影浦雅人の『兄貴』   作:瑠威

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*内容はクリスマス関連です。クリスマス当日に投稿出来なくてすみません。
*時系列的には空閑が緑川をボコボコにした後ぐらいのつもりで書いています。
*本編を読まれていない方は本編を読まれた後に読むことをオススメします。


──本日の主人公──
【宇佐美 栞】
 この番外編の主人公。恋する17歳のピチピチJKな乙女。あの手この手で想い人である静雅をデートに誘おうと画策する。

──愉快な仲間達──
【影浦 静雅】
 強くて、優しい。そしてかっこいいと緑川が言いふらすため、静雅を知らない人間は菩薩を想像するが、実際会うと多分ガッカリするので、あまりいい方向に想像しないほうがいい。基本的に勉強面で誰かを殺し、鬱憤が溜まると物理的に太刀川は殺される。

【空閑 遊真】
 まだ静雅とはあったことの無い人型ネイバー。緑川が言う人物像で今のところ静雅が出来上がっているので、彼の中の静雅は来馬辰也並の菩薩が出来上がっている。

【三雲 修】
 メガネ。声はかっこいいけどそれを感じさせないメガネ。原作である主人公の1人なだけあって声はめちゃくちゃいい。きっとネイバーと共に巨人も駆逐してると思う。静雅のことはうっすら遠目で見たことあるぐらい。残念なことに今回は一言も喋らない。

【雨取 千佳】
 静雅のことは知っている。濡れ衣かけちゃった先輩と認識。あの後、東や荒船が気にしなくていいと言っていたがかなり気にしている。次にあったら絶対に謝ろうと心に決めている。

【迅 悠一】
 静雅さん大好き同盟にちゃっかり加入している実力派エリート。会長が宇佐美、副会長が菊地原、メディア対策本部長が迅、所属タレントに生駒と勝手に加入させられた隠岐と嵐山の構成で成り立っているらしい。活動内容は不明。

【生駒 達人】
 去年のクリスマスを勝ち取った一人。浪速のナスカレー。迅と共に静雅さん大好き同盟に加入し、所属タレントというよく分からない地位で活動している。が、本人が言うには「俺が所属タレントてアカンやん。何がアカンて怖い顔しとるし、静雅さんを勘違いさせるようなマネしたくないねん」と言うことで顔のいい隠岐と嵐山を連れてきた。尚、2人は何がどうなっているのかよく分かっていない様子。残念なことに今回は一言も喋らない。

【隠岐 孝二】
 去年のクリスマスに何故か静雅に認められた男。肝心な時に外すスナイパー。静雅さん大好き同盟の所属タレント。広報活動は1度もしたことは無い。残念なことに今回は一言も喋らない。

【影浦 雅人】
 一昨年のクリスマスに勝ち取った男。マンティス首ちょんぱが得意技。残念なことに今回は登場無し。

【仁礼 光】
 宇佐美の恋敵。静雅と面と向かって会うと少しテンパる。可愛いけど今回は出ない。

【沢村 響子】
 長年、忍田本部長に恋心を寄せている。しかし、様々な理由から中々告白するには至らず、いつの間にか静雅にまで応援されているとは知らない。「忍田の嫁」と静雅に呼ばれた時には様々な想いが胸の中で交差し、号泣した経験がある。時々、宇佐美から恋愛相談を持ちかけられるが、彼女に相談すればするほど上手く行かないフラグが立っていることに誰も気づかない…。

【緑川 駿】
 静雅を「しずかん先輩」と呼べるつわもの。迅も大好きだけど同じくらい静雅も大好き。三バカの1人を担う迅&静雅バカ。

【出水 公平】
 静雅を「静雅さん」と呼んだり「静雅先輩」と呼んだりする。基本的に静雅さんで呼ぶが時々たまに静雅先輩に。ちょっとだけ静雅が怖い。三バカの1人を担う弾バカ。

【米屋 陽介】
 カチューシャを外したらイケメンかもしれないイケメン。あまりにもランク戦に入り浸りすぎて学業の成績に大打撃を受けている。時々、三輪と静雅の熱血指導を受けて死ぬ。三バカの1人を担う槍バカ。

【二宮 匡貴】
 彼の名を聞いたら思い出すのはみっつ。ジンジャーエールか雪だるま。そして、スーツ。自身のことを天然だとは疑わず、かっこいい人間だと思い込んでいる。そんなところに惹かれるファンも多いことだろう。
ちなみに大学の専攻は太刀川が「めんどくせぇ」という理由からほとんど一緒である。


【風間 蒼也】
 静雅からクリスマスプレゼントと称したセ○ビックを渡された時は結構ガチな喧嘩をした。でも、セノビ○クには罪はないのでちゃんと飲んだらしい。

【太刀川 慶】
 ダメな大学生の典型的な例。周りにしっかり者が多いことから、さらに浮き彫りになる。この小説で彼が登場すると9割の確率で死んでいる。




番外編0-1 頑張れ宇佐美!! 今年こそは! 決死のクリスマス大作戦!!!

