BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
「…ん。今日もかぁ。」
放課後。バイブレーションを感じ、手元の小さなディスプレイに目を落とす。
送られたメッセージを読み、ここまでの待ち時間が無駄になった事に少しのモヤつきを感じつつ立ち上がる。
『ごめんね』
『今日も香澄と一緒にいるね』
香澄ってのは同じクラスの戸山香澄のことだろう。最近何かと一緒にいることが多く、登校時以外は俺と離れて行動している。
…四六時中一緒だった今までの方が余程異質な状態だったわけだが、それでもあまり一緒にいられないのは寂しいというか、あるはずのものが其処にない…喪失感のようなものを俺に与えていた。
「あっ、帰るんですかぁ?」
「あぁ。沙綾は今日も戸山と用事があるってさ。」
「ここのところ毎日ですね。」
沙綾の用が終わるかどうか分からず、授業が終わってこっち二時間ほど教室で時間を潰していたわけだが。その間ずっと隣の席でイヴも待っていた。
一緒に帰りたかったらしいんだが、俺は沙綾を待たなきゃいけないし…ということで、沙綾を待つ俺を待つイヴといった何とも面倒な構図が出来上がっていたのである。
「まあな。待たせて悪いな。」
「いえ、私は好きで待ってるだけですから!」
沙綾がほぼ他の場所に行ってしまっている事で、学校では大体の時間をイヴと過ごすようになった。…あぁ、別に俺から近寄ったりイヴが寄って来る訳じゃない。席が隣なんだ。
尤も、下校を共にするのは完全にイヴが合わせてくるせいだけども。
日も落ちかけ部活動の声が遠くに聞こえるだけとなった校庭を歩き、校門をくぐる。
「…戸山って、どんな奴だったっけ。」
「カスミさん、ですか?」
沙綾が毎日一緒に居るクラスメイトのことを何も知らない。流石に名前は聞いたことがあるけど、顔はぼんやり…といった感じか。
印象に残らないんだよな。
「んー……凄く大人しくて、ちょっぴり引っ込み思案な感じの方です!」
「そうなのか。…沙綾と、一体何してんのかな。」
「…心配ですか?」
「いや、流石に女同士だし、心配ってこたぁないけどさ。…最近あんまり一緒に居ないから距離感じちゃってさ。」
「ふふっ、心配しなくても、カスミさんにサーヤさんを取られることはありませんよ~。」
「取られるとかそういう…のじゃないんだけど…。」
戸山のことはよく知らないし、戸山と一緒にいる時の沙綾がどんな顔してようと俺には別に関係ないし。
ただちょっと、ほんのちょっとだけ引っかかるというか。
「私と一緒に居ることに怒ってるんでしょうか…?」
「…それはない…と思う。家にいるときも、あんまりイヴの名前は出ないし。」
「いつもどんなお話を?」
「特殊な話はしてないぞ?学校がどうとか、晩飯の話とか、風呂上がったら何するとか…」
「…挙式はいつになるんです??」
「馬鹿かお前は。」
突然何を言い出す。ただ友達の家に居候させてもらってるだけだわ。
「……○○さんは、サーヤさんの事好きじゃないです??」
「前もそれ訊いてきたよな。…その時も言ったと思うけど、好きだよ。」
「それはお友達として、ですよね?」
「当たり前だろ、クラスメイトなんだから。」
「……じゃあ、お付き合いしてるとかでもないんですよね?」
「?…ああ。」
あんな器量のいい美人に俺みたいな荷物が釣り合う訳無いだろ…。流石にそれは冗談としても雑すぎるぞ、イヴ。
「それなら、私がその枠に立候補しても?」
「はぁ?」
「コイビ…いえ、将来のお嫁さんです!」
「はははは、それはお前……あれ、マジな感じ?」
「はい。」
全くそんな素振りも見せなかったイヴからの直接攻撃。勿論俺もそんなふうに見てなかったし、向こうも仲の良い男友達として友情を感じてくれているもんだと思ってた。
それが、こんなに真剣な表情で告白だって?
