「そら、これで狙いやすくなっただろ!」
「うおー、うおー、ニグきーっく」
〈スロウ〉が叩き込まれ、ラージビートルに鈍足効果が付与された。それによって重くなったラージビートルの動きは攻撃に対応する為にゆっくりと重い体を引きずって旋回しようとするが、それよりも早く到達したニーズヘッグが接近し、足を昆虫の体の下に差し込まれるようにケリを放った―――それも空へと向かって。
ニーズヘッグの初期スキルビルドは《両手剣》、《戦士》、《怪力》、《健脚》、《頑強》の基礎とフレーバー盛り盛りのスタイル。《両手剣》で攻撃スキルを、《戦士》スキルでパッシブと挑発を、残りのスキルはフレーバー要素が強いものと基礎ステータスを補強する内容だ。《怪力》はSTRを、《健脚》はSPDを、そして《頑強》はVITとHPを盛る。だがそれだけではなく、《怪力》は戦闘中発生するノックバックや吹き飛ばし効果を更に強化してくれるし、《健脚》は移動速度と跳躍力の強化効果があり、《頑強》は防具のない箇所に対する肉体の強度を上げてくれる。ニーズヘッグはチェーンソーを手にした瞬間、ビルドを作り直して最大限にまでチェーンソーの力を発揮できるビルドに切り替えた結果、フィジカルモンスターという方向性に舵を切った。
その結果、ただの蹴りでラージビートルが空を飛ぶようになった。
普通の蹴りでは無理らしい。《健脚》と《怪力》でフレーバー要素盛り盛りにしているからこそできるアクションというのが、ニーズヘッグの予想だった。少なくとも俺が蹴りを入れて転がそうとしたら重すぎて無理だった。STR値が足りないのか、或いはパッシブ扱いされているスキルの効果が大きいのか。恐らくは後者なのだろうが、
できる事を増やすというスキル効果は、封殺を目指すマンチタイププレイヤーにとっては最強の武器でもある。
故にこんな恐ろしい戦い方が生まれた。相手に鈍足を付与して確実にとらえられる速度に落としたら、それをニーズヘッグが蹴り上げる。鈍足によって速度の低下したラージビートルではまともに反応する事も、吹き飛び中に空を飛ぶ事も出来ずに、空から落ちてくる。
「ぐさりっと」
そして落ちてくる姿の腹をめがけてチェーンソーを突き刺し、串刺し状態にする。こうなるともうどうしようもない。そのまま串刺し状態で地面に叩きつけて固定し、その姿に〈ファイアーボルト〉を放つ。避け様もクソもないので、当然の様に火の矢が命中し、それによってラージビートルのHPが吹っ飛ぶ。蹴り上げ串刺しと魔法の2回攻撃でどうやら丁度全損に追い込むだけのダメージが出せるようだった。
そしてラージビートルを何体か倒した所で、ふぁさー、と光るエフェクトが沸き上がりレベルアップの表示が出現した。
「俺様、れべるあーっぷ」
1回転してから軽く杖を掲げるポーズを決める。それをニーズヘッグが見ており、
「なにそれ」
「レベルアップの舞」
「舞」
「必要だろぉ!?」
「えぇー……そのセンスには同意できないかな」
えー、と声を零しながらレベルアップしたステータスを確認する。
Name:Eins
BLv.2
CLv.1
HP:120/120
MP:40/40
STR:12
VIT:11
DEX:12
INT:16(12)
MND:11
BSkill:■■■■■
CSkill:□□□□□
「おぉ、ステータス上がってるなぁ……レベルアップすると全回復して、HP20とMP10上昇か」
INTが16(12)表記なのは括弧内が素ステって事なんだろう。16は装備込みでの補正かな? 杖が1本目で+3、2本目が5分の1の小数点切り上げで1追加で合計4追加されている。初期ステが10だったのを考えると1レベルで上昇するステータス量は大体2か1で、武器で4追加されているという事は大体2レベル分の恩恵が装備の補正で付与されている。《二刀流》によって1レベル分の火力補強が行われていると考えると悪くはないな、と思う。