 

「むむむ」

「あれ、しおりちゃん何してるの?」

 

 

 12月某日。場所は玉狛にて。喉が乾いたと居間にやってきた空閑は、机に向かって唸っている宇佐美を見て首を傾げた。またやしゃまるシリーズの新作を考えているのかな?それだったらここでやるはずないよな。じゃあ勉強?と色々浮かんでくるが、今の宇佐美にはどれも当てはまらないようにも思える。

 

 

「ああ、遊真くん。あのね、もうすぐクリスマスだからどうやってシズ…静雅さん誘おうかなって」

「おお、またシズカさんの名前だ」

 

 

 シズさんと言っても空閑には伝わらないだろうと思った宇佐美はすぐ様言い直す。C級になって間もない空閑はA級の静雅とは中々会えないらしく、名前しかまだ知らないようだった。

 

 

「やっぱり名前は聞いた事あるんだね」

「そりゃもちろん。緑川とか米屋せんぱいとかがよく名前出してるし」

「あ〜…駿くんはたしかに。陽介もバトルジャンキーだからよくシズさんにランク戦挑んでるのかも」

「そのシズカさんって人、強いんでしょ? それに優しくていっぱい奢ってくれるって言ってた」

 

 

 鼻息を荒くして静雅のことを語る緑川を見て若干引いてしまったのは記憶に新しい。そんな緑川を見て米屋は「いつものことだから慣れろ」と笑っていた。ふむ、実に興味深いと空閑は言う。

 

 

「んー、多分遊真くんは大丈夫だと思うけど、シズさんって結構好き嫌い別れるからね。ハマる人にはハマるんだけど」

「…人間なんだから、そりゃ欠点もあるでしょ」

「シズさんの場合は結構それが浮き彫りでさ。シズさんを嫌ってる代表的な例は…嵐山隊の木虎ちゃんとか」

 

 

 静雅は木虎以外を除けば嵐山隊とは円滑に交友関係が出来ているので、そこまであからさまという訳では無い。けれど、木虎は自分から静雅には近づかないし、やっぱり態度もツンケンしたものが多い。

 

 

「嫌われてるとはまた別の部類に入ると思うんだけど、奥寺くんって言う子がいるんだけどね。その子にはすごくビビられてて」

「なんで? シズカさんって優しいんでしょ?」

 

 

 「緑川がそう言ってたよ」と空閑は言う。「優しいというか…」と宇佐美は困ったように苦笑いを浮かべた。頬をポリポリとかきながら、どうやって空閑に説明しようか考える。

 

 

「シズさんってね、顔が意外と怖くて、それでいて感情的な人というか…暴力的な人というか…。だから、喧嘩とか普通にするし、平気で人を殴ったりとかもできるわけね。それをたまたま奥寺くんが見てたみたいで」

「ほうほう」

「ぶっちゃけると、駿くんみたいなのは結構特殊なんだよ。結構歳が離れてるのにああやってシズさんを好いてくれてるのって。シズさんはあまりいい噂とかないから、歳下の子たちは敬遠するんだよね」

 

 

 話してみれば案外優しい人だと気づけるのだが、話すのに勇気がいるし、静雅も自分から喋りに行くようなタイプではないから、こればっかりはしょうがない。けれど、みんなに静雅はいい人だと知って欲しい宇佐美は時々布教活動を行っている。

 

 

「でも、そのクリスマス…? とシズカさんに何の関係があるの?」

 

 

 宇佐美が静雅を気にかけていることは分かった。が、それと静雅にどんな関わりがあるのか、日本に来たばかりの空閑にはピンと来ない。

 

 

「それは、その…あれだよ」

「ほら、宇佐美は静雅さんに好意を持ってるから」

「迅さん!!」

 

 

 「よっ」と片手にぼんち揚を持ってやってきたのは自称 実力派エリートの迅だった。トレードマークのグラサンに青いジャージ。そして今はイタズラが成功して嬉しいと言うかのように目を細めている。

 

 

「へぇ…しおりちゃんはシズカさんのことが好きなのか」

「…まあ、別に隠してないからいいけどね」

 

 

 元チームメイトの風間隊のみんなにもいつの間にか気付かれ、そこからは隠さなくなった宇佐美。差恥等知らないし、静雅のことが好きだという感情に誇りを持っている。けれど、自分から言うのと他人から指摘されるのはなんか違う。変に緊張というか、改めて実感させられるというか。決して嫌な気持ちではないのだけれど。

 

 

「一昨年、去年とかは取られてるから今年は何としても取りたいとこだよな」

 

 

 迅の言った通りだった。一昨年のクリスマスは残念なことに影浦家に取られてしまった。家族でお祝いすると聞いてしまったら誘いづらいし、逆に空気を読んでもらい「じゃあ一緒にすっか?」と言われるのも嫌だった。…嬉しいけど、まだあの時は静雅の家族に会う勇気がなかったとも言える。

 反省しかなかった一昨年を踏まえて意気込んだ去年。家族との予定が入る前に何としても予約しておきたかったのだが、色々と邪魔が入った。主に関西人の独特な勢いにやられた。気がつけばあれやこれやと静雅の予定をかっさらわれ、連れていかれた。恋とは苦いものだと沢村から聞いていたけれどその通りだと思ってしまった。1週間は悔し涙で枕が濡れたことを明記しておこう。

