灰色ドラム缶部隊   作:黒呂

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今回はオッゴよりもゴーストファイターの方がメインになってしまいました(汗)


英雄の残光

『MP-02Aオッゴ

 

 全長:11.6m 全高:7.8m 全幅:14.7m

 全備重量:57.8t

 武装:ザクマシンガン・ザクバズーカ・シュツルムファウスト・ミサイルポッド

 

 既成品の作業用ポッドとMSの部品を流用し完成したMP。この機体の特徴は何と言っても製作コストの安さであろう。MSと同じ熱核反応炉を搭載しながらも、単純な機体構造や安上がりな設計のおかげでそのコストはザクⅡの三分の一程度と言われている。また単純な構造故に整備も安易な上に、生産後の維持費についてもMSに比べると格段と安い。

 一方で武装面ではザクマシンガンやザクバズーカを右側のシリンダーに設置された専用のアタッチメントに装備出来る上に、+αとして両側面のウェポンラッチにはシュツルムファウストとミサイルポッドを装備可能としている。

 推進機関には戦闘機を凌ぐ大型で大推力のロケットエンジンを搭載し、これにより高機動性を実現。MSの機動性にも十分に追従する事が出来、支援機としての活躍も見込まれる。

 操縦性についてもMPはMSに比べて優れている。元が安易な操作で動かせる作業ポッドを流用したからという理由もあるだろうが、そこに完成度の高いMSのコックピットを導入した事でオッゴは益々操作性に優れた優良な機体となった。

 因みに運用試験を目的に作られたオッゴの先行量産型はザクのコックピットを丸々流用したが、後に生産されたオッゴには完成度の高いコックピット構造をそのままにしつつ、操作性はザク等のMSに比べてシンプル且つ簡潔なものに変更している。

 オッゴの特徴や性能を考えれば、MS並に複雑な動きをするのは不可能であり、同時に必要でもない。あくまでもオッゴはMPとして完成された機体なのだ。つまり操作性をMPに合わせて簡素化しても何ら問題は無いと言う事だ。

 

 またオッゴは熱核反応炉がMSのように内部ではなく外側に装着されており、真下から覗くとジェネレーターの配管が露出している作りとなっている。これは狭い機体スペースの問題等の理由でこういう作りになってしまい、オッゴの数ある欠点の一つと言える。

 だが、熱核反応炉が外側に備わっているという欠点は逆にMSのように大掛かりな専用の冷却ベッドを必要としないという利点に繋がり、MSよりもコンパクト且つ簡易な冷却ベッドで冷却を済ます事が可能だ。

 冷却ベッドが無くても、最低限の冷却ならば推進剤の噴射ガスを冷却剤として転用出来る独自の設計がオッゴに取り入れられている。無論、この推進剤による冷却に頼ろうとすれば、馬鹿にならないぐらいの推進剤を消費しなければならない。

 

 現時点ではオッゴの冷却ベッドを艦船の冷却装置と直結する計画が立てられており、これが実現すればオッゴは格納庫ではなく船体に露天係留しながらの運用が可能となる。その結果、MSの格納庫のスペースを圧迫せずに済むという利点が生まれる。

 しかし、仮にこれが実現したとしても弾薬や推進剤の補給を船外でどうやって行うのかと言う問題も残されている。これについては現時点で出来る対応策として艦船の格納庫内や軍事拠点等の基地で行う以外に術はないだろう。

 

 オッゴそのものが持つ性能が低いのは認めざるを得ないが、低コストによる高い生産性・安易な操縦性・豊富な武装バリエーション・高機動力、この四つの長所がオッゴの低い性能を補う最大の武器だと言っても過言ではない。

 単機ではMSに劣るのは認めざるを得ないがコスト安と優れた生産性を活かして大量生産を行えば物量戦術も可能であり、運用次第では十分にジオンの戦力の一端を担えるだろう。

 

 しかし、オッゴには低い性能以外でも幾つかの問題点が取り残されている。その一つが戦闘継続時間の短さだ。独自に弾倉を交換出来ないMPは一旦弾を撃ち尽くせば、その都度新たな弾倉を装填する為に母艦に帰還しなければならない。

 弾倉の装填自体は短時間で完了するが、大規模な戦闘が発生すれば複数のオッゴが弾を切らして母艦に殺到するのは目に見えており、それらを一遍に纏めて対応するのは不可能だ。

この問題点を克服する為にはオッゴが独自に弾倉を装填出来るよう改造するか、最前線でオッゴの弾薬補給を円滑に行えるシステムを開発する必要がある。

 

 だが、所詮オッゴというMPは作業用ポッドから進化した機体に過ぎず、数さえ揃えば戦力に成り得るかもしれないが、過度の期待を掛けるのは間違いかもしれない。

 仮に上記に述べたオッゴの戦闘継続時間の問題が解決しても、乗っているパイロットの精神負担やストレスは無視しているも同然だ。

 寧ろ、問題解決はオッゴの機体性能を限界にまで引き上げて戦わせる。即ち、オッゴを最後まで酷使して戦わせるという、機体とパイロット、双方に甚大な負担を掛ける戦い方に繋がるのではないだろうか、そんな不安と疑問さえある。

 

 オッゴをMSと同じように本格的な戦力として扱い、運用していくには幾つかの問題点があり、現時点では予備戦力として扱うのが妥当であると思われる。』

 

 

 

「……こんな所かしら」

 

メーインヘイムの艦内にて自分に割り当てられた部屋で、自らのパソコンに打ち込んだオッゴのデータに何度も目を通し、カリアナは満足そうに頷いた。

本来ならば、このような機体の評価は彼女ではなく試験部隊などがするべきなのだが、オッゴに一番詳しいのは特別支援部隊を置いて他に居ない。また彼女自身も技術中尉としてオッゴに多少興味を持っており、そういった事も相俟って結果的に彼女がオッゴを評価する事となったのだ。

 

オッゴの純粋な評価や彼女自身の感想、そして現時点でのオッゴの問題点等を書き上げて彼女はパソコンチェアーに凭れ掛かって背伸びをした。

 

一仕事を終えた解放感からか背伸びだけでなく、口をカバのように大きく開いて欠伸する。部屋に誰も居ないから出来る事であり、他人が居たらとてもじゃないがこんなはしたない欠伸など出来やしない。

仕事を終えて次の仕事までまだ時間も残されていたので、カリアナは何気なくテレビのチャンネルを付けた瞬間、テレビの画面からジオンの宣伝コマーシャルが大々的に流れてきた。

 

『おめでとう! 地球連邦の諸君! おめでとう! 我が総帥府は遂に連邦軍もMS開発に成功したとの情報を得た!』

 

ジオン公国のコマーシャルでありながら、冒頭に飛び込んできた言葉はあからさまに連邦軍のMS開発の成功を称える声だ。それと同時進行でテレビの映像には連邦軍の物と思われるMSの開発映像が流されている。

初めてこのコマーシャルを見聞きした人は何事かと思ったに違いない。だが、この冒頭の出だしは単なるパフォーマンスだ。このコマーシャルの真の目的はその後に待ち構えていた。

 

『しかし、喜びに沸く諸君らに残念な事実を伝えなければならない。我が軍はザクに代わる新たな主力MS、EMS-10ヅダを完成させたのだ! 間もなく地球連邦軍はヅダによって駆逐されるであろう! そして無残な屍を全世界に晒す事となるのだ!』

