「……ではまず、簡単なクエストからやりましょうか」
翌日。俺たちは早速、プラネテューヌのギルドに足を運び、依頼を確認する。シェアを回復される一番の方法は人々の頼みごとを聞くことだ。地味だが、着実な手段だろう。
「えー? どうせなら、Sランク選んで一気に回復させようよ」
「……私が死にます。ネプテューヌ様だってまだ本調子ではないでしょう」
「うーん、確かに体が凝ってるかも……あんな体勢じゃ疲れるよね!」
「………」
犯罪組織の狙いは女神亡き世界……人々に劣情を抱かせ、シェアを奪うためにあのような状態で放置したんだろう。事実、画像は幾度となくネットに出回ったがそこは俺たちが全て食い止めている。
我々のサイバー戦は教会にも引けを取らない。
「依頼はこれで良いでしょう。スライヌ討伐です。なまった身体を動かす運動にもなるかと」
「オッケー!」
*
やって来たのはプラネテューヌ郊外にある、バーチャフォレストと名づけられた草原地帯だ。
緑の草が風にそよぎ、木々のざわめきに混じって鳥の鳴き声が聞こえてくる。一見すればピクニックにぴったりな場所だろう。
しかし周辺をうろつくのは魔物ばかりたちだ。シェアの低下によって年々、その数を増やしてきている。
「依頼内容はとにかくスライヌの数を減らしてくれ、とのことです。片っ端から倒しましょう」
俺は双剣を抜き放ち、構える。愛剣はもう寿命な上に、墓守との戦闘で無理をさせ過ぎた。戦闘中に折れる可能性が出てきたので、今は自室に保管している。
代わりに選んだのがこの双剣。プラネテューヌ製の最新鋭歩兵双剣だ。絶対に刃こぼれしない光子の刃を持ち、鋼を用いた普通の剣よりもかなり軽い。デメリットは定期的なメンテナンスを要することだが、そこは問題ないだろう。機械いじりは嫌いじゃない。
「倒しても経験値少ないよねぇ。この手の魔物ってさ」
「まあ、見るからに序盤の敵って感じですしね」
目の前にいるスライヌの群れを見て、俺たちが好き勝手な感想を述べていると、連中は機嫌を損ねたらしい。一斉に向かってきた。
「ヌラァッ!!」
ゼリー状の体をブルンブルン、と揺らしながら俺に突っ込んでくる。
「流石に、余裕かな」
俺は体を僅かにずらし、体当たりをよける。目標を見失ったスライヌは川に飛び込み、水飛沫を上げる。
「さっさと終わらせよう」
背中から剣を抜き放つ。ぶおん、と音を立てて光り輝く蛍光色の刃が柄から伸長した。
まずは正面の一体に切りかかる。続けてその勢いに乗せて二体目と三体目も切り払う。手ごたえはゼリーみたいなもんだ。軽く振るうだけで簡単に打ち倒せた。
「ヌララッ!?」
早くも仲間を四体も失ったことに驚いたのか、残るスライヌたちが動きを止めた。
「ほらほら~! よそ見してていいのかなぁ?」
俺の背後から刀を構えたネプテューヌ様が飛び出す。俺に気を取られていたスライヌたちは対応できず、刀でぶった切られていく。
「お見事です」
ブランクを感じさせない軽快な動き。あっという間にスライヌたちは蹴散らされていった。
「ヌ、ヌララァッ!!」
愚直な魔物でも劣勢を悟ったのか。
突如、スライヌたちが一箇所に集まりだした。体が互いに結合し、混ざっていく。
「……巨大化か」
合体を終えたそれを見て、俺は呟く。弱い魔物は群れを作るだけではなく、互いに結合することで巨大な一つの生き物になるという。これも生存本能が導いた進化だろう。
「ヌラァアアアアアアアアアアアアアッ!!」
巨大化したスライヌが吼える。
それだけでびりびりと空気が震えた。
「ねぇねぇ、レット! これ初級クエストだよね!?」
「大きくなっただけです。十分処理可能範囲かと」
