灰色ドラム缶部隊   作:黒呂

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長かった話も漸く終わりを迎えました! その後のエピローグをちょこっと書いて、この話を終わりにしたいと思います。もう少しだけのお付き合い、お願い致します。


宇宙要塞ア・バオア・クー 後編

鼓膜を突き破る程の爆発と目の前が真っ白になる程の閃光。この二つがほぼ同時に起こりメーインヘイムの巨大な船体が揺らぐ。戦闘に備えて装甲を強化されていたとは言え、戦艦の主砲と同等の威力を秘めたビームライフルを受けて無事で居られる筈がない。

 

しかも、ジムスナイパーカスタムの部隊はメーインヘイムの艦橋に狙いを定めて引き金を引いたのだ。当然ながら、直撃すればメーインヘイムの艦橋に居たブリッジクルーは一瞬にしてビームの高熱で蒸発し、この世から消滅していただろう。

 

……が、あくまでもそれは『艦橋に直撃すれば』の話である。実際にビームが命中したのはメーインヘイムの右舷の格納庫ブロックであり、艦橋に居たブリッジクルーは奇跡的に生存していた。

 

「ダズ中佐! 大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫だ! 君も大丈夫か!?」

「ええ、まだ地獄には行っていませんよ! 一瞬、あの世は見え掛けましたけどね!」

 

互いの生存を確認し合い、自分が生きていると生の喜びを実感した。もしもビームが艦橋に命中していたらと思うとゾッとするが、そういう恐怖心を味わえるのもまた生きている証だ。

しかし、実際にこうやって生きているのも只単に彼等の運が良いからという単純な理由ではない。艦橋を狙った筈のビームが右舷格納庫ブロックに命中したのは、もう一つ別の理由があるからだ。

 

「操舵手、よくやってくれた!!」

「はい!」

 

ダズの言葉に対し元気に返事を返す操舵手……そう、彼等ブリッジクルーの命を救ったのは、メーインヘイムの航行を任せられた操舵手が取った類稀なる艦体運動であった。

 

それはビームライフルに撃たれるほんの少し前の出来事であった。

頭上から接近して来る三機のMSが、ビームライフルの銃口をメーインヘイムに構える姿がモニターに映し出される。その瞬間、誰もが逃れられようの無い死を覚悟したが、唯一操舵手だけは艦長命令を受けるよりも先に舵を切り、急速で船体を斜めに傾けさせたのだ。

 

結果、放たれたビームライフルは艦橋ではなく格納庫ブロックに命中したという訳だ。操舵手の活躍が無ければ今頃撃墜されており、全員生き残っていなかっただろう。

 

しかし、だからと言って最悪の事態が免れた訳でなければ、被害が最低限で抑えられた訳でもない。

 

「右舷格納庫の被害はどうなっている!?」

「カタパルト装置は完全に駄目です! その場に居た兵士も何名か死傷した模様!」

「ダメージコントロールと消火活動を急げ!」

 

艦橋の代わりに直撃を受けた右舷の格納庫から轟々と炎が燃え盛っており、格納庫の機能は完全に潰されたと見るべきだろう。それでも格納庫内で誘爆が起こらなかったのは不幸中の幸いだ。

メーインヘイムが受けた状況を矢継ぎ早にオペレーターが伝え、操舵手は攻撃を避ける為に傾かせた艦体を立て直すのに必死だ。そしてウッドリーもダズに代わって、二次被害を抑えようと独自に指示を飛ばす。

 

「艦長! 敵が……!」

 

だが、敵がこちらの事情など察してくれる筈もなく、未だに傾いたままのメーインヘイムに向けて第二射を撃とうとビームライフルを構える様子がモニター画面に映し出される。

 

「ここまでか――――!」

 

艦橋に居る全員の心境をダズが代弁し、誰もが今度こそ逃れられない死を覚悟した。が、そこに一機のゲルググがジムスナイパーカスタム部隊とメーインヘイムの間に割って入り、連邦の部隊に向けてビームライフルを数発撃って追い払う。

 

『メーインヘイム! 今の内に体勢を立て直せ!』

「ネッド中尉か!?」

 

メーインヘイムに背を向けているゲルググからやって来た通信の声は、紛れも無くネッド中尉のものであった。どうやら自分の母艦の危機と知って、早急に駆け付けてくれたようだ。

また母艦の危機に駆け付けてくれたのは彼だけじゃない。メーインヘイムのオッゴ部隊も危機に瀕した母艦を守る為にネッドと共に立ち並んでいる。

 

『ネッド中尉! 自分達も支援しますよ!』

「ヤッコブ軍曹か! 感謝する……と言いたい所だが、敵はエースだ! 危険だぞ!」

 

ヤッコブの申し出は有難くもあるし心強いのだが、如何せん相手が悪い。敵はエースで構成された少数精鋭の小隊であり、且つその小隊に与えられたジムスナイパーカスタムは性能と火力、どちらにおいても最新鋭のゲルググに匹敵すると考えられる。

事実、たった三機の長距離狙撃でムサイ一隻を撃沈しているのだから、火力に至っては推して知るべしだ。

 

