影浦雅人の『兄貴』   作:瑠威

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第27話

 

『菊地原くん、歌川くん、もう少しで東さん達と合流できるから、合流して』

「歌川了解」

「菊地原了解」

 

 

 風間がベイルアウトし、戦線離脱した菊地原達は、一番近くにいる部隊と合流を目指していた。菊地原達が向かっているのは、人型ネイバーと交戦中のB級+米屋、緑川、出水の部隊だ。交戦中のメンバーだけを見るに、菊地原と歌川はいらないような気もするが、合流を優先させるらしい。多くの部隊で各個撃破していくのが忍田の作戦方針らしいので、どれだけ戦力がいても問題ないとのこと。人型ネイバーが1人いなくなるだけでも、大分相手方の戦力は変わってくる。確実に落とせと言われていた。

 

 

「…本当に静雅さんの応援行かなくていいんだろうか」

 

 

 不安そうな顔で歌川は言った。決して歌川は、静雅が負ける未来を想像しているわけではない。ただ単純に静雅1人でブラックトリガーと交戦するという事実に不安を感じているだけ。

 

 

「ぼく達が行ったところででしょ」

「そうだけど…」

「歌川。静雅さんがどうしてスナイパーに転向したか知ってるよね」

「…」

 

 

 歌川も菊地原も決して晴れたような顔はしていない。苦虫を潰したような、何かしら後悔を含んでいる顔だった。

 

 

「…弱いぼく達には信じるしか出来ないんだよ。仇を一緒に討つことさえ赦されない」

 

 

 「だから、少しでも静雅さんの肩が軽くなるようにぼく達はぼく達で頑張るんでしょ」菊地原はそう言うと、走っていた足を止め、東に通信を繋げる。

 

 

「こちら菊地原。人型ネイバーを確認しました。指示を下さい」

『こちら東。2人が来てくれて助かる。お前たちは──』

 

 東の指示を聞いた2人は「了解」と小さく頷いた。

 

 

 

 * * *

 

「静雅さん。近々ある大規模ネイバー侵攻、死人が出るか出ないかは静雅さん次第で大きく変わってくる」

 

 

 大規模ネイバー侵攻が起こる数日前。食堂でラーメンを食べていた静雅に前触れもなくそう言い放つのは迅悠一。迅の顔は至って真剣で、嘘を言っているようにも思えない。

 

 

「言おうか言うまいか悩んだんだけど、言うよ。──この大規模ネイバー侵攻、静雅さんは負ける」

「ア?」

「おれに凄んでも意味ないよ。これは嘘じゃない。おれのサイドエフェクトがそう言ってるんだから」

 

 

 美味しいか美味しくないかで言えば普通のラーメンが一気に不味くなった。静雅は急に負けると言われて喜ぶようなドMでもなければ馬鹿ではない。

 

 

「正直、大規模ネイバー侵攻とかそういうのを抜きに静雅さんには負けて欲しくないとおれは思ってる。静雅さんはおれの目指すべき目標でずっといて欲しいから」

「誰が誰の目指すべき目標だって?」

「太刀川さん」

「は?」

 

 

 会話が成立していない。静雅はそう思った。言葉のキャッチボールが残念なことに出来ていなくて、2人とも暴投を繰り返しているだけだ。…いや、どちらかというと暴投をしているのは迅だけであって、静雅はちゃんとキャッチしようと頑張っていた。

 

 

「太刀川さんに生駒っち、他には辻とか荒船とか。おれが言った人達とひたすら個人(ソロ)ランク戦をした方がいい。そしたらきっと、静雅さんは勝てるから」

 

 

 清々しい笑みを浮かべ、去っていく迅を見て静雅はふつふつと自分の中で怒りが込み上げて来るのを感じた。

 

 俺が負けるだなんだ言いたいことだけ言って勝手に帰りやがった。ンだよ、アイツ…!!

 

 

「あれ、静雅さんやん。何してん? ナスカレーでも食いに来たんか?」

「ちょうどいい所にカモが来やがった」

「…へ?」

「ボコボコにしてやる。(ツラ)貸せや」

「ちょちょちょ、なんやねん!?」

 

 

 事態が飲み込めていない生駒の右耳を引っ張りながら、静雅は生駒隊の作戦室へ向かおうとして…踵を返した。

 

 

「え、作戦室行くんとちゃうん!? 痛い痛い痛い…!」

 

 

 

 * * *

 

「ちーす」

「おーす! 水上先輩!」

「こんちわー水上先輩」

「やっと来たかいな。最後やで」

「…ん? イコさん居らへんやん」

「おるおる」

 

 

 細井の視線の先にはトレーニングルームがあり、その中ではどうやら生駒と静雅が戦っているらしかった。

 

 