魔物の巨大化など茶飯事だ。大きくなろうとスライヌはスライヌ。所詮は初心冒険者の練習相手。今更、依頼内容に書くほどの事でもない。
「ヌゥウウウウウラアアアアアアアアアア!!」
凄まじい質量を伴った勢いでスライヌが迫る。弾むたびに地響きが起こるほどの迫力だ。
「私が倒します。下がっててください」
俺はネプテューヌ様の前に出る。この程度の敵、女神様の手を煩わせるまでもない。
「極剣――響」
剣に纏わせた闘気を、気合と共に撃ち放つ。巨大な真紅の衝撃波が迸り、地面を抉りながらスライヌを一撃で真っ二つに引き裂く。
……やはり、女神になってから威力が向上してるな。明らかに人間だった時よりも強くなっている。
この辺は都合がいい。ネプテューヌ様の足を引っ張る事だけは、何としてでも避けなくてはいけないのだから。
ともあれこれで依頼は達成だ。
俺はコートのポケットから携帯を取り出して、依頼達成の旨を報告しようとする。
「あ! これ私のストラップ!」
ネプテューヌ様が俺の携帯に吊るされている、ネプテューヌ人形(女神化)つきのストラップを手に取る。
「ん? 待ち受けも私の画像だね」
「ええ、まあ。私もプラネテューヌの国民の端くれですから」
自国の女神を信仰するのは自然なことだ。まあ、近衛兵団の同僚にはもっと度の過ぎた奴もいるが……。
「………」
「何ですか?」
ネプテューヌ様が俺の顔を覗き込むようにしてくる。
「レットって、私のこと好きなの?」
「……信仰してるかという意味ですか? それなら無論の事です。私はあなたの敵を討つ刃となり、あなたを護る盾になります」
「いやぁ、そういう意味じゃないんだけど……ま、いいか。これでクエスト完了だね、お疲れっ!」
*
ネプテューヌ様と別れ、俺はその足で都市の郊外へ向かった。超高層ビル群から遠く離れ、家屋や街灯すら疎らになってきたころ、目的地にたどり着く。
……戦没者慰霊塔。この犯罪組織との戦争で、志半ばにして斃れた戦士たちが眠る墓場……とは言っても形だけだ。ほとんどは熾烈な戦いの中で死体すら消し飛び、骨も残らない。納めるものがない墓標だけが荒涼とした大地に並んでいる。
「……みんな」
俺はその中の一つ。黒い慰霊碑の前に立つ。『
そう、ここに仲間たちが眠っている。イストワール様が犠牲を偲んで建立してくれたんだ。
――『護国のため、散っていった勇士たちに安寧の眠りを』
そう彫られた碑文の下にメンバーたちの名前が連なっている。俺はその名前、一人ひとりを指でなぞっていく。
かつての温もりはなく、冷たい石の感触だけが指先に残った。
「ゴメン……」
どうして生き残ってしまったんだろう。
あの時、死んでいれば良かったのに。
俺が生き残った理由は何なんだ?
何で、あの男は俺に女神の力なんて……だったらもっと早く欲しかった。この力でみんなを守りたかった。
でも現実は、どこまでも不条理だ。
中途半端な力なんて欲しくなかった。
弱いままで良かったんだ。
強くなんて、ならなくて良かったんだ。
「ごめんなさい……」
俺はただ慰霊碑に縋りついて、泣くことしかできなかった。
キャラ紹介
レット(レッドハート)
【挿絵表示】
小説のリメイクに合わせ、デザインも手直し。リメイク前ではこの段階で既に女神化状態、瞳に電源マークが浮かんでいたが今回はなし。女神化後の姿は別に用意してます。
見た目より内面の変更が一番大きかったキャラですね。前も多少の影はありましたが、今回はかなり濃厚です。
戦闘力も現時点で前作の中盤に匹敵してますが、メンタルは前作より遥かにクソザコになってるので一人の時はすぐに弱気になって泣き出します。豆腐やガラスより脆い。
お次はブルーハート。恐らく最も変更点の多いキャラ。キャラ自体変わってますからね