 

 

「そうなの!! でもさ、少し悩んでるんだよね…」

「ほほう、それは何故?」

 

 

 色恋沙汰で言うと疎い方面の空閑ではあるが、聞く分には好きだ。それが揶揄えるネタであると尚更。それに、真剣に悩んでいる宇佐美を見て放っておくという手段は空閑の中ではなかった。助けられるなら助けてあげたいというのが本音だ。

 

 

「ほら、シズさんと初めて会った年は何としても2人っきりで!!って息巻いてたんだけど、それが失敗に終わっちゃって。去年とかも2人っきりで会おう!って思ってたけど、それもやっぱり失敗で。今回も2人っきりだと上手く行く自信がないんだよね…」

「なるほど」

「それにさ、付き合ってるならまだしも、付き合ってないんだよ? よくよく考えてみると、それでクリスマスに2人っきりは重いかな、と」

「静雅さんならそんなこと気にしないでしょ」

「うむ。オレもそのシズカさんのことはよく分からないけど、緑川が言うにはそんなことで怒る人にも思えないよ」

 

 

 「そうなんだけど、そうなんだけどさ…」と宇佐美の返事はなんとも歯切れの悪いものだった。頭の中で分かってはいても、不安なものは不安なのだろう。

 

 

「そんなに不安なら玉狛に呼んじゃえば?」

「おお! それはいい考えだ。オレもそのシズカさんに会ってみたい」

「確かに、玉狛なら毎年クリスマスパーティはしてるし、それを理由に呼び出すことは可能か…」

「んでもって、ちょっといい雰囲気になった所で屋上にでも行きなよ」

 

 

 基本的に玉狛には木崎を筆頭に空気が読めるエキスパート達が揃っていた。新人である三雲や雨取も例外に漏れず、そして一番懸念されるであろう小南も宇佐美の恋心には気づいているし、それこそ女子である。きっと手回ししてくれるに違いない。

 

 

「それでしおりちゃんが「寒っ」って言ってマフラーでも巻いて貰えばリア充の仲間入りですな」

 

 

 最近覚えた「リア充」を使えてとてもご満足そうな空閑。宇佐美は顎に手を置き、少し悩んだ素振りを見せると…迅の肩に手を置いてクワッと効果音がつきそうな勢いで顔をあげる。

 

 

「迅さんナイス!! 私、頑張るね!!」

「おーおー、頑張れ」

「遊真くんもありがとう! 私、ちょっと本部行ってくる!!」

 

 

 外は寒いだろうとコートとマフラーを持って出て行く宇佐美に抜かりはない。そんな宇佐美の後ろ姿を見ながら迅は呟いた。

 

 

「まあ、誰も宇佐美が上手くいくとは言ってないんだけどね」

 

 

 空閑が首を傾げる。そんな空閑の頭を迅は撫でながら言った。

 

 

「今年は残念なことにラスボスがいるんだ。静雅さんは絶対にそっちを取っちゃうんだよね」

 

 

 宇佐美の恋は実って欲しいと思っているけれど、これは流石に迅でもどうすることも出来ない。静かに合掌をする迅を見て、空閑も真似をして合掌した。

 

 

 

 * * *

 

 本部にやってきた宇佐美は目的である静雅を探していた。しかし、本部と言っても中は広い。手当り次第に探すよりも電話した方が早いか…と思ったが出てくれるかなと不安にもなった。とりあえず、かけるだけかけてみようと携帯の連絡先を探す。

 

 

「宇佐美先輩…?」

「お、チカちゃん!」

 

 

 前方からタッタッタッと走ってくる雨取を見つけて、宇佐美は大きく手を振る。なんで雨取が本部にいるのだろうと思って思い出す。

 そう言えばスナイパーの合同練習に行くって言ってたっけ…。雨取が廊下にいるということはきっと合同練習は終わったのだろう。「お疲れ様」と宇佐美は声をかけた。

 

 

「お疲れ様です」

「ちょうどいいや。チカちゃん、静雅さんって知ってる?」

 

 

 静雅はスナイパーだし、もしかしたら合同練習に出ていたかもしれない。可能性は限りなく低いけれど。

 

 

「あ、はい。1度だけお会いしたことがあります」

「1度だけ…ってことは今日の合同練習は来てないんだね」

 

 

 確かに静雅は合同練習に参加するような人ではない。ポイントとかにも無頓着だし、割とやりたい放題な人だから、風間に尻でも叩かれない限りはきっと姿を現さないだろう。…天敵の太一くんもいるし仕方ないかなぁと宇佐美は苦笑いをこぼした。

 

 

「はい。もしかして影浦先輩を探してるんですか?」

「うん。そうなの」

 

 

 中々静雅相手に聞けない「影浦先輩」呼びが聞けて宇佐美の頬は緩む。静雅は頑なに影浦先輩と呼ばれることを嫌っていて、何かと弟の雅人を理由に名前で呼ばせたがる。まあ、宇佐美の場合は「シズさん」と呼んでいるんだけど。

 

 