 

コマーシャルを伝えるアナウンサーのテンションが最高潮に達したのと同時に、映像にはヅダと、そのパイロットであるジャン・リュック・デュバル少佐の姿が現れる。

 

そう、このコマーシャルの本当の目的はジオン軍が完成させた新主力MSヅダを国民にお披露目して戦意を高めるのと同時に連邦軍のMS開発の士気を挫く事だ。これが成功すれば戦わずして連邦軍のMS開発に打撃を与えられる。

新型主力MSと銘打っただけに五体やボディなどはザクと似通っているが、脹脛に備えられた補助ブースターや、ザクタイプでは外部に露出していた動力パイプは全て内装型になっているなどツィマッド社独自のMS設計が如実に表れている。

特に背部に装備された半球型の巨大ロケットエンジン『土星エンジン』の大推力が生み出す機動力は他の追随を許さず、加速性能もこの時代のMSの中では断トツと呼べる程のトップクラスだ。

 

何も知らないジオン国民がコマーシャルに流れるヅダの雄姿を見れば地球連邦に勝てるという勇気さえも湧いて来るだろうが、MSに関する知識を豊富に持っている上にヅダを生み出したツィマッド社に所属していた経歴を持つカリアナはヅダの映像を見て勇気どころか疑惑に満ちた表情でテレビの映像に流れているヅダを睨んだ。

 

「確かヅダって………」

 

自分の脳ミソにある記憶の棚からヅダに関連する話を引き出そうとした矢先だ。

 

突然何処からともなく爆音が響き渡り、直後にメーインヘイムの船体に激しい揺れが襲い掛かる。チェアーに深々と腰を掛けてリラックスしていたカリアナは突然の出来事に反応出来ず、椅子ごと床に横転してしまう。

 

「な、何!? 急にどうしたのよ!?」

『敵襲! 敵襲! パイロットは直ちにスクランブルせよ!』

「敵襲!? もう対空監視は何してるのよ!?」

 

敵の襲撃を伝える艦内放送が響き渡り、カリアナも急いでパイロットスーツに着替えてオッゴやザクが待機している格納庫へと向かうのであった。

 

 

 

「パイロットは直ちにスクランブルせよ!」

「各員第一戦闘配備!! 対空砲火準備!!」

 

メーインヘイムの艦橋ではオペレーターが慌ただしく艦内に居る兵士やパイロットに敵襲を告げるアナウンスを流し、緊迫した状況が生まれていた。

 

「久し振りの地球軌道衛星上からの物資投下作戦だから嫌な予感しかしなかったのだが……まさかこうも速く敵に察知されるとはな。敵は何気か確認出来ているか?」

「現時点でボールが三機確認出来ました。位置は天頂方向3時、正面方向二時。恐らく前の戦いで学んだのでしょう。ボールが得意とするアウトレンジから攻撃を仕掛けているようです」

 

今回の特別支援部隊の任務は約一ヶ月振りとも呼べる地球への補給物資の投下であり、そこへ向かう途中にボール三機の攻撃を受けてしまった。

何度か地球への補給物資投下という任務経験のあるダズとウッドリーは連邦軍の攻撃があるだろうと予感と同時に警戒していたが、やはりこういう場合の予感は的中しても全く嬉しくはなかった。

また敵の戦い方も賢くなっており、以前みたいにボールに無謀な接近戦をさせず遠距離からのアウトレンジ砲撃で攻撃を行うという厄介な戦法で仕掛けてきた。これならば向こうは一方的に攻撃が出来るし、こちらが反撃しようにもボールそのものが小さく攻撃を当てるのは難しい。

同じMPでもオッゴの武装ではボールほどの射程はなく、恐らくボールと同じ射程を持つのは特別支援部隊の中ではムサイ艦のミューゼぐらいだろう。

因みに此処で言う射程とはセンサーによる精密射撃が行える距離の事を指しているのであり、決して弾丸の飛距離の事を指しているのではない。そもそも宇宙空間は地球と異なり重力が無い為、距離による威力の減退は起こり得ない。そしてボールの射程は言うまでもなくザクよりも長く、連邦軍のガンキャノンと同じか、それ以上とも言われている。

 

しかし、ボールを倒すのに何もボールと同じ射程である必要は無い。例えばザクの機動力と運動力ならばボールの遠距離攻撃を交わして、一気に接近戦に持ち込む事だって可能だ。

事実、ザクがその戦法を用いて、遠距離攻撃を仕掛けてきたボールを多数返り討ちにしたという報告だってある。ボール相手に効果的な戦法が裏付けされているのであれば、積極的に応用するべきだ。

 

「ミューゼからザクが発進します!」

 

その考えはミューゼで指揮するハミルトン大尉も同じだったらしく、敵の攻撃を受けて直ちにムサイ艦からザク四機が発進する。発進したザクはボールの居る方角に向かって全速力で向かって行く。

ボール小隊もこちらに向かって来る敵のザクを確認したらしく、後退をしながら迫り来るザクに向けてキャノン砲で応戦を試みる。しかし、先にも述べた通り、ザクの高い機動性と運動力ならばボールのキャノン砲を避けるなど造作もない。

ヒラリヒラリと蝶のようにキャノン砲の砲弾を華麗に交わし、ある程度距離を詰めたら蜂のようにマシンガンをボールに叩き込んで瞬く間に撃破していく。

 

ザクがミューゼから発進し、ボール三機を撃破するまでに掛かった時間は僅か五分強か6分弱程度。遠くに起こった三つの閃光が戦いの終結を物語っており、メーインヘイムとミューゼからその光景を見た者達はあっという間に終わった戦闘に呆気なさを感じる一方で、ジオンと連邦の技術力の差を改めて実感するのであった。

 

しかし、万が一の事態に備えて出撃を見計らっていたオッゴのパイロット達は前者の気持ちが圧倒的に強く、肩透かしを食らわされたかのような気分を味わってしまった。

特にエドなんて敵の奇襲を受けてオッゴに乗り込み、いざ発進する気満々だったが突然の戦闘終了の報を聞き、唇を尖らせて実に残念そうな表情を浮かべる有り様だ。

 

「何だよ!? もう終わったのか!?」

「残念だったなぁ、エドやん。折角のオッゴの見せ場が無くってな」

「ちぇっ、MPの相手はMPでしてやろうと思ったのによー」

「ははは、嫌でも今度があるさ。今度がな」

 

頑張って出撃準備したエドの努力も無駄に終わり、近くに居たやや年配の整備員も子供をあやす様な軽い笑みを浮かべてエドを宥める。また今度がある……そう告げた矢先だった。

 

再度、轟音と共に船体を激しく揺らす震動が襲い掛かって来たのは―――。

 

「な、何だ!? 敵は倒したんじゃないのか!?」

『敵襲来! 左舷方向にボール三、サラミス一!』

「さっきの部隊とは反対の場所に!? あのボール達は囮だったのか!?」

 

戦闘が終わったかと思われた矢先に、敵の襲撃を三度伝えるオペレーターの緊迫感溢れる声が耳を劈く。しかも、今度は先程壊滅させられたボール小隊とは正反対の方向からだ。

今の攻撃のタイミングから察するに、恐らく先制攻撃を仕掛けたボール達は特別支援部隊が保有するMSを誘き寄せる単なる囮だったのだろう。遠距離からチマチマと砲撃を行っていたのも、敵MSを可能な限り艦から引き離し、第二波による本命の奇襲を成功させる為の時間稼ぎだ。

