようになっている。つまり街道側が高地になっているのだ。コレ、王国側から荷物を運びこむのは楽だけど港から出すのが重さ次第じゃ大変そうだなぁ、なんて思ってしまう。建築は―――どっちかというとヨーロッパ・イタリア系だろうか? デザインなんかがちょっとおしゃれな感じはする。何よりも空気に感じる潮の匂いが素晴らしい。これぞまさに海! って感じがする。

 

「あー、長い間海に行ってなかったなぁ……」

 

 背筋を伸ばしながら放つ言葉を土鍋が拾った。

 

「最後に行ったのは男4人で沖縄だっけ?」

 

「あの時は楽しかったな」

 

「私は楽しくなかったわ」

 

 1人だけ諸事情あって放置されていたニーズヘッグは過去の話を持ち出されて頬を膨らませていた。あの時はニーズヘッグだけは参加できない事情があって、その結果残された俺達4人だけで沖縄に行ったんだが―――まぁ、なんというか男4人だと割と滅茶苦茶やるというか、馬鹿やるというか。滅茶苦茶楽しかったなぁ、というのが本音だ。でも、もうビーチで直射日光耐久レースとかやらんぞ。背中が火傷したじゃんアレ。

 

 ニーズヘッグの膨らんだ頬を指で突っつきつつ、良し、と音頭を取る。

 

「パーシヴァルたちが待っているだろうし……というか既に準備整えて待っているだろうからさっさと行くか」

 

「ほいほい」

 

「船か……楽しみだなぁ」

 

 色々と見て回りたいものはあるが―――なんというか、ポート・エルは全体的に復興中という感じの様子だった。周りを見てみると多くの人たちが忙しそうに街を上へ下へと向かって走りながら移動していた。中には魔法を使ってホバリングする姿もあるが、大半は何らかの動物か生き物を使って荷物を運ばせたりしてそれを先導している。どうやらこちらはガラドアよりも被害が大きかったらしい。崩れている建物はあまり見えないが、それでも修復作業や仕入れ、店舗の再開などを求めて多くの人々が本来の形を取り戻そうと努力していた。

 

 正直、こういう景色は嫌いじゃない。改めてポート・エルが本格稼働した時にまた観光させて貰おうと考え、港まで下りて行く。

 

 止められる理由もないので、あっさりと港まで下りることが出来た。そこまで行くと準備の出来ている船と出来てない船がどれかを判別しなきゃならないのだが―――ぶっちゃけ、ちゃんと稼働できる船とできない船は一目瞭然なので迷う事もなかった。明らかに王国の兵が集まっているところに行けば良いのだから。

 

 そういう事で、迷う事無く王国の保有する大型船へと到着するが、

 

「ほほう、こいつぁ見事なガレオン船だな」

 

 アレキサンダーが顎に手を当てながらそんな事を言った。

 

「ガレオン船?」

 

「おいおい、中世ファンタジーの基本だぜ。良く漫画とかアニメで出てくる、大砲積んだ船の事だよ。大きな帆が特徴の」

 

「へぇ」

 

 そういやそんな名前だったなぁ、と思い出す。だけどそうか、王国が保有する軍艦なのか、と搭載されている大砲などを見て理解する。完全に戦う為の船だからそういう武装が搭載されているのも当然なのだろう。うーん、ちょっとだけ撃ち出されるのが見たいなぁ、と思いながら桟橋にまで進めば、王国の兵が此方を見つける。

 

「アイン様、お待ちしておりました。殿下は既に乗船してお待ちです」

 

「了解。ちゃっちゃと乗っちまおうぜ」

 

 うーい、等のやる気のない返事とやる気のある返事が入り混じった声を聴きながらそのままエルディアの軍艦に乗船。乗って直ぐの所では腕を組んで笑みを浮かべるパーシヴァルの姿があり、此方に気づくと腕を振るってくる。大体の雰囲気と性格から何をしようとしているのかを読み、こっちもその動きに合わせて手を掴み、握手を強くかわした。