エースが駆る高性能MSが相手となれば、オッゴを熟知しているヤッコブ達でも性能差で苦戦させられるのは目に見えている。しかし、だからと言ってヤッコブもすんなりと引き下がるヤワな男ではない。

 

『へへっ、エースだからって戦う前に逃げてたら勝とうにも勝てませんよ! それに性能差や技量の差も、数で押せばどうにかなると連邦軍が教えてくれましたしね!』

 

既にこの時、オッゴ部隊は半数近くを失っており、現時点での残機は16機だけであった。だが、それでも向こうはジムスナイパーカスタム三機のみと数の面では、こちら側が有利だと言えよう。

何よりエースや熟練パイロットが相手だとしても、物量戦で推し進めれば確実に勝利を得られるという事を、前回のソロモン戦と今回のア・バオア・クー戦で連邦軍が証明してくれている。

この物量戦法に自分達が肖れば、例え敵が少数精鋭だろうと、最新鋭のMSだろうと、勝てる可能性はまだある。あると言っても正直なところ、五分五分ではあるが。

 

それでも少数精鋭の敵小隊に対し勝負を仕掛けるのに、悪くはない確率だとネッドは確信し、ヤッコブ達に指示を出した。

 

「俺が敵を可能な限り減らす! お前達は支援に徹するんだ! 良いな!」

『了解!!』

 

部下達との連携を確認し、ネッドは宇宙空間の中を軽やかに泳ぐかのようにゲルググを走らせた。その後ろからは親鳥の後を付いて歩く雛鳥の如く、オッゴ部隊が引っ付いていく。

 

『ボアン少佐! 敵がこちらへ向かって来ます!』

『敵を無視して、母艦を先に叩きますか!?』

 

こちらに向かって来るジオンの部隊を目の当たりにしても、ボアンと部下二人に恐れはない。数で圧倒されてはいるが、MSの性能と技量はこちらが上だと言う自信の表れが彼等の言動から見て取れた。

そして部下二人の言葉を耳に入れたボアンは考える素振りもせず、即断するかのように言い放った。

 

『いや、母艦は何時でも沈められる。それよりも、あの新型は厄介だ! 先にアイツを墜とし、それから母艦だ! ドラム缶は最後でも構わん!』

『了解!』

 

ボアンは母艦よりもネッドの駆るゲルググの撃墜を最優先事項と決めるや、部下を引き連れて目の前のネッド達に躍り掛かる。どうやら三人ともMS戦闘に消極的どころか、好戦的のようだ。

 

向かって来る少数精鋭の小隊に向けてゲルググがビームライフルを数発撃つが、相手のジムスナイパーカスタム三機は円を描く様にビームを回避する。一見すると三機はビームを難無く回避したかのように見えるが、ビームの弾速は実弾よりも極めて早い。

ビームが撃ち出されてから標的に命中するまでの時間は、余程の長距離からの狙撃か射撃でない限り無いに等しい。コンピュータで弾道を予想出来ると言われているが、実際にコンピュータの判断に従って機体を動かすのは容易な事ではない。

更にオッゴ部隊も隊長であるネッドだけに負担を掛けられまいとマシンガンやバズーカで3機に攻撃を仕掛けるものの、尽くを避けられてしてしまう。しかも、相手は派手に動き回る訳でもなく、軽く機体を捻らしたりと最低限の動きで回避してしまったのだ。

 

ビームの弾道を予測して回避し、実弾は最低限の動きで回避する。正にエースならではの技量であり、流石のネッドもこれには敵ながらも敬意を称したい気持ちに駆られた。

だが、敵に敬意を称しても戦争が終わる訳ではない。そう冷静に理解しながら更にビームライフルを二発撃ち、三発目を撃とうとした所でコックピット内にアラーム音が鳴り響く。

 

「! 弾切れか……!」

 

ゲルググのビームライフルの残弾がゼロである事を知らせるアラーム音にネッドは舌打ちを漏らし、無用の長物と化したライフルを投げ捨てる。

唯一の射撃武器であるビームライフルを捨てたのを見て、ゲルググが弾切れを起こしたと気付いたボアン達は攻勢に躍り出た。3機が各々のタイミングでビームライフルを撃ってくるその光景は、宛ら戦艦の一斉射撃のようにも見える。実際に威力も戦艦の主砲と変わらないのだから、正にその通りだと見るべきだろう。

 

ネッドは奥歯を噛み締め、少し苦しそうな表情を浮かべるもののビームライフルの一斉射撃の回避に成功する。ゲルググより性能の低いオッゴは一発か二発を回避するので精一杯で、大半は三発目で撃墜されてしまった。

 

「各機! 散開しろ! 固まったままじゃ全滅するぞ!!」

 

ゲルググに匹敵する敵MSとオッゴでは性能差が開き過ぎており、このまま戦いを続行すれば被害は増える一方だ。それを危惧し、ネッドはオッゴ達に散開して被害を抑える事に専念させた。

