笹森、そしてエネドラを姫抱きしている仁礼と、数分前に合流した諏訪と静雅を背負った堤は、限りなく全速力で逃げていた。
「ちっ! なんでこんな時に限って新型なんか!!」
「また諏訪さんが
「もうならねーよ!? つか、マジでやべえ!!」
運悪く新型とかち合ってしまった彼らに、新型を倒すほどの戦力も余裕も今は持ち合わせていない。それに、仁礼とエネドラの護衛を受け持っている諏訪隊はつい数十分前に諏訪を
「くそっ!! 殺せるなら殺してやりたいのに…! 諏訪さんの仇っ!!」
「おいコラ日佐人ォ!! 俺が死んだみてーに言うな!!」
風間隊のおかげで諏訪隊全員が
「でも本当に逃げてていいのかよ…? アタシら本部の方に向かって逃げてるけどよ」
「しゃーねーだろ! こちとら重症患者と捕虜背負ってんだ!! 静雅のためにも遠回りは出来ねぇ!!」
最短ルートに新型が現れてしまったため、少し遠回りをしてしまっているが、諏訪隊+静雅+仁礼+エネドラは迷わず本部に向かっていた。新型を引き連れてしまっているが、こちらも時間をかけてはられない。それに、本部長が言うには本部の近くで太刀川がウロウロしているらしい。「何かあったら慶を向かわせよう」は本部長の言葉である。
「本部だろうが、新型の腹の中だろうが、黄泉比良坂だろうがどこだっていいんだよ!! 早く俺を殺せ!! 女に背負われるなんざ死んだ方がマシだ!!」
「ちょっ、エネドラ! 暴れるんじゃねー!!」
「おいコラ仁礼、捕虜ォ!! 大声出すな他の新型にも気づかれるだろーが!!」
「「(さっきから諏訪さんが一番声大きい…)」」
プルプルと震え、剣ダコの沢山潰れた跡が残る硬い手のひらで顔を覆うエネドラ。長い髪とスラリとした体型が相まって、何処と無く儚さ、が…見えなくも、ない?
なぜエネドラがこんなにも精神的面で死にそうなのか。それはエネドラが生身だからだ。生身のエネドラと一応トリオン体の仁礼では、仁礼の方が身体能力に分がある。それに、トリオン体というものは疲れを感じない。ひたすら走っていても、息が切れることも足がもつれることも無い。そういう観点から諏訪の指示の元、仁礼は一回りも大きいエネドラを姫抱きして走っていた。ちなみに、姫抱きの理由については仁礼はエネドラよりも身長が低いため、エネドラを背負うと必然的に足を引きずってしまう形になる。その事に考慮した仁礼が善意でエネドラを姫抱きすると言った。エネドラからすると地獄だが、仁礼はその事に気づいていない。善意100%がなせる技である。
せめて諏訪や笹森が抱えられないかとエネドラは抗議したが、もし何かあった時の戦力として諏訪と笹森は両手が空いている状態がいい。そういう理由でエネドラの抗議は却下された。まあ、新型が出てきた途端綺麗な回れ右を見せ逃亡したため「両手が空いてよーと結局逃げるならお前らでも良かったじゃねぇぇかぁぁ!!」というエネドラの叫びは若干堤の良心を抉った。
「クソっ、執拗いな!!」
牽制も兼ねて時折、諏訪のショットガンが火を噴くが、新型には一切効いていないようだった。ドスドスと音をたて、諦めるという言葉が頭の中にインプットされていないらしい新型はひたすらに諏訪達の後を追ってくる。
「諏訪さん、俺が時間を──」
「その必要は無い」
決心を固めた笹森の表情は鋭かった。笹森が足を止めることで、釣られるように諏訪達の足も止まる。が、笹森は全てを言い切ることは出来なかった。何故なら、笹森の言葉の上に被せるようにして威圧のある言葉が聞こえたからだ。
