結論から言うと今期のランク戦、風間隊は惨敗だった。しかし、この負けはただの負けではない。少なくとも、静雅はレベルアップしたと思っている。
「…本当にアタッカーやめちゃうんですか」
太刀川や迅に手伝ってもらい、スナイパーとしての実力をつけた静雅。まだ東のように上手くはいかないが、我流でここまで行けるのは中々だと太刀川達に褒められた。ちなみに誰かに師事されるつもりは無い。静雅のプライドに関わる問題だ。
「菊地原、何気にしてんだ」
今期のランク戦で静雅はスナイパーを解禁しなかった。まだまだ修行中だったこともあったし、そんなに急ぐ必要も無いという風間の判断だったからだ。
静雅がスナイパーに転向する意を伝え、一番驚き狼狽えたのは菊地原だった。静雅が妄想してた菊地原は「当たり前ですよ。連携ひとつ取れないんだから」とか「スナイパーに転向? ぼくの頭狙わないで下さいよ」みたいな嫌味を言われると思っていたのだが、どうやら何か菊地原のことを勘違いしていたのかもしれない。改めて認識しなおさなくちゃな、と密かに思った。
「だって、ぼくのせいでしょ。静雅さんが…アタッカーやめちゃうの」
「はあ? 誰がンなこと言ったよ」
「ぼくの実力が足りないから。風間さんみたく強くないから、だから…」
いつもはネチネチネチネチとうるさいのに、今日に限ってはどうやら違うらしい。いや、ある意味ネチネチネチネチとうるさい。なんだ、病んでるのか。もし病んでるのなら俺を巻き込まないで欲しいと静雅は思った。
「お前、どのタイミングでもうぜぇな」
「なっ…! うざいって」
「被害妄想も大概にしとけ。また胴体とおさらばしたいンか」
くしゃくしゃと菊地原の頭を静雅は撫でる。きっといつもだったら「やめて下さいよ。髪がボサボサになる」とか言ってくるのだろうが、病み期(仮)の菊地原では大人しく撫でられるだけだった。何となく中々懐かない猫を連想してしまった。
「確かにテメェは弱ぇよ。だから俺が後ろからサポートすんだろうが。ま、あまりにも見るに耐えなかったらテメェの頭をぶち抜くけどな」
「…また、忍田本部長にどやされるよ」
本部長と聞いて静雅はガミガミと怒る忍田を思い出した。静雅は基本的に怒った忍田しか見たことがない。不祥事を起こして怒る忍田、太刀川とはっちゃけ過ぎて怒る忍田、大学をサボりすぎて怒る忍田。時々沢村から「忍田本部長の血圧上げないでくれる?」と小言も貰う。
「アン? あんなの怖くねぇよ。ただのお説教ジジイだ」
「そう言えば、ここ1週間静雅さんが大学に足を運んでないって聞いてカンカンだったけど」
「オイ誰だ忍田にチクッた奴!! 風間テメェか!!」
「…怖いんじゃん」
静雅は元々大学に通うつもりはなかった。勉学は前世の記憶も相まって得意ではあるが、特段好きなわけではない。何より学校じたい人間関係というものがあり、それを面倒くさく感じてしまう静雅はボーダーに永久就職を考えていた。しかし、それは忍田と風間の手によって邪魔されることになる。
全国模試だと嘘をついた風間は静雅と共に大学受験を行った。勉強は好きではないが、毎日予習復習を怠っていなかったことや、太刀川がダメ元で大学受験をすると聞いていたので、その勉強にも付き合っていた静雅は、そのお陰か余裕で大学試験に合格。気がつけば大学生となっており、ボーダー内で暴れたのはまだ記憶に新しい。
通うつもりは一切なかったので、大学にほとんど足を運んでいない静雅だったが、専攻が風間と同じということもあり、半ば無理やりにいつも連行されている。
「おい、話は終わったか」
「…はい」
「ちっ、うるせぇチビだぜ」
ランク戦では惨敗してしまったが、この後は風間隊のみんなでご飯を食べに行くことになっていた。反省会と決起会を含めた外食である。
「ねぇねぇ、ご飯どこに食べに行く?」
「どうせなら静雅さんのお店に行きましょうよ」
「えっ、私ついに親御さんにご挨拶を…! ふふふ、ちょっと照れちゃうねうってぃー」
どんな妄想をしているのか分からないがニヤケが止まらない宇佐美。そんな宇佐美を引いた目で菊地原は見る。
「誰も静雅さんの両親に挨拶しろなんて言ってないでしょ。それに静雅さんと宇佐美さんは付き合って──」
「おっとぉ? 余計なことを言う口はどの口かなぁ?」