無論、ネッドも敵の射線から抜け出して距離を置こうとするが、相手三機は当初の目論み通りネッド機のみを狙って攻撃を仕掛け続けて来る。ビームを避けるか、背中に装着させてあった盾を持ち出し、それで攻撃を凌いだりするが、結局は防戦一方という好ましくない状況だ。

 

「くそ! 振り切れん!」

 

盾の表面にビームを弾くビームコーティングが施されているとは言え、同じ部分にビームが集中すればコーティングの効果は無くなってしまう。

このまま攻撃を受けるばかりでは埒が明かない、それどころか一瞬の気の緩みで撃墜される恐れがある。どうすれば危機を脱する事が出来るか……只管にそれを考えながらも、同時に攻撃を避けるのに必要な手足の動作も忘れない。

並のパイロットでは困難に近い精神を擦り減らす作業ではあるが、それでもやり遂げるのはネッドがエースであり、彼の中に生への執着があるからだろう。

 

兎に角、この状況を脱する事が出来る良い方法が無いものかと周囲をモノアイカメラで見渡していると―――

 

『ネッド中尉!』

「! エド伍長か!? 何処に居る!?」

『中尉の右! ムサイの残骸の影です!』

 

―――突如通信機から飛び出してきたエドの声に反応し、彼の言う方向へ目を遣ると、先程ボアン達に撃墜されたムサイの残骸が目に入った。

ムサイの残骸はボアン達から受けた攻撃によって右半分を殆ど失っており、軽巡洋艦としての機能は当然ながら失われているが、それでも盾代わりや身を隠すのには十分ではあった。

そのムサイの影から三つの光……恐らくエド達が乗るオッゴのモノアイと思しき光が確認出来た。そしてこちらに向けてチカチカと点滅を繰り返し、自分は此処に居るぞと伝えてくれる。

 

「少しの間だけでも、隠れるとするか………!」

 

今更隠れてもすぐに見付かるだろうが、防御に徹して疲労した精神を一分一秒でも休められたらそれで良い……そう考えるや、ネッドは真っ直ぐに残骸と化したムサイ艦へと向かって行った。

 

『ボアン少佐! 敵が残骸に逃げ込みました!』

 

一方のボアン達はゲルググが大破したムサイの残骸へ逃げ込むのを見て、ほんの数秒だけ動きを止めた。すぐに後を追い掛けて攻撃を続行するのも有りだが、ここは確実に仕留めたいという気持ちも同時にあった。

 

「このままダラダラとイタチゴッコを続けるつもりはない。俺とマーカスはここから攻撃し、隠れた新型を亥ぶり出す。サイモン、お前は回り込んで亥ぶり出された新型を潰せ。良いな?」

『了解!』

 

マーカスの作戦にサイモンも異論はないらしく、威勢の良い返事を返すや、ゲルググを追い詰めるべく小隊から離れてボアンに言われた通りの行動を取る。

大きく遠回りする形でムサイに近付くサイモンを見据えながら、彼がムサイに接触するタイミングを頭の中で予想し、ボアンとマーカスは攻撃を開始する。

 

数発のビームがムサイの残骸に襲い掛かり、分厚い部分ではビームは貫通せずに爆発するだけだが、装甲の薄い部分に命中したビームは貫通し、その向こうに隠れているゲルググとオッゴに襲い掛かる。

やがて双方が五発以上のビームを残骸に叩き込んだ瞬間、辛うじて原型を留めていたムサイの残骸が爆発を引き起こし、今度こそ木端微塵に吹き飛んだ。

この爆発に巻き込まれていれば、さしものゲルググも無傷では済まなかっただろう。だが、ネッドはムサイの爆発を見越しており、爆発に巻き込まれる前にオッゴ共々ムサイから離脱していた。

 

しかし、その行動は既にボアンの指示で動いていたサイモンに読まれていた。爆発の閃光の中から現れたゲルググと、三機のオッゴをモニターで確認するや、バーニアを全開にして一気に距離を縮める。

 

「残弾は二発だけか……!」

 

チラリと側面モニターに表示されたビームライフルの残弾に目を遣り、このまま撃ち尽くすか、射撃を捨てて接近戦に持ち込むか、どちらにすべきかと一瞬だけ思考を巡らした。そして、その一瞬の間にサイモンが選んだのは後者の接近戦であった。

 

「相手だって武器は持っちゃいないんだ! 接近戦でやってやる!」

 

彼が接近戦を選んだ理由は幾つかあるが、その中でも決断に至った大きな要因となったのはゲルググに射撃武器は無いという認識であった。MS同士の射撃と違い、接近戦ならば勝負はすぐに着く。故にサイモンは射撃に拘らず、思い切って格闘戦での決着を試みようとしたのだ。

事実、今さっきゲルググは持っていたビームライフルを投げ捨てているのだし、もしサイモンの予想が当たっていれば相手の装備は盾とビームサーベルだけだ。

 

そしてサイモンの見据える正面モニターには左手の盾を前面に突き出し、やや後ろに回した右手にビームサーベルを構えたゲルググがこちらを見据えている姿が映し出されている。

