断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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”裏切り者” Ⅴ

「たっぷり休憩した? リフレッシュ完了? リアルの俺らにゃ関係ないが、ここで気分転換になったのなら良し! サクッと奥義フェイズ超えるぞー!」

 

「応ッ!!」

 

 力強い返答を受けて再び戦闘へと戻る。気持ちの切り替えは割と簡単。攻略用の精神状態に即座にスイッチすると全員がここまで完全に固定された開始前のブリーフィングを行い、そこから開幕バーストに入り、ギミックを処理する。トレイターが奥義状態に入る前のギミックに関しては、全滅する度に処理しているだけあってもはや失敗する要素もなかった。そもそもギミック密度も後半と比べると非常に薄くて緩い。その事を考えるとさっさとDPSを出す事に集中し、さっさとトレイターの奥義フェイズまで進める。

 

 そして、

 

「さあ、超えられるものならば超えて見せろ」

 

 再びトレイターが詠唱に入り、立方体が出現した。それと共に多重にギミックが稼働する。

 

「バフコール! カウント1!」

 

「〈パーフェクト・シールド〉! っしゃあ! 強いバリア出ました!」

 

 張ったバリアがクリティカルした事で大きくダメージが軽減され、アビサルドラゴンのブレスが放たれた。だが想定されたダメージよりもタンクは軽傷で済んでいる。それを心の底から喜んでいるのは誰でもない、地獄のヒーリング作業を任されている土鍋だった。その間、俺達DDは全力でDPSを追求する為に一瞬も攻撃を休めることなく頭割りの為の準備に入り、大剣が降り注いでくる前に3:3で分かれる。攻撃が誰に向いているかの確認も一瞬で終わらせ、

 

「よっこいせぇ―――!」

 

 土鍋が削られたHPを全快まで一気に戻してゆく。その為にダメージを与える作業は一時的に停止し、DPSチェックの負担が俺達DDにのしかかってくる。だがそれは理解しているのでDPSを緩めることなく、保有しているスキルとアイテムを駆使して最高値をひたすら叩き続ける。というかそれしかできない。

 

 その間にも次のアビサルドラゴンの前にタンクたちが向かう。

 

 既に全体軽減は大剣落下と共に使用している。全体軽減、そして個別軽減の2種類のバフが今のタンクたちにはかかっている。それらと再付与されたバリアを使い、時計回りに移動したンクたちが2発目のブレスを受け止め、

 

「次、そのまま時計回りに移動! デバフ確認!」

 

「白!」

 

「黒!」

 

「黒!」

 

「白!」

 

「時計回りブレス継続!」

 

「おほほほほ、おほほほほほほほほ―――!」

 

 ヒールの忙しさに壊れ始めた土鍋がお嬢様笑いを始めているが、それを無視して即座にデバフを確認する。立方体へと攻撃を続けながらも、フィールドの四隅に展開された白と黒の柱に滑り込む。ギミックの為に攻撃の出来ないメレーと違って、俺達レンジとキャスターは攻撃が続行できる―――つまりその分のDPSを出さないとならない。MPというリソース、バフリソースをタイマーを確認し、それが回ってくるタイミングを測っていると柱が起爆する。

 

 白黒デバフが解除され、外周に時計回りに召喚されてはブレスを吐いていたアビサルドラゴンたちが撤退。立方体のHPが残り僅かになる。

 

「深淵に響け、祈りの声よ……我らは救済を望まぬ者……ただ、漆黒に安らかなる永遠のみを願う、儚く……」

 

「タイムリミットォ!!」

 

 タンクとメレーがギミック解除の瞬間に突進アビリティで接近しながら攻撃を加える。トレイター側からは何も攻撃が飛んでこない。その代わりにトレイターの詠唱が進む。

 

「15%!」

 

「良くぞここまで耐えた。流石という言葉をくれてやろう……さあ、消え去る時が来た」

 

 バフが回ってきた。即座に点火しながら火力を集中させる。ギミックの終わりまでは見えた。ならばあとは火力をどれだけ注ぎ込めるかだ。対処は完璧、悩むべきは火力が足りるかなのだが、そこも事前相談で詰めるだけ詰めている。

 

「いざ、扉は開かれん―――」

 

「3、2、1……!」

 

 立方体のHPが消えるか、それともトレイターの詠唱が完了するのか。必死という言葉が似合う様相で俺達は立方体に攻撃を続ける。1秒、一瞬が凄まじく引き伸ばされてゆく様な感覚の中で、攻撃を与えていた立方体に罅が入り、