「あと防具を更新するとHP増えるみたいね。ベルトとカチューシャだけでHPが30増えてたし」
「ほぉ……って事は耐久力の向上には装備も更新した方が良さそうだな」
HPはどれだけ耐えられるか、という事の証明だ。防具が良い物になればそれだけHPが増えるのは防具が耐えているから、という事の証明だろうか? となると金属製の防具はHPの伸びが高そうだなぁ、と思う。そう言えばこのゲーム、DEFの表記を見ないよな、と思う。DEFの代わりにHPを盛るタイプのゲームなのかもしれない。
「えーと、ラージビートルさっきので何体だっけ?」
「5体目ね。私がレベルアップするのに狩った南部の街道エネミーは大体80匹かしら。それでほぼ1時間かかったし、レベルを上げると必要経験値は増えるものね……具体的な数値って見れないのかしら?」
「どうだろ……システムログって見れるのかこれ?」
メインメニュー開いたり、ログを呼び出してみる。だがどうやらシステム回りのログは出現してくれない様子だった。その代わりに会話ログの方は出す事が出来た。これはこれで割と便利だな、と思う。ただシステム面のログが見れないのでは、自分の出しているダメージの具体的数値や入ってくる経験値等を確認する事が出来ない。
「システムメニューちょっと確認してみるか」
「そうね、見れた方が楽だものね」
そこらへん設定で変えられないのかなぁ? と思いながらメニュー画面からシステムメニューへとアクセスする。今までは見てなかったが、結構色々と設定を弄る項目が存在する。例えば音量みたいな普通のMMOでありそうな項目の他にはフィルタリング機能も存在する。どうやら今見ている景色をアニメ風とかに変えられるらしい。本当に謎の技術を駆使するなぁ、と感心してしまう。そのほかにも年齢認証も存在してた。未成年は不可だが、成人していればゴア、流血表現の解禁を行えるらしい。
こっそりと残酷描写にチェックを入れ、年齢認証を行っておく。
これで、良し。
他にも細かい項目はいくつかあったが、その中に探していた項目があった。ただし、ダメージの数値化のみであった。経験値の獲得量やレベルアップまでの必要経験値に関しては表示されないのは仕様らしい。ちょっと困ったなぁ、とそれを見て思う。何せ取得経験値と必要経験値が把握できていないと、どのタイミングで狩場を移動すればいいのか、どれだけ相手を釣って処理すればいいのかが解らない。まぁ、実際に経験しながらレベルアップが遅く感じたら移動しろって話ではあるのだが。
そうすると微妙にスケジュールが組み辛いんだよな、と思う。
「まぁ、そこはしゃーないか。ダメージ確かめながら狩りつつ進もうか」
「おっけおっけ。まずはここのレベル帯に追いつく事かな」
まぁ、ラージビートルは完全に封殺できるコンボが出来上がっているし、そこまで困る相手じゃないよなぁ、とは思う。とりあえずぶっ殺せるだけ見つけてぶっ殺す事にする。システムメニューからの設定を完了したら再び街道に沿って歩き出し、見つかるラージビートルを片っ端からデストロイする。
レベルアップによって回復する事、そしてレベルアップによってMP最大値が増える影響でそこそこリソースを容赦なく使っても大丈夫な事が解った為、戦闘スピードを上げる事に成功する。
とりあえずは今まではラージビートルを1体1体処理していたが、レベルアップしたのでこの数を増やす事にした。〈ファイアーボルト〉では1体しか攻撃できないが、どうやら炎の魔法には炎上効果が存在するらしい。特に昆虫の体は燃やしやすいし、2体までだったら中間点辺りを狙って撃てば2体まとめて焼けるのでは? という判断だ。
