BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 -   作:津梨つな

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デビュー

 今日も友希那が居る。

 

 閉め切っている扉の向こうから歌声が聴こえているので、まだ練習は続くのだろう。一応この前のこともあるので、晩飯は作らずに待っている。

 …しかし、毎度思うがよくこんなに歌い続けられるよな。

 

 学校が終わったその足で訪ねてきたのが16時半頃。俺が淹れた紅茶を飲み終えるや否やすぐに閉じこもってだから…うん。ざっと4時間は歌い続けている計算になるな。

 当然邪魔する気もないし、特に聞き耳を立てているつもりもないのだが如何せん声量が凄い。

 プロレスラーのマイクパフォーマンスが如く、隔てている戸の存在を忘れさせる程の音量が響いてくる。流石というべきか、その巧さから聴いていられるのであって音痴が同じことをしていたら間違いなく手が出ているだろう。

 

 

「…お?」

 

 

 歌が、止んだ。

 

 

「………スゥー」

 

 

 急にしん、とした部屋に深くゆっくりと息を吸う音が聞こえる。

 …終わったか。

 最近見つけた癖だが、友希那は満足すると今のような息の吸い方をする。特に言葉は発さないが、何となくわかった。

 ガチャ、と戸が開き少し汗ばんだ友希那が出てくる。

 

 

「おつかれ。」

「…ええ。今日も場所の提供、感謝するわ。」

「喉、よく持つな。」

「…?当たり前でしょう、練習の賜物よ。」

「そういうもんかね。」

「ええ。」

 

 

 この淡白さ。同年代の女子といえばもう少し騒がしいものじゃないんだろうか。そりゃ静かな子もいるだろうけど、これじゃあなぁ…。尤も、それがいいところなのかもしれないが。

 

 

「…それで、今日は教えてくれるのよね?」

「お、そうだったそうだった。作らないで待ってたんだけどな?…今日はまず簡単なものからやっていこうじゃないか。」

 

 

 晩飯、というには些か似つかわしくないかもしれないが、今日は友希那と作るように簡単なものを計画していた。

 材料をキッチンの作業スペースに並べていく。

 

 

「…卵…牛乳??……この粉は?」

「裏に書いてあるだろ?」

「……ねえ、これから作るのって晩ご飯よね。こんな時間になって甘い物食べるの?」

「いーんだよ、友希那の料理の練習なんだから。最初は簡単なものから、な?」

「………。」

 

 

 納得いかなそうな顔をして卵をひとつ手に取る。まぁ表情に特に変化ないんだけど。

 

 

「あの…。卵も、割ったことないんだけど。」

「…そんなこったろうと思ったよ。」

 

 

 そう。まさに予想通り。

 

 今日訪ねてくる旨を電話で受けたあと、簡単な料理を探していた時だったがホットケーキミックスの残りを見つけた。その時ふと思い至ったのが、『全く料理をしたことない⇒どこまでなら経験があるのか?』だった。恐らく友希那のことだ、調理器具は勿論、ポットからお湯を注ぐだけでも危うい。

 そうして程良い経験として卵を用意したのだが…

 

 作業工程なんかを考慮した上でも、入門にお誂え向きだったって訳だ。

 

 

「正直なところ、卵なんか割れりゃ何でもいいんだけど…おいおい、握りつぶすのはやめたまえ。」

「…何でもいいって言ったじゃない。」

 

 

 話の途中で持っていた卵に全力で握力を集中し出したのには焦った。お前、気づいてないと思うけど青筋立ってたぞ。

 

 

「持つ力はそんなに強くなくていいんだ。落とさない程度で。それで、…うん、ここの角の部分にコンコンって、ノックする位の力で当ててみ。」

「こんこん…こ、こうかしら。」

 

 

 ぎこちない動きだが6回目の()()()でようやくヒビが入った。透明な糸が溢れる。

 

 

「えっ、わっ。こ、これをどこにやれば…」

 

 

 正直、オロオロしている友希那は新鮮で無茶苦茶可愛い。相変わらず無表情だが、声色には明らかに困惑が見える。

 

 

「ふふっ…このボウルにな。こう、親指を使ってパカっと…そうそう、上手いじゃんか。」

「……できてる?」

「あぁ、初めてだったんだろ?イイ線行ってんよ。」

 

 

 黄身は破れぐちゃっとしてはいるが、殻の破片も入っていないし、擬音多めの説明を聞きながらでも動けている。経験ないだけでやりゃできるタイプだな。

 

 

「…もう一個、やるわ。」

「え?別にいいけど、そんな食える?」

「……こんこん、こんこん……ぱかっと……できたわ!」

「聞いちゃいねえ。」

 

 

 今度は黄身も保ちつつ綺麗に割れた。流石に卵は大丈夫だな。

 

 

「ふふん。」

「ん、やるもんだな…。あとはこっちのカップで牛乳を量って…うん、入れちゃっていいよ。」

「…んしょ……次は?」

「はいこれ、粉なんだけど内側にくっついてるから軽く叩いてから…」

 

 

 びりっ。

 

 

「!!……けほっ。」

「…叩いてから開けないとこうなるんだよ。勉強になったな。」

「もっと早く言いなさい…。」

 

 

 脇腹のあたりを小突かれる。

 その後混ぜ合わせ、隠し味なんかを入れ、焼き。因みに我が家ではいつもマヨネーズを入れる。ふっくらするらしいがあまり実感はない。

 焼きの時には特筆するような事件もなく、まぁまぁといった出来であった。

 

 

「ん。で皿にのせて…。できたな。」

「…!!……スゥー」

「…料理、楽しかったか?」

「えぇ…悪く、ないわ。」

 

 

 若干粉を被って白くなったその顔は満足そうだ。例の深く吸い込むのもそうだが、珍しく口角が上がっている。

 

 

「夜に食べるスイーツもいいわね。」

「自分で頑張ったから尚旨いのさ。」

 

 

 量ったり混ぜたり焼いたりと、初めて尽くしで疲れたろうに。

 久しぶりに子供っぽい表情を見せる姪は寧ろ料理前より生気に満ちているように見えた。

 

 

「でも、お弁当にホットケーキは入れないわよね。」

「そりゃな。」

「……次も頑張るわ。」

「ん。」

 

 

 

 




<設定更新>

○○:最近紅茶がマイブーム。
   友希那に料理を教えることを意識しすぎて、一度知恵熱で仕事を休んだ。

友希那:器用さと直結していないが才能はあるのでやればできるタイプ。
    物を作る楽しさが少しわかってきた。
    毎日リサに料理勉強中の件をうっかり言ってしまわないように頑張っている。
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