「なら、お力になれるかもしれません。ちょうどさっき、奈良坂先輩が影浦先輩に電話してて、その時…えーと、出水?先輩とランク戦をしてるって」

「ほほう、いずみんと! これは貴重な情報ですな。ありがとう! どっか行く前に向かうね」

 

 

 「チカちゃんは帰るの?」と聞くとどうやら本部には三雲も来ているらしく「修くんと帰ります」と言っていた。相変わらず仲がよろしいことで。

 

 

「気をつけて帰りなね」

「はい! ありがとうございます」

 

 

 こうして雨取と別れた宇佐美はブースへと向かう。

 

 

 

 * * *

 

「くっそー!! また負けた!」

「ねぇねぇ次はおれとしようよ!」

「いんや、ここは間をとって俺だろ」

「いやいや、泣きのもう10本!」

「…ダリィから休憩な」

「「「えー!!!」」」

 

 

 10対0で見事な勝ち星を出水相手にとった静雅は至って当然というかのように、自動販売機で飲み物を吟味する。静雅はコーヒーが飲めそうな風貌をしているが、残念なことに期待を裏切りコーヒーは飲めない。かと言って甘いものも好きではないし、ジンジャーエールはどっかのスーツが浮かぶので除外。結局、安定の美味しさ烏龍茶に落ち着いた。

 

 

「おら、お前らも選べ」

「「「ゴチになります!」」」

 

 

 ガタンガタンと各自好きなものを選ぶ3人。3人とも炭酸飲料を選んだらしく、飲んだ後にどこかのおじさんのごとく「ぷはぁあ!」といっている。

 

 

「そう言えば静雅さんの彼女さんってどんな人なんですか?」

 

 

 ふと思い出したように出水が言った。少し前にはなるが、「静雅さんがまた違う女と歩いてた…」と太刀川がショックそうに言っていたのを思い出したのだ。太刀川と静雅では色々な面から天と地の差があるので、彼女ぐらいいても当たり前だよな、が出水の見解である。

 

 

「ア?」

「えー!? しずかん先輩、彼女いたの!?」

「おお…マジか」

 

 

 「おれのしずかん先輩が取られちゃう!」と的外れなことをいい、静雅の腕にしがみつく緑川。対して、いとこである宇佐美の恋心を知っている米屋は少々いたたまれない気持ちでいた。勿論、宇佐美の恋心を知らない出水はキョトン顔でジュースを飲んでいる。

 

 

「太刀川さんが大学で見たって」

 

 

 来るもの拒まず、去るもの追わずな静雅は時々彼女ができる。基本的に会うのは大学に行く時ぐらいなので、まあ見られていても仕方の無いことだ。

 

 

「別れた」

「えっ、なんで」

 

 

 太刀川が言うにはかなり可愛い娘だったらしい。写真を見せてもらった訳では無いが、クリスマスも近いこの時期に別れるなんて勿体ないなーと出水は思う。緑川は喜びの雄叫びをあげ、米屋は安著のため息をついた。

 

 

「さあ。よく分からん」

「お、その言い方だと振られた口ですな」

「んー、どうだろうな。あっちがいつの間にか大学辞めてただけだし」

「えぇ、でも別れたんでしょ?」

 

 

 静雅からメッセージを送ることは無い。分かりやすく言うと自然消滅である。対して気にした様子ではない静雅を見て「大人だなー」と出水は言った。自隊の隊長もこれを見習って欲しい。

 

 

「あ、いたいた。シズさーん!」

「あれ、栞じゃん」

「うさみん先輩だー」

「栞ちゃんだ」

「宇佐美?」

 

 

 ブンブンと手を振りながらこちらにやってくる宇佐美。ハアハアと荒い息遣いをしていることから、走ってきたことが伺える。とりあえず何か飲むか?と宇佐美に聞ける男、静雅。こういうとこだよなーと1人出水は頷いた。

 

 

「ううん。大丈夫。あのね、今日はシズさんに聞きたいことがあって」

「電話でも良くね?」

「シズさん基本的にどの電話もフルシカトじゃん」

 

 

 静雅のスマホは基本的に携帯していないし、珍しく携帯していても電池の残量がないだとかマナーモードでちゃんとした役割を果たせたことは少ない。しかも、静雅のスマホは国近のスマホゲームのサブと化しており、出ても国近が出る確率の方が高い。

 

 

「…ンで、なんだ?」

「あ、あの…それがね」

「(栞、頑張れ!)」

「(おっ…栞ちゃん、まさかそういうこと?)」

「(早くランク戦したいなー)」

 

 

 モジモジ モジモジ

 顔を赤らめて宇佐美はずっと何かモジモジしている。その理由を何となく察した出水と、知っている米屋は心の中で応援している。頭の中で沢山のクエスチョンマークを浮かべている静雅とランク戦のことしか頭にない緑川は1度出直してきた方がいい。

 

 

「く、クリスマス…って予定あるかな?」

「クリスマス…」

 

 

