「でーけた」
完成させた魔法を夜空に放つ。鷹狩に使う鷹をモデルに構築された火の鳥の魔法だ。ストック制、複数同時発動可能、威力はそこそこ。出が早く使いやすく事前にストックさせておけば一気に威力を叩き込む事の出来る魔法として生み出した。その名もその通り〈ファイアバード〉だ。完成された魔法は発動すると自分の周囲をぐるり、と回りながら羽ばたいて夜空へと飛び出す―――無論、完全にその動きをコントロールしているのは俺だ。魔法の特性としてコントロールできるようにしているからだ。
それがアビサルドラゴン戦で手に入れた、
アビサルドラゴン戦のMVP報酬の中には、魔法エディット用のパーツがいくつか混じっていたのだ。他の入手法がどうだったのかは解らないが、生物の様に動かせる魔法、コントロールする事の出来る魔法を構築する等のパーツを入手する事が出来たのだ。無論、手に入れたのは俺だけではないだろう。だがこうやって作成し、運用するのは俺が初めてだ。スクショと動画を取りつつ、それをツブヤイッターで流す。
タイトルは”真面目に作った魔法”、だ。
「ギミック付きの魔法を作るのも楽しそうだなぁ」
飛んで行った火の鳥を呼び寄せながら片腕を差し出せば、その上にゆっくりと着地する。触れても火の感触しかしないのが悲しい―――ただし、ダメージも熱も感じない。暇な間にずっと《結界術》のスキルを連打していれば何時の間にかレベルが5に上がり、〈識別結界〉を習得した事で作成する魔法にフレンドリーファイアに関する設定を追加する事が出来るようになった。
これによって大規模な魔法を使っても味方を巻き込むことがなく、遠慮なくどかんどかん魔法を放つ事が出来る。その派手さはジュエルコーストに到着した時に実行するとして、今は魔法エディットで色々と作成する事の楽しさを覚えていた。
火の鳥を腕の上から空へと向かって放ちながら、更に新しく火の鳥を生み出し、それを放つ。合計5羽の火の鳥を生みだしたらそれを船の周囲を守る様に飛ばし、夜の闇の中に浮かびあがる神秘的な姿として浮かばせる。
「悪くない。次は綺麗系のでも作ってみるかー?」
んー、そうだな。次は〈煉獄蝶〉みたいな感じのを作ってみるか? エフェクトが自作できるという事は拘れば拘るだけ魔法のエフェクトにリアリティと美しさを求めることが出来る、という事だ。自慢じゃないがここら辺のスキルに関してはちょっと自信がある。だから割とこの作成作業を今、楽しんでいる。とりあえず戦闘用の魔法を作ったし、それ以外の部分もちょっと頑張ってみるか? 見栄えの良いエフェクト専用とか良いんじゃないか……?
「おー、ツブヤイッターの反響も良いな。作成代理か。まぁ、そういうのもありなのか……?」
カスタマイズ、作成された魔法は取引可能らしいし。それを考えたら代理作成がビジネスとして始まりそうな気もする。そうするとリアルで絵師に仕事を依頼するみたいに魔法作成の依頼が始まるのだろうか? それはそれでちょっと楽しそうだな。宣伝用の魔法もいくつか作っておくか。
そんな事を考えながら時属性を選択し、それを使って半透明の蝶を指で描き始める。半透明の時間のエフェクトを使って、数字と粒子で編まれた蝶のデザインを構築する。んー、煉獄って感じじゃねぇなこれ。時から火属性に変えてエフェクトを赤くしよう。火の粉を纏う蝶とかどうだ? 周りで飛んでいるだけで化け物が現れたみたいに見えない?
「おっと、こんなところにいたか」
「ん? あ、神空烈滅王神究極超越極絶魔王・剣じゃん」
「一息で言い切りやがったなお前?」
登場した略剣の姿に笑みを浮かべてにやり、とサムズアップを向けた。
なにせ、ここは甲板の上じゃなくて、マストの上なのだから。一番この船の様子が解り、そして辺りを見渡す事の出来る船の頂上。誰か監視に居なくて良いのかここ? とは思うが、魔法でそれが出来るのでマストの上に誰かがいる必要はないらしい。それにジャスティスフカヒレがジュエルコースト付近までは護衛してくれるようなので、海からの襲撃に関してもあまり心配する必要がなかった。
なんでまだいるの??
