紫苑の叛逆者Re;birth 赤の女神   作:ローハイン

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 昔々書いてた小説のリメイクです
 そろそろ原作にレッドハートやブルーハート出てきそうな気もしますが、気にせずに進めます

 (むしろ未だに出てこないのが謎)


第1話

 女神様が、負けた。その凶報を聞いた時、俺は耳を疑った。間違いであってほしかった。

 だから思わず情報を持ってきた密偵の胸倉を掴み、聞き直したが答えは変わらない。

 

 事の起こりは数年前。犯罪組織なるものが突如台頭し、ゲイムギョウ界は甚大なダメージを受けた。

 それを解決するために女神様たちが四国合同でギョウカイ墓場へと赴いたのだが……。

 

 あっけなく敗北したという。

 密偵の話ではたった一人の敵に負けた、と。

 

「なんてことだ……」

 

 俺は拳でテーブルを殴った。

 負けた? あの人が? ウソだ。ありえない。そんなはずは無い。

 

「ですが、事実なんです! 僕はこの目で見たんです! あんな恐ろしいものは……今まで見たことがありません」

 

 密偵は青ざめた表情で叫ぶ。唇も紫色で、血の気は無い。ただの偵察任務なのに彼はひどく憔悴していた。

 

「キャプテン! 大変です!!」

 

 扉が開き、別の密偵が駆け込んできた。肩で息を切らし、その場にへたり込んだ。

 

「今度はどうした!?」

「シェアが……急速に損失しております!! 四国すべて一斉に!!」

「くそ!」

 

 俺はパソコンを立ち上げ、ソフトを起動させる。そして目の前にある現実に、思考が停止した。

瞬く間に減っていく各国のシェア数値。これほどまでの急激な変化は今まで見たことが無い。

 

「終わるぞ……この世界が!」

 

 ギリッと歯を食いしばり、俺は使い古された剣を掴んだ。

 

「第一班は俺と共に活性化する魔物たちを討伐だ! 第二班は現状の把握と混乱の鎮圧を勤めろ! 第三班は教会の諜報部と連携し、情報収集に徹せよ!」

 

 俺の号令に数多くの仲間たちが応えた。

 

 *

 

 そうして世界は衰退した。

 

 月日の流れは、速い。俺はすっかり数を減らした仲間たちを見て痛感する。

 

 あれから三年。

 

 何もかもが急変した。四国のシェアは低迷し、市場は暴落。マジェコンの普及によって劣化コピーが溢れ、人々のモラルは地に落ち、魔物たちはこぞって凶暴になって国や街を襲う。

 

 教会と手を組んで必死に食い止めようとしたが、状況は悪化の一途を辿った。やがて俺たちの中でも裏切り者や脱退者が後を絶たず、反抗同盟(レジスタンス)は事実上、分解した。

 

 だが、このまま終わるつもりは無い。今日イストワール様が少ないシェアを用いてシェアクリスタルを作り、ある二人に託した。

 

 一か八かの女神奪還作戦を行うらしい。話し合いの結果、俺たちもそれに乗じ、ギョウカイ墓場に総攻撃をかけることが決定した。

 何の力も無い俺たちでは犯罪組織には敵わない。だが、この命を賭ければ女神様たちを助けることはできるはずだ。

 

「今一度、この世界に光を。反逆の剣に……勝利あれ」

 

 俺たちは杯を掲げ、吊るされた剣が描かれた紋章を見上げた。

 

 *

 

 端的に言えば奪還作戦は一応、成功したことになる。女神候補生であるネプギア様は無事、救出されて墓守から逃れることができた。

 

「戦車を前に出せ!! 前衛は砲撃しつつ遅滞戦術で下がらせろ!!」

 

 ネプギア様を逃した怒りなのか、または目くらましを食らったことによる怒りなのか、あるいは両方か。

 暴虐の墓守ジャッジ・ザ・ハードは己の武器で当たるものすべてを砕いていた。

 

「ぬぅあああああああああああ!! 貴様らぁ!! 俺の渇きを癒せぇえええええええええ!!」

 

 反抗同盟(レジスタンス)の残る総力を結集して戦いに望んだつもりだ。勝てなくとも多少の戦果は挙げられると思っていた。

 

 しかしそれは大きな間違いであると認識させられる。目の前で戦車がいともたやすく吹き飛び、大破した。武器を構えて突撃する一隊が胴を切り飛ばされて、血の海に沈む。遠距離からの砲撃も魔法もまるで通用しない。

 これも犯罪組織のシェアが高まっている証拠なのだろう。

 

「そういやネプギア様の必殺技も効いてなかったなこいつ……」

 

 俺は剣を握り、好転しない状況に歯噛みする。

 

「後方支援! 魔法詠唱始め!!」

 

 俺が合図を出すと仲間たちが復唱し、墓守の後ろに控えているメンバーにまで伝わる。

 

「魔法詠唱始め! 放てェ!!」

 

