「―――良し、何もなかったな!」
「その引っ付いてるセミを引きはがしてから言え」
ワイプから復帰し、両腕で引っ付いてくるニーズヘッグをガン無視してそんな事を口にするが、やっぱり無理があったらしい。まぁ、俺もそう思う。なので5分だけ説得の時間をくれ、と手を出す。サムズアップを返されたので配信画面を放り捨て、ニーズヘッグを掴まれたまま引きずってちょっと離れた場所に行く。
「オーケイ、ニグ。真面目な話をしようか」
「良いわ。何を言っても私は揺るがないわよ」
「今度、デートするか。こっちじゃなくてリアルで」
「全て許すわ。私は全てを許したわ」
会話終了。サムズアップを皆の方向へと向けると、ニーズヘッグもサムズアップを向ける。肩を組んでお互いの仲良しさを証明して完了。それを見た略剣が顔に手を当てる。それを見て梅☆が両手を広げ、土鍋がサムズアップを向けてくる。
「最初からそうしろ」
ごもっとも。
ワイプ―――つまり全滅してシーンをやり直すという事だ。
そしてこのゲーム、ワイプしてもIDは入口に戻されるだけで、別にエネミーが復活する訳ではない。今まで超えてきた所を走りぬければ、すぐに死んだ場所まで戻れるのだ。ただし、戦闘途中だった場合は戦闘の開始時まで状態が戻されるが。つまりMMOで良くある無限に蘇生して攻撃を繰り返して削り殺す、ゾンビアタック戦法を使わせないという意図が見える。
……まぁ、俺自身そんなつまんない方法でクリアしてもまるで面白いとは思えないし、正解だとは思う。
ともあれ、そうやってビーチからストリートへと戻り、戦闘を再開しながら進んで行く。流石に精鋭を揃えているだけに、1回ワイプした所で大した問題はない。即座に規定通りのスキル回しに戻って、エネミーグループを纏めては殲滅していく。だけどスキル回しなんてもんは練習すれば体に染みつくもんだ。何度か繰り返せば感覚を掴み、それを回しながら再び雑談を始めてしまう。
「これは軽い疑問なんですけど」
森壁がバリアを張りながら口を開いた。3グループをまとめた影響で、エネミー達を略剣とアレキサンダーが半分ずつ抱える事で対処し、DDはそれらを直線で捉える様に散開して範囲攻撃を連打している。俺は炎や氷を乱射し、ニーズヘッグはチェーンソーにオーラを纏わせて薙ぎ払う。ゼドは連撃でコンボ数と連携数を稼ぎながらそれで自己バフと他者バフを積んでは範囲焼きを重ね、梅☆は状況に合わせてバインド、DoT、範囲を使い分けながらサポートと妨害を組み合わせてダメージを重ねている。やり方が安定するとお互いに邪魔をしない方法などが解ってくるから、動きが少しずつ最適化されてくる。
でも結論から言うと《結界術》でFF回避を搭載するのが一番安定するんだよなー。何やら近接攻撃スキルも最終的には自己作成に入るらしいとの事。その事を考えればやっぱり《結界術》でFF回避を取得するべきでは?
それともメレー用にはそれを組み込むのは別スキルが必要なのか? まあ、そこらへんはメレーが悩んでくれるだろう。それはそれとして、合間で奇襲を仕掛けてくるエネミーの動きを察知して略剣とアレキサンダーに指示を出していると、森壁の疑問が来た。
「なんでアインさん、そんな事解るんですか?」
「解る、とは」
コメント『コールの事やろな』
コメント『運営の回しもんやろ(すっとぼけ』
コメント『ボス、良くギミック前にコールしてるじゃないですか』
「そうそう、それですそれです。初見で反応出来てるのおかしくないですか?」
「あー」
メテオを叩き込んで爆裂させてグループを壊滅させる。移動前にMPヘイスト状態に切り替えながら次のグループを求めて歩き出す。メインストリートは結構広く、長い。ビーチは10分も進めばボスと戦うだけの状況に持ち込めたが、ストリートの方はまだまだかかりそうだ。いや、感じからするとマーケットの方に突っ込むような感じもするか?