ゲルググ以外にもオッゴ三機も一緒だが、こちらはMSと違って格闘も出来ないので、射撃にのみ注意すれば怖くない兵器だ。最も、支援をさせる暇も与えずに速攻でゲルググを打ち倒してしまえば問題は無い。

 

「……やれる!」

 

ジムスナイパーカスタムの格闘武器は他のMSとは異なり、手でビームサーベルの柄を持つのではなく、右前腕部に備えられた四角いボックスからビームサーベルを放出する仕組みとなっている。

このような独特の兵装になっているのは、射撃武器を手にしたままでも敵機の接近に即座に対応出来るよう設計されているからだ。つまり本機は格闘も視野に入れた、射撃重視の機体だという事だ。

ボックス型のビームサーベルを放出させ、サイモンはゲルググを確実に仕留めるべく相手に接近する。向こうも射撃兵装を持っていないのだから、接近して格闘戦に持ち込むしかない筈だ――――そう確信さえ抱いていた。

 

だが、その確信は直後に裏切られた。ゲルググが構えていた盾がフワリと宙に浮かび、彼の手元から離れていく。そして代わりに盾の裏から現れたのは、巨大なバズーカ……リック・ドムの主兵装として知られるジャイアントバズであった。

 

「なっ!? ジャイアントバズ!?」

 

偶々無傷の武器を拾ったのか、それとも周りに居るオッゴが武器を運んだのかは定かではないが、兎に角、武器を持っていないから大丈夫だという確信が彼の命取りとなった。

ゲルググが持つジャイアントバズの砲口はサイモンのジムスナイパーカスタムに向けられると同時に、何の躊躇いも無くその引き金を引いた。

 

相手に射撃武器は無いと思い込んでいた為にサイモンの反応は通常よりも遅れてしまい、また接近戦を挑む気だったのでゲルググに近付き過ぎていた。その結果、弾速の遅いジャイアントバズを回避する事も叶わず、弾頭はサイモンの居るコックピットに直撃し、爆発した。

 

ジャイアントバズはMSが使用する手持火器の中では最大級の大きさを有しており、命中した場所によっては艦船でさえ一撃で落とせる程の威力を有している。

そんな強力な武器をコックピットにまともに受けたのだ。熟練者が乗るエース専用のMSと言えども、無傷で済む筈がない。いや、生きていられる筈がない。

 

ジャイアントバズが命中した直後、ジムスナイパーカスタムも巨大な爆発を引き起こし、サイモン諸共デプリの仲間入りを果たしてしまった。

 

「やった! やりましたね、隊長!」

『ああ、お前達のおかげだよ。よく武器を持って来てくれた』

 

敵のエースを一機撃墜したのを見て、エドは喜びの声を上げた。そしてネッドも感謝の言葉を呟き、ゲルググの左手に握り締められたジャイアントバズにモノアイを遣る。

彼がムサイの残骸に隠れた後、このジャイアントバズを持って来てくれたのは他ならぬエド達だ。撃沈されたムサイ艦の中で運良く無傷で残っていたのを発見したらしく、恐らく武器を喪失したリック・ドムの為に用意された予備兵装だったのだろう。

 

『だが、まだ気を抜くなよ……次が来るぞ!』

「はい!」

 

ネッドの言葉がやって来たのとほぼ同時に、彼等の近くをビームライフルの光が横切っていく。ビームの来た方へ目を向ければ、先程までネッドを執拗に追い駆け続けていた連邦のエース小隊がこちらへ向かって来た。

向こうも仲間を倒された所は見ていた筈だ。だとすれば、今度は小細工無しの真っ向勝負で挑んで来るに違いない。そう踏んだネッドはエド達に支援を要請した。頼り無いオッゴと言えども、支援はあった方が心強い。

 

『エド、支援を頼む! 俺一人じゃ、正直あいつらを相手にするのは骨が折れそうだ!』

「了解!」

 

 

『隊長! サイモンが!』

「馬鹿め、迂闊に接近したからだぞ……!」

 

仲間のジムスナイパーカスタムが火球となって消滅する様子を遠くから見ていたボアンとマーカス。熟練者と言えども、戦場では一歩間違えれば素人の攻撃や、流れ弾で死に直結するのは珍しくもない。

今の場合もサイモンが撃墜されたのは敵の腕前もさる事ながら、不用意に接近したサイモンの油断が自らの死を招いたと言えよう。故にボアンは味方が撃墜された事に対する怒りよりも先に、味方の不甲斐無さに呆れを感じていた。

 

そして再度あのゲルググとオッゴ数機と渡り合うが、相手も熟練者という事もあり中々勝負に決着が着かない。特にゲルググを支援しているオッゴがここぞという肝心な所でしゃしゃり出て来るので、厄介な事この上ない。

 

「くそ! ドラム缶が予想以上に邪魔だ! マーカス、お前はドラム缶を仕留めろ! 新型は俺が相手する!」

『了解!』

 

当初は雑魚だからという理由でオッゴを無視しようという考えではあったが、ここまで執拗に邪魔されてしまっては流石のボアンも我慢の限界だ。遂にボアンは部下のマーカスにオッゴ達の相手を任せ、自分はゲルググに容赦なく切り込んだ。