 次々と魔法陣が展開し、炎や稲妻が宙を奔り、墓守に直撃した。

 

「効かぬ!! 効かぬわああああああああああああ!!」

 

 爆煙が風に吹き散らされると、何事も無かったかのように奴は姿を見せる。粗雑に見える動きだが、その穂先は正確無比に仲間たちを血煙に変えた。

 

「目標健在!! 効果なし!!」

 

 クソッタレ……やはり、ダメなのか……。

 残された手段は……。

 

 俺は鞘から剣を抜き放った。傷だらけだが、それでも刀身はギョウカイ墓場の薄明かりを浴びて微かに光る。

 

「総員、攻撃陣形に移れ!! 生きて帰れると思うな!! 我らが死地はここにあり!!」

 

 このまま戦っていても勝ち目はない。ならば最期の攻勢に入り、墓守を突破して女神様たちが捕らわれている場所まで、誰か一人でもたどり着かせる。

 これも話し合いで決めたことだ。

 

「皆、覚悟はできています」

 

 仲間たちも各々の武器を構え、鬼気迫る顔つきで墓守を睨んだ。

 

「全軍、突撃――ッ!!」

 

 俺たちは雄叫びを上げて墓守へと突っ込んでいった。

 

 *

 

 心臓が激しく脈打つ。鼓動に合わせて流れ出る血は、泥と汗に混じって滴った。

 だからといって俺は立ち止まるわけには行かない。

 

「虫けらがぁあああああああ!! ちょこまかと飛び回りやがってぇ!!」

 

 力任せに打ち込まれた武器はたやすく地面に突き刺さり、岩がささくれのように突き立った。

 俺はその武器の上に乗り、そのまま墓守の腕に飛び移った。

 

「ぬぅ!? この俺様の体に引っ付くなぁあああああああ!!」

 

 墓守は武器を持っていないほうの腕で殴りつけてくる。すかさず俺は足元に魔法陣を描き、瞬間的に下半身のパワーを解放した。

 両足の筋肉が悲鳴を上げ、骨がきしむ。魔力でがっちりと固めた身体でも負担は大きい。せめてもの幸いは肉離れや骨折の恐れはないことか。

 

「うぉぉォオオオオオ!!」

 

 今度は殴ってきたほうの腕に飛び乗り、俺は一気に墓守の肩まで走りぬけた。

 そして奴の装甲の突起を足がかりに更に高く、跳躍する。

 

「食らえぇえええええええ!! 極剣・響!!」

 

 気合と共に振り抜かれた剣から紅い衝撃波が放たれる。上空から叩きつけられた一撃に墓守はよろめいたが、やはり決定的なダメージにはならなかった。

 

「チッ、これも通じねえのか……」

 

 着地した俺は剣を正眼に構えて、腰を落とす。

 

「キャプテン……ここは僕らで墓守をひきつけます。その間に女神様を助けてください」

「お前、何を――」

 

 振り返るが、密偵を見て言葉が途切れる。真赤に染まったその腹部を。

 

「この怪我では長くは持ちません。早くしてください。僕らの作戦は生き残るためではありません。女神様を救うことです。ここで僕らの意思が潰えても、女神様さえいれば受け継がれます」

 

 俺は、血がにじむほどに唇をかみ締めて、墓守の後ろを見やる。

 女神様たちはあそこにいる。もう少しなんだ。あともう少し……。

 

「たとえ死しても……次へと届ける」

 

 それが我らの道。

 正しいのかは、分からない。

 誰もが納得したとしても、この選択が最良だったのか……恐らく、答えは出せない。

 

「どうか女神様を救ってください。そうすれば僕たちもあなたの中で生き続けます」

 

 密偵は俺の顔を見てにっこりと笑う。

 

「一足先に、神界に行ってきます」

 

 そうして彼らは走り出した。

行け。迷う暇はない。己の役目を、果たせ。

 

「みんな!! キャプテンを援護しろ!! 墓守の攻撃を一撃たりとも届かせるな!!」

 

 墓守が幾度と無く攻撃を繰り返すが、その度に仲間たちが俺の盾となって散っていく。

 飛び散った熱き血潮が、俺の黒いコートを染め上げる。その心を刻みつけるように。

 

「うぉああああああああああ!!」

 

 折れそうになる心を雄叫びで叱咤させ、墓守の真下をすり抜ける。

 打ち下ろされた武器の一撃を、密偵が両手の剣で受け止めた。

 

「行ってください!! どうか、どうか、もう一度この世界に――」

「邪魔だぁああ!! 雑魚がぁああああ!!」

 

 密偵の言葉は途中で途切れる。

 墓守の武器が彼の双剣を砕き、密偵は鮮血をしぶいて吹き飛ばされた。

 

「――ッッ!!」

 

