断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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宝砂楽園ジュエルコースト Ⅱ

 輝ける砂浜も今では黒く染まっている。まるでブラックダイヤが砕け散りばめられたような様子は、美しくも不吉という印象を脳髄に直接与える様な景色だった。

 

 楽園とさえ称される海は濁り、空は黒く染まり、そして浜辺には人の姿ではなく魔物の姿で溢れている。魔晶石を新たな宿にしたヤドカリ達が侵入者の気配に鋏を持ち上げて威嚇し始める。そしてその果てでは海を謎の影が警戒するように泳いでいる。

 

 リゾート地のホテル、その窓から割れて何かが飛び出し、

 

 ―――視界はムービーモードから本来の視点へと戻された。

 

 即座に略剣とアレキサンダーが前に出た。

 

「事前の打ち合わせ通りにメインアレキ、サブ略剣! 数が多いようなら2分割して対処、そうじゃない限りはサポに入る方向で! 森壁はバリアを戦闘前に張っておけば今は良い!」

 

「あいよ!」

 

「了解!」

 

「やるぞ!」

 

 事前に動きを相談していただけに動きはスムーズに始まる、アレキサンダーがトップに出て、そのすぐ横に略剣が入る―――流石年長者だけあって気遣いが出来る人なので、サポートに入るのが上手い。ポジションとしてサブタンクが一番輝くと思う。後はそこにメレーが追随し、そのあとにレンジが、つまり俺達が続く。俺は意図的に全体が俯瞰できるように後ろから走る様にしているし、それをカバーできるように横に梅☆がいる。

 

 ニーズヘッグの才能極振りっぷりを抜きにすれば、梅☆が近接戦におけるセンスが一番ずば抜けている。本人曰く、傭兵だから当然! だとか言っているが、絶対に俺は信じないぞ。ただそれはそれとして、移動を開始する集団に合わせて梅☆の肩を掴み、ベルトに片足を引っ掻けて体を持ち上げ、空いている片手で杖を握り、そのまま詠唱開始する。

 

 当然、足は動いていないし、歩いていない。だが梅☆が代わりに走ってくれているので、此方は動いたまま詠唱できる。

 

コメント『移動手段ズルすぎて草』

コメント『その発想はなかったわ』

コメント『普通はそうせんだろ!!』

コメント『いや、割と合理的じゃね?』

 

「俺はこれを真っ先に思いついたけどなー」

 

「体格が良いからできる事だな」

 

 ウィンクを送る梅☆に苦笑を零しながら詠唱とストックを完了させ、手を放して降りてから2本目の杖を抜く。体の周囲を煉獄蝶が舞う様に踊る。それを連れながら前方、桟橋から続く浜辺へと向かえば、そこに展開される10を超えるヤドカリ達が一気にヘイトを向けてくる。

 

「そーらっ!」

 

 シールドをアレキサンダーが投げ、それがピンボールの様にヤドカリ達の間で乱反射し、アレキサンダーの手元へと戻ってくる。その頃には一気にヘイトが稼がれ、ヘイトトップに一気に躍り出る。また同時にそれをサポートするように略剣が飛び込んで槍を回転させるように振るい、生み出した風の渦でヤドカリ達を一気に集めるように纏める。

 

「説明はいらないな?」

 

「勿論」

 

「任せてくれ」

 

「チャンスタイム到来!」

 

「ここでバリアを張って―――良し!」

 

 森壁がタンクにバリアを張った。それと同時にタンク2人が耐える為に防御態勢に入り、集まったヤドカリ達が正面から殴りかかる。それを2人がバリア込みでノーダメージで受けて、その横へと回り込んだニーズヘッグがチェーンソーを、ゼドが双刃を引き抜いて範囲攻撃を放った。そこにが僅かに横へと体をずらした俺と梅☆が、タンクとメレー横の隙間から攻撃を差し込んで追撃する。梅☆は爆発する矢を叩き込み、俺も煉獄蝶を放つ。ヤドカリ達を炎上させながら、自分に火バフを付与して範囲用の火魔法を放つ。

 

「さあ、本邦初公開。燃え尽きて砕け散れ〈フレアメテオ〉」

 

 空から打ち付けるように人ほどの大きさの炎の隕石が複数降り注ぎ、ヤドカリ達とその周辺の大地へと向かって連続で叩きつけ、爆破炎上しながら飲み込む。その1発を放つだけでMPは100%から0%へと落ちる。当然だ。この魔法は威力600とかいう狂った性能をしている代わりに、最低でも詠唱するのにMPが10%残っていないと使えず、そして詠唱すると現在の保有MPを全て消費しきるという魔法だからだ。

 

 だが、ここで〈リバース〉を詠唱すれば水タームに入ってMPヘイスト状態に入る。水フルゲージ状態であれば、1秒でMPが10%回復する。つまり水ターム10秒でMPが100%まで戻るという事になる。

