「さっすが稀人だな! 信じてたぜ、きっちりやってくれるってな」
腰に手を当てながら近づいてくるとばんばん、とパーシヴァルが肩を叩いてくる。それからぼろぼろの俺達の姿を確認し、腕を組んで頷く。
「そんじゃここからは俺達の仕事だ。アイン達は船の方で休んでてくれ。部下たちに飯と寝床の用意はさせてあるから存分に疲れを癒してくれ。こっちはこっちで調査とか救出とかしなきゃならねぇ事が色々とあるからな」
「うっす、うっす。じゃあ遠慮なく休ませて貰いますわ。流石にちょっと集中して疲れたんで」
「おう、お疲れ様。おい! お前ら! まずは状況の把握と要人の救助! 無事な施設の確認も急げ! 医療班も動け動け!」
パーシヴァルの号令に合わせて彼の部下が素早く展開を始める。ビーチ、マーケット、通り、ホテル、そこに素早く駆け足で向かいながら断絶から解放された人たちの安否を確認しに移動する。その様子をしばらく眺めてから、軽く疲労感を感じて背筋を伸ばす。本日の配信はここまで、と告げてから配信を切り、船の方へと戻って行く。リゾートホテルのベッドで休む事とかちょっと興味あったんだが、流石にこの状況で使わせてくれだなんて言える筈もないだろう。楽しかった戦闘の余韻を全身で感じつつ船に戻りながら背筋を伸ばすように両手を空へと向けて伸ばす。
「一度落ちてリアルで休憩取るかなぁ」
「そう言えばアインさんって割と落ちて休憩取りますよね」
船へと戻る道すがら、軽く体をほぐしながら歩いていると森壁が話しかけてきた。
「事実上VRMMOでのダイブ中って睡眠とほぼ同じ状態ですよね」
「その代わり脳は稼働中だけどな。というか脳だけが稼働している分割とエネルギーというかカロリーの消費は多いらしいし、本当の意味で休息は取れていないから休むならログアウトして睡眠を取るのが一番らしいな」
「へえ……」
なので俺は休むときはログアウトしている。適度な運動と食事、体のケアと睡眠。長く、そして健康に遊ぶのであればそこらへんの配慮は必須だと思っている。確かにVRMMOは超リアルだし、現実と感覚がほぼ変わらない。だけど俺達はリアルで生きているってことを絶対に忘れちゃいけないんだ。本気で遊ぶし、努力もする。
だけどゲームはゲームだって事実を忘れちゃダメなんだ。その前提を俺達は遊ぶ上で崩してはならない。だから休むときはゲームではなく、リアルで。それが最低限のルールという話だ。
「という訳で俺はしばらくリアルに戻って休むわ。また適当に数時間したらログインするかなぁ」
「おっつおっつ、じゃあこっちも一旦ログアウトして休む事にするかあ」
「あ、ボス俺達は」
「あぁ、大陸に戻るまでは、って事で。という訳で特になんか心配とかはなしで」
じゃあの、と手をひらひらと振りながら船に乗り込む。個室ではないが、ログアウトしてしまえばどの部屋を使っていようが関係はない。人が一気に減った船へと戻ったら自分のベッドの上へと寝ころび、そのままログアウトする。
まぁ、なんというか予想外に疲れていたらしい。ログアウトすれば軽い空腹感を感じて、糖分を脳味噌が求めているような気もした。ただ最近は結構お菓子を食べている自覚もあるので、直ぐに食べる様な事はせずに何時も通り軽い運動をこなしてから一睡する事にした。
それから諸々を処理した再びログインする頃には既に夕日が沈み始める時刻となっていた。船の上に出てから海の方へと視線を向ければ、夕暮れに赤く染まって行く水平線が見えた。昨日も航海中にこの景色を見る事が出来たが、今日はそこに砂浜という添え物がある。
両手でフォトフレームを作る様に指を合わせ、そこに海と砂浜が入る様にフレームインさせる。赤く染まる海からきらきらとオレンジ色に染まる砂浜、断絶の影響で多少荒れていたり壊れている建造物が目立つが、それでも十分に美しいと言える光景だった。少なくとも地上にこんな風に煌めくような美しさを持つビーチはないだろう。まさしく、宝石とは良く言ったものだ。VR環境内であればこういう形式がいくらでも生み出せてしまう。果たして、俺達はこの感動と美しいと思う心をこれからもずっと抱えていけるのだろうか……とは、ちょっと気になる事でもある。
「ま、でもこの先もっと面白いもんが見られるだろうし楽しめるか」
悩んでいたって仕方のない事だ。
「えーと、略剣と鍋とアレキはログアウト中か……」
他の連中はどうだろうか、と船から視線を外してみればコーストラインの方で遊んでいる連中の姿が見えた。いつの間にかビーチボールを手にした男共が砂浜で遊んでいる。いや、まぁ、確かにそういう場所だし。お前らいつの間に水着なんてものを用意していたんだ?
