ダンジョンの途中なのでログアウトする訳じゃないが、ダンジョン内で時間制限がある訳でもない。いや、ボス戦闘自体は制限時間が実質的に存在するもんだが。ともあれ、戦闘詰めで頭の回転が良くなるわけでもないので、いったんプレッシャーを解散する為にも休憩に入る事にする。とりあえずスタート地点に持ち込んできたピクニックマットを広げ、全員でくつろぐ様にその上に座り込み、配信画面へと視線を向ける。
「あ、ここから30分ほど休憩はいりまーす」
コメント『えぇ(困惑』
コメント『トレイターさんの前でかぁ???』
コメント『ここでピクニックマット広げるのは草』
コメント『こら! トレイターさんが困ってるでしょ!』
「良いんだよ、戦闘開始しないんだから。とりあえず休憩入れるぞ休憩! はい、皆持ち込んできたお菓子出してー」
「はーい、レモネード持ってきましたー!」
「実は手製なんだけどピーチパイ作ってきたんだ。このゲーム、スキルはなくても手順を完全に再現できるなら《料理》とか《鍛冶》は出来るみたいだな。その代わり補正は乗らないけど」
森壁がレモネード、ゼドがピーチパイを披露する。その実物に感嘆の声を零していると、インベントリーからニーズヘッグがどんどんお菓子を取り出していた。この女、何時の間にこれだけのお菓子をため込んでいたんだ? まぁ、納得と言っちゃ納得なんだが。しれっと横に座ってくるニーズヘッグがお菓子を目の前に並べてどれから食べる? と首を傾げて眺めてくる。
「え、俺これを眺めながら待ってるの……?」
向こう側からトレイターの声が聞こえてくるが、無視だ無視。こっちはリフレッシュ中なんだよ。というか此方が明らかに戦闘行為から離れた影響で、戦闘用AIから通常AIに戻っている気がする。成程、一定時間戦闘に関する相談やアクションを取らなければ通常AIへと戻るのか。たぶん戦闘中は此方側の声やアクションが届かないようになってるんだろうなぁ。
じゃないとこっちの作戦丸聞こえだし。少なくともID内ではたぶん、そうなってる。
という訳で、
「トレイターさん、トレイターさん」
「なんだ?」
「こっち、食べながら作戦会議するんで」
「あぁ……」
一瞬参加に呼ばれたのかと思ったのか、少しだけ声の色跳ねたぞこいつ。いや、目の前でピクニック始めたのならそりゃ期待するけどさ。いや、この状況なんかおかしくない? おかしくはないか。まぁ、いいや。
「あ、これ昨晩捌いたフカヒレのスープ」
「おぉ、正義のサメよ! 無残な姿にうめぇ」
「ノータイムで食いやがった……!」
「美味しいからシャークながいね」
「今のはダジャレのつもりか??? お?? あ??」
「は?? 笑えよ??」
土鍋と梅☆が睨み合っているのを無視してピーチパイを口に運ぶ。うん、普通に美味しい。ゼドってこれをリアルで作れるレベルの腕前があるってマジ? 普通にすげぇなそれ。このレベルで美味しいパイ焼くっての結構難しい筈だぞ……? 今度ネットでレシピ拾って、フィエルに手伝わせながら作ってみるか、なんて事を考えながら指を舐めとる。
「んじゃ糖分補給しつつ会議ー」
「どんどんぱやぱやー」
お話するよー、という事でレモネードを木のコップに入れて持ちつつ、座った状態で話を進める。無論、話の内容は先ほどまで攻略していたギミックに関してだ。軽食を入れた休憩を取りつつ、ここからどう動くかを話し合うのだ。とりあえず、まぁ、なんというか。
「発狂ギミックか何かかアレ???」
略剣が首を傾げながら半ギレになっていた。ホロウィンドウを広げ、そこにフィールドを示す円を描いて、ボスとターゲットの位置を追加。そこから更に最初のアビサルドラゴンの位置を入力する。そうやって簡易マップを作製したらマーカーを呼び出し、指で略剣マーカーとアレキサンダーマーカーを動かして行く。
「まず最初にアビサルが出てくるのがここ。この出現地点がランダムかどうかは解らん。まだ2回だしな」
「んで、ブレスでこうなって―――頭変わりがこう」
