影浦雅人の『兄貴』   作:瑠威

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連投その2!!
お手数ですが、その1を見ていない方は前のページに戻って見てもらえるとありがたいです!!
後、更新についてあとがきで触れているので、ぜひ最後まで見てもらえるとありがたいです


第5話

 

    某月某日。日曜日。天候は雨。

    雨の日だと言うのに、今日の静雅の母親はテンションが高く機嫌が良かった。いつもなら洗濯物が干せないだのなんだのと、文句の一つや二つを漏らすのに、今日はその文句は聞こえず鼻歌なんて歌っている。

 

    母親に何があったのかは知らない。誰かの誕生日でもないし、結婚記念日でもない。思いつく記念日はないし、普通に機嫌がいいのだろう。少し気になりはするが、聞こうとも思わなかった。聞いたら巻き込まれるような気がする。面倒事のような気がする、と静雅の第六感が言っていたからだ。

 

 

「あちゃ〜、お肉切らしてた」

 

 

    母親曰く、今日の夕ご飯は生姜焼きらしいのだが、そのメインのお肉を切らしていたという。しかも1切れだけ。お肉も焼き始めていたので今更メニューを変える気にもならないらしい。母親はどうするか悩んだ末に静雅に声をかけた。

 

 

「静雅、ちょっとお使いに行ってきてくれない?」

「まァ、別にいいけど」

 

 

    静雅が了承すれば、母親はホッとした顔になった。そして、いいことを思いついたみたいな顔をして、手をポンと叩いた。

 

 

「どうせなら雅人も連れて行ってくれば?  お菓子でも買ってくればいいじゃない」

 

 

    お使いのお礼も兼ねてお菓子を買ってきていいと言われた。雅人もついこの前、新しいカッパを母親に買ってもらっていた為、何気に雨の日を楽しみにしていた。

    雅人に「一緒にお使い行くかァ?」と聞けば即答で「行く!!」と返事が返ってきた。どうやら、静雅のその言葉を待っていたらしい。すごい速度で出かける支度を始めていた。

 

    静雅は母親から貰った少し多めのお駄賃と買い物袋を持ち、雅人と一緒に母親から見送られながら家を出た。

 

 

    靴が濡れないようにとの配慮で傘は少し大きめ。色はシンプルに黒。柄は入っていない。対して、雅人の傘は青をベースにした傘でカエルのイラストが入っていた。カッパもカエル柄で、しかも長靴もカエル柄だ。

 

    どれだけカエルを強調すンだよ…

    子供向けのカエルのイラストだからといって、上から下までカエル尽くしだと不気味に感じてきてしまう。一生分のカエルを見た気持ちになり、カエルが嫌いになりそうだ。

 

 

「つゥか、ンで傘は持ってきてンだァ?  カッパ着てるから要らねェンじゃねェのかよ?」

「…なんかぬらしたくない!!  それに、このかさもあたらしいから、つかってみたかった! にいちゃんもつかいたかったら、つかっていいからな!!」

「……遠慮しとくわ」

 

 

    小学生という外見的にセーフだろうが精神的には余裕でアウトだ。それに、カエルはそこまで好きじゃない。というか今、嫌いになった。

 

    新しい傘とカッパが使えることが嬉しいのか、雅人のテンションは高い。通常からそこまで人通りの多くない肉屋に続くこの道路は、雨の日ということもあって人通りは全く無かったので、雅人が多少暴れても安心だ。

    勢いよく水溜まりに入ったり、静雅を置いて走ってみたり。楽しそうでなにより。雅人を見失わない程度の速度で静雅は歩いていく。

 

    細い一本道。もう少しで、道は開け交差点が見えてくる。その交差点を渡れば肉屋はすぐそこだ。気分のいい雅人は、そのまま交差点を渡ろうとしていたのでストップをかけ、少し早歩きをし、雅人に追いついた。

    信号は青。念の為左右の確認をさせ、大丈夫だったのでゴーサインをだした。その時だった。

 

 

「雅人っ!!」

 

 

    パシャパシャと音をたてて走って行く雅人の真横に車が現れた。運転手はコクリコクリと船を漕いでいて、雅人の存在に気づいてはいない。雅人も雅人で、静雅が名前を呼んだ為に足を止めた。そして車に気づき、雅人の顔は恐怖で歪んだ。

 

    静雅はこの世界に転生する前の、死因を思い出した。交通事故だ。あの時の静雅はトラックに跳ねられ、ボールのようにバウンドをして地面に叩きつけられた。身体中は痛くて、意識は朦朧として、寒くなっていって。そして、すごく寂しかったのを思い出した。

 

 

──雅人にそンなこと体験させねェ

 

 

    傘を捨て、買い物袋を捨て、大きく一歩、足を踏み出した。短い腕を必死に伸ばし、雅人の腕を掴む。そして、力いっぱいに腕を引き、雅人の身体を胸元に抱き寄せた。

 

    急に静雅が雅人の身体を引っ張ったものだから、驚いた雅人は傘から手を離してしまい、新品の傘が空中で舞った。雅人の傘は地面に落ちることはなく、車に轢かれた。嫌な音をたてて、地面に落下していく。しかし、そんな光景を静雅も雅人も見ていない。

 

    本当に、本当に間一髪だった。ギリギリのところで雅人を救えたことに、静雅は安心する。

    雅人も雅人で、静雅に助けて貰えたことの安心感から、目に大きな涙を溜めて泣き始めた。

 

 

「にいちゃん、にいちゃん…!!」

「大丈夫か!? 雅人っ!!」

「にいちゃん!!」

 