ビームサーベルを放出させて切り込んできたボアンのジムスナイパーカスタムに対し、ネッドのゲルググはビームナギナタで受け止める。受け止めた直後にもう片方の手に握られていたジャイアントバズを相手に向けて数発発射するが、弾速の遅いジャイアントバズを難無くそれを交わしてしまう。

 

そもそも取り回しの悪いジャイアントバズだと接近戦では返って邪魔となり、まともに命中させるのは困難だった。

数発撃って弾が切れたのを機会にネッドはジャイアントバズを捨て、今度こそ本格的な格闘戦へと戦術スタイルを変更した。それを見たボアンも弾切れを起こしたビームライフルを投げ捨て、ボックス型ビームサーベルだけで戦いを挑む。

 

そして互いにビームサーベルによる激しい鍔迫り合いを繰り広げ、オッゴ達も支援しようにも、その激しい戦いっぷりに圧倒されてしまい、只々両者の戦いを見守るばかりだ。

 

「駄目だ! 支援する隙なんてありゃしない!」

『エド伍長! もう一機の敵がこっちに……うわぁぁぁ!!ザ―――ッ』

「ブライアン!」

 

部下であるブライアンの叫びに気付いて彼の方を見たが、目線を向けた時には既に彼の乗ったオッゴはもう一機のジムスナイパーカスタムが放ったビームライフルに貫かれ、爆散していた。更に相手は立て続けにビームライフルを数発撃ち、もう一機の同僚のオッゴも撃墜されてしまった。

どうやら、もう一機のエース様は仲間の援護から、自分達の排除に目的を切り替えたらしい……そう判断するやエドは真っ先に背を向けて逃避行を開始した。すると案の定、相手は逃げるエドの背中を追い掛け始めた。

 

一見すれば新型に追われて逃げ惑っているだけのように見えるが、これはこれでエドなりに考えた末の行動だ。

 

「よし! このまま俺を追い駆けて来い! そうすれば隊長も一対一で戦い易くなる筈だ!」

 

エドが態々敵に背を向けて逃げるのは、ネッドにとって戦い易い環境を作る為だ。あのまま自分が撃墜されてしまえば、きっと敵はすぐさま仲間の援護へと向かうだろう。そうなってしまえばネッドの身が危うくなり、またそうなるぐらいならば少しでも時間を稼いだ方が隊長の為になる……そうエドは判断した。

 

流石にオッゴの操縦に関しては一日の長があり、ジムスナイパーカスタムのビームライフルを右へ左へと小回りの利く動きで回避してみせる。とは言っても、本人の力量も大した事は無いので、正直これが彼の精一杯の操縦だ。

 

しかし、このまま避け続けても埒が明かないし、何より意味が無い。試しにエドは相手との距離や射角、弾道などを計算に入れた上で、オッゴの両側面に備えられた計4本のシュツルムファウストの内、後方に弾頭が向けられた2本を順次に発射した。

勢い良く発射された一発目の弾頭は真っ直ぐにジムスナイパーカスタムに向かうが、単純な攻撃故に弾道を簡単に読まれてしまい、軽々と避けられてしまう。

続く二発目は相手がビームライフルを放つのとほぼ同じタイミングで発射され、運が良ければ相撃ちになるかもしれないという願いが込められていた。

 

だが、残念ながら世の中はそう簡単に思い通りにいかないものだ。二発目の弾頭はビームライフルに微かに触れたのか、ジムスナイパーカスタムに辿り着く前に爆発。更にビームの弾丸はオッゴの折り畳まれた右腕を掠り、腕を溶かしただけでなく、ビームと接触した衝撃で機体のバランスを大きく崩させた。

 

「う、うわあああああ!?」

 

バランスが崩れ、ぐるんぐるんと機体が何回も何回も回転する。無重力だからか、ジェットコースターのように胃の中が逆様になる現象にはならなかったものの、目の前の映像が自分を中心にグルグルと回る……言葉に言い表せない違和感に襲われる。

 

暫くすると回転のし過ぎで機体の制御システムが自動的に作動し、補助ブースターの推進剤が噴射されて機体に制止を掛けてくれた。数十秒後には機体の動きも止まり、何十回も回転し続けていた目の前の映像も漸く止まってくれた。

大抵の人間ならばそこで安堵の溜息の一つも吐いていたかもしれないが、エドはそこに映し出されたものを見て背筋が凍り付いた。

 

正面のモニターに映し出されていたのは、ボックス型ビームサーベルを自分に向けて突き立てようとする勇ましいジムスナイパーカスタムの姿であった。

 

駄目だ、死ぬ、死ぬんだ、あの敵のビームサーベルに貫かれて、焼け死ぬんだ………脳裏に自分の死が充満し、やがて頭の中一杯になって真っ白になるまで、そう時間は掛からなかった。いや、一瞬とさえ言っても良い程だ。

恐怖の余りに小水を漏らしてしまうが、そんな事さえ気付いていない。それは彼が反撃する意思を放棄し、生きる事を諦めたようなものだ。

 