 静雅は思考を巡らせる。

 確か今年は実家でクリスマスパーティ云々の話は出てなかった。影浦隊でなんかやるらしいが、今のところ静雅はお呼ばれはしていない。風間隊は風間と静雅がプレゼントをやりさえすれど、そういうパーティを自主的に開くようなキャラはいない。生駒隊は…あれは去年出たからもう出るつもりは無い。佐鳥や時枝はクリスマスこそ稼ぎ時だし、目の前にいる米屋達とも特に予定は立ててない。

 つまるところ、そういうことだ。

 

 

「ねェな」

「本当!?」

 

 

 「じゃあお時間貰ってもいいかな!?」と宇佐美は言った。別に暇だし、と静雅は頷く。すると、出水と米屋は熱い握手を交わし、宇佐美は地球消滅回避!ぐらい喜んでいる。ちなみに緑川は全く状況を理解していなかったが、米屋達と一緒に喜んでいた。

 

 

「絶対だよ! 夕方の17時に玉狛支部ね!!」

 

 

 それはもう大層可愛い微笑みを浮かべて宇佐美は言うと、ふふんとスキップをしてどこかへ去っていった。

 

 

「…栞を頼みます」

「幸せにしてあげてください」

「ねー、ランク戦まだー?」

 

 

 この後、緑川は恋心というものについてかなり教えこまれた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 From:宇佐美栞

 To:菊地原士郎

 件名:私は勝ちました!

 

 きくっちー!! 私は遂にやり遂げました。長い長い戦いでした! ふふん、これからはお姉様とお呼びなさい!

 

 

 

 

 * * *

 

「え、なにこれ…?」

 

 

 宇佐美が風間隊をやめても、メールは続けていたし本部で会えば話す。友達をやめたわけじゃないし、隊は違えど仲間なことに間違いはない。そんな宇佐美からの突然のメールが来た菊地原は困惑した声を出す。

 

 

「どうした?」

「歌川。これ、何だと思う?」

 

 

 自分だけでは到底解けない謎だと思った菊地原は隣にいた歌川に先程送られてきたメールを見せる。歌川も菊地原のスマホを見て数秒固まると、首を傾げる。

 

 

「…宇佐美先輩、疲れてるのか…?」

 

 

 一体、何に勝ったのだろう。そして、それに勝ったことにより何故お姉様になるのだろう。たったそれだけの短いメール文も考えれば考えるほど疑問が尽きない。

 思わず歌川と菊地原は顔を見合わせる。

 

 

「…風間さんなら分かるかな?」

「えぇ…このアホらしい文を風間さんに見せるの?」

「じゃあ静雅さんに聞くか?」

「静雅さんほど女心が分からない人もいないでしょ」

 

 

 「じゃあ」そう言って歌川は頼れそうで暇であろう大人を想像し──一番最初に太刀川を想像したことで全ての考えを打ち消す。

 

 

「二人でちょっと考えようか」

 

 

 ボーダーで働く大人は基本的に忙しい。それこそ忙しくないのは、ランク戦に勤しんでいる太刀川ぐらいなものだ。自分よりバカな大人に頼るほど無駄な時間もないな、と思った菊地原もまた頷いたのであった。

 

 

 

 * * *

 

 時は過ぎ、12月22日の午前13時。

 冬休みも近いということもあり、今日から四限授業に移行した出水は迷わずボーダーに足を踏み入れた。

 

 同学年で同じ学校に通っている米屋は防衛任務により、今日は学校を休んでいたため、1人でボーダーに向かった。もうそろそろ、時間帯的にも米屋の防衛任務も終わる頃だろう。ランク戦のブースにでもいたら会えるかもな、なんて思いながらとりあえず通学バックを置くため、自隊の隊室に向かった。

 

 その時は軽い気持ちで自隊の扉を開けた。

 そして直ぐに閉めた。

 

 一呼吸おいて、出水は地面に座り込む。

 

──怖ぇぇ。なにあれ、ヤバっ!?

 

 いつもの太刀川隊の隊室とは一変した雰囲気に、出水は呑まれそうになった。そして、身の危険を感じたと共に、察しの悪くない出水は早くこの場から立ち去った方がいいことにも気づいた。

 

 

「何をしている。出水、入ってこい」

 

 

 この悪魔の声を聞いて。出水は悟ったのだ。

──ああ。俺は逃げられなかった。

 

 一言記述するならば、出水は何も悪くない。

 

 出水は恐る恐る、自隊の隊室の戸を開く。お世辞でも綺麗とは言えない隊室の中の中央部分に泣きながら正座させられている太刀川と国近が見られ、その2人を逃がすまいと鋭い目付きで睨んでいるのが静雅。その光景を淡々と見守っている風間に…二宮。オロオロとどうにかして助けてあげられないだろうかと来馬が視線を動かし、東は笑っていた。隊室の端では何故か号泣している唯我がいる。「たすけてください」とSOSを向けている後輩を見て出水は思わず苦笑いがこぼれた。

 

 

「…なに、これどうしたの」

 

 

 コソッと出水は唯我に問う。残念なことに静雅や風間が太刀川隊の隊室を出入りすることは日常茶飯事で、大して珍しいことではない。けれど、二宮や来馬、東はかなりの珍客と言える。

 

 

