朝。
インしてログボを回収すれば既に全員揃っていた。やっぱりこのメンツの中で一番ログインが遅いのは俺らしい。まぁ、他は実家住みだったり、誰かと同棲だったりで基本的に誰かの助けを得ているから当然と言えば当然かもしれないのだが。ともあれ、船の中でログアウトし、見事再び船の上でログインする事に成功した。ログアウトしている間にフィエルが嫌がらせで船から落とす―――なんて事はなかった。
『そんな事しませんよ!』
ほんとぉ? と首を傾げつつ甲板で身内&ゲストと合流する。
目覚め迎える新たな朝は蒼く―――は、ない。
既にだいぶ断絶まで近づいているのか、空は段々と暗くなり、空の色が黒く染まり始めていた。この先に断絶があるというのが解る空の色だ。既に集まっている皆に合流しつつ片手をあげて挨拶をする。そこにはパーシヴァルの姿もある。
「よお、アイン。稀人は休むために世界から姿を消すって話だったけどマジだったんだ。昨晩から明朝にかけて姿が完全に消えるもんだからびっくりしたぜ」
「まぁ、俺達の意識だけがこっちに来ているみたいなもんだからな」
「成程なぁ」
そう言ってパーシヴァルがつんつん、と指先で此方の頬を突いてくる。実在するかどうかを確かめているような手つきに呆れの溜息を吐きつつも、実際、異世界からやってきたヒーローって形はかなり驚かされる存在だよなぁ、とリアクションに関して納得する。いや、ちげぇわ。直接会ったの少し前じゃん! リアクション出てくるの遅いだろお前!
肩を揺らし呆れのポーズを取ってから海の方へ。船が向かう方角を軽く欄干から乗り出す形で確認する。先へと進めば進むほど空が暗くなって行き、そしてその果てには陸地の姿も見える。だが近づくには断絶の中に突っ込む必要があり、その中に突っ込めばこの船が動けなくなってしまう。
「んー、今いる位置が大体ぎりぎり、って所か。こっから近づくには小舟を利用するかなんか手段がないと駄目だが……どうだ?」
パーシヴァルが顎を擦りながらそう呟き、確認するように視線を向けてくる。さて、どうしたもんか、と視線を先へと向け、陸地へと向ける。コースト本土の方は更に濃い黒の中にとらわれているようにさえ見えるのだが、この場合、普通に近づいただけではダメなようも気がする。
「アレじゃねぇかこれ? ほら、ボスがガラドア解放した時と一緒の奴」
土鍋の言葉にああ、と呟きながら振り返る。
「フィエル?」
『……むー』
弄られたのを根に思っているのか、頬を膨らませてむくれているフィエルの姿をホロウィンドウの中に見つけた。その姿を確認し、首を傾げてから頷く。
「は? 職務放棄か?? どうやらGMコールが必要なようだな……」
『なんで私が脅迫されてるんですかこれ!?』
「良いだろそんな細かい事は別に! ほら! 仕事だぞ!」
ホロウィンドウに手を突っ込んで、フィエルの顔面を掴むとそのままホロウィンドウから引っ張り出す―――引っ張り出せちゃった? 引っ張り出せていいの!? まぁ、出来たならそれでいいな!
という訳で引っこ抜いてフィエルを甲板にべしゃり、と投げ捨てた。その様子をパーシヴァルは腕を組みながら眺め、空を見上げた。
「―――どうにかならないかなぁ―――!」
「見なかったフリをしてくれてるぞ!!」
「結構優しいな!」
「誰だってあんな姿を見たくないもんな……」
甲板に転がってからしばらく無言の抗議を上げるフィエルを無視して、配信画面とツブヤイッターを開く。それを見たフィエルが急いで起き上がって身だしなみを整え始めたのを横目に、ツブヤイッターでこれから配信するぞ、と宣伝してから配信枠を取得する。まぁ、何時も通りの告知テロとゲリラ配信な訳だが。ツブヤイッターでも案の定叫ばれている。まぁ、それを無視して配信を開始する。
「船の上からおっす」
コメント『もうこれでいい気がしてきた』
コメント『こっちで適応すれば良いんだよ』
コメント『それな……うん?』
コメント『なんでぇ……?』
「おーし、そっちも集まってるみたいだな。エアポート攻略は進んでるか? それともう終わったか? どちらにせよ、こっちはこれからジュエルコースト攻略が始まる所だ」
後ろを親指で指させば、船の先端へと移動したフィエルが片手を掲げるように持ち上げ、それを横に振るった。それに反応するように光が走り、断絶の中を光の道が生まれた。その根元、つまり船の甲板の上には光の輪っかが生まれ、IDへの侵入の入り口が開かれた。近づいて触れてみればID突入用のウィンドウが出現する。
「あー、”宝砂楽園ジュエルコースト”って名称かな。これからこいつを攻略する。お疲れフィエル。もう帰って良いよ」
「私の扱い雑過ぎやしませんか最近……!?」
コメント『昨日言ってたやつやな?』
コメント『後ろに居るのが固定の人たちか』
コメント『固定と補充って話やな』
コメント『本当の実力がこれで見れるな!』
コメント『AIがPCの奴隷になってる……』
「なって!! ません!!」
ぷんぷん怒るフィエルを宥めつつ、IDに突入する前にちょっとだけ説明入れる。
「じゃあ突入する前にちょっとだけ紹介とか入れるな。こっちのイケメンがパーシヴァル殿下。愛人を募集してる」