「アステロイド+アステロイド=ギムレット」
屋根の上で黒いスーツを靡かせ、大きなトリオンキューブを新型に放った男の名を二宮匡貴という。二宮の放ったギムレットは物凄いスピードで新型の身体を抉る。トリオン量が人よりも数段多い二宮の
「相変わらずえげつないですね、二宮さんのギムレット」
「犬飼、私語は慎め。まだ終わっていない」
「──旋空、孤月」
二宮のギムレットはモロに新型の身体を抉った。しかし、抉ったのは新型の左半分であり、どうやらまだ息はあるらしい。逃がさんぞと言わんばかりに前方にいた諏訪達の方へ新型は右手を伸ばした。
だが、その手は諏訪達に届くことはなかった。まるでギロチンの如く新型の首を上から降りてきた男が刎ねたからだ。その名も辻新之助という。ふぅ、と張り詰めていた息を吐き諏訪達の安全を確認しようとして…辻の息が止まった。
「助かったぞ、つじ!!」
「は、はわわわわ」
またしても善意100%の仁礼が辻に近寄る。それも、両手で顔を隠しているエネドラを姫抱きにしたまま、だ。天真爛漫な仁礼と、髪が長くて若干筋肉質にも見えるスラッとしたような女性(?)がズンズンと近づいてくる。それを瞬時に理解した辻は左右を確認すると、顔は怖いけど実際は無害な諏訪の背に隠れた。そんな辻を見て「俺を盾にすんじゃねー!!」と諏訪は怒り、二宮は呆れたようにため息を吐き、犬飼は腹を抱えて笑っていた。辻は犬飼を睨みつけるが、相手には全く効果がなかった。なんならガンバレと言われて更に腹が立つ。
そんな混沌した現場で二宮は自分の仕事をする。「氷見」と呟けばすぐに二宮隊のオペレーター氷見亜季が『はい』と二宮との通信を繋ぐ。
「本部に繋げ」
『了解』
秒もかからない内に氷見は二宮と本部の通信を繋いだ。
「本部、こちら二宮隊。諏訪隊と合流。そして新型を一体、撃破した」
『こちら本部。新型撃破了解した。二宮隊はこのまま新型撃破に向かって欲しい』
「…諏訪隊の援護に入っておいた方がいいんじゃないでしょうか」
元々、諏訪隊に何かあった時は近くにいるはずの太刀川がヘルプに入る予定だった。しかし、強いものを探し、ひたすらに新型を切り伏せていた太刀川は段々と進路を変更していき、気づけば諏訪隊と太刀川との距離が開く一方だった。最終的には一人で新型と戦っていた村上のヘルプに太刀川が入ってしまったため、その場で諏訪隊と一番近かった二宮隊がヘルプに入ったという経緯がある。
もし、また諏訪隊が新型に追われるなんてことがあった時のためにも自分達は近くに居た方がいいのではないかと二宮は考える。しかし、二宮のその言葉に本部は首を横に振った。
『いや、それはいい。この辺り一帯で新型の出現は見られていない。それにもう本部も目前だ。もし、新型が現れた時は…
「…了解」
忍田が言う通り、今の諏訪隊と本部の位置は目と鼻の先だ。頑張れば五分もかからない距離である。念の為に辻を援護につけようとしていた二宮は忍田の言葉を聞いてその考えを打ち消した。辻を選ぶ辺り、二宮は無自覚の天然である。
「辻ちゃん、命拾いしたよ。良かったねぇ」
「???」
二宮隊のバランサーと名高い犬飼はどうやら何かを悟ったらしい。いつもと変わらず飄々とした笑みを浮かべ、辻の肩に手を乗っけた。辻は仁礼に怯えながらも器用に首を傾げる。