 俺は振り切りるように前を向いて走った。

 この責務から逃れるように。目を逸らすように。こんなのが、正しいわけがない。分かってる。でも、こうするしかないんだ。許してくれ……許してくれ……。

がむしゃらに走って、走って、足がもつれそうになって。

 

「女神、様……」

 

 ようやくたどり着いた先にあるのは……悍ましく、奇怪な触手のようなものが絡み合って出来た巨大な塊だった。女神様たちはその中に埋め込まれるようにして囚われ、項垂れている。意識は無いのか、あっても酷く曖昧な状態なのだろう。

 いずれにしても良くない状況だ。早々に破らなければ……。

 

「極剣・心――」

 

 俺は懐から事前に作っておいたシェアクリスタルを取り出す。そしてそれを砕き、シェアを剣へと流し込んだ。

 何でこんなマネができるのかは知らない。以前、シェアクリスタルの製作過程を見よう見まねでやったら、できてしまった。

 

 それ以来、俺という人間には相応しくない立場を担うようになってしまった。

 ……俺はリーダーなんて向いてないんだよ。

 

「掻っ捌け!!」

 

 渾身の力で振り抜く。

 ワイヤーが歪み、切れ目が走るが拘束は解けていない。

 

「くっ……ならば、もう一度!」

 

 再度、シェアを集中させて切りかかる。

 するとネプテューヌ様を捕らえていたワイヤーがついに切れて、彼女の体がずり落ちてきた。

 

「やった……」

 

 俺は受け止めて、その無事を確認する。大丈夫……生きている。早く残りの三人も助けなければ。

垂れてきた泥まみれの汗を拭って、俺は三度目の攻撃を放とうとしたが。

 

「小僧ォオオオオオオオ!! 何をしてやがるぅううううううう!!」

 

 墓守が怒号を発して迫ってきていた。

 

「莫迦な、もう来たのか……ふざげやがって!」

 

 俺は毒づいてネプテューヌ様と残る三人の女神を見比べる。今の俺の力では墓守には敵わない。そして仲間たちの犠牲を無駄にするわけにも行かない。

 できることは――一つ。

 

「――……っ」

 

 俺は懐から閃光手榴弾を墓守に投げつけ、ネプテューヌ様を抱えて全力でギョウカイ墓場から脱出をする。

 

「ぬぅ!?」

 

 眩い閃熱に墓守の巨体が傾ぐ。俺はすかさず脇を駆け抜けようとしたが――。

 

「逃がすかァッ! 小汚いムシケラがァ!!」

 

 まるで見えてるかのような的確すぎる動作で奴は、長大なポールアックスを振るう。

 油断、してたと言えばそれまでだ。連中に常識が通用しないことは分かっているんだから。

 

「がっ、はァ!?」

 

 冴え渡る一撃が、胸を抉る。人外な膂力で繰り出された刺突は、容易く人体を残骸に変えるほどのパワーだ。

 肉が千切れ、骨は砕ける。ぶつ切りにされた神経は脳がショート寸前の激痛を絶え間なく送り付けた。

 

「ああ……クソ、最低だ」

 

 喉元に絡む血の塊を唾棄し、俺は突き刺さったままの武器の柄を握り締める。

 

「ヘェハハハハハ……逃がすと思うかぁ? 殺してやるぞ、小僧ぉおおおお」

 

 目元を抑えていたジャッジ・ザ・ハードがこちらを振り向く。嗜虐的な笑みを浮かべ、嫌らしくポールアックスをぐりぐりと回し、余計な痛みと損傷を与えてきた。

 

「死んでも……次へと届ける。それが、我らの誓い……」

 

 傷口が脈打つ心臓に合わせてズキズキと激痛を放つ。刺された胸は燃えるような痛覚を持っているのに、手足の感覚はどんどん鈍り、冷たくなっていく。

 ダメだ。まだだ。まだ、ダメだ。まだ、死ねない。今は、この一瞬だけは、ちょっとくらい耐えてみろ。今まで、何のために頑張ってきたんだよ? 何のために、あいつらは死んでいったんだよ?

 

 ――全ては、この時のためだろうが!!

 

 俺は鮮血塗れの手で奴の得物をより強く掴む。

 

「いい加減、諦めろ……お前らに勝ち目なぞないわぁ……!」

「それは、どうかな……?」

 

 俺は魔力を体内で練り上げる。多くは必要ない。使うのは……俺自身の命なのだから。

 ああ、道連れだ。勝てなくていい。次へと繋げる。

 

「ぬ……? 貴様ァ、まさかぁッ!?」

「今更気づいてもおせーよ、バーカ」

 

 思惑を察した墓守がポールアックスを抜こうとするが、刃の返しが肉や骨に引っかかり、俺も柄を強く掴んで離さない。

 調子こいて深く刺し過ぎたな、マヌケが。さあ、かっとべ――!!

 

「やめろ、やめろォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「第一等位魔法……【エンド・ディザスター】」

 

 眩い閃光が、全てを包み込んだ。

 

 

 

 






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