俺も用意してあるけど。
装備を戦闘用の装備から事前に用意したリゾートトランクス、アロハシャツ、靴はサンダルで最後に顔装備をサングラスへと変えて船の上から飛び降りる。
「敗北者ー! 俺も混ぜてくれー!」
「今俺達の事敗北者って呼ばなかった?」
「すまん、つい」
「は???」
こっちへと向かって投げられてくるビーチボールを軽く頭で迎えたら胸でトラップし、そのまま蹴り返し、ゼドにパスする。それを受けたゼドが蹴り上げてからスパイクを森壁に叩き込み、森壁が魔法を使ってガードした。
「ずっるっ!」
「スキルの有効活用ですよ」
「武器を取り出すな武器を」
梅☆がこっそりと武器を取り出そうとしていた所を諫めながら笑いながら近づき、片手でハイタッチを決める。なんだかんだで男子勢も水着装備に装備を換えている辺り、地味に攻略の後に海で遊ぶことを楽しみにしていたのかもしれない。実際俺も楽しみにしていたし何も間違ってはいないか。
「おー、微妙にあったけぇ。海って冷たいと思ってたんだけどなぁ」
片足を砂浜から海に突っ込んでみると心地よい暖かさと冷たさが混じったような感覚が足を包んだ。海って大きな水の塊だし、もっとひんやりしているもんだと思ったのだがそうでもないみたいだった。
「あぁ、浅い所は意外と熱かったりするんだよ。もうちょっと深く入れば冷たくなるぞ。俺もタイやマレーの海に行ったときは驚いたっけな」
「人生経験どうなってるんですか梅さん……」
ほーん、と呟きながら更に海の中へと踏み込んで行く。段々と深くなって行く海、そして沈んで行く体。膝丈まで海に浸かると心地よい冷たさを感じ始める。おー、と呟きながら目を細め、気候から来る暖かさと海の冷たさに感じ入る。中々懐かしい感覚にまた、リアルでも海に行きたいなぁ、なんて事を思い始める。
と、
「ボスー」
船の方からニーズヘッグの声がした。呼ばれた事に振り返れば船の上、欄干から顔だけを出す様な妙な状態でニーズヘッグが此方を呼んでいるのが見えた。
「ボスー」
「……なにやってんだアイツ」
隠れているような、隠れていないような、そんな状態のニーズヘッグにちょっとだけ呆れの様子を見せていると、背中を思いっきり叩かれる感触に痛っ、と声を零しながら前につんのめった。
「ほら、お姫様がおよびだぞ。行ってやりな」
梅☆のアクションに抗議の視線を送るが、他の男子共からもサムズアップを向けられる。その態度に軽く溜息を零していると、
「ボースー」
「あー! 解った解った! 今行くから! ちょっと待ってろ!」
執拗に此方を呼んでくるチワワの相手をする為に海から上がり、とりあえず船の方へと向かって戻って行く。
これでくだらない用事だったら容赦しないぞこいつ……。
完全に小動物。