そしてモニター画面一杯に敵機が映し出された……直後だった。

 

『エドくん!!!』

 

何処からともなく同僚の声がコックピット内に響き渡り、そこでハッと我に返るが、その声の主の姿は何処にも見当たらない。慌ててモノアイを動かして周囲に目を配ろうとするが、間も無くして背後から何かがぶつかるような強い衝撃が襲い掛かってきた。

 

「うわ!?」

 

突然の衝撃に成す術もなく吹っ飛ばされてしまうが、先程のビームライフルの接触に比べれば優しいものだ。すぐにバランスを立て直し、機体を制止させる事に成功する……と同時に、オッゴのモノアイが捉えた映像を目にするやエドは衝撃を受けた。

 

自分の仲間であろうオッゴの一機が、先程のジムスナイパーカスタムが構えたビームサーベルにコックピットを貫かれていたのだ。

 

あのオッゴは誰なのか……なんて疑問は浮かばなかった。何故なら一目見ただけでアレに乗っているのが誰なのか分かっていたからだ。

自分が貫かれそうになった直前で聞こえた若い声、そして貫かれたオッゴのプロペラントタンクに記入された部隊ナンバーでそれが誰かなのかは一目瞭然だった。

 

そう、それは紛れもなく自分の同僚でもあった――――アキ・カルキン伍長の操縦するオッゴであった。

 

恐らく、今の衝撃もアキの仕業に違いない。機体ごと体当たりして彼を突き飛ばし、身を呈して仲間を守ろうとしたのだ。そしてエドと入れ違いとなり、アキはその身を高熱のビームで焼き尽くされてしまった。

 

彼が自分の命を犠牲にしてでもそのような行動を取ったのは、エドが仲間だからというだけではない。仲間を欺きながらキシリア機関のスパイとして活動していた後ろめたさに対する償いや清算をしたかったのかもしれない。

果たして、それが仲間を庇った理由なのかどうかは、アキが死んでしまった今では謎のままだ。しかし、命を救われたエドが彼の事情を知る由がない。

 

彼が理解しているのは只一つ……仲間が死んだという悲しい事実だけだ。

 

「アキィィィィィッ!!!」

 

怒りと悲しみが綯い交ぜとなり、アキの名前を腹の底から叫んだ瞬間、彼の脳裏に今さっき死んだ筈の仲間の声が何処からか囁いた気がした。

 

『エド君! 僕の機体を撃つんだ!』

「機体……!?」

 

死んだ筈の仲間の声がどうして聞こえるんだという当たり前の疑問は、この時ばかりは浮かび上がって来なかった。戦争で追い詰められていたのかもしれないが、それはさて置き、聞こえてきたアキの声に従ってビームサーベルに貫かれた彼の機体を見た。

アキの機体はビームサーベルに貫かれてはいたが、見事にコックピットだけを貫いたからか爆発せずに串刺しになったままの状態だった。無論、弾薬や推進剤もそのままだ。

 

「………そうか! 分かったよ、アキ!!」

 

アキの囁きでヒントを得たらしく、エドはすぐさま串刺しになったオッゴに向けてマシンガンを撃ち込んだ。マシンガンの弾はオッゴのプロペラントタンクに命中し、その中にあった推進剤に引火し、起爆した。

MSよりも小さいオッゴと言えども、ザクと同じ熱核反応炉を有しているのだ。それが爆発した際に生まれる破壊力は目を見張るものであり、しかもジムスナイパーカスタムのボックス型ビームサーベルは右腕と一体化されていた為に爆発から逃げる事はほぼ不可能であった。

 

この爆発によってジムスナイパーカスタムは右腕全てを失い、右足も膝から下を吹き飛ばされる程の甚大なダメージを受けてしまった。ボディの装甲も爆発の影響か、若干焼け焦げてしまったらしく色が剥げ落ちてしまっている。

手足を失い戦闘に支障を来たした時点で戦闘を中止するのが普通だが、マーカスは色々な意味で諦めの悪い男であった。

 

『この……ドラム缶如きがぁ!!』

 

今までジオンに受けた屈辱を晴らすという信念を持っていた彼は、最後まで徹底抗戦の構えを見せた。辛うじて動かせるジムスナイパーカスタムの左腕を動かし、機体の腰部に備えていたビームスプレーガンを取り出すと素早く銃口をオッゴに向けたのである。

 

「!!」

『くたばりやがれ!!』

 

ビームスプレーガンを取り出してから、オッゴに向けてビームを発射するまでに至る一連の動作は無駄が無く、且つ手馴れている。その動きはまるで早撃ちのようにも見え、流石は熟練パイロットだと称賛に値する程だ。

 

だが、エドは機体を傾けただけでマーカスの攻撃を難無く交わしてみせた。

 

普通のパイロット……いや、マーカス達と同じ熟練パイロットでも今のような攻撃を予測し、回避するのは困難な筈だ。

しかし、何故かエドには彼の動きが見えていた。相手が腰部のビームスプレーガンを取り出す所から自分に銃口を向けるに至るまでの動きが残像付きのスローモーションに見え、それどころかマーカスがこれから起こす動作も先読み出来た。