気づけば略剣の奴はマストを器用に両手で掴んで登ってきたようで、登り切るとマストに備えられた監視のためのスペースに潜り込んできた。映画とか海賊船で良く見るスペースなもんで、テンション上がってついつい入り込んでしまったんだが、静かで落ち着くもんだからここで作業してしまった。
「しっかし相変わらず器用にやるもんだなぁ、お前」
「そりゃあこれで食ってるからな。ある程度は自分で稼げないと自由にやれないしな」
「いや、十分だろ、十分。少なくともビジネスにすれば、しばらくはこれだけで今は食ってけるぜ。宣伝すりゃあ釣れるし、後は代理作成で金を取れば良いだけだ」
「リアルマネー?」
「ジャパニーズ円」
「金取れるかぁ……?」
「取れる取れる。VR産業は落ち着いてきたように見えて、またこれで一気に火が付いたからな。今ならゲーム内でのビジネスを使ってパイを食い放題だ」
「はーん……いや、そういう貪欲さがないと金にならないか」
「そういう事」
大人の考え方はためになるなぁ、と呟きながら蝶を作る。透明感を維持したまま造形する、というのは意外と難しい。だけど完全無害でエフェクト専用に作るなら、強さを度外視して維持とコストだけ考えて作れば良いんだよな。そうすればちょっと楽になるか……? なる……なるか? なるかもしれない。
で、と言葉を置いた。
「どうした?」
視線を略剣へと向ければいや、別に、と笑った。
「気になったから見に来ちゃ悪いか?」
「悪くはないけど用事もないのに、か」
「大人になると年下の事が気になってしょうがないって時があるんだよ」
「こんな歳になってまだ子ども扱いされるとは驚いたぜ」
「そういうもんだろ? 俺子持ちの親父だしな!」
眼鏡をかけたインテリ系の親父の癖に、がっはっはと笑う略剣の奴は身内の中では梅☆の奴と同じレベルで人生経験が豊富だ。なんと言ったって妻子持ちのパパなのだから、当然と言えば当然だ。しかも収入安定していて、ちゃんと家族サービスも出来ていて、不和の種が家庭内に存在しないってレベルでの完璧っぷり。お前本当に何もんだよ、って驚かされるが最近の連続ログインは家族に不満を募らせていないのか、ちょっとだけ不安になる。
略剣の家には、たまーに招待される。クリスマスの時とか寂しくしてないかー? って雑に身内ひっくるめて招待されて、それでクリスマスパーティーするとか。そういうレベルでバイタリティの高い家族で、めっちゃ良い人たちだ。まぁ、なんというかだからこそなんで知り合えたんだ?? って感じの話になってくるんだが。
その話は長くなるものなので、今は忘れておく。
ただ今は、この人が気の回る人だって事を解っていれば良い。
後馬鹿が出来る人。
というか身内グループは全員笑いながら馬鹿が実行出来る人しかいない。当然と言っちゃ当然なんだろうが。
「あぁ、そうだ。略剣、略剣」
「ん? なんだ?」
「そうだな……俺もそう思うよ……ありがとう」
「名前を略したからって会話まで略していいわけじゃないぞ??」
げらげら笑って、いや、と言葉を置く。
「スポンサー契約した所あるから、そっちのほうを宜しく頼む。俺だと色仕掛けで落ちそうになるから」
「お前さぁ……」
「俺は健全な男子なのぉ!」
「いや、そりゃあ解ってるけどさ。お前さっさとアキ……あぁ、いや、ニグ子とさぁ」
「そこは結構センシティブな話なのぉ! なんで俺ここにいると思うの?」
「ん? どうせ相部屋になってた上に下着姿で部屋にいたんだろ。んで欠片も集中できないから逃げるように外に出てきた、と」
「なんで解るんだよッッ!!」
「いやあ、おじさんは若い頃はそういうロマンスとかの経験をこなしてきたからなぁ」
笑いながら略剣は立ち上がると、マスト横のロープを掴む。どうやら此方の様子を見て満足したらしい。
「結婚は人生の墓場だなんて言われるけど、鍋の奴を見てみろ。アイツは彼女と楽しくやれてるだろ? アレを見て少しは安心してさっさとくっつけ」
「うるせー、うるせー。俺はまだ自由な独り身を楽しみてーんだよ」
ロープを掴んで下へと滑り落ちて行く略剣の姿を見送ってから軽く溜息を吐き、欄干に背を預けるように座り込みながら夜空を見上げる。話している間に完成させた〈煉獄蝶〉の魔法を使って数匹の赤く半透明な、紋様で構築された蝶を指先に生み出し、それを空へと放った。座り込んだまま、火の鳥と蝶が夜空を舞うのを眺める。
「あー……解ってるんだけどなぁ」
解ってるけど、それでもなー、逃げちゃう。向けられてくる感情がストレートなだけに、解ってしまう。鈍感を気取るつもりはないし、ああいう鈍感タイプの主人公ってケツの穴に爆竹を差し込んだ上で全裸で走らせたい気持ちで溢れる。俺は嫌いだよ、ああいう奴。でもなぁ、
理解しててスルーするって割と同レベルの行いなんだよなー。
「あー……どうしたもんか」
誰か、答えを教えてくれ。
「Shaaaaaaark……」
「お前には聞いてない」
夜の海を泳ぐサメに火の鳥を叩き込んで黙らせ今夜はもう落ちるか、と決めた。
明日はいよいよ、攻略だ。
略剣は良いパパだよ。家庭周りは完全無欠に見えて全裸で浜辺を疾走するぐらいの茶目っ気はある。