第12話
静雅が進の訃報を聞いたのは第一次近界民侵攻が終結した二日後のことだった。近界民のせいで三門市は全滅と言っても可笑しくない状況下で、そんな時に学校が開校される訳もなく。家も店もボロボロにされた静雅は大人しくシェルターで身を潜めていた。戦いが終結されたとはいえ、まだ外には出るなと口酸っぱく言われていた静雅と蒼也だったが、慕っていた兄が死んだと聞いて気分を紛らわせたく、こっそりシェルターから抜け出し外に出ていた。
「…泣かねぇのかよ」
静雅がシェルターに逃げ込んでからはずっと蒼也と行動を共にしていた。静雅以外の家族がたまたま祖母の家に帰省していていなかったこともあったし、気の合わない人間といつ静雅が喧嘩し始めるか蒼也が気が気ではなかったのも理由のひとつだった。
どれぐらいシェルターの中にこもっていたのか分からない。それほど長く感じていたし、あっという間にも感じた。久しぶりに当たる外の風はぐちゃぐちゃな蒼也の思考をクリーンにしてくれる。
訃報を聞いても一度も泣かない蒼也を見て静雅は心配していた。静雅よりも進を慕っていたのは当たり前だし、静雅だってこっそり1人で泣いた。目を腫らして泣いたし自責の念だってある。あそこで進と別れなければと何度も後悔した。
だが、進が死んでから一度も蒼也は泣いていない。進の訃報を聞いた時、真っ先に泣いたのは蒼也の両親だった。そんな悲しみに暮れている両親の背を見て、蒼也はずっと2人の背を撫でていた。
「泣ける時に泣かないと後悔する」これは静雅の持論である。人間は良い意味でも悪い意味でも忘れる人間である。進が死んで悲しいと思っているうちに泣かなければ、きっと悲しいと思ってしまった気持ちすら忘れてしまう。そんな兄不幸なと思うかもしれないがこれは事実である。有名人の訃報を聞いて悲しむ者はいるだろう。しかし、その悲しさも持って1週間。それを超えれば『死んだ』という事実を受け入れ、悲しまなくなる。
「ここにはテメェの親はいねぇよ」
「…そうだな」
「俺も、何も見ちゃいねぇ」
「…そうか」
「ああ。…だから自分が後悔しない選択をしろ」
静雅は蒼也に「泣け」と命令はしなかった。それを選択するのはあくまで蒼也自身である。静雅が強要するようなことじゃない。
だが、敢えて強く痛いと思うように蒼也の背中を叩いた。それは静雅なりの配慮だった。
「うっ…うぅ……」
隣から嗚咽が聞こえてくるが全て静雅は聞こえないフリをした。それが男の約束である。
「なぁ蒼也」
「っ…」
「俺、ボーダーに入るぜ」
前々から進にボーダーの話は聞いていた。どんな活動をしているのかなどはあまり話してくれなかったが、俺たちと同じ年頃の少年がいるだとか、眼鏡をかけた師匠がいるだとか。それは何気ない日常の話。
近界民を恨んでいるのか、そう問われたのなら「ああ」としか答えようがない。が、近界民に復讐するために静雅はボーダーに入る訳では無い。
「俺は思ったよ。つくづく無力だってな」
言い方は悪いが、進だからこれで済んでいると言っても過言じゃなかった。死んだのが進じゃなくて、雅人や兄だったら静雅はどうなっていただろうか。…きっと壊れていたに違いない。
「力のある者が強者。この理はどうやっても崩れねぇ。じゃあ、俺は力を手に入れてみせる」
「…」
「最低限の奴らを護れるよう力をつける。その為に俺はボーダーに入る。……蒼也、テメェはどうする」
外に出て一度も蒼也を瞳に移さなかった静雅が初めて蒼也を見た。蒼也はいつの間にか泣き終えていて、涙の跡はくっきりあるものの、顔は晴れやかな顔をしていた。
「…愚問だな。俺もボーダーに入るさ。俺だって護りたいものの一つや二つある」
「はっ、そう来なくちゃな」
「ああ。次は…俺達が護る番だ」
立ち上がった蒼也を見て静雅ははっと鼻で笑う。
「そう言うことを言う奴ほど早々に死んでいくセオリーなんだよ。雑魚だな」
「じゃあ静雅の位置はかませ犬ポジションか。大変だな」
「ああん!?」
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