断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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”裏切り者”

 全滅から復帰するとフィールドの南橋に立っている状態で状況が再開された。フィールドの反対側にはトレイターの姿があり、結晶剣を浮かべた待機状態にある。恐らくは戦闘距離に入らない限りは、そして此方から話しかけない限りは戦闘もリアクションも発生する事はないだろう。全滅のペナルティは装備が多少削れる程度だが、これで数百回でも死なない限りは全く関係がないレベルの削れ具合だ。ともあれ、フィールドに復帰したのでバトルログを即座に呼び出して広げる。それを土鍋と一緒に覗き込む。

 

「やっぱ多段でダメージ発生してるわ。ボス、これ全体を対象とした単体範囲攻撃だぜ」

 

「つまり全体の戻しに集合して、そのまま受けたから全員が他の奴の攻撃受けて多段判定になって死んだわけか……」

 

「となると即座に散開だな……八方?」

 

「遠いしヒール範囲漏れる奴でるだろうし、こう散開するのが良いだろ」

 

 土鍋が新しくホロウィンドウを取り出すとそこに指で絵を描く。簡単に言ってしまうと”八”の字を描く様に散開しよう、という話だ。それが終わったら即座に集合して減ったHPを戻す作業に入りつつDDは全力で火力を出し続ける、との事だろう。土鍋の案に頷いて賛同を返し、説明を飛ばしてアレキサンダーにカウント準備をさせる。

 

「そんじゃカウント始めるぜ……15!」

 

 再び始まるカウントダウンに同じようにバフ、スキルを使用する。そして先ほど同様、火力のバーストでHPを削り始める。それに対するトレイターの行動も変わらない。フリーAIではなく、ある程度戦闘中の思考AIは固定化されているのかもなぁ、なんて事を考えながら、まず最初の全体攻撃を受ける。

 

 凄まじい勢いで削れるHPは軽減を複数差し込んで漸く耐えきれるレベルだ。漆黒の暴威から生存し、HPが急速充填されるのを自覚しながらレンジ組だけが先に八の字に広がる。それに合わせるように、トレイターが次のアクションのため結晶剣を空へと飛翔させ、空いた手元に新しく結晶剣を生み出す。それを薙ぎ払う様に振るい、砕け散らせては新しい物を生み出し、メインタンクであるアレキサンダーへと叩き込み続ける。ギミック中も攻撃は継続するらしい、何ともヒーラーが悲鳴を上げるタイプのエネミーだ。

 

「頑張れ、頑張れ土鍋♡」

 

「かけらも嬉しくねえええええ―――!」

 

「あ、ヒーリング流石に手伝いますね!」

 

「頼むわ! 追いつかねぇえええええタンク落ちるううううううああああああ」

 

「ここで防バフ炊くタイミングかぁ……」

 

 開幕から全体+全体という攻撃の嵐に既に状況は混沌を極めていた。だがよく考えるとコレ、開幕30秒の出来事なのでまだまだこの先にも攻撃が続く。開幕30秒のバーストで5%削ったのだから、このペースだと100%削り切るまで必要な時間は余裕で10分に届くだろう。ヤバイって領域の話じゃねぇ。絶対にMP枯渇するぞこれ。まじ? ポットでお腹たぽたぽにするしかないじゃんヒーラー。

 

 まぁ、俺らはDPS出し続けるだけなのだが。

 

「ならば、こういう趣向はどうだッ!」

 

 指のスナップと共に外周に結晶剣が出現し、手を合わせるようにトレイターが詠唱を開始した。結晶剣はそれぞれのプレイヤーを別個ターゲットするように切っ先を向けており、動き出すメレーに合わせてその切っ先を動かし、ゆっくりと近づいてゆく。少しずつ迫ってくるその姿にはホラーじみた迫力があり、絶対に回避する事は不可能である事を示している。このギミックの解法は土鍋に考えさせるとして、

 

「本体から全体来るぞ!」

 

「庇うなタンク共! 個別で受けろ! 見たいから時間を稼げ!」

 

「オーケイ!」

 

「〈詠唱消去〉! 落ちろ恒星……!」

 

 詠唱を破棄しながらMPを一旦全て吐き出し、MPヘイストへと移行する事で詠唱後と切り替えのクールタイムを利用して、回復タームの攻撃が出来ない時間に戦闘用の移動を行っておく。自分の剣が出現した反対側へと逃げ延び、剣が届くまで一番時間がかかる距離まで移動する。だがその時にトレイターの詠唱が完了し、

 

「ぐえっ」

 

「ぎゃっ」

 

「ぶえー」

 

