影浦雅人の『兄貴』   作:瑠威

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前半、隣の少年side


小学生編
第3話


  

    入学式。

    満開な桜の通り道。

    ヒラヒラと舞った桜の花びらを頭につけ、初々しい少年達は緊張な面影で小学校の校門を潜る。

 

    それはおれも同じで、少し緊張していた。両親や、兄と離れ離れになるのは以外にも心細く、少しだけだが不安になってしまう。

    両親から言われた通りの場所にいけば、優しそうな顔をした女性がたっており、おれを招き入れてくれた。

    どうやらその女性はおれの担任だったらしく、彼女の指示通りにクラスの列に並んだ。

 

    おれの出席番号は上から数えた方が早いので、前列だ。と言っても2列目で、最前列じゃなくて良かったとおれは思った。

 

    司会の先生の「新入生、入場」という言葉で体育館におれは足を踏み入れた。在校生や、保護者からの視線がたくさん集まり、自然と背筋が伸びるのがわかった。

 

    着席した後は、教頭の開会の言葉から入学式は始まり、来賓の紹介や校長の話など、保護者向けの挨拶がつらつらと並べられていく。

    正直、興味もないし、段々と式に飽きてきていたおれは、右隣から聞こえてくるダンダンダンと地面を強く踏みつけるような音に興味を持った。

 

    ちらっと右隣を見てみれば、右隣の少年が顔に青筋を浮かび上がらせ、目を釣り上げ、貧乏揺すりをしていた。彼の足が高速で上下に揺れている。どうやら音の原因は彼のようだった。

 

    隣の少年は黒の子供用のスーツに身を包み、ネクタイをきっちりと結んでいた。

    だが、それが苦しかったのか眉にシワを寄せながら、彼はゆっくりとネクタイを緩めた。

    しかし、それがイラついている原因ではないのか、貧乏揺すりは止まらない。

 

    ダンダンダン

    ダンダンダン

 

    血圧が凄いことになっているであろう隣の少年は、深い深呼吸を始めた。多少落ち着いたのか、貧乏揺すりは止まったが、相変わらず目付きは悪く、人を5人ぐらい殺してきた目付きをしていた。

 

    次はどんな行動をするんだろうとおれは少年を眺めていたら、隣の少年は目を瞑り、スースーと寝息を立てて寝始めた。まさか寝るとは思っていなかったので、おれはびっくりする。

 

    さっきまでは眉間にシワが寄っていた隣の少年は、小学生がするような顔じゃなかったのに、今では幼い顔立ちへと変わっている。これが名も知らない隣の彼の本当の顔なのかとおれは理解した。

 

    あれから30分もすれば、入学式は終わった。

    しかし、隣の少年は未だに小さな寝息を立てて寝続けている。入学式が楽しみで眠れなかったのか、それとも緊張で眠れなかったのか。

    彼の予想は全て的を外れているのだが、彼が知る由もない。

 

    とにかく、隣の少年が深い眠りについていることは確かだった。

    しばらく彼の寝顔を見ていたが、そろそろ起こさないとまずいだろう。起立の声で1人だけ立ち上がらないで、周りの視線を浴びるなんて恥を少年もかきたくないはずだ。少なくともおれは嫌だと思う。

    おれは仕方ないなと母親が中々朝起きない息子を起こすような気持ちを感じながら、隣の少年の肩を揺すって起こしてあげた。

 

 

 

  ***

 

    担任に案内されながら、おれたちは教室へと向かう。はぐれないようにという配慮の元、2列での行動で、おれは先程寝ていた少年の後ろをゆっくりと歩いていた。

 

    前を歩いていた少年は黒いチリチリでボサボサの頭をしていて、整えられているようで整えられていない。寝癖なのか、それともあの髪型が通常運転なのか。少年の名前すら知らないおれにはわからなかった。

 

    おれの前を歩いている少年は近づくなオーラがすごいかった。黒のスーツをきているせいか、殺し屋感が半端なく、懐に拳銃を隠していてもしっくりくるレベルだ。

    そんな少年が怖いのか、周りのクラスメイト達は一定の距離を保ちながら歩いていた。

 

    対しておれは、少年に興味を持っていた。

    歳の離れた兄を持ち、子供ながらに達観している彼は、少年のことを怖いとは思わなかったし、何故あんなにイライラしているのかとか、その髪型は素なのかとか、色々と疑問が湧いて来て、知りたくなっていた。

 

    教室に入る時、人懐っこそうな顔をした少年がこちらに手を振ってきていた。おれの知り合いではないことは確かなので、おれに振っている訳では無いのだろう。決しておれに友達がいないとか、そういうわけじゃない。

 

    ふと、目の前の少年が手を振ってきていた少年を睨んでいたことに気がついた。

    どうやら、少年の知り合いだったらしい。少年は普通にスルーしていたが、相手も傷ついた様子はしてなかったので、大丈夫…なのだろう。おれには少しわかりかねる。

 

    教室に入れば、机にひらがなで書かれたシールが貼ってあった。おれは小学校に入学する前に、ある程度兄と共にひらがなの練習をし、覚えたので問題なかった。ひらがなを兄に教えて貰っていて良かったと少し安心する。

 

    隣の席はおれが興味を持っていた少年で、一瞬目が合うがすぐに逸らされてしまう。傷つきはしなかったが、感じ悪いという印象を持ってしまった。

 

    『かげうら  しずか』

    これが隣の少年の名前らしい。おれは隣の少年の名前は『しずか』だと頭にインプットをした。

 

    仲良くなるにはまず、名前を覚えることだ。

    これは、おれが尊敬する兄の言葉だ。友達と仲良くなれる秘訣だと兄は教えてくれた。それに習い、おれはしずかしずかしずかと彼の名前を忘れないように、頭の中で何回も反芻した。

