断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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”裏切り者” Ⅶ

「あああああ」

 

「おおおおおあああああぉぉぉ……」

 

 馬鹿(略剣)馬鹿(アレキサンダー)が大地に倒れた。血の涙を器用にもエモートで流しながら倒れている哀れ二人は本当に哀れだ。最後の最期までどっちがタンク装備をロットしているのか言い合っている間に5分が経過した―――ダンジョンが終了してから5分が経過すると、自然とロットされていなかった装備は不用品と判断されて消去される。つまりはそう、なんだ。馬鹿が2人、ロットせずに言い合っていたから自然と装備は消滅してしまった。

 

 はい、馬鹿の極み。

 

「愚か愚か」

 

「はー、哀れ哀れ」

 

「ここまで哀れなのも中々ねぇな」

 

「あーわーれ! あーわーれ!」

 

 梅☆と土鍋と俺の三人で大地に倒れている2人を囲んで哀れと口にしながらげらげらと笑って踊っている。完全に2人が愚かなので反論もなく受け入れて倒れ込んだままだ。とりあえずIDはクリアしてこの地は解放されたが、それはそれとしてここからの行動は俺達ではなくNPC向けなのでここから移動する事もなく、NPCたちがやってくるまで待機する事になる。ミニサメとミニアビサルがぺちぺちと互いを叩き合っている姿を軽く見てから哀れ愚かの舞を止めて軽く背筋を伸ばすように体を解す。

 

 ロット戦争も終わったのでレベルアップの内容確認の時間だ。配信画面を自分のレベルアップ周りに向けて、確認を始める。

 

 まずは基本的なスキルの成長だ。まだ成長できるスキルの類は全て成長している。特にレベルが低かった《氷魔法》に関しては2段階レベルが上昇している。トレイターが経験値の塊だったか、或いは《深境》込みでの戦闘で酷使してから、だろうか。まぁ、魔法ループでかなり使ったし妥当な成長なのかもしれない。《氷魔法》に関してはレベルが上がって新しい魔法を覚えても、もはやエディット用の新しいパーツを習得したとしか認識しない。エディットを習得して以降は完全にそっちがメインになるので、新しく魔法を覚えても単純にパーツ認識しかしなくなる。

 

「えーと……新しく追加されたのは《杖術マスタリー》の最終魔ダメ+10%、《二刀流》の補正が2分の1へと緩和、《結界術》の新しいバフ追加か」

 

コメント『後はなんか新しいスキル追加されてますねぇ!』

コメント『かなり豊作やな』

コメント『二刀とマスタリーはとりあえず取っとけレベルで有能』

コメント『詠唱もヤバイよな……』

コメント『初期から取れるスキルの性能強いのは悪くないよな』

コメント『枠増えたって事は新しいスキル追加か……』

 

「そうそう、新しいスキルがレベルアップで増えたんだよな。いや、スキルってよりはシステムか」

 

「あ、私も貰えたわよ。《決戦技》ってやつ」

 

 ぽん、という音と共にデフォルメフィエルが登場した。

 

「あ、もう解説しても良いですか?」

 

 サムズアップで返答すると、では! と片手をあげてホロウィンドウを解説用に出現させる。ホロウィンドウの背後に上半身を乗っける様にぶら下がるデフォルメフィエルが新しく習得したシステム、《決戦技》を説明してくれる。

 

「ではではレベル30に到達おめでとうございます! レベル30は現在のキャップ、レベル50から見ると漸く半分を超えた……という風に見えますが、必要経験値で言えばまだハーフラインを越えてすらいません。レベリングはここから更に難しく、敵も様々な能力を駆使して戦ってくるのでより苛烈な戦闘が発生します。ですがレベル30ともなれば個人個人のビルドが形として見えてくる所でもあり、そして個人の特色が濃く見えてくる所でもあります」

 

 そこで、とフィエルが言う。

 

「習得されるこの《決戦技》はカットイン奥義、みたいなものになります。すべてのプレイヤーがスキル枠とは別に習得出来、個人が保有するゲージをマックス状態まで貯める事で戦闘中にゲージを全消費して発動する事の出来る必殺技! その威力、なんと1500! 軽減は通じますが根本的に防御は不可能なので、どんな相手であろうと容赦なくダメージを与えられます」

 

「ほうほう」

 

