BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
「まだ寝てるの??学校行く時間だよ。」
「………沙綾か。」
「…あれ?…○○、ひょっとして具合悪い…?」
「……あぁ…。」
エプロン姿の沙綾が俺を起こしに部屋に戻ってくる。
聞こえる声は一枚膜を隔てたように遠く篭って聞こえ、視界もやや揺れている。
特に声が枯れていたり喉が痛むといった症状は無いが、一声名前を呼んだだけで沙綾は気づいたんだろう。
…全く、大した洞察力だな。
「無理して起きなくていいよ…!
…ええと、熱は…測るまでもないか。大丈夫?どこか痛いとこない??」
なんとか体を起こそうとしていると、駆け寄ってきた沙綾に支えられる。
何やら一生懸命になって体の具合を探ろうと奮闘してくれている様子を、どこか他人のようにぼーっと眺める。
「沙綾…今日はいい匂いしないんだな…。」
「へっ!?…ひゃっ!!」
沙綾が全力で心配してくれる一方で、俺は不満を顕にしていた。
いつも起こされる時に嗅いでいる、パンの香ばしい香りと沙綾の甘い香りが合わさったあの匂い。それがしない。
どんなに顔を近づけても感じられないので、首筋を全力で嗅いでみる。
「ちょっ…だめだって!今もほら、汗とかかいちゃってるし!!…んぁっ」
「……だめだ。匂いわからん。」
「はぁ…はぁっ……だ、だめだよぉ…朝からこんな…
…じゃなくてっ!…匂いがダメってことは、完全に風邪っぽい?かなぁ…。」
「…うーん……。なんか、頭もぐらぐらするんだよなぁ…。」
そうか、風邪かぁ…。
…風邪?
「ッ!!」
「ぁっ!?ど、どうしたの?くっつきすぎた??嫌だった??」
いかんいかん…力の加減も上手くできんなぁ…。
つい振りほどくような格好になってしまったためか、沙綾が色んな意味で心配を始めてしまっている。
「あぁ、ごめん。…ほら、風邪だったら
「そ、そうなんだ。…嫌われたのかと思っちゃった…。」
「いや、看病してもらって嫌いになることはないでしょ…。」
「そっか…。えっとね、私だったら、気にしなくていいよ?
○○からもらえるものだったら、風邪菌でもうれし」
「それはさすがに引くわ。」
そんなもんで喜ばんでくれ。
「よいせ…っと」
「えっ?えっ!?起きられるの?学校、行くの??」
「…いや、今日は休む。」
「じゃあ、どこいくの。」
「……帰る。」
「…えぇ??」
そのまま一緒にいて風邪を感染してしまうのは忍びない。
居候させてもらっている、という自分の状態・状況を鑑みても、本来の居場所である自宅に戻るのが正しい判断だろう。
…だから、そんな不安そうな顔をしないで欲しい。
「帰っちゃうの?帰らないでもいいんだよ?私は全然気にならないんだよ?」
「そういう問題じゃない。…俺が、沙綾の為にも俺は帰るんだよ。」
「私の…ため?」
「ん。大好きな沙綾には風邪とかひいて欲しくないからね。…いつまでも元気でいて欲しい。」
風邪一つで大袈裟すぎる話かも知らんけど、俺のせいで体調を崩すなんて絶対ダメだ。
避けられることは避けていかないと。
「………う、うん…そう、なんだ……。」
「??どした?…あっ、お前も熱あるのか?顔真っ赤じゃんか。」
「う?…だ、大丈夫だから!!…わ、私っ、学校、行くね?」
「おう?おう…。」
「家に帰るのはわかったから、気をつけて行ってね?それと、少し良くなったらまたすぐ戻ってきて?私には○○が必要なの。
あと、それから…家に居る間も、困ったこととか何かあったらすぐに連絡頂戴。学校の途中でも、すぐ駆けつけるから。」
そこまで過保護にならんでも大丈夫だって。ガキじゃないんだから。
そしてあまり涙目で見上げないでくれ。俺が悪いことしてる気分になる…。
「わかってるわかってる…お前は俺のオカンか。」
「オカンって…なりたいのはお嫁さんなんだけど…。まあいいや。
…それじゃあ……本当に気をつけてね?」
「おう。…お前も頑張って…行ってらっしゃい」
名残惜しそうに部屋を出る沙綾。何度も振り返りながら階段を降りるその姿は、まるで永遠の別れを惜しむようだ…。
「さて、…最低限の身支度だけして、帰るとするか…。」
自分の家に帰るのに、まるで外出でもするようだと、ほんの少しだけ笑えた。
**
ただいま…と、どうせ声に出したところで返ってくるわけでもないので心の中で呟く。
ほんの少し離れただけなのに、随分久しく帰省した気分のようだ。
とはいえ、その状況を懐かしむほど余裕があるわけでもなし、さっさと自室のベッドを整え寝る準備に入る。
どうせひき始めだろうし、ゆっくり寝て過ごせば快復も早いだろう。
…は?