 

    おれは、しずかに話しかけようとしたが、タイミング悪く担任が話を始めてしまったので、話しかけることを諦める。

    正直に言えば、しずかに何を話そうか決めていなかったので、少しだけだがほっとしていた。

 

    しずかが気になって、おれはちらっと隣を見てみる。しずかは空を見ており、おれもつられるようにして空を見た。空は晴天で、入学式日和だった。雲一つない空はとても澄んでいる。

 

    そんな、空を見てしずかが舌打ちを漏らしていたのをおれは静かに眺めていた。

 

 

 

 

  ***

 

    入学式から数日が経った。

    授業も始まり、ちょくちょくと宿題を出されるようになっていったが、彼は真面目なので忘れ物をまだ1度もしたことがなかったし、宿題だってちゃんと毎日提出していた。

    そんな彼は、明日の時間割を見ながら教科書をランドセルに詰めていく。その光景を後ろから見ていた兄が彼に話しかけた。

 

 

「友達はできたか?」

「…びみょう」

 

 

    彼はクラスメイトから話しかけられれば返すし、遊びに誘われれば一緒に昼休みに遊んだりもするし、今の時点ではこの学校生活が上々だと彼は思っていた。

 

    クラスメイトと遊ぶことは楽しかったし、また遊びたいと彼は思うが、たった1回一緒に遊んだだけで、友達と呼んでいいのか彼にはわからなかった。

    それに、1番興味を持った『しずか』とはまだ話せていない。

 

 

「でも、いいいみと、わるいいみできょうみをもったやつならいるんだ」

「へぇ〜」

 

 

    楽しそうな兄の声が聞こえた。

    彼は兄の後ろをついてくるだけで、同年代の子と話したり遊ぼうとしていなかったので、兄は少し心配をしていたのだが、それはどうやら無駄に終わったらしい。

 

 

「いい意味と悪い意味って何?  気になるな」

 

 

    彼は兄に分かりやすく説明するために少し考える素振りを見せた。そして数秒後、口を開く。

 

 

「じゅぎょうをマトモにでたことがない」

「へ?」

「あさのかいがおわったら、すぐにすがたをけすんだ。いちどだって、じゅぎょうにでたことはないし、そのせいでよく、ほうかごにせんせいによばれて、おこられてる。でも、じゅぎょうなんかマトモにでてないのに、テストのてんすうはいいから、なぞなんだ」

「お、おお…。それはまた凄い問題児だな…」

 

 

    さすがの兄もまさか小学校1年生から授業をバックれる子がいるなんて思いもしなかっただろう。

    1度や2度ならまだしも、彼は1回たりともちゃんと授業に出席したことはなかった。

 

    怒った教師が静雅の両親に電話するがそれは意味をなさなかったし、双子の兄にサボり場所を聞いてもニコニコと笑うだけで答えようともしない。入学式からたった数日しか経っていないはずなのに、教師はもう既に彼のことを諦めてしまっている。

 

    逆に彼は、ますます静雅に興味を持ってしまった。嫌なものを嫌だと言える度胸はすごいと思っているし、それを行動に移せるのはもっとすごいことだと思っている。

    しかし、だからといって我儘はいけないとも思っている。出なくてはいけないものは『出なくてはいけない』のだ。それは規則であってルールであり、彼だけがルール対象外なんてことは有り得ない。それを容認してしまっている担任も有り得ないと彼は思っている。

 

 

「にいちゃん。なんで、しずかはじゅぎょうをうけないんだろう。ルールは、まもらなくちゃいけないから、しずかも、じゅぎょうをうけなくちゃいけないのに……」

蒼也(そうや)

 

 

    優しい声で兄に名前を呼ばれた。

    兄はニコニコとした優しい表情をしていて、それを見て何故か安心してしまう。

 

 

「他人を理解したいなら同じ行動をとってみればいい。そして、相手に聞いてみるんだ。分からないから苦手だ、って考えることを放置するんじゃなくて、分からないから仲良くなれるかもしれないって考えるんだよ。俺の聞いている限りじゃ、蒼也とその…しずかって子は仲良くなれるんじゃないかなあと思う」

「なんで?」

「蒼也は仲良くなりたいんだろう?  でも、そのしずかって子は蒼也よりも少しばかり大人なんだよ。蒼也はそんなしずかに憧れているし、友達になりたいと思っている。しずかって子もしずかって子で、みんなよりも少し大人だから、蒼也達にどう接していいのか分からないんじゃないかな」

 

 

    彼は兄に憧れていた。

    いつも彼が分からない問題に躓いていると、優しく導いてくれる。

 

    優しくて頼りになる兄。

    かっこよくて、頭が良くて。兄のようになりたいと常々彼は思う。

 

 

「うん。もうすこしがんばってみるよ!」

「いい心がけだ!  偉いぞ〜、蒼也!!」

 

 

    わしゃわしゃと兄が彼の頭を撫でた。

    「ボサボサになるからやめてよ」なんて言って、2人で笑いあった。

 




前半の書き方どうでしたか?
違和感や、変なところがあればできるだけ優しく言って貰えると助かります。

そして、感想や評価、ありがとうございます。励みになっております!
少なくとも、この3話が3回ほど消え、やる気を削がれるという一大イベントがありましたが、感想と評価のおかげで何とか立て直すことが出来ました!!

週一の月曜日更新という目標を掲げていますが、気分屋で飽き性な駄作者はある日を境に更新をパタリとやめてしまうかもしれません。その時は、長い目で見てもらえると助かります。

これからも、末永く宜しくお願い致します!!

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