影浦雅人の『兄貴』   作:瑠威

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約7ヶ月更新を止め、気がつけば初投稿から1年が経っていました。お久しぶりです。作者、生きてました。


第一次近界民侵攻
第11話


 

 ついこの前まで「高校入学おめでとう」だとか「単位落とすなよ」とかザワザワと周りが煩かったのに。

 

 

「ンだよ、これ…」

 

 

 数秒前までは騒がしかった町が一瞬で阿鼻叫喚と化した。突然現れたよく分からない白い物体は家を壊し、人を襲う。襲う者に例外はおらず、唖然としていた静雅をターゲットにしたようで、気持ちの悪い動きをしながら静雅を追いかけ回した。

 

 

「おい、一体何がどうなってンだよ!!」

 

 

 勢いで一番上に来ていた連絡先、風間蒼也に電話をかけるが通話中になっており、繋がることはなかった。両親にもかけようと思ったが、今はそんなチンたら出来るほど静雅も余裕は無かった。

 

 一瞬、戦うという選択肢もあった。しかし、静雅は利口な男である。勝ち目のない戦いを、それも命をかけてまでやることは無いと理解していた。だから逃げる。化け物から逃れる為、足がもつれようと、転ぼうと足を進める。初めて自分のあの無駄な力が役に立った。頭をフル回転して逃げ道を探すが、何処も彼処もバケモノだらけ。逃げ道はほとんど無いと思って間違いないだろう。必死に足を進めるが、現実とは残酷なもので静雅の足を進めた先は行き止まりだった。

 

 

「…ちっ」

 

 

 静雅は終わりだと思った。生を受けて2度目、実に呆気ない最後だったと思う。もっと雅人の成長を見たかった、大学生活を就職生活を送ってみたかった。昔とは違うたくさんの願い。あの時の呆気ない終わりがまた繰り返されると思うと凄く寂しくて怖い。

 

 白いバケモノは大きく腕のようなものを振りかぶった。それで静雅を殺す気なのだろう。静雅は大人しく目を瞑る。どうにか反撃したところで、一抹どころか勝てる見込みがない。一撃入れられる未来すら見えないし、明らかに硬い装甲である。足元に落ちていた石どころか自分の拳は効かないだろう。抗うだけ無駄だ。

 

 

「……」

 

 

 しかし、待てど暮らせど痛みはやってこない。恐る恐る目を開けると、そこには見慣れた背中があった。

 

 

「ヒーローは遅れて登場、か。助けに来たぞ静雅」

 

 

 見慣れないジャージに身を包んだ彼は──風間蒼也の実の兄、進だった。好戦的な笑みを浮かべている進に蒼也の面影は見えない。

 進は大きく腕を振りかぶる。それだけで目の前のバケモノは大きな一閃で消えていく。

 

 

 

「進、さん…?」

 

 

 静雅が喧嘩をした時、優しく諭す進の姿とはまた違う一面を見て静雅は絶句する。しかし、そんなことは知ったこっちゃないと進は静雅に手を差し出し、その手を引いた。

 

 

 

「ここで止まっても事態は悪化するだけだ。話しながら行くぞ」

 

 

 どうやら進はこのバケモノについてよく()()()()()らしい。

 

 比較的、静雅は物分りがいい方である。客観的に進は思った。『近界民(ネイバー)』だ『バムスター』だと意味のわからない固有名詞を出されてもなお、今の状況を飲み込もうと必死に頭を動かしている。

 

 

「…つまり、そのネイバーってヤツが俺たちを襲ってンのか」

「大まかに言うとな」

「ちっ、めんどくせぇ…」

 

 

 わかっているだけでも既に東三門市はほぼ壊滅状態。ギリギリを保っているが、それがいつまで保てるかは分からない逼迫とした状況の中、じゃあ東三門市以外なら大丈夫なのかという訳でもない。三門市全体は『近界民』の攻撃によって機能出来ている機関はほとんどとない。この侵攻が()()()()()ボーダーが必死に食い止めてはいるものの、それでもまだ数に圧倒されている。ボーダーも人間の組織だ。神じゃない。全ての人を救える訳では無かった。

 

 

「…蒼也は」

「大丈夫だ。アイツはもう避難しているよ。俺の知り合いじゃお前がドベだ」

「…けっ」

 

 

 なんだかんだ弟を心配してくれている静雅を見て進は笑みを漏らす。こんな時に非常識だとは思うが仕方ない。だって進はもうすぐ()()()()()()のだから。

 

 

『進さん』

 

 

 不安気な面立ちで進を呼び止めたのは進の同僚である小さな少年だった。進よりも小さなその身体で、大きな世界の運命を背負ってしまっている彼を彼の師匠と同じぐらい進は気にかけていた。きっと彼が蒼也と同じぐらいの年頃だったから、重ねてしまっていたのだろう。

 

 

『行ったら…死んじゃうよ』

 

 

 死ぬことは怖いことだ。大好きな弟の成長が見守れないし、弟の友がどんどん人間らしくなっていく姿に立ち会えもしない。美味しいお好み焼きも食べられなくなってしまうし、欲を言うのなら大人しい弟の反抗期を見てみたかった。だからといって、それが進を止める理由にはならなかった。

 

 死ぬことは怖いことだ。でも、自分一人の命で弟が、家族が、救えるのなら。それは安い対価だと進は言った。

 

 

『俺の命で誰かが救けられるのなら、俺は行くよ。お前の『副作用(サイドエフェクト)』はなんて言ってる、迅?』

『…影浦、静雅って人が救けられる。おれの『副作用(サイドエフェクト)』がそう言ってる』

『なら、行かなくちゃな。静雅にはいつも蒼也が世話になってる』

 

 

 数時間前のことを思い出して進は微笑んだ。何となく、もう死ぬことはわかっている。静雅には伝えていないが、後ろには『近界民(ネイバー)』がうじゃうじゃといた。きっと、静雅のトリオン量がそこそこ多いからどうしても攫いたいのだろう。

 

 

「静雅。この先にシェルターがある。そこまで後ろを振り向かず走れ」

「おい、進さんは…?」

「俺にはまだやることがある。先に行ってくれ」

 

 

 不安がる静雅に進は「大丈夫だ」と肩に手を置いた。

 

 

「さあ、走れ」

 

 

 静雅の肩から背中へ手を置き、思いっきりその背中を押す。押された勢いで一歩、二歩と歩き出した静雅は走り出す。

 

 

「そう。それでいいんだ」

 

 

 一言、そう呟いた進は走り出した静雅の背から視線を移した。後ろを向き、静雅から進に標的を変えた『近界民』を睨む。

 

 

「さあ、戦争を始めよう。『近界民』」

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