影浦雅人の『兄貴』   作:瑠威

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第26話

 

「ちょっとー、寝てないで起きてくださいよ」

「…無理。最近、体調悪ぃんだよ。……寝させろ」

「ここで寝ないでくれます?」

 

 

 いつも菊地原がゴロゴロしているソファーで寝転んでいる静雅を邪魔そうな目で見ている菊地原。静雅が体調を崩す時はあまりなく、それこそ最近はサイドエフェクトの副作用で人酔いしただとかぐらいだ。どうせ今回もそれだろ、と結論づけた風間は「放っておけ」と言っていた。

 

 

「大丈夫ですか、静雅さん」

「暖かいお茶飲みますか?」

「…んー、飲む……」

 

 

 三上が微笑みながら「持ってきますね」と言った。歌川も気になるらしく、チラチラと静雅に視線を向けていた。が、風間に言われた通りどうやら放っておくことに決めたらしい。

 

 

「どうせいつもの酔い(アレ)なんでしょ? ならそこ退いて下さいよー。寝てても座っててもそんな変わらないでしょ」

「静雅さんは気持ち悪いって言ってるんだから寝かせてあげろよ」

「酷いんだったら医務室行ってくれません? 変な菌でもばら撒かれたらぼく達が困るんですよ」

「誰が変な菌なんかばら撒くかよ!?」

 

 

 一度ガバッと起き上がった静雅だが、すぐに「気持ち悪ぃ…」と呟いてへなへなとソファーに戻って行った。

 

 

「これ、この後の防衛任務大丈夫ですかね」

「無理だろうな」

「ですよねー」

 

 

 菊地原は嫌そうにそう言うと、静雅の顔に冷たいタオルを乗っけた。菊地原なりの優しさだろう。

 

 

「風邪でもサイドエフェクトでもどっちでもいいんで、早く治してくれません? 後ろ守ってくれる人がいないと不安なんですよ」

「ふふ、菊地原くんがデレた」

「デレましたね」

「菊地原の後ろなら俺が守ってもいいぞ」

「ちょっと! 皆して茶化さないで下さいよ!」

 

 

 「静雅さん、お茶です」と善意でくれた三上のお茶はとりあえずテーブルに置いてもらい、静雅は顔にかけられた白いタオルをジーッと見つめる。グルグルと視界が周り、そして頭痛が酷くなってきた頃。風間隊の携帯が一斉に鳴った。

 

 

「風間さん!!」

「──ああ。どうやらお出ましらしい」

 

 

 電話の内容を聞いた三上はモニターの前に座り、準備を始める。風間は一度、静雅に視線を向けると「お前はここで留守番してろ」と言った。

 

 

「三上、静雅を頼むぞ」

「はい」

「菊地原、歌川。出動する」

「菊地原了解」

「歌川了解」

 

 

 風間、歌川と隊室を出ていく。続くように菊地原も出ていこうとしたが、一瞬足を止めると静雅の顔を見ることなくこう呟く。

 

 

「…早く復活して来てくださいよね」

 

 

 それを聞いた三上は微笑み、残念ながら静雅に向けた菊地原のその言葉は静雅には届いていなかった。何故なら、タオル下の静雅は爆睡をかましていたからだ。幸運なことに、静雅が寝ていることは誰も気づいていなかった。

 

 こうして、静雅抜きの大規模ネイバー侵攻は始まった──。

 

 

 

 * * *

 

「三上」

「は、はい」

 

 

 いつの間にかソファーから起き上がっていた静雅は三上と共にモニターを見ていた。モニターを見る静雅の瞳は真剣味を帯びており、名前を呼ばれるだけで何故かビクついてしまう。

 

 

「トリガーを変える。自分でやるから、指示だけくれるか」

「え…あ、はい。それは大丈夫ですけど、一体どのトリガーを変えるんですか…?」

「スコーピオンを孤月と旋空に変える。…そろそろ風間が落ちっから」

「え、風間さんが?」

 

 