「──太刀川さんが、25日締め切りのレポートを終わらせてないみたいで」

「ああ…」

「しかも、同じ科目を取っている二宮さんが言うには、必修の教授が意地悪らしくて自分がどこをどう分かっているかテーマをつけてプレゼンしないといけないらしいんです」

「ぷ、プレゼン…」

「──そのプレゼンの内容すら、決まっていないと」

 

 

 出水は思わず空を仰いだ。

 太刀川隊の隊長、太刀川慶は戦闘面に関しては尊敬の出来る人間である。ボーダー本部の本部長である忍田を師とし、目の前にいる風間やこの場にはいない迅と切磋琢磨して己の腕を磨いてきた。──そう、ここだけ切り取ればかっこいい男なのだが。

 

 残念なことに戦闘以外はてんでダメで、ボーダー本部内できなこをばらまいたり、見ての通り成績は下から数えた方が早く、Danger(デンジャー)をダンガーと呼ぶ20歳である。それ故に、二宮からは毛嫌いされている節があり、よく軽蔑の目と共に「貴様と同い年など虫唾が走る」とお言葉を貰っている場面も見かける。近々、菓子折りを渡さなくてはとは思っていたが、今の状況を見る限り菓子折りだけじゃ済まなさそうだ。

 

 

「…でも、ありがたいというかなんというか、たまたまその教授が忍田本部長と知り合いだったみたいで、太刀川さんが土下座して頼んだ結果、1日だけ待ってくれるらしいです」

 

 

 隊長の土下座話なんて聞きたくなかった。けれど土下座ひとつで提出期限を伸ばしてくれるのであれば、ありがたいものである。

 

 

「で、柚宇さんは?」

「……赤点が」

「…科目は」

「数学と、英語。後、古文らしいです」

「……古文はともかく数学と英語は必修科目じゃねぇかぁぁ」

 

 

 国近も国近で結構崖っぷちだ。高校三年生の冬間近に、必修科目を落として「留年です」は流石に笑えない。隣で正座してる太刀川ですら留年はギリギリのところでしなかったと言うのに。

 

 

「おい、出水」

 

 

 出水の名を呼ぶ静雅の声はとてつもなく冷たい声だった。勉強絡みでよく太刀川にキレている静雅を目撃することが多い出水であるが、ここまでお怒りなのは初めてだった。なんだかんだ、1ヶ月前には太刀川を拘束した上でお勉強部屋という名の太刀川専用の部屋で缶詰状態になっていたのに。12月を師走と言うように、きっと風間や静雅も忙しかったのだろう。それに彼らだって学生である。自分の課題もあるだろうに、こうやって付き合ってくれているのだ。本当に一度、太刀川は本気の謝罪と感謝をして欲しい。2人だって虐めたくて虐めているわけじゃないのだ。

 

 

「こいつ、今日を含めた4日間で防衛任務は入ってっか」

「明日だけ入ってます」

「ちっ」

 

 

 隠すことない舌打ち。静雅だけの舌打ちかと思ったが、まさかの二宮、風間、静雅の3人同時の舌打ちだった。部屋の温度が数度下がったような気がする。

 

 

「まあまあ。ここでかっかしても仕方ないだろ。とりあえず始めないと──時間が無い」

 

 

 東の鶴の一声で、隊室の雰囲気がちょっとだけ緩まった。風間が「出水」と呼ぶ裏で、静雅はとある人物に電話をかける。

 

「見てわかる通り太刀川は残念ながら防衛任務に出ている暇などない。太刀川の代わりは迅が出るらしいから、それで勘弁しろ」

「は、はい」

「それと、正月明けたら補講組のバカ共を一斉にシバく。どうせ補講対象であろう米屋にも伝えとけ」

「は、はい」

 

「あ、宇佐美? …すまん、25日俺出れなくなった。……どっかのバカがやらかしてくれた。すまん、また埋め合わせはする。玉狛の連中にも謝っといてくれ。すまん」

 

 

 この日。太刀川と高校生補講組そして──宇佐美は血の涙を流すことになる。

 

 

 

 

 

 * * *

 

「そういえば歌川はもう決めた?」

「ああ、静雅さんの誕生日プレゼントか」

 

 

 12月25日。それは世間的にはクリスマスという一大イベントで盛り上がっているが、風間隊は少し違った。歌川や菊地原からしてみればいつもお世話になっている先輩の誕生日であり、風間からしてみれば幼なじみの誕生日である。

 

 風間隊を結成してから随分と時間が経っているが、菊地原達が静雅の誕生日を知ったのは去年の冬である。それまで静雅の誕生日なんて知らなくて、不意に風間が言った「そういえば今年の誕生日プレゼントは何が欲しい」で知ったのだ。

 

 

「静雅さんって与えるだけ与えて施しは要らないって言うかなり可笑しい人でしょ」

「本人がいない場合のツンはただの悪口だぞ」

「ぼくはツンデレじゃないし、悪口なわけでもなくて事実を言ってるの」

 

 

 「何が欲しいんですか?」と問えば「アン? 要らねぇよ」と返され、これとかどうだろうと悩みに悩んだプレゼントを渡せば、倍にして何かが返ってくる。全く意味が無い。一度、誕生日プレゼントというものを検索にかけて欲しい。切実に。