現にこの時点で囮役のボール部隊を撃破したザク小隊も敵の二段構えによる奇襲に気付いたようだが、今から急いで戻っても艦を防衛出来るかどうか危うい。しかも、敵はボールだけでなくサラミスさえも居るのだ。無防備に近い装備の上に脆弱なメーインヘイムには危険過ぎる相手だ。

 

ミューゼも砲塔を回頭して接近してくるボールやサラミスにメガ粒子砲による砲撃を敢行するが、いかんせん相手の位置が悪かった。敵はほぼメーインヘイムの真横の方角におり、メーインヘイムから少し前に先行しているミューゼの位置からではメガ粒子砲を当てられない。

砲撃を行いながら急いで艦船そのものを連邦軍に向けようとするが、既にサラミスとボールは有効射程に二隻を捉えたらしく容赦なく艦砲とキャノン砲による砲撃を仕掛けてくる。

ミューゼは兎も角、メーインヘイムからすれば敵に対してガラ空きの脇腹に撃って下さいという無様なアピールをしているようなものだ。

 

「メーインヘイム中隊、出るぞ! 正面ハッチを開けろ!! 左舷の部隊は後部から出ろ! この位置から前に出ると敵の砲撃の餌食だ!」

『了解!』

『ハッチ! 開きまぁす!!』

「ネッド・ミズキ少尉、出るぞ!」

 

このままメーインヘイムの格納庫に座しているのはやられるのを待つのに等しい。そう判断したネッドは直ちに出撃の指示をオッゴ隊に伝えた。直後に右舷のハッチが開き、先頭に居たネッドのザクが発進する。

彼の後に続き義体部隊に所属していたパイロットが乗るオッゴが五機発進し、続けて左舷格納庫の後部からもエドが所属するヤッコブ隊のオッゴが五機発進する。

 

この時点で既に数はこちらが上になったのだが、そこで敵は動きを止めて砲撃に力を注いだ。ボールが苦手とする接近戦を避け、遠距離のみに絞り込み被害を少なくしつつ相手の出血を強いる。ボールの機体特性を考えれば、その戦い方は強ち間違ってはいない。

現にオッゴ達が有効射程に敵を捉える前に、サラミスとボールの二重砲撃によって三機撃墜されてしまった。総合性能ではオッゴに軍配が上がると言えども、所詮はMSに劣るMPだ。向こうのボールが長所を活かした戦法で挑んできたら、勝負は五分五分になってしまう事が今回の戦闘で明らかとなった。

 

しかし、三機撃墜されたところで数ではまだこちらの方が上だ。そしてオッゴ達も遂に射程にボールとサラミスを捉え、反撃を開始しようとした。だが、そこで急に通信機からオペレーターの慌ただしい声が飛び出てきた。

 

『ネッド隊! 戻って来て下さい! メーインヘイムの前方から敵の増援と思われる部隊が近付いて来ています!』

「何だと!?」

 

オペレーターの声を聞いてザクの頭部だけをメーインヘイムの前方に向けると、確かに前方に艦船と思しき光が二つ確認出来た。連邦軍の支配下に置かれている宙域から現れたという事は、間違いなく敵の増援と見るべきだろう。

だが、ネッドにとってこれは極めて厄介な事となった。ミューゼ隊のザクは戻って来れていないし、ネッド達も敵と戦闘に入ったばかりだ。完全に敵の策略に乗せられてしまい、味方の艦が無防備な状態に陥ってしまった。

敵の機影を確認するや予備機として待機していたオッゴが一機残らずメーインヘイムから発進されたが、オッゴ達だけで敵の艦船二隻とそれに搭載されているボールを相手にするのは少し荷が重い。

 

敵艦がメーインヘイムとミューゼを射程に捉える前に、最初に出撃したザク達が戻って迎撃するのもギリギリ間に合うか間に合わないか……という際どい所だ。

ネッドもすぐさま母艦の防衛の為に機体を反転させたかったが、ここで敵部隊に背を向けるのは自殺行為であると彼自身が重々理解している。

また此処で母艦の護衛を最優先にして敵部隊を倒さずに放置すれば、この敵部隊は前進を再開し、どの道戦う羽目になる。何より最悪のケースはメーインヘイムとミューゼが前方と左舷に展開している連邦軍の射程に捉えられ、十字砲火に晒されてしまう事だ。どんな頑強な船でも挟み打ちや十字砲火などの集中攻撃を受ければ一溜まりもない。

 

そういった危険性を取り除く為にも一刻も早く敵部隊を全滅させて母艦に戻らなければとネッドが焦る気持ちを抱いた、正にその時だ。敵と戦っている最中に前方から近付きつつある敵艦にモノアイを向けた時、三つの閃光がやや左斜め後方から敵艦に向かって走るのを見た。

 

「……MS?」

 

最大望遠でも閃光の正体が分からなかったから自信無さ気に呟くが、閃光の速さや大きさ、何より戦闘機では到底真似出来ない高い運動性と機動性を兼ね合わせたような動きをしている。これらの要素を総合すれば、やはり考えられる可能性はMSしかない。

そして三つの閃光から攻撃と思われる弾丸の軌跡が見え、全てが二隻の内の一隻に集中的に浴びせられる。次の瞬間、前方に眩い閃光が生じたのを敵味方の双方が確認し、一瞬だけだがこちらの戦闘が止まった。

 

「前方から来ていた敵艦が……落ちたのか!?」

『味方が来てくれたのか!?』

『良かった! 俺達の母艦が……俺達は助かったんだ!』

 

この突然の味方の増援は追い込まれつつあった特別支援部隊に希望を与えるのと同時に、失い掛けていた士気も取り戻してくれた。対する連邦軍は突然の敵の増援に足並みを乱し出し、その隙を突く形でネッド達は一気に攻勢に出た。

 

そして十分程度で戦闘は終了した。ネッド達が相手にした敵部隊は全滅、前方から接近していた連邦の増援も味方の増援とミューゼ隊のザクの手によって殲滅された。

 

一時はどうなるかと思われた戦いではあったが、漸く全てが終わるとダズは背凭れに勢い良く凭れ掛かり安堵の溜息を吐き出した。

 

「ふぅー、何とか……切り抜けたか……」

「増援のおかげですな。しかし、一体何処の部隊からでしょうか……」

 

敵の攻撃を受けてから応援要請を出したが、この時間帯で地球軌道上を活動している部隊はいない筈だ。また応援要請を出したのも敵の攻撃の第三波が確認出来た矢先、つまり要請を出してから味方の応援が来るまでの時間が余りにも短過ぎる。

ウッドリーが不思議そうにそう呟いた矢先、その増援部隊がメーインヘイムの方へ近付いて来た。そして増援の姿がメーインヘイムのモニターに映し出されたのを見て、増援としてやって来た彼等が何処の部隊なのか瞬時に理解した。

 

「あれは……ヅダ!」

「そうか、603技術試験部隊の者達か! 成程、道理で……!」

 

特別支援部隊の危機に駆け付けてくれたのは、今ジオン国内のTVコマーシャルで話題となっているヅダの試験運用を任された603技術試験部隊であった。

 