 個人個人で保有する必殺技みたいな扱いになるのか、と納得する。ゲージ超必とか言われると割と納得する。そして威力1500というのも中々恐ろしい破壊力をしている。

 

「ゲージは戦闘外で貯める事は出来ず、戦闘中にのみ貯める事が可能です。レイド戦の場合は、ボスとの戦闘前に必ずリセット処理が行われ、ID攻略中はゲージが消費以外で減る事はありません。このゲージは敵の撃破、ダメージの発生、クリティカルの発生、味方への回復、ダメージを受ける事などで貯まります」

 

 そこから新しくホロウィンドウを出現させ、そっちの上へとフィエルが移動した。其方には《決戦技》の内容が書かれてある。

 

「無論、内容は何種類か存在し、そこから選択可能です。たとえば攻撃対象を単体化するデメリットを受け入れる代わりに威力を100程上げる事も可能です。その他にもバフ、ヒールタイプもあります。味方全体を数秒間無敵化させる事や、味方のHPMP状態を完全回復する他、味方全体、或いは単体に超高倍率バフを付与する事なんてもできます」

 

「内容がかなりぶっ飛んでるなー」

 

「はい! これはプレイヤーが個人個人で保有する超必殺技みたいなものですから! ですが当然、そうぽんぽん発動させられるものではありません。10分規模の戦闘であれば1回、18分~20分ほどの戦闘であれば2度発動させる事が限界でしょう。それにID規模であれば1度発動させるのが限界かもしれませんね。それにアイテムや装備品でチャージのブーストなどは行えません。発動の条件はかなり厳しく制限されています」

 

 まぁ、とフィエルは続ける。

 

「死亡するとゲージが空っぽになりますので、戦闘で良く死ぬプレイヤーの方は発動させられる機会を永遠に失うかもしれませんね……」

 

コメント『急に煽るじゃん』

コメント『唐突な畜生』

コメント『飼い主に似たな???』

コメント『純粋無垢だったAIがぁ』

 

「そ、そんな意図ないですよ! 本当に! ただアインさんとかニーズヘッグさんみたいに良く生き残る人たちだったら安定して1回2回はレイド戦で出せるだろうなぁ、って!」

 

コメント『無自覚か???』

コメント『床舐めるの美味しいです』

コメント『床ソムリエを舐めるなよ』

コメント『床舐めれば舐めるだけDPS落ちるからな??』

コメント『煽るじゃん(歓喜』

コメント『もっと罵ってどうぞ』

 

 フィエルが配信画面のコメントを見てちょっと引いてるが、それでも拳をぎゅっと握るとお仕事……と呟いて説明に戻る。偉いぞ。

 

「え、えーと……勿論、発動中のモーションやエフェクトは魔法のエディットと同じように自己制作が可能ですし、自由度はそれまでの比ではありません。制限時間内であればほぼ自由にシチュエーション、エフェクト、モーションを設定できるので、本当の意味での個人用決戦奥義みたいな形になります。ただ注意として発動中は時間停止扱いで、他のスキルのリキャストやバフデバフの時間は進行しません」

 

「悪用はさせないか」

 

 クソ厄介なデバフを喰らったら連続で《決戦技》を発動させて時間を稼ぐという手段は許してくれないらしい。まぁ、当然といっちゃあ当然なんだが。そこら辺の対策はされている模様。

 

「連続発動も勿論ですが……2人同時に発動させる事で威力3000で放つ協力決戦技もあります。ですが此方は事前に設定して、両者が発動させるための準備を整えておく必要もあります。なのでやや固定メンバーで遊ぶのなら設定しておくことをお勧めします。それになんといっても決戦奥義を協力して放つ感覚は爽快の一言に尽きますからね」

 

 フィエルが分身した。

 

 分身するとペット共へと向けてフィエルが小型の魔法陣を展開し、ミニビームを放つ。空中で合体したミニビームはミニアビサルとサメを飲み込んで黒焦げにした。黒焦げにされたペット共は一瞬黒焦げのまま硬直したが、体を振るって焦げを落とすと分身デフォルメフィエルを追いかけ始めた。

 

「このように演出は個人で追求すればするほど可能性無限大! 後少し火力が足りない、一気に火力を叩き込みたい、時間切れまであと少し! というタイミングで切る事の出来る切り札です!」

 

「あ、俺解ってしまったわ。今回の地獄の様なギミックマラソン、コレ使う事前提だったな????」

 

「あー」

 

