断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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”裏切り者” Ⅲ

 トレイターの奥義が準備に入るのと同時にフィールドの中央に白とも黒とも言える立方体が出現し、()()()()()H()P()()()()()()()()()()()()()()。これはつまり制限時間内にアレを破壊しろ、という事なのだろう。迷う事無く立方体へとターゲットを合わせ攻撃を始めるのと同時に、立方体のHPがごりっと削れる事に驚きつつも、その削れ方からチャージ完了までの時間がそう長くない事を悟り、

 

「さあ、超えられるものならば超えて見せろ」

 

 当然の様に、自身とその立方体を守るため、トレイターが攻撃を開始した。

 

 手始めに、

 

 ―――外周にアビサルドラゴンを2頭召喚した。

 

「は? マジでぇー?」

 

 北と東に出現したアビサルドラゴンが同時に口を開き、ブレスを放つ準備を始める―――感覚的に放つまで3秒程度しかない。その上で頭上には剣が2本出現している。それも剣雨よりも巨大な剣が。アビサルドラゴンのブレスは明らかにタンクではなくゼド、そして土鍋を狙っている―――恐らくは対象はランダム。このブレスが飛んできてから剣が落下してくるのだろうが、剣の方は俺と森壁を対象にしている―――こっちはおそらくブレスの対象にならなかったタンク以外に付与されているのかもしれない。

 

「ゼド鍋ブレス! 俺森頭上剣、たぶん1人じゃ受け切れない!」

 

「あーあーあ―――時間が足りねえええええええええ―――!!!」

 

 どう散開するのか悩んだ結果、ブレスが飛んでくるのを気合でニーズヘッグが射線から跳び退き、梅☆がタンクを盾にした。

 

「てめぇっ!」

 

「恨むなら硬いお前を恨むんだなぁ!」

 

「んぼぼぼぼぼおおおお―――!」

 

 成す術なくブレスに飲み込まれる俺ら。ブレスの十字放火を受けて蒸発するタンク。逃げた先で残された剣のターゲットを受けて一人で串刺しになり死亡する逃亡者共。

 

 当然のワイプだった。

 

 

 

 

 ログとリプレイをホロウィンドウで視聴者も見えるように広げながら8人で囲み、座った状態で会議する。流石に今回のこれは即座に解決策の出るギミックじゃなかった。いきなりあんな形で意味不明な死を迎えたのだから、ちゃんと話し合わないとまた同じように死んでしまうだろう。という訳で作戦相談タイム。

 

「たぶんこれ、アビサルからのブレスは乱タゲなんだよな」

 

 土鍋がホロウィンドウのアビサルとブレス対象を線で繋げる。

 

「おそらくTDから抽選2名。その上で残された4人から更に抽選2名で頭上剣が来る」

 

 フィールド頭上に出現した大型の2本の剣を表示させ、それにフォーカスする。ちなみにバトルログにはデバフを受けているような表示はなく、何か特殊なデバフを抱えてのギミック解除みたいな部分は存在しないらしい。或いはこのフェーズの後にやってくるのかもしれない。その上で土鍋が指摘してくる。

 

「このブレス、ダメージを見るとタンクのHPを9割近く吹っ飛ばしてるけど、考えてみれば()()()()()()()()()()()()()()()()って事なんだよな。その上で、タンクがブレスを遮った時はその背後に通してない」

 

 つまり梅☆が略剣を盾にした時、略剣側からのブレスは防げていた、という事だ。ちなみにもう一方のブレスは防げてないので纏めて喰らって死んでいる。その上でニーズヘッグはブレスを回避して、その先の頭上剣のダメージで死亡している。ダメージの数値を見ると、大体ニーズヘッグのHPの2倍程度のダメージを喰らって死亡しているように思える。

 

「正直、このダメージがマジならタンクでも受け切れないってのが事実なんだよな」

 

 数値を比べながらそう言えば、略剣が頷く。

 

「食いしばり必須になる。だけどその前に食いしばり必須のギミックあるから、タンク1人で2つの大剣落下を受け切る事が出来ないよな」

 

「そもそもブレスの塞き止めに入るならタンクが2人ともいる場所が固定されるから受け止めとかできないぜ」

 

 アレキサンダーの言葉にそう、と土鍋が指さす。

 

「つまり俺はこれが頭割りギミックだと思うんだよね」

 

「頭割りかぁ……」

 

 頭割りギミックとは、簡単に言えば攻撃範囲内に参加した人数だけ、ダメージが分割して均一に与えられる、というギミックだ。つまり1万ダメージを1人で受ければ1万ダメージだが、1万ダメージを3人で受ければ1人あたり3333ダメージで済むという計算になる。このタンクが使用済み、しかしHP上限を軽く超えてくるダメージは、確実に頭割りギミックの類だと判断したのだ、土鍋は。俺もそれには同意する。