 

「おぉ、派手だー」

 

「魔法って言うんだからこれぐらいはやってくれないと楽しくねぇよなぁ!」

 

 賞賛の声が楽しい。杖を掲げながら笑い声を零す。今の一撃でヤドカリ達のHPが一気に半分消し飛んだのを見て、ゼドが構えたのも見た。タイミングも丁度相談した通りの流れだ。良し、ちゃんと合わせられる。

 

「連!」

 

「撃!」

 

 お互いにこれから《連携》するぞ、という意思をこめてコール確認を行う。でもこの互いに呼び出し合ってタイミングを合わせるというの、最高に浪漫で溢れていて楽しい。

 

「〈夢幻絶氷撃〉ッ!」

 

 声を合わせて連携技名を口にする。此方が氷を生み出すように敵を氷結させ、閉じ込めたところへ刀による一閃、二閃、三閃が叩き込まれてから氷が吹き飛ぶ。エフェクトもダメージもまさにド派手と言えるもの。だがその派手さは、MMOの技や魔法と言えば派手なのが普通なのだから、これぐらいやって漸くネトゲらしいとも言える。

 

 だから今の連携と大技のラッシュで一気にヤドカリ集団のHPを吹っ飛ばし、口笛を吹いて笑い声をかっ飛ばしながら〈リバース〉で火タームに戻す。煉獄蝶を再び呼び出して火バフを付与できるように待機させる。

 

 ヤドカリが倒れればすぐに前へと向かって進む。雑魚の殲滅が終われば即座に走り出してしまうのはネトゲあるあるである。本来であれば休憩、見直し、次の戦闘の準備、そういうものも必要になってくるかもしれない。

 

 だがこのパーティーにおいてそれらの様子は必要なかった。完全に分割されたロール、そしてきっちりと相談された連携と役割。それによって完全に自分の作業に集中することで全体の動きを作り、他の事を気にせずに戦えるように構築しているのだ。

 

 そんじょそこらの野良とは訳が違う。

 

コメント『接敵から殲滅までの速度やべぇな』

コメント『タゲ取り、纏め、そして範囲を押し込むスピードが速い』

コメント『ポジション取りに迷いもないな』

コメント『なるほどなー、これが固定の強さかぁ』

 

「おーい、前のお二人さん! この火力ペースだとちょっとオーバーキルだからもっと纏めて良いぞ!」

 

「殲滅早すぎてバリア1回しか張れてないんで余裕でーす!」

 

「オッケー」

 

「了解した。次は2グループ纏めようか」

 

「了解!」

 

 タンヒラで今の殲滅速度を前提に、戦闘ペースと規模を調整する。その流れを最後尾から確認しつつ良し、と頷く。やっぱりパーティーバランスはこれで最適だったな、と納得する。そうしている間に次のヤドカリグループが出現した。

 

 だがそれだけではなく、海の方から魚が飛び出してきた。陸の上を泳ぐ様に浮かぶ魚達は真っ先にヘイトリアクションで略剣とアレキサンダーをターゲットし、最初のグループのヘイトをアレキサンダーが取った。

 

「〈ガーディアン〉、〈ホーリーガード〉」

 

「〈プロテクション〉、〈エクストラガード〉」

 

 防御バフとバリアを重ねる事で2グループ目が纏まるまでの被弾を削る。その上でアレキサンダーに代わり、略剣が前に出る。2グループ目の受け持ちを略剣が行う為だ。スピードを上げるように走って、先に前のグループをアクティブにし、ヘイトリアクションで一気に釣りだす。ブーメランのように投擲された槍が薙ぎ倒してヘイトを更に稼ぎ、1グループ目と合流するように引き寄せる。

 

「うおー! 流石にこの数はいってぇ―――!」

 

「はいはい、〈リジェネレイト〉、〈アースヒール〉、〈ライフマギカ〉」

 

「俺からも攻撃バフだ! 〈ストライクパワー〉」

 

 回復魔法、HP増強バフ、攻撃上昇バフを与えて殲滅速度と安定を増す為に一気に強化を施す。その上でやる事は先ほどと一緒。

 

 纏める。

 

 グループを範囲攻撃で狩れるように捉える。

 

 そして逃げられないように全員で同時攻撃、火力範囲を叩き込んで一気にそのHPを燃焼させる。ここでリソースをケチっていると、困るのはヒールの増えるヒーラーと防バフを切ってリキャストタイムを増やされてしまうタンクだ。なのでDDはさっさと倒す為に必要な火力スキルを切り、

 

 2グループを纏めて殲滅する。

 

 良し、と呟く。相手は多少レベルが上みたいだが―――このパーティーならまるで問題ない。

 

 フルパーティーでの戦闘は、予想を超えて安定していた。




 固定によるメリットって事前に動きを細部まで詰める事が出来るって所よね。おかげで連携が捗る捗る。
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