ブレスの前にタンクが立ち、中央が開く。そこで3:3で分かれて頭割りをし、次に出現してくるアビサルドラゴンへとタンクが走る。土鍋が記憶している限りのことをマップに表示、配置し、先ほどまでの戦闘を再現する。
「ここ、最初のブレスから次のブレスまで約5秒な。頭割りに参加してからブレスまで行こうとするとぜってー時間足りない。んでブレスから大体1秒後に柱出現。恐らくこの瞬間にデバフが付与されているんでデバフ貰ったやつは塔へと向かう。そしてたぶん、流れからすると……」
「……アビサルドラゴンの追加、来るだろうな……」
「ほぼ確実にな……」
レモネードもさっぱりした酸味の中に甘さがあって実に爽快感が良い。個人的には蜂蜜味のタイプも好きなんだよなー。でも甘すぎるのは正直どうかと思う。こう、ほのかに蜂蜜の味が混ざっているのが良いんだ。うん、ちょっと味には煩いかもしれないここは。コンビニで買うタイプよりも、個人的には薄めるタイプの奴がいいんだ……。
ってそういう話じゃないな。
「バフの切りどころだな、間違いなく……全体軽減をブレスに合わせて切るか?」
その言葉に森壁が少し待ってください、と言葉をかける。
「温存してるバフでかなり強めの障壁張れるので、最初のブレスは2人分、それでカバーします。タンクの軽減分1回目は、それだけで多分行けます」
「ほほー。となると頭割りで全体軽減、ブレス2回目からタンクは個別焚きで良さそうだな」
「ブレスに防バフ2個焚けば、1種軽減2割で合計4割まで軽減できる。そこに全体軽減が入って5割軽減までいけるか……?」
「全体軽減が約15秒」
「個別が20秒から25秒だな……これなら3回目のブレス、そして4回目があるならそれにも間に合うな」
「こっちはブレスカバーを目的に、中央には近寄らず外周をぐるっと移動する形になりそうだな」
アレキサンダーの言葉に略剣がだな、と頷いて同意した。タンク職らしく、軽減の手段として複数のバフを用意してあるらしい。その運用に関してはヒーラーとの相談で決めるしかないので、略剣達に任せる。それはそれとして、問題は俺達DDの方にもある。
そう、火力問題だ。今、出せる火力を注ぎ込んでいる状態で戦闘を行っているのは事実だ。ヒーラーなんてMPを回復しながらヒーリングしているのだし。だけど今回のギミック、タンクとヒーラーの手が空かないのが判明してしまった。という事はあの立方体を俺達のみで破壊しなくてはならないって事でもあるのだ。
「火力詰めないといかんな、これ」
「今でも割と詰めてるんだけどなぁ」
「つまりここが一番DPSチェックの厳しいフェイズだからここで全力を注げって話でしょ? リソース切るしかないでしょ」
「今でも割と切ってる方向なんだけどなぁ」
じゃあなんだ、アレか。
「DPSチェック前にバフかバースト戻ってきたら消費せず温存して、こっちのフェイズ入った瞬間消費始めるか?」
「本体削らなきゃ戦闘終わらねぇんだよなぁ」
梅☆の言葉にごもっとも、と頷く。だけどこれはまだ高難易度コンテンツに突入していない状態だろう。となると、タイムアップ概念はこういう特殊フェイズ以外ではまだ存在しないと思うんだよな。
「単純に戦闘が長引いて困るのはヒーラーだけでしょ」
「あぁ、ヒーリングで悲鳴が上がるのか。じゃあバーストずらせばいいな」
「ああ!」
「お前ら聞こえてるんだぞこっち!!!」
中指を突き立てて返答する。へへ、俺達がそんなもん知るかよ。ヒーリングするのが仕事だろ!
その対応に土鍋が中指を突き立て返してくるが、これも割といつも通りの話だ。
既にこのダンジョンに入ってから1時間以上経過しているし、相談とワイプの時間を含めて結構な時間を食っている。
もうそろそろ超えたいなぁ、なんて事を考えながらDPSを詰める為に改めて手持ちのアイテムとスキルの相談を行い、今度こそトレイターに勝利する為の準備を進める。
トレイター「なんだよ……美味しそうに食べるじゃん……」
その頃フィエルはしっかりとアインの監視をしつつアレ、美味しそうだなぁ、と思ってデータから高級菓子を呼び出して食べてた。