グリグリとヘッドロックをかけて遊んでいる宇佐美と菊地原を見て静雅は首を傾げた。隣にいた風間が「気にするな」と言うが静雅の中で菊地原ドM説が出来たのは誰も知らないことである。
「焼くなら自分で焼けよ」
「えー、お好み焼き屋の次男坊でしょ。焼いてくれたっていいじゃん」
「次男坊だからって誰しもお好み焼きを焼くのが上手いとは限らない」
「つまり?」
「俺にお好み焼きを焼く才能は無い」
お好み焼きを上手く焼けるかについては比べる必要性すら感じられないが、俄然雅人の方が上手い。静雅が焼くと大半焦げてしまう。それを処理するのはいつも風間なので、風間にしては焦げたお好み焼きこそ真のお好み焼きだと思っていたりする。
「風間さんが免許取ったことは聞いてたけど、いつの間に車買ったの?」
「静雅に誕生日プレゼントで貰った」
「うぇ、マジ?」
「誕生日プレゼントとは言え、車は凄いな…」
「凄いっていうか普通友達に買ってあげる誕プレじゃないでしょ」
「流石に懐が広すぎるよね…」
何故か引かれた目で見られる静雅。とても居心地が悪い。え、普通じゃないの?と静雅は首を傾げるが「もういっそこのまま純粋な静雅さんでいてください」と歌川に肩ポンされた。静雅は更に困惑する。
「まだ車はいいとして…なんでシエンタ? ファミリーカーじゃなくて普通の軽でいいじゃん」
「いや、これだったらそこそこの人数乗れるらしいし」
「基準が可笑しい」
何故か車の種類でネチネチネチネチと言われ始める静雅。そして次に金の大切さについて静雅は問われていた。金銭感覚について14歳に怒られる19歳の図が完成した。
「静雅さん。お金について関してはもっときっちりしなきゃダメだよ」
「は? してるじゃねぇか」
「してないから言ってるんだって。この前、佐鳥と時枝に焼肉奢ったんでしょ」
「いや、奢ったけどよ…」
「時枝が流石に週一で奢らなくていいって困ってたよ。先輩風吹かせたくなるのもわかるけど、餌付けはしなくていいから」
嵐山隊はいつも広報活動だなんだと頑張っているのを見かける。たった1度だけではあるが、静雅もテレビに出たことがあるので、テレビに映る大変さ等を知っているつもりだ。だから思わず嵐山隊を見かけたら色々と買ってあげたりしたくなるのだ。
「…なんかきくっちーがお母さんに見えるね」
「最近、佐鳥が太り気味な理由が分かった…」
「アイツもいい仲間に恵まれたな」
菊地原からガミガミ怒られている静雅を遠目で見ていた3人。三者三様の発言である。
「佐鳥と静雅さんが一緒に歩いてるの見たことあります?」
「私は無いかな?」
「俺も無いな」
「…傍から見たらあれは飼い主と犬です。めっちゃ佐鳥懐いてますからね。それ見て菊地原も嫉妬してるんでしょう」
「ちょっと歌川、聞こえてるけど」
ギンと菊地原に睨まれる歌川。特に怖いという訳でもなかったし、歌川はため息をついた。怒るぐらいなら素直に懐けばいいのにと思うが、そう簡単に行動に表せないのが菊地原かとも思う。急に笑顔で「静雅さん!」なんて走って近寄られても逆に病気の心配をしてしまうだろう。
「きくっちーって静雅さんのこと好きよねぇ」
「アイツはツンデレですから」
「仲がいいことに越したことはない」
そろそろ菊地原と静雅の茶番も見飽きたので、風間の車に乗り込む3人。置いていかれると思ったのか2人も慌てて車に乗り込んだ。
みんなが車に乗り込んで数十分。風間の安全運転の元、お好み焼きかげうらに無事到着した。静雅を先頭に、何故か1列になり、店内入口である引き戸を開ける。
「あらあら…雅人だけじゃなくて静雅まで女の子を…!」
「いらっしゃいませー」と出迎えてくれたのはどことなく静雅の面影がある…母だった。静雅が店内の入口から入ってきたのを察した母はニコニコと笑顔だったが、後ろから宇佐美を見つけた瞬間、顔つきが変わった。
「ちょっとお父さん!!」と厨房にいるであろう父に静雅が女の子を連れてきたと報告をしに行く母。実際問題、静雅1人で連れてきた訳では無いが、訂正が面倒だったので静雅はそのまま放置した。勝手に一人から回っている母のことは忘れ、何故か店内に足を踏み入れようとしない宇佐美、歌川、菊地原を店内に招き入れる。「お邪魔します」と声がけして店内に入っていく3人は何と出来た後輩だろうか。太刀川に見習わせたい。