こっちの家に来客だって?…親父の知り合いか誰かか??
…人が折角休もうとしてんのに、と文句の一つも言ってやろうと思い玄関へ。
「はい…?」
そーっとドアを押し開ける。
「あ!○○さぁん!!体の具合は大丈夫ですかぁ??」
玄関口の隙間へ投げ込む様に元気な声を上げるのは、先日日直の一件でまともに喋る様になった銀髪の同級生。
想定もしていなかった相手に、一瞬思考が止まってしまったが…そもそも何故うちを知っているのだろうか。
「…イヴ?…え、あれ?学校は?」
「お休みと聞いたので、お見舞いに来てみました!」
芸能界関係者とういうこともあって、ドッキリかなんかなんじゃないかと身構えてしまったが…成程見舞いか。
他の薄情なクラスメートではあり得ない訪問理由だね。
「そんな簡単に休むんじゃないよ…ただでさえ仕事がある日は登校できないんだから。」
「いーんです!○○さんの一大事に駆けつけないのは、私の中のブシドーが廃ります!」
お前の中で武士道は一体なんだと思われてんだ…。
とはいえ、折角見舞いに来てもらったのに玄関で立ち話ってのもなんだろう。
「とりあえず、ここにいるのもアレだし、上がってくれ。」
「おじゃまします!!」
そのまま部屋まで一緒に行く。
途中ふらついてしまうシーンもあったが女子の手前、何とか踏みとどまった。
「…で?」
「でとは???」
「来てくれたのは嬉しいんだけど、見ての通り俺はただの風邪だよ。」
「はいっ!」
「いや、はいじゃなくてね?…帰らないの?」
「??はい。」
「…なぜ?」
あのね。常識的なところなんだけど。
この家、今俺しかいないんだ。でそこに君が来ちゃったわけね。
「私はドクターではありませんので、病気は治せません…。
ですが、体調を崩している時特有の精神的な辛さを軽減できればと思い来たんです!!
どうぞ何なりとお申し付けくださいませぇ!!」
「…えーっと…。ずっと居座る気?」
ちょっとそれは居心地が悪いかな…。
緊張して回復どころじゃなさそうだし。…大体、これから寝るってのにそんな可愛らしい女の子がすぐそこにいるなんて。
「私のことは居ないものだと思って頂いて結構ですっ!!」
「……いや、でも……うっ」
いかん、視界がグラつく。
沙綾の家からここ、そしてチャイムのせいで階段を往復…。そろそろ限界か。
自分で思う以上の熱が出ていたらしい。
「ほら、無理しちゃダメですよ…。
ちゃんと、寝てないと…ですよ?」
「あ、あぁ……イヴ、お前…」
体を支えベッドに誘導してくれるイヴ。
その、細くもしっかりとした柔らかさを伝えてくる身体と、耳元で囁くように紡がれる眠りへの誘いに意識が遠のく。
…気づけば天井を見上げる形で、自分のベッドに押し込まれていた。
「イヴ…?……あれ、イヴ?」
「はいはぁい、ちゃんとここに居ますからね。
○○さんはぁ、ゆっくり休んでくださいね…。」
限界か。
まだあまり聴き慣れていないはずのイヴの声も、何だか居心地のいい響きとして耳に染み入る気がする。
そのまま意識を手放した俺が次に目覚めたのは夜。
恐ろしい数の通知が溜まった事をスマホの画面にて確認、周りを見渡すと、もうイヴの姿はなかった。
「夢…か?」
スマホの通知を見ると、224件もの沙綾からのメッセージ。
メッセージアプリを起動すると、数分置きに何かしらの問いかけをされていたらしいが全く気付かなかったみたいだ。…後で謝っとかないと。
「…あれ?」
沙綾への返信を済ませ、下へ下へとスクロールすると見慣れないトーク画面が。
『EvE』…?何やらメッセージも入っているので開いてみると、…昼間の来客が夢でないことが理解ってしまった。
『○○さん、ぐっすり眠ってましたね』
『これから、例えば遊園地に行く時とかも使うと思うので』
『連絡先登録しておきました!』
『これからもずっとよろしくお願いします』
『いう"』
…うーん。勝手に携帯を弄るなと注意するべきか、可愛いもんだと見逃すべきか。
……まいっか、可愛いし。
<今回の設定更新>
○○:風邪をひきました。高熱が出て関節や筋肉が痛むタイプの人です。
最近イヴちゃんの実力行使(グイグイくる)に押され気味。
沙綾:妻。
毎朝、顔を見るだけで大体の健康状態は把握できる(らしい)。
チョロさは相変わらずだが、その持ち前の独占欲から学校生活がギスり始めている。
イヴ:天使。
誰にも聞かずに自宅まで来るとかやばいね。
主人公が病欠と聞いて朝のHR後に早退する行動力よ。
沙綾、やばいぞ。(真剣)