「成程なぁ……連続ブレスで防御型決戦技使えば無敵で前半受け切ってヒール分を火力に回せるし、火力型を使えば一気に立方体のHPを削れてDPS詰め詰めにしなくても良かったのか……そう考えるとバランス良く出来てる戦闘だったのかもなぁ、アレ」

 

「ま、まあ、ジュエルコーストIDは全体的に”PTプレイが出来ているか否か”を確認、テストするIDになっていますからね。これまでのIDやフィールドと比べると難易度は少し上です。ですがちゃんとレベルを上げ、連携訓練を行ったPTからすればそこまで困る場所でもないですね」

 

 今回は純粋にレベル部分が抜けていた、という事だ。レベルを上げれば覚えるものもある。スキルゲーだと思っていたのでここら辺は完全に失念していたなぁ……それでもどうにかなったのだからセーフって話なのだが。結局のところ、最終的に全員生存した状態でクリアしている上に再現性のあるギミック攻略法を出しているんだからこれ以上の成功はないだろう。

 

「お、システムに決戦技追加されてる。成程、ここで作成とかする訳か。ほほーん、発動中の背景変化とかまで出来るのか」

 

「ボスボスー。私のも作って作ってー」

 

 ニーズヘッグが後ろから飛びついて圧し掛かってくるのを前に倒れそうなりながらも堪え、後ろから伸ばされてくるホロウィンドウを受け取る。そっちにはニーズヘッグの決戦技の設定画面が開かれている。俺にニーズヘッグ用のエフェクトやモーションを組んでくれって事だろう。まぁ、身内分なら俺が全部纏めて作成しても良いかなぁ。

 

コメント『レベル30か……まだ10レベあるなぁ……』

コメント『魔法エディットも作成できるのに必殺技まで……?』

コメント『というかボスは作成依頼受ける予定あります?』

コメント『10万は出すからやって欲しい』

 

「……まぁ、自分と身内の分の作成終わったら委託受けても良いかなぁ。料金は取るけど」

 

コメント『マ??』

コメント『魔法のあのクオリティで作るんやろ? 頼むわ!!』

コメント『アレを見てると魔法やりたくなるんだよなぁ』

コメント『武器スキルも10になれば作れるぞ!』

コメント『成程、そっちも依頼するんだな??』

 

「人数制限はマジで設けるし、俺も時間の余裕があるって訳じゃないからな? マジで。自分と身内分作ったらこっちでのレベリングとか活動あるし。空いている時間にちまちまやって出来るのは10人ぐらいかな……まぁ、後でツブヤイッターでなんか適当にやっときます。恐らくは抽選だろうけど」

 

コメント『待ってる!!』

コメント『スキラゲ! レベリング! 頑張らなくては!』

コメント『ま、まだ魔法6レベ……』

コメント『こっちは8! 後少し! 後少し!』

 

 コメントを見ると割と視聴者がやる気で燃え上がっているのが見える。まぁ、自分だけが楽しくても面白くないのがMMOの特徴だ。他の人たちも楽しんでいると俺も割と嬉しくなってくる。やっぱり全体の雰囲気が良いのが楽しいよなあ。

 

 まぁ、それはそれとして、

 

 そろそろ海の方から船が港に接岸するのが見えるし、移動を開始する前にやっておくべき事がある。

 

 ブラックパールをインベントリから取り出し、スライディングで略剣とアレキサンダーの前に滑り込んだ。視線を合わせるように体を大地に落としたまま、ブラックパールを見える所まで持ち上げる。

 

「お前らのその顔が見たかったんだよォ!!」

 

コメント『本物のド畜生が屑やろう』

コメント『笑うわこんなんwww』

コメント『wwww』

コメント『そこまでやるか普通???』

 

 馬鹿が2人、血の涙を流しながら悔しがっているのを見て満足したので、パーシヴァル殿下たちと合流する為に動きだす事にした。

 

 これで今回の攻略、そして依頼は達成完了だ。




 サメvsミニアビvsミニフィエル。

 ちなみに野良であれ、固定であれ、このレベルの煽り行為を行うと友情崩壊するしGM対応案件なので煽る場合は事前に煽りルールOkか否かを絶対に確認しよう! 煽り行為は普通に固定解散レベルの所業だからな!

 お兄さんとの約束だぞ!

 という訳でカットイン奥義習得。戦闘コンテンツの自由度は増々上がって行く。
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