 

生まれて初めて経験するこの感覚が一体何なのかは分からないが、少なくとも自分に害あるものではないらしいと理解していた。そして先読みした通りにビームは放たれ、エドは先読みに従って回避動作を行い、ビームを回避した。

機体を傾けて回避したのと同時に、オッゴの右側面に残されていたシュツルムファウストの一発をジムスナイパーカスタム目掛けて発射した。発射されたシュツルムファウストの弾頭は吸い込まれるようにコックピットに直進し、遂には着弾した。

着弾した弾頭は勢い余ってコックピットを押し潰し、乗っていたマーカスの体を一瞬にして五体を留めぬ肉塊へと変えてしまう。だが、最後は弾頭そのものが爆発し、MSもその爆発で誘爆したので元も子も無くなってしまった。

 

僅か数秒にも満たない一瞬の出来事であったが、その一瞬の間に敵の兵士が死に、エドは生き残った。

 

「俺……生きているのか?」

 

敵を倒したものの、未だにエドは自分が生きている事も信じられなかった。何せ、本当ならば自分はあの攻撃で死んでいたかもしれなかったのだから。

 

自分が死んでいたかもしれない……それを思い返した瞬間に思い浮かぶのは、自分を庇って散っていった同僚のアキの姿であった。

 

「うっ……ふぅ…ぐ……畜生……! どうして……どうして俺なんかを庇ったんだよ……! アキィ……!」

 

自分が不甲斐ないばかりに仲間を死なせてしまったという事実だけが残り、エドの中で後悔と無念が溢れ返りそうになる。その二つの想いを胸の内に溜め込め切れず、涙となって彼の両目からポロポロと流れ出ていく。

 

『おい、エド! 聞こえている!? 返事をしろ、エド!!』

「ッ……! や…ヤッコブ軍曹! 無事だったんですね!」

『当たり前だ! こんな所で死んでたまるかよ!』

 

涙を流す最中に通信機から聞こえてきたヤッコブの声に反応し、エドは急いで涙を拭い落として通信に出た。そしてモノアイで周囲を見渡すと、数機のオッゴが自分の所へやって来るのを見付けた。恐らくあの数機のオッゴはヤッコブ以外にも生き残ったオッゴ部隊の面々なのだろう。

 

『こんな所でボサッとすんな。敵も追撃を諦めて引き揚げ始めた今、これ以上此処に留まる理由は無い。さっさと母艦に帰還するぞ』

 

ヤッコブに言われて辺りを見回してみれば、確かに戦闘は既に終了しており、ビームの光や爆発の閃光は無くなっていた。あるのはこの宙域で生み出された夥しい数の残骸と、撤退戦と追撃戦の末に帰還不能に陥っている友軍の救出に勤しんでいる両軍の姿だけだ。

第一目標であったドロスを最後まで守り抜く事が出来たのだから、一応この撤退戦は成功したと言えるだろう。とは言ってもこちらの被害も相当なものであり、この場合は痛み分けという表現が正しいかもしれない。

 

『他に置いてけ堀になっている仲間が居ないか探しているんだが……アキはどうした? 何処を探しても見当たらないんだが―――』

「アキは……死にました……。俺を庇って……」

『………そうか』

 

仲間が見当たらないだけに、何処かで生きてて欲しいとヤッコブも心の底で強く願っていたのだろう。エドの口からアキの戦死が伝えられると、返って来た彼の声が悲しみで沈んでいるのが聞き取れた。

 

『30機居たオッゴ部隊も、生き残ったのは僅か9機のみ……か。酷い有り様だな、全く……。だけど、あの激戦の中を生き残れただけでも幸運だな』

「軍曹、すいません。俺のせいでアキを……」

 

自責の念に駆られ、ヤッコブに自分のせいでアキを死なせたと心の内を吐露したのは罪悪感か、もしくはそれから救われたいという一心だったのかもしれない。だが、それをヤッコブに言った所で意味は無いし、またヤッコブも聞く耳を持たなかった。

 

『馬鹿野郎、アイツは仲間を庇って死んだんだ。お前に撃たれて死んだ訳じゃねぇ、そうだろう?』

「ですが……!」

『あいつがお前を庇ったのは、他でもない大事な仲間を守りたかったからだ。それをお前は自分のせいだって責め続けたら、死んだアキも救われないぜ』

「………すいません」

『だから、あいつの分まで生きろよ。良いな?』

「……はいっ!」

 

仲間の死で悲しむのは当然の事だ。しかし、その死を自分のせいだとして自分自身を追い詰めるのはアキも望んではいないだろう。だからこそ、ヤッコブは死んだ仲間の分まで生きるべきだと優しい言葉を選び、エドに諭したのだ。

 

「ヤッコブ軍曹、そう言えばネッド中尉はどうなったか知りませんか? 途中まで支援してたんですが、逸れてしまって……」

 