「あれ、静雅さんやん。なに? またイコさん無理やり連れて来たんか?」

「ちゃうねん。菓子折り持って静雅さんがイコさん連れて来たんや」

「そうそう!! いいとこのどら焼き貰ったんですよ!!」

 

 

 ビシッと南沢が指さす向こうには、いいとこのどら焼きが入っているであろう紙袋が2つ置いてあった。生駒隊が食べていいのは、紙袋1つだけで、もう1つは食べちゃダメだと念を押されたと南沢は言う。

 

 

「…イコさん沢山遊んでもろうてるから、俺がどら焼き食べても怒られんですかね?」

「あー、どやろ。静雅さんがくれた物は何がなんでも食べたがるから、やめといた方がええんちゃうの?」

 

 

 『戦闘体活動限界 緊急脱出』そうアナウンスされすぐに、生駒の戦闘体は新しく構築される。「あーあ、またイコさん殺られちゃったよ」と南沢は呟く。

 

 

「かれこれ30分はずっとあれだよね」

「なんか迅さんが静雅さんの地雷踏んだんやろ? 生駒隊(ウチ)が防衛任務でいなくなる言うたら太刀川さん呼び出す言うて、めちゃ燃えててん」

 

 

 「この後、防衛任務やから、程々にしてください」と細井が言えば、静雅は怠そうに舌打ちした後、「次は太刀川か」と呟いていた。何があったん?とみんなが首を傾げる中、生駒がコソッと「なんか迅と言い合いしとったみたいやで」と。珍しいこともあるんやなー、なんて思いながら虐めとも取れるような模擬戦を水上を抜いた3人は観戦していた。

 

 

「え、なにそれ怖」

「太刀川さんが無理やったら辻くん呼び出す言うてましたわ」

「もはや暴力の権化やん。つか、太刀川さんなら分かるけどなんで辻? 何したん??」

「さあ? 分かることは静雅さんが燃えとるってことだけですわ」

「…念の為に風間さんに連絡入れとこ。変な責任負わされても無理やで」

 

 

 水上は風間に連絡を入れるが、既読はつくことなく生駒隊の防衛任務が始まる時間となった。どうやら、太刀川は風間と一緒にレポートを仕上げてるらしく、手が離せないらしいので次の標的は辻だと静雅は血走った目で生駒隊の隊室から出ていく。

 

 

「…うへぇ、やっぱ勝てへんやん。なにあれ、ヤバ」

「ヤバい言うてる暇ないですって。はよ支度してください」

「まーた三輪に愚痴愚痴言われるんとちゃいます?」

 

 

 生駒隊の前に防衛任務をしていたのは三輪隊である。風間隊ほどでは無いが、時間には厳しいし報告などもきっちりする隊なので、ヘラヘラと基本的に話を聞かない生駒隊を三輪はあまり良く思っていない。

 

 

「三輪先輩っていっつもこう、目がつり上がってますよね!」

「それはアレやろ。イコさんが話聞かへんからや」

「ちゃうやん。俺も聞こうとしててん。せやけど、米屋が俺の集中削いでくるねん」

「ええからはよ支度しましょ。そろそろマリオがキレますよ」

「ええから…笑っとる暇があったら、アンタらはよ支度せぇ!!」




 
Q.菊地原達は修達の方ではなく東達と合流するの?
 A.いえす。特に理由はない。

Q.静雅は何ラーメンを食べてたの?
 A.こってり豚骨ラーメン。特に好きな食べ物な訳では無いです。

Q.迅のあの人選はもしや…!?
 A.わかってても秘密で行こうね。

Q.何気に「おれのサイドエフェクトがそう言ってる」はこの小説初めてじゃない?
 A.多分初出し。ようやく決めゼリフ言えたね。おめでとう、実力派無職。

Q.やっぱり安定のナスカレーだね?
 A.困った時はナスカレー出せば何とかなる説。ナスカレーが出たら私がお気にに入れている隠岐くんも芋づる式に出てくるので嬉しい。

Q.ちなみにナスカレーとの勝敗は?
 A.いつもだったら2割の確率で負けるらしいのだが、今回は5割の確率で負けてしまった模様。そんな静雅に生駒は首を傾げていたらしい。

「どうしたんですイコさん」
「…なんかなー、あんま手応え無かってんな」
「静雅さんが?」
「せやせや。なんやろ、俺のことぎょうさん見とってん。迅となんかあったんやろうけど…あそこまであからさまやと気になるわ」
「迅さん絡みやとあんま首突っ込まん方がええんとちゃいます? 下手なことして未来変わってもうたらヤバいでしょ」
「それはヤバいな」

Q.エネドラ戦を期待してたんですけど?
 A.次回からエネドラ戦です。期待してた皆さんごめんなさい。そしてあまり期待しないで見てもらいたい。

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