確かに彼等ならば地球軌道上付近でヅダの運用試験を行っていてもおかしくはなく、また彼等が技術試験部隊だったという点も幸運であった。

603技術試験部隊などのMS開発に関わる試験部隊は他の部隊とは違い、活動内容や試験を行う場所などは一般部隊に伝えられていない場合が多い。今回だって特別支援部隊は彼等がこの近くでヅダの試験を行っているとは全く知らなかった。つまり偶然によって生まれた幸運のおかげで彼等は助かったと言っても過言ではない。

 

「艦長、ヅダ一号機のパイロットから入電。『こちら、603技術試験部隊所属ジャン・リュック・デュバル少佐。応援要請を受けて急行せり』……との事です」

「そうか、ならば返信を頼む。“こちら特別支援部隊メーインヘイム艦長ダズ・ベーリック少佐相当官、貴官等の支援に感謝する。603技術支援部隊の任務の成功を心から祈る”」

 

向こうからの電報に対し、こちらからも返信をすると三機のヅダは敬礼を返してその場を後にした。噂に恥じぬ性能を披露したヅダの一件は瞬く間に特別支援部隊の中で時の人ならぬ時のMSとなり、一時の間だけヅダブームが彼等の間に広まったそうだ。

 

だが、どんなブームにもやがて終わりと言うものが訪れるものだ。彼等の間でブームとなったヅダにその終わりが訪れたのは、一ヶ月も経たない翌月の11月上旬の事であった。

 

 

 

「今回の任務は地球軌道上付近で待機……か。何が起こるのか分かりませんな」

「しかし、何かが起こるかもしれないから上層部は我々に此処での待機を命じたのだろう」

『ええ、ですが何時まで待機していれば良いのか分かりませんな』

 

11月8日、上層部から特別支援部隊に『地球軌道上付近で待機せよ』という具体的に何をするのかも示されていない大雑把且つ奇妙な命令が伝えられた。命令なのだから逆らう訳にはいかないが、この命令の意図が全く見えないので最初は頭を傾げるばかりだった。

しかし、少し頭を傾げた所で彼等はすぐに思い当たる節を見付けた。それは地球上で行われている連邦軍の一大反攻作戦『オデッサ作戦』と呼ばれる大規模戦闘についてだ。

 

ヨーロッパにあるオデッサには豊富な地下資源があり、開戦したばかりの頃にジオンが降下作戦による電撃戦で最初に占領した地球上の拠点としてでも有名だ。

地球にしかない豊富な地下資源を多数保有するオデッサは戦争の長期化を決定付けられたジオンにとって絶対に欠かせられぬ極めて重要な拠点となった。それ故に連邦軍は地球上のジオン勢力を排除する為の第一歩として一大反攻作戦の舞台をオデッサに決定した。

 

今、特別支援部隊が見下ろしている地球のヨーロッパ方面、特にオデッサでは連邦軍の猛攻撃と、それに耐えるジオン軍の激しい戦闘が繰り広げられているに違いない。そして彼等が此処に待機しているのは万が一の事態に備えての事だろう。

 

『まさか我が軍が連邦軍に負けるのを想定して、我々を此処に配置したのでしょうか?』

「そう考えるのが妥当だろうな。そうでもなければ、こんな開店休業のような任務を与えはしないだろう。何時もだったら、今頃厳しい任務の一つや二つを私達に命じている筈だよ」

『それもそうですな……』

 

もしオデッサでジオンが敗北すれば、オデッサに残されたジオン兵達は連邦軍に降伏するか、連邦の追撃を掻い潜りオデッサから脱出するしか選択肢は残されていない。後者を選んだ場合、彼等が逃げられる場所と言えば東南アジア方面かアフリカ方面、大西洋を渡った先にあるキャリフォルニア、そして宇宙だ。

恐らく特別支援部隊が此処に派遣されて待機するよう命じられたのも、連邦軍に敗走して宇宙へ逃げてくる友軍の救助に備えての事だろう。

戦争と言うものは常に最悪の事態も想定しなければならないのだが、ジオンが連邦軍に負ける姿をハミルトンは想像したくなかった。メーインヘイムのモニター画面に映されるハミルトンの表情は若干暗く、ダズやウッドリーも彼の心境を容易に掴めた。

 

「兎に角、今はまだ待つしかない。ここからではオデッサの戦況なんて全く分からないからな。地上軍からの報告か、上層部からの命令を待つしかあるまい」

「そうですね。現状を維持しつつ、万が一の事態に備えてパイロット達には今の内に十分な休息を与えておきましょう」

『了解した、ミューゼの方でも兵達を休ませる事にしよう』

 

そこでミューゼからの通信が切られ、モニター画面に映されていたハミルトンの顔も消えてしまった。

 

「ハミルトン大尉、ジオンが負けるなんて有り得ないって顔をしていましたね」

「彼は両脚を失いながらも義体部隊という義勇隊を軍に作って貰ったのだ。それだけに愛国心も強いし、その分祖国の絶対勝利を信じ、望んでいるのだろう」

「ダズ少佐は如何なのですか?」

「私か? 私だって祖国の愛国心や忠誠心は人並には持っているつもりさ。しかし、それと戦争の勝ち負けは別だよ」

 

愛国心や忠誠心だけでは戦争に勝てないというダズの意見は尤もであり、それにウッドリーも同意見だったからこそ無言で相槌を打ってくれた。

 

その翌日の11月9日、事態は大きく動き出した。しかも、その事態の急展開を伝えたのはジオン軍ではなく、敵である連邦軍からのプロパガンダ放送によるものであった。

 

『ジオン公国の皆さん、先日は素敵な情報を送って下さり有難うございました。お礼にこちらからも素敵な情報をお返ししましょう』

「何だ、コレ?」

「連邦軍から発信されているプロパガンダ放送だそうだ」

「一体どんな情報を流すんだ? 連邦軍の新戦車の情報でも教えてくれるのかよ?」

「はははっ! そんな情報を俺達に寄越して意味があるのかよ!?」

 

TVから流される連邦軍のプロパガンダ放送の映像は地球全土のみならず、軌道上付近に居た特別支援部隊の所にも届けられていた。艦橋のモニターだけでなく、パイロット達の憩いの場でもある艦内の食堂のTVにまでプロパガンダ放送は流されている。

しかし、敵のプロパガンダ放送という事もあり誰も真剣に見ちゃいない。単なるコケ脅しか、悪質な嫌がらせ程度の内容だろうと誰もが多寡を括っていた。

 

ところが、そのプロパガンダで最初に出てきた話題は他ならぬ、特別支援部隊を救ってくれたあのヅダについてだった。

 

『君達が新型主力MSと謳っていたヅダですが、ジオンに居る協力者に聞くところによると、このヅダは次期主力MSの座を巡ってザクに敗れた経緯を持っているポンコツだそうです』

「え? どういう事だ?」

「ヅダは新型じゃなかったのか?」

「連邦軍の言う事なんか真に受けるなよ!」

 

連邦軍が流したプロパガンダ放送にメーインヘイムの搭乗員やパイロットの間に少なからず動揺が走る。それもそうだ、何せ彼等にとっての英雄とも呼べる機体が実は主力でも何でもない単なる欠陥機などと言う事実は認め難くもあり、もし事実であればショック以外の何物でもない。

