影浦雅人の『兄貴』   作:瑠威

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堤は証言する。
「静雅さん…あの人は人間じゃない」と…。


第17話

 

 堤大地が所属している諏訪隊の隊長、諏訪洸太郎は面倒見のいい人物である。諏訪も一枚噛んでいたとはいえ、サイドエフェクト酔いをした影浦静雅を引き摺って隊室に連れてきた場面を見て改めて堤はそう思った。

 

 

「ちょっとトチってんけど、悪いヤツじゃねぇからまあ、仲良くしてやれや」

 

 

 静雅はボーダー内でもどちらかと言えば古株の部類に入る。しかし、堤と静雅は特に話したことはなかった。諏訪と同い年で、ちょくちょく飲みに行っていたりするのは知っていたが、率先して関わりに行こうと思えるタイプでもなかったし、相手がそういうのを嫌いそうだったので自重していた。

 

 そんな堤の思いを汲み取ってか、少し心配そうに静雅の顔を見る諏訪を見て、堤は仲良くしないという選択肢がなかった。

 

 

「静雅さんはこれからどうするんですか?」

 

 

 気がつけば諏訪は隊室から姿を消しており、静雅もある程度元気になったと言うので、この後の日程を聞いた。時間も時間だし、お昼ご飯を食べに行くのなら一緒に誘うつもりだったのだ。

 

 最初は「影浦さん」と呼んだのだが、本人に却下された。理由はボーダーに弟も所属しているため、苗字だと区別がつかないから、だそうだ。道理でボーダーの人間は静雅のことを名前で呼ぶんだな、と思ったのは余談である。

 

 

「腹減ったし、飯食いに行く。…世話になったかんな、テメェも奢る」

「え、いいですよ!!」

「遠慮すんな。…ついでに諏訪も呼べ」

 

 

 「アイツにも世話になった」と言う静雅。勝手な思い込みでワイワイするのは嫌いだと思っていたが、どうやらそういう訳では無いらしい。後でこっそり諏訪さんに聞いとくかと思いながら、携帯を操作する。

 

 あと一歩、あと一歩堤が携帯を操作するのが早ければ、自分の行動の遅さながらに堤は後に後悔することになる。何故なら──。

 

 

「あら、静雅さんと堤くんじゃない」

「ア? ンだよ、加古か」

「……加古ちゃん」

 

 

 綺麗に手入れされているであろう髪を揺らしながら現れたのは加古望。元A級 東隊に所属していたが、今はソロで活動している人物である。

 

 そんな加古に会い、堤は顔を真っ青にさせた。いや、別に堤が加古のことを嫌っている訳では無い。容姿は綺麗だし、加古のようなスラッとした体型を嫌う男性はいないだろう。ただ、ちょっと、少し、ほんのちょびっと、彼女にトラウマがあるだけで…。

 

 

「これからご飯でも食べに行くの?」

 

 

 アクセサリーとしてつけていたのかは知らないが腕につけていた時計を見て加古は時間を確認していた。それを見て、堤はまずいと思う。その質問に答えちゃダメだ。地獄を見ることになる!!

 

 

「ンだよ。飯食いに行っちゃいけねぇのか」

「ふふふ、いいえ。ただ丁度良かったと思って」

「…丁度いい? おい、何企んでやがる」

「企んでなんかないわ。ただ、どこに食べに行くか決まっていないのなら、私が作りたいと思って」

 

 

 やっぱりと堤は頭を抱えた。

 加古望、彼女は炒飯を作ることを趣味としている。妖艶な彼女が作る炒飯、偏見で美味しいだろうと思ったのが最後。「チョコミント炒飯」で一度死に、頼んでもないお代わりで出て来た「蜂蜜ししゃも炒飯」でまた死んだ。兎に角、彼女自身は何も悪くないのだが、好奇心が堤を殺しに来ているのだ。

 

 

「さっきたまたま桐絵ちゃんにあってね? 最近、炒飯作れてないって言ったら、今日は玉狛に迅さんしかいないから台所使っていいわよって」

「玉狛まで食いに行くのかよ」

「ちょっと場所は遠いけど、飛びっきりのをご馳走するわ」

 

 

 「2人とも防衛任務は入っていないでしょう?」と笑う加古を見て堤は悟った。あ、これは逃げられないやつだ…と。

 

 

「交通手段なら任せて。私が運転するわ。この前、免許取ったのよ」

「車は?」

「東さんのを借りるわ」

「……わーった、早く行くぞ」

 