「ん? これを通して他の稀人と話してるのか? おーい! おーい! この中にいるのかー?」
ホロウィンドウに顔のドアップが入る。イケメンのアップに一部の視聴者が瀕死になっているので、パーシヴァルを下がらせて顔面の圧力から解放する。
「そこの眼鏡が神空烈滅王神究極超越極絶魔王・剣でうちのタンク1号、2号がそっちのアレキサンダー。アレキサンダーは今回のミッションの為に補充した剣盾スタイルのタンクで、プレイの仕方がかなり安定してて安心できるタイプ。これが終わったら解散しちゃうけど、固定を探している人がいたら気にかけてあげて」
「お、おう、どうも!」
コメント『説明助かる』
コメント『ボスが安定タイプって言えるレベルかぁ』
コメント『固定じゃないん?』
「安定はするけど固定に入れるならもっとDPS欲しいかなぁ、ってのが凄い個人的な感想。だからって安定が悪いって訳じゃないから。んで次。ピュアヒーラーの土鍋と、バリアヒーラーの森壁君。ピュアとバリアでヒーラーのタイプ分けてあるのはオーバーヒールにならない為と、火力に集中しやすいように。タンヒラ2種構成は某ゲーからパクってる部分あるけど、8人編成でのこの組み合わせはかなり強いと思う……バリアヒーラーの強みは説明しなくても良いよな? 今回はオーソドックスな組み合わせの採用にしたぜ」
「最近女装に目覚めました宜しく!」
「森壁です、今回はバリアヒーラーを担当させて貰ってます、よろしくお願いします!」
コメント『なんか今おかしくなかった??』
コメント『一般性癖やろ』
コメント『せやな(コスセットを見つつ』
コメント『結局女装に行きつくんだよなぁ』
土鍋が女装に目覚めたのは初耳なんだが? まぁ、ええやろ。続いての自己紹介はDPS組だ。
「俺がキャスター担当でアイン。アレが物理メレーその1担当のニグ。ここは説明いらないよな?」
「今日も期待に応えるわよ」
ニーズヘッグがチェーンソーを肩に担いでサムズアップする。それを受けて配信画面もコメントで賑わっている。
コメント『見慣れたコンビだわな』
コメント『何時もの飼い主とペット』
コメント『早くくっつけ』
コメント『超人カップル』
コメント『結婚式に呼んでくれ』
振り返ると土鍋と略剣が配信画面に書き込んでいるのを目撃したので、容赦なく2人を海に蹴り落とす。ちゃんと沈んで死んでゆくのを確認してからキャプチャーの画面へと戻る。
「次、こっちのでかいマッチョが物理レンジ担当の梅☆。俺が魔法レンジ担当だから近接2、レンジ2で一応ウチは住み分けしてる。メレーの数を増やせば増やすほど敵の攻撃箇所の奪い合いになる問題を回避する為だな」
「Hey guys, I just wanted to say thank you for seeing our channel」
「日本語に言語戻せ。そしてこっちが今回の補充その3のゼド。近接DPSだけど《連携》特化とかいうちょっと面白い性能してる2枠目のメレー。個人的に面白い事してくるんじゃないかなぁ、って期待してる枠。これに限らないけど特化型とか変則ビルドは俺、嫌いじゃない」
「ゼドです。こういう風に固定グループに混じって何かやるってのは初めての経験だけど、力が及ぶ限り全力を尽くすつもりだから宜しく頼む」
コメント『DPSはバランス良く揃えてるんやな』
コメント『構成見せてくれるのは嬉しいな』
コメント『参考にしてくれるデータ見せてくれるのは助かるよな』
コメント『今回はこの8人か……大半が身内だし連携取りやすいか?』
配信画面をわきに退けて、軽く体を動かし、杖を引き抜いて自分の調子も良い事を確認する。他の皆の表情を確認し、それぞれが覚悟と準備を終えているのも確認し、頷きを返す。
「そんじゃ―――突入する前に本日の罰ゲームを発表する」
「えっ」
コメント『草』
コメント『いきなりそんな事する??』
コメント『唐突にバックスタッブするじゃん』
あぁ!? 戦犯探しが捗るだろ!?
という訳で。
「罰ゲームは皆に秘密にしているちょっとした秘密を暴露するって事で―――はい、土鍋」
「は? 俺から!? さっき暴露しただろ!?」
「アレはただの自爆よね」
せやな。
土鍋は腕を組みながら首を傾げると、うーん、と唸る。
「あっ、言うんですね……」
「割と日常的に身内でやってる事だからな」
ID侵入ポータルの前に立ち、全員の視線が土鍋に集中する。その中で土鍋が腕を組んだまま顔を上げた。
「あー、じゃあこの間全裸で料理してたんだけどさ」
「あるある」
「全裸で料理ならあるな」
で? と話の続きを促すと、
「いや、全裸で料理してたんだけどさ、そのあと全裸で飯食ってさ。家の中で全裸でいるのって癖になるじゃん? だからそのまま服を着るのを忘れててさ」
「うん」
「そのままコンビニまで行ったわ。近所の警察のおじさん、見慣れてるせいか挨拶してスルーするんだよなぁ……」
「はい、こういうレベルの話を罰ゲームで暴露する事になるんで。戦犯行為は止めような」
話の内容を聞いた補充3人の顔が一気に青くなった。そんじゃあ楽しく攻略しよっか!
死んだら1枚脱ぐルールでも可。