本部との通信を切った二宮は目視で諏訪達の安全を確認したあと静かに目を伏せ「笹森」と笹森の名を呼んだ。名前を呼ばれただけなのに、あまりにも威圧感が凄すぎて笹森の返事は若干裏返った。
「は、はいィっ!!」
「…お前、時間稼ぎに名乗り出ようとしていたな。俺はお前を無謀な考えしか出来ないやつだとは思っていなかったが」
あまりにも上からの物言いはひたすらに笹森を萎縮させた。それを横目で見ていた諏訪が怒ったように二宮の名前を呼ぶ。
「まーまー、諏訪さん怒らないで下さいよ。二宮さんも言葉が足りてないだけなんですから」
「笹森くんも怯えないであげて」と犬飼が間に入る。さすが言葉足らずな天然隊長、女性の前になると途端に木偶の坊へと変身してしまうチームメイト、人見知りで烏丸の前に出ると人形のようになってしまうオペレーターを持つ男だ。一を聞いて十を知ることは、犬飼からすると息をするぐらい当たり前で慣れているのだろう。
「笹森くんの気持ちも分からないではないよ。あのまま纏まって逃げてても捕まるのは時間の問題だった。でも、囮に名乗り出るのは早計だったね。ちゃんと、オペに近くに他の部隊がいないのかとか聞かなきゃ。そもそも、おれ達を呼んでくれたのは小佐野ちゃんだよ?」
「えっ、そうなんですか!?」
『そうだよ〜。すわさん達が逃げ回ってるのを高みの見物してたワケじゃないんだから』
「…おサノ、お前はなんて出来るヤツなんだ…!」
『親戚のおじさん…?』
あまりにも仕事が出来るオペレーターを思って涙ぐむ諏訪と堤。笹森も小佐野に感謝の言葉を述べていた。それを見守っていた犬飼は「二宮さんはこれを言いたかったんですよね?」と二宮に問う。二宮は当たり前だろうと言わんばかりの顔をしていて、その場の二宮隊以外が「マジか…」という表情を見せた。
「犬飼、お前も苦労してんだな…」
「おい諏訪さん。苦労しているとは何だ」
「アハハ、慣れたもんですよ」
「おい犬飼、何故同意をする」
二宮をイジることで、その場の空気が軟化した。しかし、堤が諏訪の名前を呼ぶことでまた引き締まった空気が戻ってくる。
「諏訪さん、そろそろ」
「おー、そうだった。こちとら(身体的な)重症患者と(精神的な)重症患者を運んでる途中だったわ」
「精神でもなんでも抉れるものは抉っておけ。こっちに損は無い」
「…二宮、お前風間教の信者か何かか?」
「二宮さんは強いて言うなら東教の信者ですよね?」
二宮が発したのはどこかで聞いたような言葉だった。思わず絶対零度の視線を寄越す風間を想像してしまったが、犬飼の言葉を聞いてその場にいた全員が「確かに」と同意する。相手とのコミュニケーションを取る手段が焼肉一手しかないのは、東教の信者だと確信を持たせる行動だ。そしてそれをネタによく加古に揶揄われ、三輪に呆れた視線を寄越されている。
『…ねー、流石の静雅さんでもそろそろ死んじゃうんじゃない?』
『というか救急班と一緒に待機してる寺島さんから「まだなのか」というクレームが凄いんですけど…』
オペレーターである小佐野と氷見の言葉を聞いて、諏訪達は慌てて本部へと向かった。
数十分前から静雅のために救急班を呼んで待機していたらしい雷蔵からグチグチと怒られる運命にあることを、まだ諏訪達は知らない。
Q.ヒカリちゃん男前だね?
A.本人はノリノリ。怪我人静雅を言い訳にエネドラに文句を言う隙を与えなかった策士。全て善意で行っている。
Q.諏訪さんの立方体?