出来る後輩に若干涙ぐみながらも、静雅は店内を見渡した。店内には雅人が連れてきたであろう友達と風間隊メンバー以外には人っ子一人見えず、そろそろこの店潰れるんか?とは思ったが口には出さない。出したら最後、悪魔という名の母に殺される未来が待ち受けている。
「あれ、シズさんと風間さんだ! 風間さんお久しぶりです〜」
北添は雅人と古い付き合いであり、静雅や風間とも面識があった。静雅と北添は時々一緒にゲームをしたりする仲である。
「あ、シズさん聞いてくださいよ! カゲがね、ヒカリちゃんに告白まがいなことを」
「──ゾエ」
「ひぇ」
北添と雅人、その向かいに北添が言うヒカリちゃんらしき女の子が座っている。ニコニコと北添が何かを報告しようとしたが、ドスの効いた雅人の声でそれは遮られた。
「は、はははは初めまして!! あ、アタシはに…仁礼光って言いましゅ!!」
静雅の視線に気づいた仁礼が慌てて立ち上がった。何故か緊張しているようで、吃り最後に噛んでしまっている。それが恥ずかしいと思っているのか仁礼の顔は茹でダコのように真っ赤になってしまった。
「影浦静雅だ。雅人のことよろしく頼む」
「は、はい…!!」
雅人が連れてきた奴に悪い奴はいないと静雅は確信しているので優しい目で仁礼を見、頭を撫でる。急に頭を撫でられた仁礼は「ほわわわ!!」と謎の擬音を発し、固まった。そんな仁礼を見て静雅は首を傾げるも、撫でる手は止めない。
「…あれは落ちたな」
「落ちちゃったねぇ。ゾエさんもあの笑みにやられちゃったところあるから」
戦闘している時とのギャップに加え、頭を撫でられているという現実に仁礼はオーバーヒートしてしまった。嬉しいけれど過度なファンサは故障の原因になります。数秒も経てば遂に、仁礼の頭から湯気が出始めたので、慌てて北添が間に入って静雅を止める。
「……ねぇきくっちー。私は何を見せられてるの?」
「落ち着きなよ。妹に接するようなカンジでしょ」
嫉妬の炎に燃えた女ほど怖いものはない。目の前で好きな人とのイチャイチャを見せつけられた宇佐美は迷わず心の中のブラックリストに仁礼の名を書き込んだ。アイツは要注意人物だ。あの目…静雅さんを狙っている…!!
「違うじゃん。私、あんな目で静雅さんに見られたことない!!」
宇佐美が一人、ギャーギャーと騒いでいる向かい側で風間は手を挙げ静雅の母を呼んだ。
「おばさん、豚玉とミックスください」
「あら、蒼也くんも久しぶりね。なになに、これから1人の女の子でも取り合うのかな? 若いわねぇ」
宇佐美一人に男4人というテーブルはどうやら静雅の母からするとまるでラノベのような恋愛を想像させたらしい。静雅の母の言葉を聞いた菊地原が嫌そうに「はあ?」と声を出した。
「おばさん、冗談はよしてくださいよ。誰がこんなメガネ…」
「きくっちー。キミとは1回話し合わなきゃいけないみたいだねぇ」
宇佐美が黒い笑みを貼り付け、隣に座っている菊地原にガー!!と腕を広げた。
「ちょうど私、むしゃくしゃしてたんだよね」
「ちょっと、八つ当たりはやめてくんない?」
「おい、飯は静かに食え」
「菊地原、さすがに店内では暴れるな」
「はあ!? なんでぼくだけ…!」
「…何してンだお前ら…?」
焦げていようが焦げてなかろうが、みんなで食べたお好み焼きはとても美味しかった。
また、みんなでお好み焼きを食べに来れるだろうか──?
Q.なぜ菊地原は静雅に対してタメ語なの?
A.基本的には敬語だけど、風間隊しか周りにいない時は時々タメ語になる。静雅本人も忍田などにタメ口を聞いているので、怒れないし怒るつもりもない。
Q.結局、ランク戦は書くの?
A.要望が多かったので書くつもりではあるけれど、本編には間に合わなさそうなので番外編で出したいと思う。どの隊がもう結成していて、結成していないのか少し考えさせてください。
オチについて(必ずしも反映されるとは限らない)
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宇佐美栞
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二礼光
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オチなし
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他の誰か