 

 

「もういっその事、肩たたき券とかどう。お金かけても倍で返ってくるんだし」

「それは流石に手抜き過ぎないか…?」

「じゃあイコさん連れてこよう」

「それは嫌がらせだ」

 

 

 「めんどくさ」と立ち上がる菊地原を見て歌川は「先が長いぞ…」とため息をついた。

 

 

 

 

 * * *

 

 12月25日。それは世間的に(以下略)──。

 

 

「はあああ。何でクリスマスっつー一大イベントの日にレポートなんかしなきゃいけねぇんだよ」

「全ての現況を作った貴様が言うか」

「口を動かす前に手を動かせ。諏訪が帰ってくるまでに10枚仕上げてなかったらてめぇの頭を仕上げるぞ」

「…ガンバリマス」

 

 

 太刀川が課題を溜めていたと発覚したあの日、暇そうにしていた諏訪と巻き添えにあった堤を仲間に入れ、今は必死に太刀川の課題を終わらせようとボーダーの大人組は尽力していた。

 

 

「…つか、ドイツ語とか専攻してんじゃねぇよ!」

「カッコイイなって思っちゃったんだよなー」

 

 

 面倒という理由から太刀川が大学で専攻していたものは殆ど二宮と同じものだったが、唯一専攻が違ったドイツ語。もちろん、ドイツ語に興味がある訳でもない風間や静雅が専攻しているはずもなく、今は1から勉強をしているところである。レポート以前の話だ。

 

 二宮がコピーしてくれたノートのおかげでプレゼンの方は案外早く終わったものの、まさかこんなところに弊害が隠れているとは思わなかった。夏の課題でドイツ語のレポートが出されていなかったことも理由にあげられる。

 

 

「…燃やすか」

「おい、誰かコイツをつまみだせ」

 

 

 よく分からない字が並んでいると段々腹が立ってくるのも致し方ないことである。自分のためならまだしも、成長しない馬鹿のためにやってると思うともう単位なんてどうでもよくなってくる。

 

 諏訪が帰ってきたらライターを借りるか、なんて物騒なことを静雅が考えていると部屋の扉が3回ノックされた。

 太刀川隊の隊室は22日からほぼ缶づめ状態で使われており、事情が事情なだけに当事者や関係者以外は誰も近寄ろうとはしなかった。買い物に出ている諏訪が帰ってきたのであればノックなんてするはずもないので、きっとこの3人のどれかに何かしらの用事があって来たに違いない。ようやく参考書から逃げられる!みたいな嬉しそうな顔をした太刀川を制し、静雅は立ち上がると扉を開く。

 

 

「うわ…」

「…すごいクマですね…。ちゃんと寝れてますか?」

 

 

 やって来たのは菊地原と歌川で、ここ数日ぐっすりと眠れていない静雅の顔色を見て隠すことなく引いていた。「三輪先輩みたい」と呟く菊地原に「それは三輪先輩に失礼だろう」と歌川が突っ込む。その突っ込みがそもそも静雅に失礼なのだが、疲れていてそこまで頭が回らなかった。

 

 

「とりあえずお茶とご飯に参考書」

「どれがいいのか分からなくて片っ端から買ってきちゃいました」

「ナイス」

 

 

 食料を買いに行って30分も行方をくらましている諏訪とは段違いに気が利く後輩を見て、静雅は思わず泣きそうになった。それは静雅だけではなく、風間もだったので本当に疲れていることが伺える。

 

 

「そういえば諏訪はいつになったら帰ってくる?」

「え、諏訪さんならさっきトイレの洗面所で寝てるとこを佐鳥が発見して騒いでたけど」

 

 

 風間の問いを聞いて菊地原は数分ほど前の事を思い出す。

 静雅の誕生日プレゼントを探していた菊地原と歌川だったが、結局いい案は浮かばず「もう面倒だから本人に聞こう」と菊地原の主張の元、太刀川隊に向かうことになった。道中、差し入れを買いながら太刀川隊室に向かっていると「あ、諏訪さんじゃーん!」と佐鳥の声が聞こえ「え、寝てる!? ちょっ、諏訪さん起きて!! おーい…って倒れたぁぁ!?」と1人騒がしかったのを菊地原は知っている。関わると面倒そうだったのと、両手の差し入れが重かったので早く太刀川隊室に行きたいという心情で菊地原はそれを歌川に告げることなく、素通りした。

 

 話を聞いた歌川からおいおい助けてやれよ…みたいな目で見られる菊地原だがガン無視だ。流石にC級なら助けていたかもしれないが、発見者が佐鳥なので大丈夫だろう。多分、近くに時枝もいるし。

 

 

「まあほぼ寝なしでやってるから仕方ねぇか。…1時間経ったら回収しに行くぞ」

「俺が回収に行きます! 行きたいです!!」

「当事者が何逃げようとしてんだ。殺すぞ」

「…ガンバリマス」

 

 

 逃げる気マンマンの太刀川をー睨みした静雅は、ストレス発散のためにタバコを1本吸おうとしてやめた。そもそも、静雅は喫煙者では無いので諏訪がいないとタバコはないし、この場には未成年者が二人もいる。身体に害だな、と思った静雅は息抜きを諦め参考書をまた睨み始めた。