 

 割れた。

 

「何っ、砕いただと……?」

 

 詠唱が完了する恐らく1秒前、本当にギリギリのところでDPSチェックが完了した。これにより立方体は砕け、トレイターが準備していた魔法が完成しなかった。不完全の状態のままトレイターは準備を完了させ、

 

「ならばこのまま放つのみ……〈ロストバベル〉……!」

 

 放たれた。防御もクソもない。対抗手段もMPもバフも全てを切らした所で、トレイターの奥義が不完全ながら放たれる。

 

 放たれた漆黒は一瞬でフィールドを満たすと嵐の様に暴風と黒い稲妻を生み出し、荒れ狂いながらやがて白く染まって行く。全ては白く漂白され、その中へと染み込むように消滅させられる。静かに、跡形もなく、何も残さないように消し去る魔法―――だがそれは不完全な状態で放たれたが故に、その場にいる存在を誰一人として消し去る事が出来なかった。

 

 その代わりに全員の最大HPが1で固定された。

 

 凄まじいまでの重圧と疲労感に立ち上がる事も出来ずに、膝をついてその場に体を留める。その間にもトレイターは損耗したような姿を見せずに、悠然と外周から中へと戻ってくる。だがその表情には余裕ではなく、驚愕の様子が見えていた。

 

「驚いた。本当に驚いた……まさかここまでやるとは思わなかった」

 

 トレイターは地面に降り立つと、手を横に振って魔晶石を召喚して握り砕いた。瞬間、この一帯を覆っていた断絶空間が割れ始める。それはつまり、トレイターが自分自身の手で敗北を認めた、ということに他ならない。ただその事実を、俺達はそう簡単に受け入れることが出来なかった。間違いなく結果を見れば俺達は敗北している。フェイズを超える事は出来た。だがこんな状態、勝ったとは言えないだろう。

 

 或いはこれが勝利のトリガーだったのかもしれない。だけどこの状況でそれは素直に喜べない。実質的な負けイベントじゃねーか、と口にして叫びたいのだが、それを口にするだけの余裕もない。強制的に最大の疲労状態を押し付けて固定されるような、そんな感じの体にかかる重さだった。

 

「あぁ……本当に驚いた。まさか戦えば最善手からの最善手を打ち、確実に勝利に向かって食らいついてくる姿。本当に色んな奴に見せて見習わせたいほどだ。少し前までは取るに足らない、脅威として感じる事もない程度の存在だったのに……だが短期間で、ここまで成長してきた」

 

 空が少しずつ本来の色を取り戻して行く。大地から汚染が取り除かれて行く。他の誰でもない、この事態を生み出した張本人達、その1人がこの地を覆う断絶を取り除いたのだから、誰もこの流れを読めなかっただろう。

 

「これは謝罪と詫びだ。1つ、侮っていた事。2つ、妙なものを見せてしまった事。3つ、試す様な事をした事……だがおかげでお前らという存在を―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 空が正常な青さを取り戻し始めるのと共に、徐々にトレイターの姿が薄らいで行く。

 

「貴様たちは脅威だ、それを確かに認識した」

 

 最初、出現したような話しかけやすさというものはなかった。明確な敵意が突き刺さってくるのを肌で感じられる。そしてそれを放つトレイターの実力が、今の俺達では到底及ばない領域にあり、相手が此方を立ててくれているからこのエリアの解放は可能だったのだ、というのを嫌というほど理解させられる。

 

「覚えておこう、その顔を、その強さを……今、この時から貴様らは……俺の、俺達の敵だ―――」

 

 それだけ言葉を残し、完全に快晴の空が戻った。爛々と照りつけてくる太陽の暑さは一瞬でジトっとした汗を体に生み出し、しかし海の方からやってくる心地の良い風に冷まされて熱を奪い去られて行く。海と砂浜が、このリゾート地が本来の美しさを取り戻す中で、黒い靄を纏いなおしてトレイターは空間に亀裂を刻み込む様に消えていく。

 

「また会おう……今度は俺も本気を出せる事を期待している」

 

 最後にその言葉だけを残し、

 

 IDジュエルコーストはクリアされた。




 次回、地獄のロット戦争~クソがお前の装備を寄こせカス~編

 お気づきかもしれないが、黒幕サイドの中でもトレイターさんはかなり善良で、そして優しい人。自分が悪いのであれば素直に頭を下げてごめんなさいと言える人。
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