BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
テーマ「初恋に狂う」
宿屋「山吹ベーカリー」
「ね。ね。何かして遊ぼっか?」
「いや、課題やれよ。」
何をどこでどう間違えたか、気が付けばクラスメイトの部屋に居た。
机に向かい課題と向き合う風を装いつつも、遊びたくてうずうずしているのが手に取るようにわかる目の前のこいつは山吹沙綾。同じクラスで、右斜め後ろに座っている女の子だ。
俺と沙綾は飽く迄クラスメイト。それ以上でも以下でもない関係なのだが、沙綾の家が俺の行きつけのパン屋ということもあって、登下校を毎日共にする程度の交流があった。
今日もいつもと同じように下らない話をしながら山吹家、"山吹ベーカリー"まで来たのだが、そこで珍しい提案。
『あ、そうだ。今日しんどいくらいの課題出されたよね?
○○絶対やらないと思うから、ウチで一緒にやってかない?』
や、そんな言うほど不真面目じゃないし。別に監視いなくてもちゃんとやるし。
言いたいことは色々浮かんだが、どうせこの後の用事もないのでお邪魔することにした。
勿論、向こうさんのご両親とも顔見知り(店員なのだから当たり前といっちゃ当たり前なのだが。)で、娘が男を連れた来たというのに一言目から歓迎される始末だ。
多感な時期の娘さんでしょ?もっとこう心配しましょうよ。
『あぁ、よく来てくれた!今日はお客さんじゃないんだよね?
部屋?うんうん、上がって行きなさい上がって行きなさい。なんならずっと居なさい!』
おじさん…。
「んー?どしたの。急に変な顔で黙っちゃって。」
「あぁ?……いや、考え事っつーか。」
「ふーん?どうでもいいけど、○○って結構集中力もつんだね。
課題だってあっという間に終わらせちゃってさー。」
「沙綾はもうちょっと集中してやってみような。
ちゃんとやりゃあもう終わってんだろ。君もバカじゃないんだし。」
「んー…だってさ、自分の部屋に○○がいるんだよ?
ドキドキして、課題どころじゃないよね。」
「君が連れ込んだんじゃないか…。」
何がしたいんだね君は…。
「つかさ、俺今いる意味ないよね?
最初の目的の課題については終わっちまったんだし、帰っていいかな。」
「もうちょっと待ってよ。もうすぐ、終わったら構ってあげられるからさ。」
「それ4,5回聞いたんだけど。」
「あはは…ちょっと集中するから話しかけないでね。」
あ、これ帰るに帰れないやつだわ。
その後も一度こっそり抜け出してみたんだけど、部屋から出た時点で沙綾の妹・紗南ちゃんに捕まった。
「あれぇ?おにーちゃん帰っちゃうの??」
「うん、今日は学校の宿題をやりに来ただけだからね。
また今度来るよ紗南ちゃん。」
「あれれ?でも、今日はおにーちゃんが泊まっていくからって。」
「は?」
「朝ごはんの時に、おねーちゃんが。」
「……そっか。忘れ物したからお部屋に戻ろうかな。
紗南ちゃんも下に戻りなー??」
「わかった!!またあとでね!」
ととん、ととん、ととん、と軽快に階段を下りていく紗南ちゃんを見送りつつ、これは
「……山吹沙綾。」
「あれ?おかえり。どこいってたのー?」
「…謀ったな、山吹沙綾。」
「んー?なにが?」
「まさか家族をも利用しようとはな。感服だ山吹沙綾。」
「ねえ、フルネームで呼ぶのやめてよー。初めて喋った時みたいじゃん。」
「俺はいつ泊まることになったんだ?」
「あはは…紗南からきいたの?」
「あぁ。」
「折角だからもうちょっと仲良くなりたいなーって思ってさ。
いや、今でも結構…クラスでは一番ってくらい仲良いと思うんだけど。」
「そりゃぁ分からなくもないけどさ…。男泊めるってのは不味いだろ。彼氏にでもやったれよ。」
「んー…。私さー、彼氏とか出来たことないんだよね。
…あっ、じゃあ今日だけ彼氏の気分でいるっていうのどう?レンタル彼氏??」
「意味が違うだろうが。うーん…山吹の彼氏かぁ…。」
「なに、不満?あと、また苗字呼びになってるよ。」
「あ、わり。沙綾な。」
知り合った当初フルネームで呼んでいたのもあり、少し話すようになってからも暫くは"山吹"の方で呼んでいた。
「なんか嫌」というザックリした理由から名前呼びに変更(強制)したのだが、やはり癖が出るときもある。
その度にこうして指摘を食らうのだ。
「不満とかじゃねえけど…。」
「もー、そんなに真剣に考えこまないでよー。
真剣に考えてOKならいいけど、嫌だって言われたら私だって凹んじゃうよ?」
「はあぁぁぁぁぁ。わかったわかった。今日一日彼女になってくれ沙綾。」
「別にこれからずっとでもいいけどね?」
「そういう冗談は勘違いを招くからやめんさい。」
一つ議題が解決して満足したのか、その後は黙々と課題をこなして行く山…沙綾。
特にすることもなく暇なので、俺も近くのローテーブルで予習に取り組む。