 

 ガシガシと綺麗な髪を掻き毟った静雅の顔は大して嫌そうな顔には見えなかった。加古の驚異的な炒飯を知らないのか、はたまた運がよく2割を引いて来なかったのかは堤には分からない。分かることといえばただ一つ。自分は死ぬということ。

 

 

「良かったわ♪ 買った材料が無駄にならなくて」

 

 

 買った食材と聞いて堤は気づいた。どう転んでもこの人は俺たちに炒飯を食べさせる気だったと。ご丁寧に食材まで用意して逃げ道を塞いで来ている。やばい、殺る気だ。

 

 さあ、早く行きましょうと軽い足取りで加古は静雅達の先導をした。

 

 加古の運転の元、玉狛支部へと向かった3人。静雅の数少ない連絡帳に名を刻んでいる迅から「おれ今急用で玉狛に居ないから勝手に入っちゃっていいよ」との連絡があった。堤は迅が逃げたことにより確実に死に近づいていることを悟り、気づかれないよう泣いた。

 

 玉狛に着くと真っ先にテーブルに案内され、「出来上がるまでこっち覗いちゃダメよ」と遠回しの死の宣告を受け、数十分。ニコニコとした顔をした加古が現れた。

 

 

「堤くんにはこれ。静雅さんはこれを食べてちょうだい」

 

 

 堤の前に出された炒飯は基本的に黄色で統一されたものだった。見た目は案外美味しそうで、まさかの初めてのアタリを引いてしまったかもしれないと、戦慄する。逆に、静雅の前には赤…いや、緑の炒飯とは言えない物体が出されていた。それを思わず凝視してしまっている静雅も「これ、食いモンか…?」と呟いてしまっている。心中お察しします。

 

 

「ささ、早く食べて感想教えてちょうだい」

「「…いただきます」」

 

 

 1口食べただけで堤に稲妻のような痛みが身体を襲った。基本的に黄色で統一してあるが、味に統一感は全くなく、甘いような、しょっぱいような、ネチョネチョしてるような、ぐちゃぐちゃしているような、なんとも形容できないこれを炒飯とは呼べない。

 

 

「…加古ちゃん、これ何入れた…?」

「ふふ、それはね? マーマレードに卵、みかんの缶詰(中のシロップ含む)にたくわんでしょ? 後はね」

「──いえ、もう、結構です」

 

 

 少なくともみかんの缶詰の中のシロップは入れないでくれ。そんな堤の悲痛な叫びは加古には届かない。対して、静雅は意外とガツガツと食べていた。見た目は明らかなゲテモノなのに、食べてみると意外と美味しい系なのだろうか?

 

 

「あら、静雅さんの方も気になるの? 静雅さんの方は堤くんとは違ってシンプルなの。抹茶、キムチ、卵よ」

 

 

 ──絶対合わせちゃいけないやつだ!!

 堤は思わず静雅を二度見してしまう。が、静雅に無理している様子はなく、本当に普通に食べている。

 

 

「ンだよ」

「い、いえ…」

 

 

 堤の視線が鬱陶しく感じたのかガンつけてくる静雅。堤は静かに首を横に振った。

 

 

「どう? 静雅さん美味しい?」

「美味しくはねェ。まあ、食えなくはねぇけど」

 

 

 ──食べられるだけで凄いです

 ここに仲間はいなかった。静かに天を仰ぐ堤を見て、何を思ったのか静雅はそれを寄越せと言ってきた!堤はえ?と首を傾げる。

 

 

「だからそれ寄越せつってンだよ!」

「いや、でも…」

 

 

 静雅だって明らかなゲテモノを食している。それを二杯目だなんて自殺しに行くことと同意義だ。そんなことはさせられない。堤はよく知っていた。炒飯二杯目の恐ろしさを。今でも目を瞑ればフラッシュバックするほど、恐ろしく、悲しく、冷たく、死を感じた。

 

 

「俺は腹減ってンだ」

 

 

 あらあらと加古は嬉しそうに笑った。静雅は堤の手から炒飯を取り上げると、ガツガツと口の中へ入れていく。瞬く間になくなっていく炒飯を見て堤は顔を青くした。

 

 

「し、静雅さん…」

「別に大丈夫だ。死なねーよ」

 

 