「あ、無理」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 ダメージは少なくともHPの4割程度、タンクでなら1割程度で済むダメージだ。だが強制的にノックバックを発生させる一撃は問答無用で端まで寄っていた俺達を吹き飛ばし、外周に追いだした。それと同時に外周に展開された即死フィールドに触れて即死し、ノックバックの瞬間に突進アビリティを使ったアレキサンダー、ニーズヘッグ、ゼド、略剣以外が全滅した。ヒーラーが全滅した以上、もはや回復が行えなくなったので詰みだ。

 

「そのまま戦ってくれ、続きがみたい」

 

「了解」

 

 だが戦闘を続行する。戦闘の続きを確認する意味がある。だからレンジキャスターヒーラーが全滅した状態で戦闘が続行される。背面と前面に展開するように別れた状態、アレキサンダーが防御を優先するとして全面で盾を構えれば、

 

「―――審判は必然! 降りかかる試練を前に命は流れ行く! 抗うか、運命に!」

 

 結晶剣を束ね、5メートル級に大剣を生み出すと両手で握り、後ろへと大剣を引く様に力を込めた。詠唱時間は凡そ5秒ほどに思える。強撃、それもあのウミヘビとは比較にならない物が叩き込まれてくるのが一瞬で誰にでも察せる。アレキサンダーが残された防バフを切る。

 

「ッ、食いしばり切るぞ! 〈ラストリゾート〉ッ!」

 

 何を受けても絶対にHPを1残すという特級のアビリティ、それをアレキサンダーが本能的にやばさを感じ取って切り、

 

「砕け散れ! 〈パニッシュメント〉!」

 

 大剣をアレキサンダーに叩きつけた。ポーションを飲んで、そして死ぬ直前に土鍋が投げたHoTによって全快まで戻されていたアレキサンダーのHPがその1撃で軽減を込みにしても一瞬で1にまで叩き落とされた。凄まじい衝撃にアレキサンダーが膝をつき、剣を支えに倒れないように体をぎりぎりの境界で耐える。

 

「交代の時間だなっ!」

 

 そこにすかさず略剣が〈挑発〉してヘイトトップを奪う。アレキサンダーが即死しないように逃げる時間を作りながら場所を入れ替えれば、防御を優先して削りを捨てる。トレイターのHPはまだ半分も削れちゃいない。バーストからの火力を叩き込んで今でもまだ7割も残っている。全員生存している状態じゃないとトレイターに対して全くダメージが溜まらない。やっぱちゃんとした答えがあるからそれに従わないと駄目だな。

 

「潔白とは? 罪とは? 誰もが己の無罪を主張する、たとえそれが大罪者であろうとな……己に刻まれた烙印を理解しろ咎人」

 

 フィールドに8つの白と黒の光の柱が出現する。また同時に剣を2本生み出したトレイターはそれを両手に握り、略剣へと向かって連続で振るう。ガードして受け止めるも、徐々に略剣のHPが削られてゆく。

 

「あー、これは入るギミックで良いんだよな……?」

 

「たぶん」

 

 それぞれ白と黒に2:2で分かれるように柱に入り、略剣のHPが削られるまま数秒が経過。トレイターの姿が消失して、中央に出現する。

 

「己の業は理解したか? 死ねッ!」

 

 白と黒の柱が爆散する。この攻撃でニーズヘッグ、略剣、アレキサンダーが即死した。残されたゼドへトレイターが接近し剣を振るう。腕を振り上げたトレイターが8つの剣を飛翔させるように空へと打ち上げる。その動きは最初の方に見えた単体個別範囲攻撃の結晶剣雨だ。今、その8つの剣は全てゼドへと向けられているのだが。

 

「あ、無理」

 

 だというのに、トレイターは更に腕を振るって外周に結晶剣を同時に生み出した。それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事でもあった。難易度の高いギミック、高いダメージ、それらを組み合わせてこれからは行動してくるという圧倒的絶望感。

 

「ワイプしまーす」

 

「オッケー、お疲れ。前半部分はだいぶ解ったな」

 

 ゼドが迷う事無く外周へと向けてダッシュし、即死エリアへと飛び込んで自殺する。それによって戦闘は開始前までリセットされ、再び全員が蘇る。

 

 さあ、全滅を重ねながら作戦会議だ。




 という訳で本格攻略、開始。ギミックの一つ一つが失敗で死亡、レベルが足りないので一部ギミックは防バフOr食いしばり必須。その上で火力を振るバーストして叩き込まないとDPSが足りない。

 全滅を重ねてクリアしてみよう。
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