 

    ギュッと雅人は静雅の腰に抱きつく。よっぽど怖かったのだろう。そんな雅人を見て、静雅は幾分か冷静になった。

 

 

「あァ。大丈夫だ。大丈夫だから泣くなァ」

 

 

    優しく、静雅は雅人の頭を撫でてあげた。先程よりも雨が強くなっていたにも関わらず、濡れることを気にせず、雅人を安心させるため、抱擁し、頭を撫でてやる。

 

    しかし、中々雅人は泣き止まない。雨の日だからか通行人はいないが、交差点なので、車通りは多少ある。人目についてしまうし、邪魔なので壊れた雅人の傘と放り投げていた静雅の傘や買い物袋を回収した静雅は、雅人をおんぶして家へと向かう。

    本当のところ、このまま肉屋に行きたいのだが、雅人が泣き止まないので家に帰ることにした。肉屋にはまた後で来ればいいだろう。別に家から遠くもないので、静雅は雅人を優先した。

 

 

「あら、早かったわね…ってあんたびしょ濡れじゃない!!  雅人も号泣だし、何があったの!?」

 

 

    家に帰れば、母親がすぐに出迎えてくれたが、静雅達を見るなり慌てて部屋へと戻っていく。おそらく、タオルを取りに行ったのだろう。

 

   タオルを持って再びやってきた母親に雅人を託し、静雅は自分の体を拭く。

 

 

「で、何があったわけ?」

 

 

    さっきまでの一部始終を母親に伝えれば、母親は顔を真っ青にした後、雅人の安否確認を行った。怪我も無かったので、母親も安心した様子だ。お使いができていないことを謝ったら母親は「別にそんなの気にしなくていいのよ! あんた達が無事で良かった…」と酷く安堵した様子で雅人と静雅の頭を撫で、言った。

 

    母親に頭を撫でられた瞬間、涙が溢れてきた。

    小学生になって約2ヶ月が経った。相変わらず風間は鬱陶しくてイライラするし、上級生とも喧嘩したことだってあった。勝ちはしたが、その代償で沢山怪我をしたし怒られもした。でも泣かなかった。けど、今は違った。

 

    怖かったのだ。

 

    前世から喧嘩馴れしていたから喧嘩に恐怖することは無い。怒られるのだって怖くはない。でも、目の前で大切な家族が死にそうになった瞬間。心臓がキュウと締め付けられて、全身の血の気が無くなって、気が気じゃなくなって、怖くなった。

    咄嗟に手を掴めたから良かったものの、掴めていなかったら今ごろ雅人はどうなっていただろう。前世の静雅のように死んでしまっていたかもしれない。

 

    助けられた安心感に、さっきの恐怖が蘇ってきて涙が止まらなかった。母親は困った顔を一瞬したけれど、「頑張ったね。雅人を助けてくれてありがとう」と雅人と静雅を抱き寄せて礼を言った。

 

    数十分後には漸く涙も止まり、母親は静雅に風呂に入るよう伝えた。お使いに行くと静雅は言ったのだが、母親は「大丈夫」と言って頑なに了承を告げることはなかった。静雅の代わりに兄が行くらしい。ダラダラとしていた兄に無理やり頼んだものだから、少しブーたれていたみたいだが、その肉がないと兄の分のご飯がないことを知り、慌てて出て行った。

 

    雅人と一緒にお風呂に入った。雅人はまだカッパを着ていたから濡れることは免れたものの、静雅は直で雨に打たれ、身体は冷えていた。これで季節が冬だったらゾッとする。

 

 

「…にいちゃん」

 

 

    プカプカと湯船に浮いているカエルを見つめながら、雅人は静雅を呼んだ。

 

 

「たすけてくれてありがとう。おれ、チクチクささるのがイヤだから、あんまりそとにでたがらなかったし、しょうじき、かあちゃんたちのてつだいも、したくなかった。でも、おれ…にいちゃんみたいな、カッコイイおとこになりたいなあ」

 

 

    「ケンカつよくて、おとこらしいにいちゃんみたいな!!」そう言って笑う雅人の無邪気な笑顔は破壊力抜群だった。

    正直、喧嘩なんてしてもいいことは殆どない。この歳だと金も持っていないので、勝った時に貰うこともできないし、大人が煩いだけだ。でも、男なら1度は通る道だ。あのチャラ臭い兄だっていつか通るだろう。

 

 

「まァ、頑張れや」

 

 

    静雅は雅人の濡れた頭をクシャクシャと撫でる。

 

    雅人の手本になれるような男にならねェとなァ。荷が重いねェ…。

なんて思いながら、静雅は今の人生を謳歌しようと心に決めたのだった。

 




更新について、少しお知らせがあります
先週、更新出来なかったことについては作者がサボっていた為に何も言い訳ができないのですが、来週からは作者がかなり多忙になってしまうので中々更新ができない状況になってしまいます。

1週間、休みが全くないこの鬼畜な生活を乗り越えながら、時間の合間に執筆して行くつもりです。身体中に蓄えた脂肪がなくなってしまう可能性があるほどには忙しくなっていってしまうので、正直時よ止まれ状態なのですが、現実は非道ですね。

とりあえず、更新できそうな週の月曜日には更新できますので、見捨てないで欲しいです。ぐっすり眠れる日はいつ来るのか、私には分かりませんがその時を楽しみに生きて行こうと思います。


PS.
世の中鬼畜やなあ。痩せてまうがな

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  • 宇佐美栞
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