 予想以上に静雅はケロッとしていた。言葉通り本当に大丈夫そうである。静雅さん一体何者…と震えている間に加古は堤の分の炒飯を作り直そうとしていたので、静雅がやんわり止めていた。

 

 

「堤ハラ痛てーんだってよ」

「堤くんお腹壊してたの? …だから中々炒飯を食べる手も進まなかったのね」

 

 

 自分の中にいる恐怖心と戦っていただけなのだが、利口な堤はそれを口にしない。折角、静雅が平らげてくれた炒飯がまた目の前に舞い戻るなんて悪夢は見たくない。許して欲しい。切実に。

 

 

「どう? 美味しかったかしら?」

「ま、どっちもどっち。不味いな」

「…そう。もっと私も頑張らなくちゃね」

「ああ、せめて食欲がわくモン提供しろ」

 

 

 目的の昼飯を食べ終えた3人に玉狛に残る理由はない。あまり長居してもあれだから、と早々に帰って行く3人。静雅は実家の店番があるからと途中下車し、加古はこのままボーダーに向かってもいいのかと堤に問うた。堤は大きく首を縦に振り、なる早でボーダーに向かって欲しいと言う旨を加古に伝える。

 こうして加古の運転でボーダーに帰ってきた堤はある人物を探し出した。

 

 

「迅!! 静雅さんって、本当に、本当に凄い人だ!!!」

「…あ、そっちの未来行ったのね?」

 

 

 ボーダーの食堂で陽太郎と昼食を摂っていた迅の肩を鷲掴み、一人ペラペラと今日あった出来事を堤は話す。

 

 

「静雅さんはサラッと俺の分の劇物まで食べたんだ!!」

「静雅さんって取り敢えず食べれれば満足する人だから」

「口は悪かったけど!! 俺の未来まで助けようとしてくれた!!!! というか実際助けられた!!!」

「あ、うん。分かったから取り敢えずおち」

「でも、アレを連続して食べれるなんて俺ちょっと心配なんだよなぁ。帰り道倒れたりとか」

「──あ、諏訪さん? ちょっと堤を回収して欲しいんだけど。え、無理? 風間さん寄越す? あ、了解しました。なる早でお願いします」




 

Q.玉狛が留守って、メンバーのみんなはどこに居たの?
 A.小南は綾辻の家で女子会をする予定なので、本部で暇つぶし。レイジさんは防衛任務、林藤支部長は本部で会議中、迅さんは陽太郎を連れ逃亡。

Q.どうして玉狛なの?
 A.加古さんや黒江はファンブックを見れば大体の入隊時が分かるが、他のメンバーは分からないため、隊を作っているのか不明。その為、ソロにしたら「あれ、ソロにしたら隊室なくね?」と気づき書き直すのもぶっちゃけ面倒だった為無理矢理ねじ込みました。

Q.加古さんは炒飯を元々から作る気で居たの?
 A.YES。そもそもは家で作るつもりだったが、小南から玉狛に今日は人がいないと聞き、運がいいことに堤という名の被害者を見つけたので、何がなんでも作るつもりだった。

Q.炒飯を食べた後、静雅の身体に異変はあった?
 A.特になかった。基本的に不味くても食べ物だったら全て完食するのがモットーに加え、味のストライクゾーンが広く、銀魂のダークマター程のゲテモノが現れない限りは、生きられる。

Q.迅の見てた未来にはどんなのがあったの?
 A.堤、静雅、そして諏訪が巻き込まれていた未来や、加古がもう少し来るのが遅かったら太刀川も合流しており、太刀川も死ぬ未来があった。他にも風間が合流してキノコカレー炒飯でアタリを引く未来もあった。ちなみに堤と静雅は1週間前から炒飯を食べる未来が確定していた。

Q.なんで最近更新速度上がってるの?
 久しぶりに投稿したら反響があったことや、ネタが思いつくから。久しぶりにアニメ見直して「イコさんかっけぇ!! それより隠岐くんの方がイケメンや!!!」とテンションが爆上がりなため。元々は風間さんやカゲ推しだったけど今は完全に生駒隊推し。どうにかして隠岐落ちの小説を作れないか模索中。


 感想をくれる皆様、本当にありがとうございます! 返信は遅いかもしれませんが、いつも噛み締めて読ませて頂いております!! 少なくとも更新が続いているのは生駒隊効果だけではなく、感想をくれた皆様のおかげでもあります!!
 これからも可笑しな点があれば(優しく)教えてください。見捨てないで頂けるとありがたいです!!!

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