最初の先制ジャブを受けただけで動揺が走ったというのに、その後も連邦のプロパガンダ放送から次々と出てくるヅダの裏側を知り、彼等の中にあったヅダという信仰心は徐々に崩れていく。

 

『ザクにも劣る欠陥品を新たな主力と偽る! これがジオンという欺瞞の集団のやり方なのです! しかし、オデッサが我が連邦軍の手によって取り戻された今、ジオンはこのような手段に頼るしか道がないのでしょう!』

「オデッサが連邦軍の手に!?」

「オデッサは陥落したのか!? 情報は何も入っていないのか!?」

「落ち着け! これも俺達を動揺させる為のプロパガンダかもしれないぞ!」

 

プロパガンダ放送が終わる直前で漸く本命であるオデッサ陥落の話が入るや、兵士達の間に広まっていた動揺は一気に混乱へと変化した。ネッドや落ち着きのある兵士は取り乱したりはしなかったが、若い兵士は感情に任せて慌てふためいてしまう。

そうこうしている間に連邦軍のプロパガンダ放送は終了し、兵士達の間に嫌な沈黙が流れる。だが、プロパガンダが流れた後も上官から何も命令は伝わって来ない。やはり単なるプロパガンダだったのか、それとも………。

 

どちらの言い分が真実なのか分からず不安ばかりが兵士達の胸中に渦巻き、気持ち悪さと息苦しさの両方が同居する。このまま何事もなく、単なるプロパガンダとして終わってくれる事を祈った。

 

しかし、その願いはプロパガンダ放送が終わって一時間後、緊急を知らせるアラームによって打ち砕かれた。

 

『総員、第一級戦闘配備! 本艦はこれより地球軌道上へ向かう!』

 

地球軌道上へ向かう……この一言が両軍どちらの言い分が真実なのかを物語ってくれていた。オデッサでの戦いは連邦軍が勝ち、ジオン軍は敗北したのだ。

恐らく、あと数時間以内に軌道上にはオデッサからHLV等で脱出してくるジオン軍で溢れ返るに違いない。そして連邦宇宙軍もオデッサから敗走してきたジオン軍を見逃すどころか、追撃のチャンスとして攻撃を仕掛けてくるだろう。

 

容易に想像出来る撤退戦の光景に兵士の誰もが沈黙し、重々しい空気が流れ始める。だが、そんな空気を振り払うように一喝したのはメーインヘイム隊の隊長を務めるネッドであった。

 

「お前等! 戦う前から気持ちを落としてどうする! オデッサの一戦で全てが終わった訳じゃない! 戦争はまだ続いている! そして俺達にはまだ地球から脱出する友軍を救出するという大事な任務が待っているんだ!」

「隊長……」

「落ち込むのは戦争に負けてからにしろ! 今はまだ気持ちを強く持て! 良いな!」

「……了解!」

 

ネッドの一喝で凹んだ心は完全に修復されたとは言い難いが、それでも落ち込んだ気持ちに活力を注入して貰ったのは無駄ではなかった。殆どの隊員は落ち込んだ気持ちを切り替えて、これから起こるであろう苛烈極まる友軍の救出作戦に意識を向けるのであった。

 

そしてメーインヘイムは針路を地球軌道上へ向けて進み始めると間もなくして、地球から脱出して来たと思われる戦艦と遭遇した。ジオン軍の艦船の中では唯一と言われる大気圏突入と離脱、大気圏内での巡航が可能なザンジバル級だ。

 

「ザンジバル級……噂に聞いていた最新鋭の艦か。しかし、あの一隻だけでオデッサの兵士全員を乗せられるとは考え難いな」

 

ダズも初めて目にするザンジバル級の戦艦に興味を持った目を向けるが、その興味の大半は戦艦そのものではなく一隻のみという事実に向けられていた。

恐らく、あれに乗ってオデッサから脱出してきたのは上級士官や基地司令官と言ったジオングの中でも特権を持った一握りの上位軍人だけだ。そしてザンジバルの格納庫にはジオンを少しでも長生きさせようと、オデッサで採掘された資源を満載しているに違いない。

 

「艦長、正面のザンジバル級戦艦マダガスカルより入電です。『本艦はこれよりジオン本国へ帰国する。貴官等は引き続き、オデッサから脱出してくる地上部隊の救助にあたれ』……以上です」

「……了解したと返答しろ」

「はい!」

 

事前に準備していたとは言え、救援に駆け付けた特別支援部隊に対しザンジバルからは感謝の欠片もない電報が伝えられる。それどころかザンジバルからの電報は感謝どころか、命令そのものだ。

向こうの通信に対しダズは怒りを抱かず、淡々とした態度で命令を受領するのであった。一方のウッドリーはあからさまに不満気な表情を浮かべ、ミューゼとメーインヘイムの真横を通り過ぎていくザンジバルを睨み付けた。

 

「全く、敗走したくせに何ですかあの態度は! 一体自分達を何様だと思っているのか……!」

「怒るな。どの道、彼等はオデッサ基地を放棄した責任を取らされるさ。それに恐らく、向こうのザンジバルに乗っているのはオデッサ基地司令官のマ・クベ大佐だ」

「マ・クベ大佐……キシリア閣下の腹心ですか……」

 

オデッサ基地の司令官を務めていたマ・クベ大佐の話はダズ達の耳にも届いている。キシリア閣下の腹心であり、彼女に対する忠誠心は他の者よりも抜きん出ているという噂だ。しかし、その忠誠心は良い意味と悪い意味の両極を兼ね合わせた忠誠心だ。つまり、キシリアにとって有益になるのならば、どんな悪手でも平然とやってのけるという事だ。

 

キシリアの腹心と言われるだけの事もあり、頭が切れる上に軍事と政治の両方に精通している人物だ。それ故にマ・クベはキシリアからは重宝されており、マ・クベ自身もそれを重々承知している。

ザビ家の人間に認められているという事実はマ・クベの武器であり、彼のプライドを高めるのには充分であった。しかし、今回のオデッサでの大規模戦闘でマ・クベが指揮するジオン軍は敗退した。重要な拠点を連邦軍に奪い返された責任を取らされるのは必至だろうし、キシリアからの信頼も失墜するだろう。

 

それを考えれば彼の今後は惨めであり、特別支援部隊や他の部隊に対しデカイ顔をしていられるのも今の内だ。未だに自分がザビ家に近い上位軍人だと思い込んでいるマ・クベ大佐に対し怒りを抱くどころか、寧ろ憐れみさえ感じてしまう。

 

「マ・クベ大佐の乗るマダガスカルならば、後は自力でサイド3まで帰還出来るだろう。我々は地球から脱出してくる残存兵の救助へ向かう!」

「了解しました!」

 

 

 

特別支援部隊が地球軌道上に辿り着いた時、そこはまだ静かな水面が広がる海のように穏やかであった。敵も味方も居らず、宇宙デプリが少し漂ってはいるが、真下に青々と輝いている地球の美しさで十分に帳消しに出来る。

しかし、この美しさを堪能出来る時間も残り僅かだ。後少し経てば、この軌道上にはオデッサから脱出してくるジオン兵で溢れ返り、そこを狙う連邦軍と激しい戦闘になるのも目に見えている。

 

