影浦雅人の『兄貴』   作:瑠威

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13話の伏線回収出来て良かった…


第15話

 

「菊地原」

「…分かってますよ、風間さん」

 

 

 風間にズルズルと引き摺られ、いつの間にかいつしかの自販機前の休憩場所にいた。咎めるような言葉とは裏腹に微糖のコーヒーを渡してくれる辺り、菊地原だけを責めるつもりはないのだろう。

 

 

「風間さん」

「なんだ」

「…静雅さんは何も、悪くないんです」

 

 

 菊地原はコーヒー缶をぎゅっと握りしめ、俯きそう言う。菊地原の言葉を聞いて「どうしてそう思う」と風間は菊地原に問う。実際問題、静雅が何も悪くないとは言いきれない。協調性のない静雅にも問題があるし、連携を取ろうとしない2人にも問題があった。

 

 

「ぼくが…弱いから」

 

 

 「連携を取ろうとしない」これは間違いだった。それを理解しているから、風間もそこまで責めないし、責めるつもりもない。

 

 静雅の個人レベルとしては、ボーダーの中でも上位に入る実力を持つ。それは隊長である風間もだ。しかし、つい最近B級に昇格した菊地原や歌川は違う。新人の中では上級に入るだろうが、静雅達と比べると差は歴然だ。

 

 連携を取ろうとしないのでは無く、連携が取れない。これが答えである。それはどうしてか、簡単な話だ。静雅単体のスペックが高すぎるのだ。その為、菊地原や歌川に対しての要求も大きくなる。長年静雅のバディを務めていた風間がその要求を呑んできたので静雅の中では「出来て当たり前」だと思っている。個人としては強いが部隊としては足を引っ張ってしまっていた。

 

 

「確かに、力が足りていない節はある。が、それは仕方ない。それを込みで戦術を作っているつもりだ」

「…はい」

「問題は連携の練習をしようとしてもそれが出来ていないことだ」

「それは…」

 

 

 萎れた顔から途端に口を尖らせる菊地原。それとこれとは違うと言いたそうな顔である。

 

 

「アイツはああ見えて単純だ。何をそんなに嫌う」

「…確かに実力が追いついていないぼくも悪いです。でも、だからといってそれが「合わせなくていい」という理由にはならないでしょ。あの人は自分を軸に考えすぎ」

 

 

 個々の力が強大でも、連携が出来なければいつかは落とされると理解している風間は連携重視の戦法で戦術を練っていた。しかし、風間は兎も角、歌川と菊地原は力の差が激しく、連携するには、静雅と風間が菊地原達に合わせてあげなくてはいけない。それをしない静雅は連携以前の話だ。実力だとかそういうのを全て置いた話である。

 

 

「…ボーダーに入る前までは他人と関わりを持とうとしてこなかったからな。急に連携を意識しろと言われても難しい話ではある」

「風間さんはすぐそうやって静雅さんの肩を持つ」

「別にそういうわけじゃないが…」

「兎に角、連携云々の話はぼく1人じゃどうにも出来ませんから」

 

 

 「コーヒーご馳走様でした」そういって逃げるように去っていった菊地原を見て、風間は静かにため息をついた。

 

 

 

 * * *

 

「にしても静雅さんの戦い方今回は一段と凄かったんだって?」

 

 

 ボリボリと遠慮なく迅のぼんち揚をつまみながら太刀川は言った。残念なことに太刀川は、大学の単位を理由に風間隊のランク戦を見に行くことが出来ず、噂話程度にしか聞けていない。

 

 

「忍田さんがカンカンなんだろ?」

「あれは結構怒ってたね。高校時代の太刀川さんが単位1個落とした時ぐらい」

 

 

 あの時は必須科目じゃない単位だったから太刀川は何とか生き残れた。が、兎に角学業がダメだった太刀川を叱ったあの時の忍田の顔は今思い出しても震える。そしてその後、静雅と風間による鬼の缶詰め生活が始まった。あれもあれで地獄だったと後に太刀川は語る。

 

 

「うわ〜、それはやべえ。下手すれば殺されるぞ」

「今も五体満足で太刀川さんが生きてるんだから静雅さんもきっと大丈夫だよ」

「あれは俺だから生きてこられた。うん」

「いやいや、頭の出来で言うなら静雅さんの方が凄いから。機転きかして帰ってくるよ」

 

 

 ボリボリとそんな他愛もない話で花を咲かせていると、噂していた本人がやって来た。それを目敏く太刀川が見つける。

 

 

「あ、静雅さんだ」

「ほら、無事に生きて帰ってこれたみたいで」

「…これのどこが無事に見えンだよ」

 

 

 静雅の両手には大量の本があった。どんな本か気になった太刀川が一番上の本を手に取る。

 

 

「「仲間が如何に大事か知ろう」…なんだこの本?」

「お前には仲間の重要性が分かってないと愚痴愚痴言われてよ。ンでもって、忍田の嫁が慌てて俺の為に買ってきたんだと」

「忍田の嫁て…」

 