という訳で釣りと纏めはニーズヘッグに任せる事にした。
《戦士》スキルは初期で〈挑発〉のアビリティを使用できる。これは単体を対象に使用できるアビリティであり、指定した敵からのヘイトを一気に自分へと向けるタンクジョブ向けのスキルだ。DPSとサブタンクを兼任するニーズヘッグにとっては重要なアビリティであり、それを使って距離のあるラージビートルを引き寄せ、そして近くにいるラージビートルを蹴り上げる。当然、襲い掛かってくるラージビートルをまずはチェーンソーでしっかりとガードし、
落ちてきて集まった所に〈スロウ〉を叩き込む。鈍足が付与され、2匹の昆虫の動きが遅くなるので、その姿を再び回り込んでニーズヘッグが蹴り上げる。
再びビートル・イン・ザ・スカイとなる。
落ちてくるところを〈ファイアーボルト〉で狙撃し、2匹同時に焼く。
「んー、直ヒットで50、巻き込まれで10か……2匹目に対するダメージが低いからやっぱ範囲攻撃がないと辛いかもな」
数字が見えるとどれぐらいダメージが通ってるのか解るから戦術の修正が可能で実に楽だ。リアリティは堕ちるかもしれないが、ゲーマーとしてはこっちのほうがはるかに助かる。
「わーっしょい」
魔法によって1匹死ぬが、もう1匹残る。それを再び空へとターンを与えないように蹴り上げて落ちてくる所を〈ファイアーボルト〉で狙撃し、その体を空中分解する。直ヒットで50、炎上ダメージで秒間2ダメージという数字が見えた。割と炎上ダメージしゃれにならないな、とその有用性を確かめた。
「うーん、まだ纏め狩りは速そうだな」
「私も〈挑発〉使わないと《戦士》が育たないのよね。だからなるべく早く纏めるのに連打したいんだけど」
「そこはスキル育つの待ってくれ。えーと……今ので7体か。後23体に魔法でトドメを刺せばスキルのレベル上がるから」
「地味に数が多い」
「そこはもうしゃーないやろ。簡単にレベル上げられちゃあコンテンツ追加が早すぎて次のパッチまで持たんぞ」
まぁ、でも現実的に見てそう重い数字ではないだろう。少なくともこの段階でかなりサクサクでやれている。相手も格上だから経験値もかなり美味しい。これなら5レベル辺りまでは結構簡単にレベルが上がりそうだなぁ、とは思わなくもない。
「うっし、次だ次。さっさと虫を殺して回るぞ」
「はいはい……だけど、こっちルートは推奨10ぐらいって話だけど、別にそうでもないわよね」
「まだ街の付近だからじゃないか? もっと奥に行くと敵の強さが一気に上がるのかもしれない」
「エリア移動したら変わる、って奴ね」
まだ街付近のエリア扱いだからレベル低めなのだろう。となると近いうちにここら辺で虫狩りしているプレイヤーも増えるんだろうなぁ、と思いながら街道を進み、目に付くラージビートルを抹殺する事にする。
その遠く、街道の奥へと視線を向ければその先には黒いオーロラが先を閉ざすように展開されているのが見える。かなり巨大だから近くに見えるようで、あそこに到達するまでは数時間単位での移動が必要そうだと、実際にダリルシュタットから離れて思った。
あそこまで行くのは思ってた以上に大変そうだが、
それはそれで楽しい―――難しければ難しい程、しかしクリアできる難しさというのは常にゲーマーの意欲を刺激するものなのだから。
ノンアクティブ相手には先制が取れる。それはつまりノーダメージで処理する為の封殺戦術が先手で取れるという事でもある。一方的に攻撃して叩きのめすのが一番楽だと良く言われてる。
ニグのビルドはそれはそれで結構楽しそう。アビリティで戦うんじゃなくて”たたかう”を連打するタイプ。