「周囲の警戒を怠るな! 何時、脱出してくる部隊が出てくるのか分からんのだからな!」

「了解!……! 艦長、1時の方向に艦船の反応あり!」

「連邦軍か!?」

「………いえ、これは友軍です! 603技術試験部隊のヨーツンヘイムです!」

 

敵ではなく友軍だと分かった時、一同の心に安堵が生まれるがそれも一瞬だけだ。すぐにオペレーターは警戒心を抱き、レーダーと睨めっこしながら周囲の反応を調べる作業を再開させる。

 

「ヨーツンヘイムか。マルティンの所属する603部隊も命令で駆け付けたのだな」

「そう言えば、ダズ少佐はあちらの艦長の同僚でしたっけ?」

「ああ、客員商船で汗水流して働いていた頃からの付き合いだ。今では互いに軍に接収されて、汗水働く有り様だ」

 

懐かしい友人の話をウッドリーから振られ、ダズの表情に少しだけ綻びが表れる。しかし、綻びが生まれたのとほぼ同じタイミングで軌道上に彼等が危惧していた変化が起こった。

 

「艦長! センサーが感知しました!」

「!! 来たか!?」

 

オペレーターの一言で任務に引き戻されたのと同時に、ダズの緩んだ表情が心と共に引き締まる。そしてメーインヘイムのモニター画面に映し出された軌道上に目を遣ると、そこには一つだけ反応が表示されていた。

 

「あれは……HLVか!」

「しかし、一つだけ?」

 

センサーの反応に引っ掛かったのは物資の打ち上げなどで使用されるHLVと呼ばれる大型シャトルだが、画面に映し出されていたのは一つだけだ。まさか脱出出来た残存部隊は、このHLV一台だけなのだろうかという不安もあったが、それも次の瞬間までであった。

 

「待って下さい! 反応はまだ増えます!」

「むぅ…!? これは!?」

 

最初は一つだけかと思われたHLVの表示が2~3秒後には五十、いやそれ以上の数にまで一気に跳ね上がった。言うまでもなくモニターに表示されている全てのHLVにオデッサから撤退して来た兵士が乗っているのであり、今から彼等を救出するとなれば一苦労どころじゃない。特別支援部隊が設立されて以来、初となる大仕事だろう。

 

「何て数だ! これだけの数を……全てを救出するのですか!? いや、救出出来るのですか!?」

「救出するしかあるまい。彼等は宇宙に脱出してくるだけでも命懸けだったのだ。命辛々、此処まで辿り着いた友軍を見捨てる訳にはいかない。連邦軍も疲労困憊となった彼等を看過しないだろう。連邦軍の攻撃に晒される前に、一人でも多くの兵達を助けるのだ!」

「……了解しました! オッゴ隊及びMS隊を全部出せ! HLVの救出中に連邦軍と戦闘になる可能性が高い! 強力過ぎる火器はHLVに危険を及ぼす! オッゴはサブウェポンを取り外し、マシンガン装備だけで出撃させるんだ!」

「了解しました!!」

 

HLVはあくまでも物資や人員を打ち上げる専用のシャトルであり、マスドライバー等のHLVを打ち上げる為の施設があれば宇宙に上がる事は出来るが、宇宙に出た後は自力で巡航する事は出来ない。

また救出中に連邦軍と戦闘になれば無数のHLVの間を掻い潜っての混戦になるのは必至であり、そんな誤射を引き起こし易い状況下でバズーカなどの強力な武器を使える筈がない。もしザクバズーカで誤射を起こせば、脆弱なHLVは一撃で沈んでしまう。だからウッドリーは友軍の危険度を少しでも減らす為に、オッゴの武装変更を命じたのだ。

 

今のHLVは言い換えれば海に漂うブイも同然であり、動く事もままならない格好の的でしかない。それを狙って来る連邦軍からHLVを守るためにも、一分一秒でも早くHLVを回収し、中に乗っている兵士達をメーインヘイムへ移さなければならないのだ。

 

そしてメーインヘイムとミューゼからザクとマシンガン装備のオッゴ達が間を空けず次々と発進していき、近くのHLVに接近し牽引用ワイヤーを用いてメーインヘイムやミューゼへHLVを牽引していく。牽引した後、艦船とHLVの搭乗口を接続すると中に乗っていた搭乗員が安堵と喜びに満ちた顔でメーインヘイムやミューゼへ傾れ込んでくる。

しかし、一つのHLVには何百という数の兵士が乗っているのだ。一つ一つをこの方法で収容していては終わるのに何時間掛かるか分からない。艦船を接続する直接的な収容だけでは手が足りず、更にランチと呼ばれる宇宙バスのような乗り物も駆り出して、艦船とHLVを往復させて一人でも多くの兵士達を収容していく。

 

「収容した者の中で負傷している兵士が居たら医務室へ運ぶんだ! 空になったHLVはすぐに切り離せ! ランチの方も事故を起こさないよう細心の注意を払えよ!」

「ヨーツンヘイムの方はどうだ!?」

「向こうも同じく救助活動に入っています!」

「うむ……しかし、MSが発進した様子は見られないか」

 

HLVの牽引などではMSやMPの力は大いに役立つのだが、第603技術試験隊に所属するMSヅダが発進した姿は今のところ確認されていない。精々、こちらが使用しているランチが数台発進して収容に全力を注いでいるぐらいだ。

ヅダが出て来ないのは整備中だからか、或いは連邦が流したプロパガンダの情報が正しかったかのどちらかだ。どちらにせよ今回はヅダの雄姿に期待するのは止した方が良さそうだ。

 

「艦長! 地球から更に打ち上げられる物体あり! 我が軍の帰還船です!」

「何だと!? こんな所に突っ込んで玉突き事故を起こす気か!? 総員ショックに備えろ!!」

「来ます!!」

 

オペレーターの必死な叫びが艦橋に響き渡り、モニターに目を遣ると同時に地球から打ち上げられた帰還船が無数に散らばるHLVの中へ突っ込んでいく姿が映し出されていた。帰還船には複数の破損や凹みが見られ、敵の攻撃に晒されながら逃げてきたのが容易に想像出来る。

どうにか敵の攻撃から逃げ切って宇宙へ上がったのだが、敵に受けた攻撃のせいで既に帰還船は操作能力を失われていた。ぐるんぐるんと回転をしながらHLVに激突した直後、激突したHLV諸共爆散し消滅した。

 

帰還船とHLVを失っただけでも何百という兵士が死んだ。その事実だけでも酷い話ではあるが、悲劇はまだ終わらなかった。爆発した際に帰還船やHLVの破片が高速で飛び散り、周囲のHLVにも被害を及ぼしたのだ。

破片で切り裂かれたHLVからパイロットスーツも来ていない生身の兵士が宇宙空間に投げ出され、破片がエンジン部に命中し爆発の連鎖を引き起す等、一気に軌道上は地獄絵図へと変貌した。

 

『うわああああ! 人が! 人がぁぁぁ!!!』

『爆発に巻き込まれるぞ! 離れるんだ!!』

『どうすりゃ良いんだ!? 畜生!!』

 

救助に当たっているオッゴ隊やMS隊の目の前に生身の死人が波に飲まれるように流されていき、中には破片を受けたのか腸を撒き散らしている人間だった肉塊さえもある。誰だってこんな状況を目の当たりにすれば混乱するのも当然だ。しかし、混乱すれば尚更救助に悪影響が出るというものだ。