 

 静雅の言う「忍田の嫁」とは補佐官である沢村響子だ。沢村は忍田に恋心を抱いているので嫁と呼んでいる。ここで勘違いしてはいけないのが、忍田と沢村は決して恋仲ではないということ。…と、そんなことは置いておいて、きっとどこかで沢村も静雅のランク戦を見ていたのだろう。息を切らしてその手の本を買い漁ってきた姿を見て静雅はそう推測つけた。

 

 

「沢村さんを忍田さんの嫁だと言えるのは静雅さんぐらいだよ」

「それを本人に言ったらそれこそ殺されるだろ…」

「号泣されたな」

「え、既に泣かせてんの…?」

 

 

 長年忍田に思いを馳せている沢村は、それはもう周りから見えてもあからさまだった。他人の感情に疎い静雅でも分かる程だ。逆に静雅ですら気づくあのアピールで気づかない忍田が凄い。そういう面ではある意味静雅は尊敬していた。

 

 

「だが、付き合うにしろ玉砕するにしろ、沢村にとってそれは早ければ早い方がいいだろ」

「…玉砕はちょっと、うん…ダメだけどね」

「沢村は曲がりなりにも女だ。子供を産むだとかそういうのを考えるなら結婚は早い方がいい。高齢になればなるほど母体の沢村や胎児にも危険が及ぶようになってくる。それを懇切丁寧に説明してやったら、急に泣き始めてよ…」

「沢村さんが泣くってよっぽどだよな」

「その場には忍田の野郎いなかったのに、沢村が泣き始めた途端現れやがってよ。…ンだよセコムするぐらいならもうくっついちまえよ」

 

 

 静雅は静雅なりに沢村のことを考えた結果だったのだが…沢村から言わせてみれば余計なお世話である。

 

 

「それからだ。アイツは俺に対してアタリが強くなった」

「うん、おれが言うのもなんだけど静雅さんはもうちょっと女心を勉強してきた方がいい」

「ア? セクハラ野郎に言われたかねェな」

 

 

 トリオン体なので、両手の本の重みは感じないが精神的に疲れてきたので静雅はそれを地面に置く。このままここに放置もアリだと感じている。

 

 

「で、結局どうするの?」

「…何がだよ」

「連携だよ。菊地原と連携するにしろ歌川にしろ、静雅さんだって分かってるんでしょ?」

 

 

 急に話が元に戻った。静雅は顔を歪ませ、サラサラストレートをガシガシと掻いた。

 

 

「静雅さんと風間さんのタッグが凄かっただけにな…あの二人にも同等の力を望んちまうのは分かるが…それは酷だろ」

 

 

 太刀川の言葉を聞いて静雅は舌打ちをひとつするだけで、反論はしなかった。そんな静雅を見て迅は苦笑いを浮かべる。

 静雅だってそんなことは分かっている。だからあの時、無理矢理にも菊地原をベイルアウトさせて、相手に点を入らないよう対策した後、自分を動きやすくし三輪と荒船を落としたのだから。

 

 

「…いっその事、ポジション変えるのはどうだ?」

 

 

 太刀川が手をポンと叩き名案だと言うように言った。静雅と迅の視線が太刀川に集まる。

 

 

「静雅さんはサイドエフェクトがあるだろ? それを有効活用してよ、狙撃手(スナイパー)に転向するんだよ。狙撃手(スナイパー)殺しの狙撃手(スナイパー)、俺これ結構アリだと思うけど」

「おお、確かにそれはいい。練習さえ積み重ねれば静雅さんの場合、サイドエフェクト使えば壁抜きだって簡単に出来るだろうし、何より攻撃手(アタッカー)の時より連携がシビアじゃない。全ては静雅さんのセンスと技量にかかってるわけだし」

「……」

「試す価値はアリ、だな」

 

 

 顎に手を置き、考え込む静雅。それを見た太刀川と迅はニヤニヤと笑っている。

 

 

「試し打ちなら手伝いますよ?」

「ようやく静雅さんをボコボコにする日が来たか」

「…ほう、いい度胸だ。ド(タマ)ぶち抜いてやる」

 

 

 すっかり忍田達から無理矢理持たされた本の存在を忘れ、太刀川隊の隊室に向かう3人。数十分後、忍田からの鬼電が静雅を襲いまた怒られるのは別の話──。




 
静雅と迅が模擬戦中時
国近「そういえば太刀川さんアタッカーランキング変動して1位になったよ〜。おめでとー」
太刀川「え、なんで」
烏丸「あー、それ静雅さんがあのランク戦で菊地原先輩の首撥ねちゃったからっすね。それで結構減点食らっちゃったんですよ」
太刀川「おいおいマジか…。出来れば自力で1位の座を奪い取りたかったが…」
烏丸「…あれを見ると暫くは静雅さんアタッカーやるつもりないみたいっすけどね」
太刀川「だよなぁ……」

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