 

「良く来たアイン。お前なら直ぐに来てくれると思ってたぜ」

 

「俺はお前の物事を動かす速さに驚かされてたけどな」

 

「なぁに、こっちにも色々と事情があるのさ。乗りかかったのなら付き合ってくれ」

 

「ま、今回はきっちりやらせてもらうよ」

 

「次回は?」

 

 視線を背後の略剣へと向ければ、略剣がお得意の眼鏡キラーンを放った。

 

「そこはほら、誠意次第って事です」

 

「うーん、このあからさまに一線を引いておく感じ、厄介な奴が来たなぁ……」

 

 パーシヴァルが首を悩ませながらあぁ、そうだ、と声を零す。

 

「こっからジュエルコーストまでは1日ある。2人1部屋で場所取ってあるから、休む時はそっちで休んでくれ。今案内させるから―――おーい! 誰か! アイン達を案内してやってくれ! んで出航だ出航! のろのろしてるんじゃねーぞー!」

 

「俺は……いや、ちょっと面白そうだし出航の様子眺めるわ」

 

「あ、俺も俺も」

 

「俺も興味あるし残ろうかな」

 

「んじゃ、こっちで部屋見てくるな」

 

「部屋確保しておくわね」

 

 ……なんか嫌な予感を感じつつも、船室の方へと向かう略剣達を見送り、俺、アレキサンダー、ゼドと土鍋でこの場に残る。ニーズヘッグだけ仲間外れだが、同年代男子グループがここに結成された。出航する船員たちの邪魔にならないように体を端に寄せて周りに何もない事を確認してから近くの欄干によりかかり、全体の動きを見る事にした。

 

 錨を上げ、船員たちが配置につき、ゆっくりと船が動き出し始める。忙しく右へ左へと甲板を走る船員たちの姿を見ていると、この時代の航海というものは現代と比べ、相当大変なものだったんだなぁ、というのを改めて感じられる。

 

 大海原へと発進する船は徐々に、徐々に港から離れて行く。時間が経つごとに少しずつ陸地は小さくなって行き、見えなくなって行く。さっきまでは直ぐ近くにあった港も今では米粒ほどの大きさとなって、帆は風を受けて大きく速度を出すように海の上を滑って行く。いや、良く見ればこの帆は常に風を受けて進んでいる。恐らくは魔法を使っているのか、何らかのアーティファクトで常に進む方角へと向けて風を発生させているのかもしれない。少し不思議な船出をこうやって、経験している。

 

「海かぁ」

 

 沖縄のそれとは、まったく違うなぁ、と思う。

 

「海って……ちょっと怖いよね」

 

 ゼドの言葉に小さく頷く。陸地から離れて完全に海水だけに囲まれた状態になると、右も左も、どっちが正しいのか解らなくなってしまう。そう考えると海に出るのって凄く怖いよな、と思う。俺だったらこんな環境にスマホもなしに数ヶ月もいるのは無理だ。そう、数ヶ月という単位を船の上で昔の人たちは過ごしたんだ。改めてやべぇなぁ、って思う。

 

 パーシヴァルに軽く視線を向けると船員たちに指示を出して忙しそうにしてるのが見える。どうやら船長としての仕事もこなせるらしい。やっぱりあの軽薄さとは裏腹に相当なエリートらしい。王族という立場なのに良く頑張るなぁ、と思いつつ、

 

 欄干によりかかりながら潮風を顔に浴びて目を閉じる。心地よい海の風を感じながらこれからの優雅な海の旅に思いを馳せようとして、

 

「あ、サメじゃん」

 

 とか言いながら土鍋が海に飛び込んだ。

 

 どうして? どうしてまともに旅を始めさせてくれないの?

 

 どうして?




 Q.海と言ったら?

 A.サメ。
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