A.この小説では明記されてないけど諏訪さんは立方体にちゃんとなってるし、そのネタが好きなのでイジっていくスタイル。仁礼がイジっても相手が女&歳下ということもあってお咎めはない。ただし、風間はしばかれる。
Q.エネドラに儚いって言葉は似合わないと思います。
A.エネドラは儚い。異論は認める。しかし、容姿が容姿なだけに顔を隠したエネドラは辻に女だと勘違いされている。CVピッコロさんを聞けばきっと男だと気づくんだけどね。二宮隊の前では一言も話さなかったから…。
Q.堤の良心?
A.そんなものを持ち合わせているがために彼は加古のチャーハンに殺されるのだ…。
Q.言葉足らずな天然隊長?
A.好きなものが「才能のある人間」「ジンジャエール」「焼肉」というギャップしかない男。スーツを着ているため、めちゃくちゃお堅い人なのかと思いきや「ジャージだとコスプレ感があるから」という理由でスーツを選ぶ天然さ。スーツという一際異彩を放つ格好が一周まわってコスプレ感を醸し出しているが本人は一切気づいていない。もちろん、二宮隊のメンバーは「これ、コスプレっぽいな」と分かっていて着用しているし、敢えて二宮にも言っていない。犬飼に関しては面白がってすらいると思う。天然。
犬飼という名高いバランサーがすぐ近くにいるため自分が言葉足らずなことも、天然なことも一切気がついていない。そもそも、20歳組が空気を読む人間に富んでいる(太刀川は除く&加古も敢えて除外)ので、気づける瞬間が少ない。
諏訪隊+仁礼&エネドラという異色のチームに二宮隊で援護につけるとしたら、常人は迷わず犬飼一択するところだが、二宮はここであえて辻を選択する。二宮としては、笹森と辻が連携して敵を押し、後ろで諏訪が援護していくスタイルを想像しているようだ。だが二宮よ、辻は仁礼がいる限り本気はだせないぞ。決して二宮は辻をいじめたい訳ではなく、抜けている部分があるのだ。やけに威圧感があるため、いじめているように見えるだけ。本当は優しい人だと思う。多分。意外とお口が悪いだけ。そんなギャップに心を撃たれる。一生推していきたい。(なんかコイツだけ長くなったな)
Q.女性の前だと木偶の坊に変身するチームメイト?
好きなものが恐竜、シュークリーム、バターどら焼きというギャップ萌えに富んだキャラクター。クールな外見故にモテるかと思いきやまさかの女性が苦手という新事実。辻がミラと戦っていたら時間稼ぎどころか即落ちしていた。ギャップ萌え。とことん推していきたい。初心故に彼は何度も女性に殺される。
Q.人見知りで烏丸の前だと人形?
綺麗な前髪パッツンにふんわりとしたボブカットをした彼女も一見クールそうに見えるが人見知りが激しいらしい。激戦している烏丸に思いを寄せており、烏丸が目の前に現れると彼女はショートする。ギャップ萌え。とことん推していきたい。
Q.二宮隊のバランサー?
女帝と形容して間違いない姉二人に鍛え上げられた陽キャ。社交的な性格で友達が多く見えるが、その友達の中に彼の心内を知っている人は多分いない。若干闇を持っているように思える。ギャップ萌え。それ故に雅人から「顔の表情と感情が一致しない」と一方的に嫌われているらしいが、兄の静雅とは良好の関係性を保てているようだ。「カゲのお兄さんからジュース奢って貰っちゃった♡」とわざわざ雅人を煽りに行き、ガチ喧嘩をしかけたという逸話がある。そんな彼をとことん推していきたい。
Q.雷蔵キレたんだ?
A.そりゃ静雅が重症って聞いて清潔な布を渡すぐらいには彼も心配していたんですよ。すぐに処置が出来るように救護班まで呼んでるのに、
ちなみに雷蔵と共に風間も仁王立ちして待っていたため、諏訪達は本当に死にかけた
オチについて(必ずしも反映されるとは限らない)
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宇佐美栞
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二礼光
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オチなし
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他の誰か