 

「このタイミングで大剣x2って事は、タンクを抜いた6人による3:3での頭割りになるな?」

 

「だな。だけどこの場合ランタゲで誰にタゲが付くか解らないから、事前に3:3決めても困らないか?」

 

「いや、メレー、レンジ、ヒーラーで1グループ分ければいいでしょ。その上で動きやすいDD組が被りの場合交代で。優先度はメレーが上で」

 

 つまりはこうだ。

 

 俺、鍋、ニーズヘッグを1グループとする。ここで俺と鍋にタゲが付いたら俺がDDなので移動。俺とニーズヘッグが付いたらメレーのが移動自由度が高いのでニーズヘッグが移動。ニーズヘッグと土鍋だったらDD優先度上なのでニーズヘッグが移動する。

 

「というかキャスターに歩かせるな」

 

「SORENA~NA~NA~」

 

「歌うな」

 

「じゃあこっちグループは俺が移動優先度上でいいな」

 

 梅☆の言葉に頷きを返す。梅☆は詠唱を必要としないレンジ職だ。つまりこの中で唯一、距離に関係なく足を止める事なく戦闘を行う事が出来る枠だ。こういう状況で誘導や入れ替えなどの場面で一番動かす事の出来るポジションだ。

 

「アビサルドラゴンが出現したら自動的に剣盾組はアビサルの前へ、それ以外は射線を固定する為に中央へ」

 

「そこからブレスを耐えたら3:3で分かれて頭割りを受ける、と」

 

「後は常に攻撃する事を忘れずに。ギミックの処理に集中してDPS落としたらたぶんあの立方体割れない」

 

「忙しいなぁ……」

 

 なんか、変な理由で難易度上がっちゃったからしゃーないね……まあ、これでもボスのHPは既に半分に突入する段階まで来ている。ここさえ超えればあとはほぼウィニングラン……になっているといいなぁ……。

 

 と、ちょっとした願望を混ぜながら相談を完了させた所で、再び立ち上がる。作戦会議終了!

 

 これより相談した通りに動く事を試す。

 

 

 

 

「さあ、超えられるものならば超えて見せろ」

 

 立方体、アビサルドラゴンが出現する。地味にこの段階に来るまでにこれまでのギミックを処理、その段階で既に数分が経過しているのだからかなり肉体的に、精神的に疲労が蓄積されてゆく感覚がある。それでも今、滅茶苦茶楽しいという感覚に充足感を忘れられず、止めることが出来ない。中毒的だと言っても良い。全員が動きを理解し、完璧に連携して一連の動きを作るこの瞬間がめっちゃ楽しいのだ!

 

「防バフ、良し!」

 

「中央集合、良し!」

 

「頭上確認良し!」

 

「これは勝ったわね……」

 

「フラグ建築良し!!!」

 

 アビサルドラゴンの前にアレキサンダーと略剣が立った。防御しながらブレスを受け、後ろへと射線を通さない。それと同時にブレスの誘導が終わった瞬間に俺達はそのまま3:3へとグループを分ける。今回ターゲットになったのは俺と梅☆、一番簡単なターゲットだった。なので東西でそのまま別れると、

 

 なんか、外周に新しくアビサルドラゴンが出てきた。

 

「!?」

 

「は?」

 

 同時に白と黒の柱が出現する。つまり誰かに白と黒デバフが付与されたという事でもある。だが走り出した略剣とアレキサンダーは既に射線から外れ、余裕があったから頭割りへ参加する為に走っている。そこから一気に横へと飛んでブレスの射線へと入り込もうとするが、

 

 遅い。

 

 4:4で3:3の頭割りを受け、ダメージが4分割される。それによって本来受けるであろうダメージは軽減された。だがそのせいでタンクがダメージを受けている。略剣とアレキサンダーが即座にブレスの射線を遮るように射線に立つが、HPが戻しきれずに2人が蒸発する。

 

 そしてそのまま、その背後に隠れる俺達も蒸発する。

 

 誰も柱を踏んでいないから柱が破裂して全体攻撃が垂れ流しになる。

 

 アビサルドラゴンが更に登場する瞬間に視界が真っ暗になってワイプする。それから数秒後、視界が戻って再び戦闘開始前の状態になった。

 

 そこで地面に座り込みながら腕を組む。

 

「1回休憩入れない?」

 

 その提案に、誰も異論を挟まなかった。




 HoT:リジェネの事。時間経過で回復するバフの事
 DoT:毒の事。時間経過でダメージが出るデバフの事
 強撃:単体を対象とした通常攻撃の数倍痛い攻撃。痛い
 ワイプ:全滅して状況をリセットする事

 という訳でトレイター戦、最難関ギミックの始まりである。
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