敵の隊長機との一騎打ちに持ち込んだネッド中尉は無事なのかと尋ねると、ヤッコブの言葉が止まった。成り立っていた会話が突然止まってしまった事に嫌な予感を感じ、思わず『まさか……』とエドが口に出した頃に再びヤッコブから意味深な言葉が返ってきた。

 

『帰還する途中に会えるさ』

 

 

 

ヤッコブ達と共にメーインヘイムへと帰還する最中、エドは改めて戦いが終わったのだと実感した。

けたたましい戦闘音の代わりに聞こえるのは、救助を求む声と、それに応える声。戦闘が止んだ宇宙空間には、ランチと呼ばれる小型艇が友軍の救助の為に右往左往している。

そして仲間を収容するとランチは空母ドロスへ帰還し、仲間を下ろすとすぐにまた他の所で救助を求めている友軍の回収へ出向く。これの繰り返しだ。

因みにドロスを中心に撤退するという戦法、実はソロモンからア・バオア・クーへ撤退した時と全く同じやり方である。特にドロスは他の艦船よりも遥かに足が遅いが、その分比べ物にならない程の搭載能力を有している為、このような撤退戦になった場合は友軍の回収などで本領を発揮してくれる。

 

「あれは……!」

 

友軍回収に力を注ぐドロスやランチに目を遣りながら、母艦であるメーインヘイムに向かう途中、エドの目に見覚えのある二体のMSの残骸が目に飛び込んできた。片方は自分が撃墜したのと全く同じジムスナイパーカスタム、もう片方は自分の上官であるネッド中尉の乗っていたゲルググだ。

どちらもMSの原型を留めているが、両機のビームサーベルは互いのコックピットを突き刺す格好で停止していた。所謂、相打ちだ。

 

「ヤッコブ軍曹、まさかアレって……」

『……ああ、ネッド中尉のゲルググだ』

 

敵と相打ちになっているゲルググを見て、ヤッコブに尋ねると案の定の答えが返って来た。エド達の上官であり、メーインヘイムの部隊長でもネッド・ミズキ中尉の変わり果てた姿にエドは言葉を失った。

 

「そんな……ネッド中尉までもが……」

『……俺がネッド中尉を見付けた時、二人の戦いに決着が着いた直後だったよ』

 

両者の搭乗機の腕を切り落とされるなどの満身創痍の状態でありながらも、最後は意地の一振りで相手のコックピットにビームサーベルを突き立てた、あの瞬間……ネッド中尉と敵のエースとの激しい死闘に決着が着いた瞬間をヤッコブは生涯忘れる事は出来ないだろう。

 

そして皮肉にもネッド中尉が討たれる前後に、連邦軍は兵を引き揚げていき、戦闘は終息した。

 

「………ネッド中尉は最後まで戦い続けたんですね」

『ああ、あの人もエースとして最後まで戦って……大勢の仲間を守って散って行ったんだ。きっと、悔いは残っていない筈だ』

 

最後まで戦い抜き、身を呈してでも仲間を守り切った事実は軍人であるネッドにとって慰めであり、誇りであったに違いない。そして残骸と化したゲルググの中で息絶えたネッドに対し、エドとヤッコブ、他のオッゴ部隊も哀悼の意を込めて敬礼を捧げた。

 

一分間の敬礼を捧げた後、自分達の母艦であり家でもあるメーインヘイムの方へ振り返ると、半壊した右舷格納庫や左舷格納庫の空いたスペースにMSや救助ランチを収容し、仲間の救助に奮闘する特別支援部隊らしい姿がそこにあった。

またカリアナ中尉の駆る巨大MAビグ・ラングも行動不能に陥ったMSを牽引したりし、巨体を活かした救助活動を行っていた。

 

そんな姿を見せ付けられれば、自分達も只帰還するだけという訳にはいかないだろう。

 

『エド、俺達の仕事はまだまだ残っているようだ』

「そうですね……」

『……さぁ、行こうぜ。特別支援部隊らしく、最後まで人様の役に立とうぜ!』

「はい!」

 

宇宙世紀0079年12月31日、ジオン公国の事実上の最終防衛ラインであるア・バオア・クー要塞は陥落し、これによりジオンの敗北は確実となった。

 

この戦争でジオン公国を牛耳っていたザビ家はドズルの実子ミネバを残して滅亡し、代わりに今まで息を潜めていたジオン穏健派が政権を奪取した。そしてすぐさま地球連邦にコンタクトを取り、和平交渉を申し入れた。

連邦軍もア・バオア・クー要塞での戦いで連邦宇宙軍のほぼ全ての戦力を失ってしまっていたので、これ以上の無用な戦いは望んではいなかった。

 

こうしてお互いの利害が一致し、翌日の宇宙世紀0080年1月1日……地球連邦とジオン共和国の間に終戦協定が結ばれた。

 

たった一年という短い月日ではあったが、人類史の中で最も多くの血が流され、MSなどの新たな兵器によって戦争の常識が一変し、地球と宇宙……双方に癒えない亀裂を与えた不毛の年であった。

 




エピローグも書き上げて、この作品も漸く終わりです。というか、ここでもう個人的に完結した気分です(笑)

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