ちなみに、策に嵌められたと気づいた直後に自宅には連絡を入れた。
「お、青春してんな~。一発決めてこいよ!」だと。あのクソ親父…。
一時間ほどやっただろうか。このあたりでひと段落としようと顔を上げる。
「………。」
正面、鼻が触れ合いそうな位置に沙綾の顔があった。
あまりの近さとそのにやけ面に思わず固まる。
「……なにしてんの。」
「課題、終わったからさ。暇になっちゃったから○○の顔見てたの。」
「いや終わったなら言いんさいよ…。」
「すっっごい集中してたからさ。邪魔しちゃ悪いなーって思って。」
「そうかよ。お気遣いどーも。」
「へへっ。お母さんがね、そろそろ晩ご飯だから降りてきなさいって。」
「…ホントに俺、泊まんの?」
「みんなそのつもりだよ?」
「俺が暇人で良かったな。」
「うん、ありがと。…行こ?」
手を引かれて階段を降りる。いや一人で歩けるし。介護か。
食卓に着くと、なんとも幸せな光景が広がっていた。
テーブルには沙綾以外の家族が全員席に着いており、漂うのは食欲を刺激する暖かな匂いと穏やかな雰囲気。
食卓には色とりどりの料理が並べられ、まさに家族の食事といった景色だ。
「あ、どうも…なんかすいません。ご飯も、あと泊まらせて戴けることも…」
まるで俺が無理言って泊めてもらうみたいだなこれじゃ。
沙綾がどこまでどういう風に説明しているのかも知らないし、ふわっとした感じの喋りになってしまうのは仕方ないか。
「はっは。○○くん、そう畏まるんじゃない。
君は昔からお得意さんとして通ってくれてるんだし、なんなら毎日でも泊まってくれていい。」
「もう、それって住んでるって言うんじゃないかしら?」
「母さん、確かにそれもそうだなぁ。
…どうだね○○くん、いっそ住んでみるかね。」
「…いやいや、そんなそんな。」
歓迎ムードもここまでくると、最早恐怖まで感じてしまう。
絶対裏があるやつやって。
いくら小さい頃から通ってるって言っても、娘が泊まらせようとしている相手にこの対応ってのは…
いろいろ心配だぞパッパ。
美味しい料理を堪能し、世話になってばかりなのもアレなので片付け等はお母さんのお手伝いをする。
沙綾は妹たちを連れ風呂に行っている。
「ねね、○○くん。○○くんって彼女とかいないんでしょ?」
「ブッ…一体何を急に…。」
「あ、ごめんなさいね。
…でもほら、女の子の家に泊まるって男の子が恋人持ちだと後々揉めるじゃない?」
「そりゃまあ…。」
「だから、居ないと安心よねっていう…確認?」
「そうですか…。」
「あと、うち来客用の布団とか無くてね。
申し訳ないんだけど、沙綾のベッドで寝てもらっていいかしら?」
「そっちの方がよっぽど安心できない状況だと思うんですけど…。」
「大丈夫でしょ、○○くんだし。」
俺はいつのまにそこまでの信用を勝ち取ってしまったのか。
一向に解けることのない謎である。
**
そんなこんなで深夜。
電気も消え、家全体から音と動きが極端に減る時間。セミダブルのベッドに2人は少々狭いようだ。
まさか本当に同じベッドで寝るとは…。もう高2だぞ。
「緊張するね、○○くん。」
「安心しろ、何もしないから。
…とっとと寝るぞ。」
「えー…そんな、勿体無いよ?」
「君も何でそんなにウェルカムなんだよ。」
「んー。わかんない。
でもほら、今は恋人同士でしょ?」
「本気かよ。」
「私は、これからずっとでもいいって、言ったよ?」
「はぁ……。君に勘違いさせられる不憫な男子が増えそうだな。」
「いや、○○くんにしか言わないし。」
「そうかい。
…ほら、明日も学校あるんだから、早く寝ようぜ。」
「うん…。
あ、そうだ。今日が終わる前に一個だけ、恋人っぽいことしてもいい?」
「えー…うーん……。めんどくさくなければ別に。」
「ふふ。わかったよ。」
どうせ「好きって言って」だの「腕枕して」だの、その手のことが出るんだと考えていたが…
瞬間。
口に瑞々しい感触。
それは時間にして5秒か6秒程だろうが、体感では数十分のことのように感じられた。
塞がれていた口が解放され、呼吸を忘れていた事に気づいた時には正直何が何やらで。
「冗談じゃないよって、言うより伝わったでしょ?」
暗くて見えないが、恐らく真っ赤になっているであろう彼女を感じつつ。
これからの関係性に少々の不安を覚えながらも、慣れない環境で疲れた体は眠りに落ちていった。
<今回の設定>
○○:主人公。
幼い頃に母親を亡くしており、家族は父親と弟3人という男所帯。
家族の温もりに憧れがあり、強引だとは思いつつも割と乗り気で泊まってみた。
勉強は出来る。
沙綾:かわいい。
いい奥さんになると思います。
花咲川が共学化したことにより主人公と出会う。
交流を深めていくうちに惹かれ始めたが、イマイチ異性との関わり方が分からない
ため、ケースによってはこういったパワープレイがちなアプローチになってしまう
そうな。
それもまた可愛い。