 モニターの向こう側では風間隊は人型ネイバー、それもブラックトリガーと対峙していた。見事な風間隊の連携で人型ネイバーを押しているようにも見えるが、静雅が言うには「そろそろ風間は落ちる」らしい。

 

 

「どれがどのチップだ」

「あ、はい」

 

 

 「これがスコーピオンで、これが孤月、そしてこれが旋空です」と三上はチップを教える。先程も言った通り、静雅はトリガーのチップを変えると、隊室を出ていこうとする。

 

 

「どこに行くんですか静雅さん!!」

「俺が奴を殺す」

「体調は…」

「はっ、そんなの良いわけねェだろ。依然悪化中だ」

 

 

 やはり身体は重いし、頭だって痛い。しかし、今はそんなことで寝ている暇はない。ボーダーに所属している皆は今、戦っている。静雅だけがおちおち寝てることなど出来るはずがなかった。

 トリガーをオンした静雅は、隊室を出ると本部の通信室に通信を繋げる。

 

 

「こちら影浦。人型ネイバー補足に向かいます」

『静雅か。人型ネイバーとは風間隊が交戦中のネイバーで間違いないだろうか』

「ええ。多分、俺が急いでも風間は間違いなく落ちます。1人で殺るんで、風間が落ちたら菊地原達は別のネイバーに向かわせて下さい」

『何故、風間が落ちると…?』

 

 

 忍田の素朴な疑問だった。その疑問に一瞬、走る足を止めたが、また静雅は走り出す。

 

 

「勘です」

 

 

 あの時、モニターで戦っている風間達を見て何となく「ああ、風間はやられるな」と思ってしまった。明確な根拠は無い。ただ、そう思っただけだ。

 

 

『そうか。了解した。…三上はつけた方がいいか?』

「いや、いりません。菊地原達に専念させて下さい」

『分かった。健闘を祈る』

 

 

 その言葉を最後に本部との通信は切れる。そしてすぐに、本部ではなく…三上との通信が繋がった。

 

 

『こちら三上』

「ンだよ。いらねぇつったはずだけど」

『俺だ』

「はっ。やっぱりやられたか雑魚チビ(かざま)

 

 

 通信を繋げた三上はどうやら風間に言われたらしく通信を繋げたらしい。案の定、やられた風間の声を聞いて静雅は鼻で笑った。

 

 

『…俺の分まで頼むぞ』

「珍しくへこんでんじゃねェか! どっかのB級に負けてっからそうなるんだよ! 腕落ちたんじゃねぇの?」

『………』

「風間。帰ったら修行、し直すぞ」

『ああ』

 

 

 『お前は負けるなよ』その言葉に静雅は足を止め大笑いする。

 

 俺が負ける? はっ、お前と一緒にすンなよ風間。俺はこれぐらい余裕だ。

 

 

「さァ、戦闘を始めようや。ぷるぷるのロン毛さんよォ」

 

 

 目の前に現れた風間をベイルアウトさせたブラックトリガー──エネドラを見て、静雅は不敵な笑みを浮かべた。

 




 
Q.静雅が体調悪い原因は?
 風間の推測通りサイドエフェクトの暴走のせいです

Q.菊地原はツンデレなの?
 A.ツンデレです。特に静雅に対してはツンデレ増し増しでお送りしています

Q.三上が出してくれたお茶はどうしたの?
 A.隊室を出る前に一気飲みしてきました。今の静雅のお腹はタプタプです

Q.静雅は孤月使えるの?
 使えなくても静雅には太刀川(バカ)生駒(バカ)という良きお手本がいます

Q.スコーピオンから孤月に変えちゃったら、もはや荒船じゃない?
 A.帽子かメガネか。アクション好きか興味ないか。一人っ子かお好み焼き屋次男坊か。それぐらいの差異しかないが、根本的な不良と優等生という根が違うので、一緒ではない。少なくとも荒船は根付さんの顔面を馬乗りしながら殴れないし、胃に穴も空けられない

Q.ぷるぷるのロン毛とは?
 風間隊の戦いを見ていて静雅が思いついたニックネーム。詳しくは葦原さんのキャラ評を見て欲しい。

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