 

『落ち着け! 死体は無視しろ! 今は無傷のHLVだけを助けに――――! メーインヘイム! 連邦軍が来たぞ!!』

「やはり来たか! MS隊は敵の迎撃に回れ! オッゴ隊は救助を続行するんだ!」

 

隊長であるネッドが混乱する各員に落ち着くよう説得する最中、偶々彼の機体のセンサーが連邦軍の接近をキャッチした。この好機を見逃さない連邦軍の行動は案の定であったが、このような混乱の中での襲撃は特別支援部隊からすればバッドタイミング以外の何物でもない。

ダズの命令に従いネッドを筆頭にミューゼ隊も加わり、五機のザクが連邦軍の迎撃に向かう。敵は幸いにも以前と同じボールが六機だ。数はほぼ互角であり、性能はこちらが遥かに上。十分に勝機はある。

しかし、連邦軍もザク相手にボールでは荷が重い事は重々承知済みだ。そこで彼等はザクの相手はせずに、一機ずつバラバラに散開して攻撃能力の無いHLVのみに狙いを絞った。

ボールのキャノン砲は只でさえ強力であり、威力だけならばザクバズーカと同等かそれ以上だ。しかも貫通力も高く、HLVの装甲を呆気なく貫通してしまう程だ。

 

キャノン砲を受けたHLVは激突した時と同じく爆発を引き起こし、中に乗っていた兵士達は宇宙空間に放り出されるか、爆発の炎に焼かれて死んでいく。その光景を見たネッドは仲間を救えなかった悔しさと連邦に対する憤怒で牙を鳴らす。

 

「くそったれ! 各機、連邦軍にこれ以上好き勝手させるな!!」

『了解!!』

 

ネッドの命令を合図にザク五機は展開し、散開したボールの確固撃破を試みる。一対一ならばボール如きはザクの相手ではなく、義体部隊のパイロットでも容易に撃墜する事が出来た。

だが、連邦のパイロットもボールの低い性能を補う為にHLVの間を掻い潜りながら攻撃を仕掛けるなど、HLVを盾代わりにするような戦法を取ってくる。卑怯かもしれないが戦争となれば、限られたルールで何でも利用するのは当たり前の事だ。

HLVを守る立場であるネッド達にとって敵にこのような手段を取られれば戦い辛い事この上なく、味方のHLVの安否を危惧して攻撃する事さえままならない。

そこに追い打ちを掛けるように連邦軍は質で劣るのならば数で勝負だと言わんばかりに更にボール6機を追加で出してきた。しかも、6機ともMSの護衛も無しに収容活動を行っているヨーツンヘイムへと向かって行く。

 

『隊長! 更にボールが来ます! このままでは被害を防ぎ切れません!』

「くそ! 手が足りん上に戦い辛い!!」

 

質では勝っていても、護衛対象がこうも多ければ数で勝る連邦軍が有利だ。このまま連邦軍の数に押し切られてしまうのか……敗北さえも覚悟した正にその時だ。

ヨーツンヘイムから三機のMSが発進し、増援として押し掛けようとしていたボール6機を瞬く間に撃墜してしまう。更に三機はネッド達の頭上スレスレを高速で通り抜け、余りの速さに目では追えずモノアイが捉えた静止画像で確認すると、それは先程の連邦軍のプロパガンダで欠陥品と暴露されたヅダであった。

 

『ネッド少尉! ヨーツンヘイムからヅダが発進したようです!』

「何!? 連邦のプロパガンダで欠陥品だと言われたばかりじゃないのか!?」

 

ヅダの姿を確認した直後、メーインヘイムのオペレーターからもヨーツンヘイムからヅダが発進したとの報告がネッドの耳に入る。

しかし、ヅダは連邦軍のプロパガンダによれば明らかな欠陥を持った不完全な機体だ。果たしてヅダが欠陥を抱いたまま何処まで性能を発揮出来るかは不透明だ。

されど、一瞬でボール6機を撃墜し、ザクをも上回る高い機動力を見る限り、ザクよりも高いポテンシャルを有している事実に揺るぎはないようだ。何より、一体でも多くの護衛機が欲しいこの状況下では欠陥品だろうと何だろうと戦力になるのならば越したことはない。

 

そして特別支援部隊と第603技術試験部隊の活躍によって、連邦軍のボール部隊を全滅する事に成功した。これで後は友軍の救出に力を注ぐのみかと思われたが、そこで新たな敵影をメーインヘイムが捉えた。

 

『ネッド少尉! 気を付けて下さい! 頭上から何かが来ます!』

「また連邦軍のボールか!?」

 

連邦軍と言えばボールか戦闘機ぐらいしかいない。そんな常識が彼や他の隊員に刷り込まれていた為に彼等は然程危機感を抱いていなかった。

だが、彼等が上を見上げたのと同時に今までのボールの武装とは異なるマシンガンやバズーカと思しき弾丸が降り注ぐ。メーインヘイムやヨーツンヘイムなどの巨大な戦艦を狙っていたのか降り注がれた弾丸の大半はそちらに落ち、残りは防衛任務に付いていたザクや救助活動を続けているオッゴ達へと落ちていく。

戦闘に耐え得るだけの装甲に改造してあった母艦は比較的に軽微な損害だけで済んだが、ザクやオッゴはそうはいかなかった。

救助に専念していた数機のオッゴはマシンガンの集中砲火を浴びせられて爆発し、ミューゼ隊に属していたザクもマシンガンとバズーカの入り乱れた飽和攻撃によって一機が撃墜された。

 

『何だ!? ボールの攻撃じゃないぞ!?』

『注意しろ! 何か来るぞ!』

 

部下の声や第603技術部隊のパイロット思われる聞き慣れない声が飛び交う中、頭上から彼等の間を高速で何かが通り抜ける。その通り抜けた物体をモノアイで追い掛ると、モニターに白と赤を基本色としたMSの姿が映し出された。

丸みの無い直線的な手足のパーツ、ゴーグル型のカメラアイが搭載された頭部、手には体の大半を隠し切れる程の巨大な盾……徹底的にジオン系MSとは異なる設計思想を元に開発されたMSである事は明白であり、誰もがそのMSを一目見て理解した。

 

『あれは……連邦軍のMS!?』

『そんな! 連邦軍がMS開発に成功するのはまだまだ先じゃなかったのかよ!?』

『こんな時に限ってMSが出現するなんて……!』

 

遂にジオン軍が恐れていた未来が現実として表れた。連邦軍もMSの開発に成功し、実戦に投入して来たのだ。今日までジオンが強大な国力を持つ連邦軍と互角の戦況に持ち越せたのもMSの有無が一番大きかったのだが、連邦軍がMSを戦線に投入してきたとなれば最早ジオンの強みは失われてしまったも同然だ。

 

そして連邦軍が開発したMSジムは明らかにザクよりも上の性能を有しているらしく、今見せた加速性や機動性は若干ザクに勝っている。また同じ機体が6機も居る所を察するに、ザクに勝るとも劣らぬ優秀な生産性も持ち合わせているようだ。

 

オデッサでの敗北と連邦軍の新型MSの登場、ジオン軍にとって傷付いた心に塩を塗るような事実が重なり合い士気は低くなる一方だ。対する連邦は一大反攻作戦の成功による勝利に湧き上がり、士気は今尚右肩上がりだ。