「まあ」
そこは、なんというか、言語化し辛い部分の一つなので困る。だからどうしたもんかなぁ、と歩きながら腕を組んで首を傾げる。その様子を見て横に土鍋が並び、肘を肩に乗せてくる。
「無理無理。そういうのを言語化するのは。アインの奴のコレはマジ異能とかそういう領分の才能だからな」
「そんな事ねぇと思うけどなぁ」
「じゃあオメーちょっと言語化してみろよ」
横から土鍋に詰られ、えー、と声を零しながら両手をろくろムーヴさせる。
「あー、まず最初に空気を読む」
「もう解らないですね……」
「えー、そんな事ないだろ? 目を見ればそれだけで大体ウソかホントかは解るし。言葉に乗る感情で大体考えている事は解るだろ? 後は体の揺れとか、気配とか、そこらへん見てれば大体何をしたいか、何を思っているのかってのは伝わるでしょ」
「何だこいつ」
森壁、迫真の真顔。アレキサンダーもゼドも、歩きながらこっちを見てマジか、と確かめてくる。それに対してインベントリから事前に持ち込んでおいた飴を取り出して口に放り込みつつ答える。
「マジマジ。考えている事とかやろうとしている事って、大体気配とか雰囲気に出てるから解るって奴だよ」
「解らないですよ??」
「解る解る。だからそれで予兆を読んで、感じて、それを口にしてるだけ。数秒先ぐらいなら、まあ、解るかなー、って感じ」
その言葉に森壁たちが全力で頭にはてなマークを浮かべて―――あ、いや実際にエモートとして浮かべやがっているなこいつら! 追加で出現するエネミーグループに安定したスキル回しをぶち込んで処理しながら、メインストリートからマーケットへと場所を移す。大量のテントの様な露店が開かれているそこは、本来であれば買い物と観光を求めた人たちで溢れる活気のある場所なのだろう。だが現在は出現しているエネミーたちによって大いに荒れ、本来であれば存在しない獣道が生まれていた。そこを戦場に、エネミーを誘い込んで一気に火力を叩き込み殲滅しつつ進む。
「だから言ったろ、アインのコレは才能とか異能とかそういうもんだって」
げらげらと笑いながら土鍋が攻撃を叩き込む―――ヒーラーだが、攻撃をしてはならないなんて事はない。寧ろヒールしていない間は暇なのだから、積極的に攻撃をするべきなのだ。それを理解しているから土鍋はヒールを極限まで削り、それ以外の時間を攻撃に回している。光弾を複数を浮かべると、それを放ってエネミーに叩きつけてダメージを稼いでいる。
「感受性が強い? 豊か? というか、無駄に他の人が感じられないもんをダイレクトに受け取れるんだよこいつ。その上で神経が図太いから損耗する事もないし、好き勝手才能を利用してるよこいつ」
「ひっでぇ言われようだなぁ、おい! 俺よりもお前とニグの方がスペック的に化け物だるぅぅぉ!?」
「こんな美少女を化け物だなんてひどいわね」
「そうだそうだ。俺なんてちょっと頭が良いだけだぞ」
「よう言うわこいつら……」
梅☆がやり取りに笑い声を零す。
「はっはっは。まぁ、ごらんのとおりウチの固定は基本的にそれぞれおかしな一芸を持っている連中だよ。面白いだろう?」
「今の話を聞いて魔境に見えてきましたよ、ここ」
魔境と言われても酷い。
俺は人よりちょっと読むのが得意で、ニーズヘッグは人よりも直感と体が強く、土鍋は人よりも頭がちょっと良い。梅☆は他の人よりもちょっと経験豊富で、略剣はたいていの奴を言葉で転がせる事が出来る。まあ、固有の技能を抱えているだけでそこまで凄いって訳じゃない。
ただ、このメンツで遊ぶのは楽しいんだ。
だから年齢もバラバラなのに、こうやって一緒に集まって遊んでいるんだ。
と、
「お、来るぞ」
「T前なー」
「了解」
空気に乗る僅かな敵を感じ、舌の上でそれを転がす。感じからしてボスだろう。マーケットの奥、立ち並ぶ屋台とテントを吹き飛ばしながら何かが奥からやってくる。地響きと音を立てながらやってくる姿は大きく、くねり、うねり、そしてざらっとした肌を兼ね備えた、
巨大なウミヘビだった。
登場したウミヘビは大きく体をくねらせるとその衝撃でマーケットをその場を中心に、周辺を薙ぎ払って円形の戦場を生み出し、威嚇するように牙を見せた。
2ボスの登場である。
全員なんらかの一芸を抱えている身内メンバー。割と真似できない物を互いに抱えている……というのは都合がよいのかもしれないけど、そういうメンバーと遊べたら素敵じゃない?