「…いやそんな、急に言われてもな。」
「勿論今すぐお返事していただかなくても結構です。」
「………。」
「お付き合いしていただけても、お断りされても……それまでの期間もそれからもずっと。
今と変わらずおしゃべりさせていただきますから、安心してくださいね。」
「……あ、あぁ。」
イヴは飽く迄冷静な様子で、冗談どころか焦ったり緊張したりといった感情すら無いかの様だった。
…流石は芸能界の人間と言うべきか、夕闇に浮かぶその瞳は真っ直ぐ透き通っていて、薄暗い中でもはっきりと見て取れるツヤのある銀髪は美しく、それに負けず劣らずといった具合で整いすぎた顔。
非現実感をより一層引立てるその美貌と退治しても尚、なんだろう…
「では、私はこれで。…こっちですから。」
「…………………イヴ。」
「…はい?」
「……………本気、なんだよな?」
「勿論、ブシドーに嘘はありませんから。」
…なんだろう、嬉しさや幸福感は感じられなかった。
**
何とも言えない気持ちで山吹ベーカリーの扉を開ける。
「あら、おかえりなさい。…一人?」
「あぁ、お義母さん。ただいまっす。……沙綾は何か友達と用があるとかで。」
「あらあら…。…??○○くん、大丈夫?」
「へ?」
「何だか凄く元気がなさそうだったから。沙綾と喧嘩でもしたの?」
「ああいえ、そんな、ぜんぜん、仲良しですよ。はい。」
「そう?…まあいいわ。あまり無理しないでね。」
「はぁ、すいません…。お義母さんも、あまり無理しすぎないでくださいね。その、店のこととか。」
「あらありがとう。…○○くんが継いでくれるなら、私も少し楽できるんだけどね。…なんちゃって。」
「ははははは…そう、ですよね。」
お義母さんにまで心配をかけてしまうとは。そんなに顔に出るほどモヤついていたか?俺。
二階へ上がり、真っ直ぐ沙綾の部屋へ。ごちゃごちゃと散らかり放題の脳のまま、沙綾の香りが染み込んだベッドへ倒れこむ。
制服のままだがそんなことは気にならないくらいの安心する匂いに包み込まれるも、何か足りないような不思議な感覚は強まるばかりだった。
「……沙綾ぁ…。」
忘れたいのに忘れられない。自分で自分の気持ちが、想いが整理できなくなったのは初めてかも知れない。
熱が上がるような感覚に囚われながら零した声は自分の物と思えないほど弱々しいもので。その滑稽な姿を思い浮かべないように、強く目を閉じた。
**
「……?…………ー?」
何かにゆさゆさと体を揺さぶられる感覚に、意識が浮上する。
眠っていたのか。一体何時間経ったって言うんだ。沙綾は帰ってきたんだろうか。……沙綾?
「あっ!?………さあ、や…。」
勢いよく体を起こし振り返ると、驚いたように目を丸くする沙綾と目が合う。
彼女は少し笑ったあと、
「……ぐっすり寝てたね。疲れてたの?」
いつも通りに言葉を投げてくる。
それに対してまともに返事もできないまま一歩、また一歩と足を進める。
強張った表情に恐怖を覚えただろうか、それとも、ゾンビよろしく虚ろな目で覚束無い足を擦る俺に滑稽さを見出しただろうか。どちらにせよ、笑顔で両手を広げ、俺を受け入れんとする少女の姿しかもう見えていなかった。
「沙綾………ッ!」
応じてくれるただ一人の彼女の胸に飛び込む。いつものように受け止めてくれる彼女はそのまま、いつものように頭を優しく撫で…
「ごめんね………遅くなっちゃって。」
いつものように言葉をかけるのだ。
「………沙綾ぁ…。」
「…なあに?」
「……こんなに長い間、俺から離れてるんじゃねえよ……もっと、ずっと俺の傍にいろよ…。沙綾…。」
冷静になって見れば思わず引くくらい溢れ出していた涙と弱気な姿勢のまま、ありのままに沙綾を抱きしめる。
その時の俺は、腕の中に感じる確かな存在と、甘く優しい彼女の香りに夢中だった。……二人の幼い弟妹とお義母さんが廊下から覗き込んでいるのも気づかないくらい、初めて抱いた感情は強かったんだ。
「…ごめんね。今日で終わったから、ずっと○○と一緒にいるからね…?」
「……本当か?」
「うん。………だから、○○も私の傍から離れないでね?」
「こんな気持ちになるんなら、もう絶対お前を離さないし、離れるもんか…。」
「…………そっか。……○○、大好き…だよ。」
「………俺もだ。」
詰まる所俺は、寂しかったんだ。
<今回の設定更新>
○○:大切さに気づいたのは、奇しくもイヴの告白を受けた日と重なってしまいました。
……………墜ちた。
沙綾:原作より一年遅れで香澄から勧誘を受けている。
尚、香澄は小説版仕様の模様。
沙綾ママ感ある。
イヴ:不明。