影浦雅人の『兄貴』   作:瑠威

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遅くなってしまい、すみませんでした!
そして感想ありがとうございます!!  返信は遅れてしまいましたが、しっかりと読ませて貰っています。感想が来るとやはり嬉しいものですね。これからも頑張ろうと思いました(作文?)
安定の書き方定まってません。ごめんなさい。風間sideです


第7話

 

 

    いつの間にか隣にいることが当たり前になっていた。おれがずっと隣に居座っていたことに間違いはないが、アイツも文句を言いながらもなんだかんだ受け入れていたように思う。だからこそ落ち着かなかった。

    いつも隣にあるものが、予告無しに無くなるとペースを崩されるものだ。それと一緒の状況に今おれは陥っていた。

    朝8時。いつもなら来ていておかしくないこの時間帯。しかし、しずかの姿が見受けられなく、おれは辺りを見回す。今日はちょっと遅れているのだろうかなんて考えながらしずかが来るのをずっと待っていたが、担任が来てもしずかは姿を現すことは無かった。

 

 

「…今日の欠席は影浦くんだけだね」

 

 

    出席確認の時担任は「影浦くんは風邪のため今日はお休みです」と言った。風邪とは無縁そうな顔つきをしているが、あんなやつでも風邪をひくのだと少し驚いた。そして今日一日は退屈だと確信した。

 

    その日1日は珍しく自分でもやる気のない日だったと思う。小学校に入学してから今まで、しずかはなんだかんだ隣にいた。隣にいるのが当たり前で、いないと妙にソワソワして落ち着かない。気がついたら柄にもなく心配してしまうので、そこまでおれの中の深い場所にしずかがいることに驚いた。無意識に信頼していたらしい。

 

 

「風間くん」

 

 

    放課後。担任に呼ばれた。

    担任は微笑ましそうな目でおれを見つめ、言った。

 

 

「このプリント、影浦くんに届けてくれないかな?  2組の影浦くんも風邪引いちゃったみたいで届けてくれる子探しているの」

 

 

    担任はどうやらおれがしずかを心配していることに気づいていたらしい。おれを見る生暖かい視線は擽ったくて嫌に感じたが、わざわざ口に出すほどでもなかった。断る気もしなかったので大人しく頷くと「ありがとう」と言われ頭を撫でられた。思わず担任の手を払い除けそうになったが、そこをぐっと堪えその場を後にした。

 

    担任と別れた後、ランドセルを背負い担任が書いてくれた学校からしずかの家の道順を記したメモ用紙を片手に持ち、学校を後にした。

 

 

「…いがいとちかいな」

 

 

    学校から近いという訳ではなく、おれの家からしずかの家が近いという意味で発した言葉だった。暇な時遊びに行ってもいいなと思う。

 

    数十分歩いたところで影浦と書かれた表札を見つけた。メモ用紙もここだと赤いインクで丸つけてあるので、間違いないだろう。

 

    おれはランドセルを下ろし、開いた。担任に渡して欲しいと言われたプリントを取り出すためだ。

    透明なクリアファイルに入れられたプリントはシワひとつなく、少しだけ安堵した。

 

    クリアファイルを左手に持ち、右手でインターフォンを押す。数秒もしない内に、インターフォンから『はい』と女性の声が聞こえた。

 

 

「…しずかのプリントをもってきました」

『あー、静雅のプリントを……って静雅のを!?』

 

 

    インターフォンの先にいる女性は大層驚いている様だった。ガタンガシャーンと何かが倒れる音、そして割れる音がインターフォンから聞こえる。

 

 

『も、もしかしてだけど噂の風間くんかな!?』

「はい。かざま そうやです」

 

 

   『噂の』とは一体何を噂されているんだろうか。疑問に思って首を傾げていると、勢いよく家のドアが開かれる。

 

 

「是非、上がって頂戴!!」

 

 

    あれやこれやといつの間にかしずかの家におれは上がっていた。プリントを届けに来ただけなのに…と思ったが、少しだけしずかが心配だったし丁度良かったと思うことにした。しずかの母親は途轍もなく機嫌が良さそうで、ショートケーキとオレンジジュースを出してくれた。