此処は一気にカタを付けて、今までやられた借りを返してやろう……そう活き込んでいたかもしれない。しかし、隊長格と思われるジムが味方に攻撃などの指示を出そうとした矢先、デュバル少佐の乗るヅダの放ったザクマシンガンを受けてしまい撃破されてしまう。

それを目の当たりにしたジオン軍は少なからずの安堵を抱いた。例え敵の新型MSでも、上手くやればザクマシンガンで倒せる事が出来る事実をヅダが証明してくれたからだ。

 

デュバル少佐の先手を合図に、戦闘はMS同士によるMS戦へと発展した。因みに人類で初となる宇宙でのMS戦は連邦軍の白い悪魔とジオン軍の赤い彗星が初めてだと言われるが、一個小隊以上の集団規模での戦闘はこれが初めてではないかと言われている。

兎に角、軌道上で発生したMS戦闘はジオンが有利に事を進めた。ジムに比べるとザクの性能は劣るものの、今まで培われた操縦の技量が性能差を埋めて互角の戦いを演じる事が出来た。

また互角になれた最大の理由はヅダの性能のおかげだと言えよう。欠陥機と言われているヅダではあるが、試作機だった頃から性能面ではザクよりも遥かに優れており、十二分にジムと対等に戦い合える程だ。また加速性でもヅダはジムを上回り、彼等をその機動力で翻弄した揚句にシールドクローなどの接近戦に持ち込んで撃破する熟練技を見せている。

 

十分後、連邦軍のジム小隊はヅダの疑いを晴らすかのように尽く壊滅。ヅダの欠陥をプロパガンダ放送で流したつもりが、皮肉にも実戦ではヅダの性能の高さをアピールする結果に終わった。

特別支援部隊のザクも奮闘したが、こちらは無傷のヅダとは違い手足が小破し損傷が激しいのもあれば、ネッドのように盾だけを失う最低限の被害で終わった者も居る。

 

『漸く終わったか……最寄りに居る増援部隊も後少しで来る。特別支援部隊は引き続き救出作業を――――』

『ネッド少尉! 敵の増援が来ました!』

 

敵のMS部隊を潰して漸く一息付けるかと思いきや、再びメーインヘイムのオペレーターがこちらへ接近してくる連邦軍のMS部隊の姿を確認した。

 

『くそっ! ゴキブリみたいに次から次へと湧いて出てきやがって!!』

 

恐らく連邦軍は只単に豊富な物量で敵を押し切るのではなく、少しずつ数を出して相手を疲弊さるという戦法を取っているのだろう。今までだって6機編制のMS及びMP部隊が一定の間隔を空けて攻撃を仕掛けて来ているのがその証拠だ。

一遍に押し寄せて自軍に多大な被害を出して痛み分け的な勝利を得るよりかは、ジオン軍を精神的にも肉体的にも追い詰めて最後はほぼ無傷で勝つという自分達の出血を可能な限り少なくする方法を選んだようだ。

 

このまま連邦軍がチマチマと攻撃を繰り返してくると、本当にこの場を守れなくなる。誰もがそれを危惧した時、デュバル少佐のヅダが突然動き出した。

 

『特別支援部隊並びに第603技術部隊のパイロットは救出活動を続けろ!』

『少佐! 何をする気ですか!?』

『私が囮になって、あの連邦軍の部隊を一手に引き受ける!』

『一人で!? 無茶です!』

『大丈夫だ。このヅダならば、今のヅダならば平気だ……』

 

欠陥を抱きながら平気なんて言える筈がない。誰もがそれを頭に理解していたが、デュバル少佐に面と向かってそれを言える人物はこの場に居なかった。ましてや今のデュバル少佐の声にはヅダが欠陥品である事実に対する不安や後ろめたさは一切無く、この独立戦争にヅダが確かに存在しているのだという事実を喜んでいるかのように聞こえた。

 

この時に一瞬だけ無言の間が空いてしまい、その隙を突く様にデュバル少佐は連邦軍の部隊へ向かって飛び立ってしまった。

 

『デュバル少佐!!』

 

飛び立ったデュバル少佐のヅダの後を、女性と思しきパイロットが乗ったもう一機のヅダも追い駆けていく。

他の隊員達と共に残されたネッドは一瞬デュバル少佐を追い駆けて引き止めたいという気持ちに駆られたが、この場に留まり救助活動を続けなければならないという部隊長としての使命感と、そもそもザクの性能ではヅダに追い付けないという現実から、結局HLVが未だに多く漂う軌道上に留まるしかなかった。

 

その後、連邦軍の増援は軌道上に現れる事はなく、代わりにオデッサから脱出してきた残存兵を救助するべく最寄りの部隊が続々と軌道上に殺到して来た。おかげで救助活動も短時間で終了した上に予想されていた被害も想定を大きく下回る最低限に済み、結果的に大勢の兵士の命が救われた。

 

だが、この戦いで大勢の兵士を救った英雄として真に称えられるべき筈だったデュバル少佐は帰らぬ人となってしまった。連邦軍のMS部隊を最大速度で引き付け、彼等の機体をオーバーヒートさせて暴発させた直後に少佐の機体も空中分解を引き起こして地球軌道上で散ったのだ。

恐らく、最大速度に耐え切れず空中分解してしまうというのが連邦のプロパガンダ放送で言われていた欠陥なのだろう。しかし、この一件以降ジオン公国のTVコマーシャルからヅダの姿は消え、機体に纏わる話も一切が封印されてしまい、空中分解以外に欠陥があったのか、この悲劇を引き起こした本当の責任者は誰なのかは永久に謎のままだ。

 

殿を務めたメーインヘイムがヨーツンヘイムと共に軌道上から撤退する最中、ダズはメーインヘイムの乗組員に対し館内放送でジャン・リュック・デュバル少佐に対し哀悼の意を表して一分間の敬礼を命じた。

あくまでもダズが命じたのはメーインヘイムの乗組員に対してのみだったのだが、メーインヘイムに救助された残存兵も哀悼の意を込めた敬礼を軌道上で散ったデュバル少佐に返した。

やがて一分間の敬礼も終わったが、中には未だに軌道上の方向を悲しげな目や感謝の眼差しで見詰める兵士も居た。

 

そしてメーインヘイムの乗組員が作業に戻ろうとした最中、オッゴのパイロットであるエドはアキに小声で話し掛けた。

 

「なぁ、アキ」

「何、エドくん?」

「ヅダは欠陥品だとか言われていたけど、俺達にとってはヒーローだよな」

「……うん、そうだね」

 

確かに現実から見ればヅダは欠陥機かもしれない。しかし、ヅダが戦場で繰り広げた雄姿に嘘偽りはなく、彼等のような若い兵士にとっては正にヅダとデュバル少佐はヒーローと呼ぶに相応しい存在であった。

 

軌道上での戦いが終わり翌日の宇宙世紀0079年11月10日、ジオン総帥府はオデッサ鉱山基地の放棄を発表した。主戦場が宇宙へ移行するのに備えての事というのが放棄の理由らしいが、明らかに大敗に対する言い訳であった。

 

そしてこの日を境にジオン公国は滅びへの道を一気に転がり落ちていくのであった……。

 




今年の上半期中の完結を目指して頑張っていく所存でございますw

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