 

 

「あ、静雅さん誕生日プレゼント何がいいですか?」

「…誕生日プレゼント?」

 

 

 太刀川、風間、静雅の視線がカレンダーに向けられる。冒頭で話していた通り今日はクリスマスであり、それは静雅の誕生日でもあった。ああ、そういえば。と静雅は納得すると同時に尻ポケットから財布を取り出し菊地原と歌川にピン札の1万円札を渡した。

 

 

「メリクリ。それで好きなモン買えや」

「いや、こっちがプレゼント聞いてるのになんでお金渡されてるの」

「これ佐鳥と時枝な。ンで、三バカとああ三上にも渡せ」

 

 

 他にも宇佐美やら烏丸やらそういえば加古も誕生日だったなと2人に渡される金額はどんどん大きくなっていくばかり。俺は俺はと待機する太刀川には参考書を渡し勝手に1人で静雅は納得し頷く。

 

 

「国近達には後で会えっからとりあえずその分渡してきてくれや」

「普通に嫌だ。後、どれだけ大金持ち歩いてるの。しかも1人1万は流石に上げすぎ」

「安心しろ。お年玉もちゃんとくれてやる」

「いや、本当に大丈夫です!!」

「…そうだぞ静雅。こんなむき出しで渡されても困るだけだろう。ちゃんと一つ一つ個装してだな」

「…風間さんも疲れてますね。1回寝ましょうか」

 

 

 ポチ袋を探し始めた風間にそれも違うと歌川は首を横に振った。ダメだ、寝不足のせいで風間すらまともに動けていないこの状況下に2人が打ちひしがれていると救世主が現れた。

 

 

「邪魔だどけ」

「「二宮さん…!!」」

「…どうした?」

 

 

 何やら物を探し始めている風間に何故か金と参考書を見比べている静雅。それを見て笑っている太刀川に大金を持って困惑している菊地原と歌川。傍から見たら完全にカオスで流石の二宮も困惑した表情を見せた。しかし、菊地原と歌川から事情を聞くと、一瞬機嫌の悪そうなオーラを出し…呆れた表情に変わった。

 

 

「流石にそこの2人は寝かせる。この後は東さんも来てくれる手筈になっているからな。短時間ではあるが寝れるだろう」

「あそこまで壊れてると流石に休憩挟まないと使い物にならないし妥当な判断ですよ」

「…本当に休める時に休んで欲しい」

 

 

 「何か手伝えることはありませんか」と進言してくれる歌川に二宮は断りを入れるといつまでも笑い転げている太刀川を蹴り、仰向けになった太刀川の腹を踏む。

 

 

「…貴様は一度痛い目に遭わないと気が済まないと受け取っていいか?」

「すみません調子に乗りました」

「貴様に笑っている猶予はあるのか?」

「ありません」

「何故この2人がこんな現状に至っているのか、分かるよな?」

「全ては自分の責任であります」

「 大 概 に し ろ 」

「ごめんなさい」

 

 

 流石に命の危険を悟った太刀川も机に向かうことになり、それを見ていた菊地原と歌川は慣れてるなと思った。どことなく静雅に似ているような気もするが、本調子の静雅の方が怖いような気もする。時々静雅が「生身の人間をトリガーで攻撃しても死ぬほど痛いけど死なねェってありがたいよな」とガチな目で呟いているので、多分何回か太刀川は行動に移されているのだろう。自業自得なので静雅を批難することは出来ないし、するつもりもない。

 

 二宮に命令され、菊地原と歌川は静雅と風間を上手く風間隊の隊室まで誘導し、仮眠させる。とりあえずこの大金は静雅の財布に戻そうと相談の元、静雅の財布の中に直し、2人は改めて買出しに出かけた。せめて食事は身体にいいものをとって欲しいと油控えめに選んだのは優しさである。

 

 

 後日、本件に関わっていたボーダー隊員全然に忍田本部長から一斉メールが送信された。大まかな内容は手伝ってくれてありがとう、太刀川の単位はギリギリ大丈夫でした。というもので、少しばかりではあるがポイントが加算され、お小遣いも貰えた。

 そして静雅と関係の深い年下組はクリスマスプレゼントという名の諭吉が配られる。

 

 

「静雅さん、お金なんて要らないからデートしよう!!」

「お、おう…?」

 

 

 クリスマスパーティをドタキャンしたせいか約1ヶ月程、宇佐美の押しが強かったように感じた静雅だがちゃんと付き合ってあげた模様。尚、恋に関しては一切の進展がなかったことだけ記述させて頂く。

 

 

 

 

 

 




 
烏丸「そう言えば菊地原が言ってたんですけど、静雅さんクリスマスが誕生日なんですね」
宇佐美「…え? 何それ初耳なんだけど…」
烏丸「…残念ながら嘘じゃありません」

 こんな感じで静雅の誕生日を知った宇佐美はこの後鬼電すると思う。



 加古さん、静雅、誕生日おめでとう!! 加古さん出してあげられなくてごめんなさい…。

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