 

 

「馬鹿2人が風邪引いた時は店閉めなくちゃいけないし、面倒だなあって思ってたんだけど、風間くんが来てくれたから全部チャラだわ!」

「はあ…?」

 

 

    ニコニコと笑っているしずかのお母さんは優しくおれの頭を撫でてくれる。今日だけで一体何回おれは頭を撫でられるのだろう。

 

 

「ごめんね!  真逆、風間くんに会えるなんて思ってなかったからおばちゃんテンション上がっちゃった」

 

 

    「お兄ちゃんから聞いてたのよ。静雅に友達が出来たって」としずかのお母さんがおれに嬉しそうに話してくれる。

 

 

「ほら、静雅って目付き悪いし、無愛想だし、全然構ってくれないでしょ?  だから友達なんて1人も出来たことなくてねー。実は心配してたのよ」

 

 

   「街中で突然、静雅の下僕って名乗る人達に絡まれた時は本当に心配したわ」としずかのお母さんはその時の事を思い出したのか、渋い表情になっていた。

 

 

「あの子、何が気に食わないのか授業とかも自分からは受けようとしないでしょ?  風間くんに会ってからは改善されたって聞いて私びっくりしたんだから」

「しずかはいがいとおしに、よわいんです」

「あら、そうなの?  私達は静観しちゃったからねー。それがいけなかったのかしら。…でも、あの子普通に頭がいいでしょ?  だから何か考えてのあの行動だと思うのよ。そう思うと怒るに怒れなくてね」

「………」

「それにサボりって青春っぽいじゃない!  学生のうちぐらいしか体験できないことだし、成績さえ落とさなければいいかなみたいな!」

 

 

    一言で言うと、しずかのお母さんは軽かった。考えているようで考えていない。まるでしずかの双子の兄の方を見ているかのようだ。流石、血の繋がっている親子だと思う。

 

 

「でも、本当に嬉しいなあ。静雅の話を聞くなんて殆どなかったから。あの子も深く喋ってくれないし、お兄ちゃんの話だと偏るから。ありがとう、風間くん。それから、これからも静雅の横に居てやってね」

 

 

    目元に少し涙を浮かべながら、しずかのお母さんは言った。俺は少し照れくさく思い、小さく頷くだけだった。

    そんなおれを見て、しずかのお母さんはクスクスと笑い、おれの頭を撫でた。今日はよく頭を撫でられる日だ。

 

 

「おい、ババア…水、って……!!」

 

 

    階段からノソノソと降りてきたしずかは俺を見て、ゴホゴホと咳き込む。顔は赤く、まだ熱は引いてなさそうだ。

 

 

「ゴッホ、ゴホゴホ!!  何でてめぇがいやがる!?」

「プリントをとどけにきた」

「こら静雅!  折角、風間くんが届けてくれたのにその言い方は何!?  後、誰がババアだって…?」

 

 

    病人ということを忘れているのか、静雅のお母さんは容赦のない拳をしずかに振り上げ、頭に当てた。ゴスンと普通はしないであろう音と共にしずかの機嫌の悪い声が部屋に響く。

 

 

「い゙てぇ!!  てめぇ、クソババア!  何すンだ殺すぞ!!」

「本っっ当!  アンタ口悪いわね! お母さんでしょうが!!」

 

 

    ギャーギャーと喧嘩している姿は友のようで、親子の絆が見える。おれの家族とは違う、スキンシップの取り方は中々に興味をそそられるものだった。

 

 

「おいチビ…微笑ましそうな顔でこっち見てンじゃねェ…!!  邪魔者は早く帰れ!!」

 

 

    先程よりも顔は赤くなり、しずかの熱は上がっているように見えた。心做しか頭から湯気が出ているようにも見える。…しずかは大丈夫だろうか。

    しずかの安静のためにも、おれは大人しく帰ることにした。しずかのお母さんは寂しそうだったが、近いうちにまた来ることを約束して(しずかは二度と来るなと息巻いていた)おれはしずかの家を後にした。

 

    そして次の日、しずかの体調は悪化し、まさかの病院に入院することになってしまったため1週間程学校を休んでしまった。

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