BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
「…おい、バカ息子。」
「あんだよ。クソ親父。」
朝、学校へ行こうと玄関を出る俺を、珍しくこの時間に起きている親父に呼び止められる。親父は仕事の関係上、朝も夜も関係なく必要に応じて呼び出されるため、基本的に家に居ないか眠っているかなんだが…。
「お前、急に帰ってきたと思えば何なんだ?腑抜けた面しやがって。」
「うっせぇな。もうすぐまた帰ってこなくなるわ。」
「そうかそうか、そりゃいいことを聞いたな。また沙綾ちゃんの家か?」
「まあな。…じゃあ、学校だから。」
「…まあ待て、〇〇。」
「……親父?」
親父の口から自分の名前を聞いたのはもう何年ぶりの事だったか。それもこんなに真面目な雰囲気でだなんて。強制終了とばかりに扉を閉じようとしていた手を止め、改めて親父の顔を見る。…酔ってる…わけじゃなさそうだけど。
「……お前、沙綾ちゃんとは、いつ結婚すんだ?」
「はぁ?…ついにボケたのか?まだそんな間柄じゃねえよ。」
「まーだそんなこと言ってんのか。あんまり余裕こいてっと沙綾ちゃん取られちまうぞ。」
「うるせぇな……そんなことが言いたくて呼び止めたのかよ。」
「…そんなツンケンすんなよ。俺が言いてぇのはな?何時までも若くいられるわけじゃねえんだから、後悔しないように行動しろってこった。」
「そんなの、わかってるよ。」
そんな
それとも何か、親父は何か後悔でもしてるって言うのか。
「……そうか。ならいいんだけどよ?…俺みたいには、なるなよ?」
「なりたくもねえよ。」
「はははは、違ぇねえやな。よし、じゃあ行ってこい。」
「…??じゃーな。」
一瞬顔に陰りが見えたことに引っ掛かりは覚えたが、結局のところ親父は何かを悔やんでいるんだ。だから「俺のようになるな」と。
過去に何があったのかわからないが、もしかしたらウチが父子家庭であることとも関係あるのかもしれない。別に気にしちゃいないが。
未だすっきりしない親父の突発行動に首を捻りつつ歩いていると、登校前の目的地が見えてきたようだ。
一時期居候していた"もう一つの我が家"でもある、「山吹ベーカリー」。その前に立ち少し俯きがちに俺を待っているのは、ここの看板娘でありさっきまで親父が名前を挙げていた少女。
……ここのところ元気がないのは多分俺のせいだ。
「よっ、沙綾。」
「…ぁ、おはよ……○○…。」
「今日も元気ねえな……行こうぜ?」
「……うん。」
いつもどおりにその手を取り、学校へ向けて歩き―――出せなかったのは、沙綾が握った手を引っ張っているためだ。
振り返り、相変わらず深刻そうな沙綾の顔を見る。
「…どした?」
「ねぇ、○○。」
「ん。」
「………もう、無理に一緒にいてくれなくてもいいんだよ?」
「……ん?」
「私のこと…嫌いになっちゃったんでしょ?最近イヴとずっと一緒だし、イヴと付き合いたいんでしょ?」
沙綾は…泣いていた。眉間に酷く皺を寄せて、震える下唇を必死で噛み締めながら、静かに。
まだ人通りの少ない早朝の往来はとても静かで、沙綾のしゃくり上げるような呼吸だけが響いていた。
「…そんな訳、ないだろ。」
「…嘘、嘘だよ。」
「本当だ。」
「…っ、じゃあ!どうしてずっとイヴと一緒にいるの!?どうして私の家には来てくれないの!?どうして、…私から離れて行っちゃうの…?」
堪えきれず想いを叫ぶようにぶつける。そう言われてしまうのも当然で、あの日以来俺は登下校以外の時間をほぼイヴと過ごしていると言ってもいい。
勿論、沙綾を避けていたりイヴと付き合っているわけではなく、ちゃんと理由のあるものだったんだが。
「理由は……ちゃんとあるんだ。ただ、イヴと付き合ってるって訳では断じてない。」
「嘘だよ……。…その理由ってなんなの?」
「……はぁ。…なあ沙綾、今日はちょっと遅刻していくか?」
「なんで。」
「…全部、今話すからさ。」
そろそろここを動かないと時間的には厳しくなってくる。朝のHRに間に合わないのは最早確定だろう。
少し考え込むような素振りを見せたが、やがて沙綾は小さく頷いてくれた。それを視認し、手を引いたまま山吹ベーカリーに入店する。あぁ、別に朝飯を買うわけじゃないぞ。
驚いた顔のお義母さんに会釈しつつ、階段を上がり沙綾の部屋を目指す。少し前まで俺が住み着いていた、あの魔性の部屋。
ドアを開き突き当たり、ベッドに二人並んで座る。
「……まず、イヴとは本当に何もないんだ。…何ならイヴに直接確認したらいい。」
「…でもずっと一緒にいたじゃん。私よりも長い時間…。」
「イヴは……前に告白されて、その後ちゃんと断ったんだよ。」
「…え?………き、聞いてないんだけど。」
「ん、言ってないからな……。それで、ちゃんとお断りしたあとにな、当然断った理由を伝えるわけだ。」
「………なんて言ったの。」
「まぁ、俺の気持ちなんざ随分前から全く変わっちゃいねえからな。……『沙綾を幸せにしてえから』って、言ったんだ。」
「………っ。」
正直、今になって思うとだが、イヴはそう俺に言わせたかったのかもしれない。告白自体も不自然だったし、フッた後もやたらとご機嫌だった。
因みにその後イヴと行動するようになったのも、俺がその理由を伝えたからである。イヴがあの時、色々とコネを使ってくれたからこそ今この
「そ、それでどうして……イヴと一緒に過ごすことになるの?」
「あぁ…。ほら、『幸せにする』って漠然と言っても、若い奴が何も考えずにバカ言ってるようにしか見えないだろ?」
「そうは…思わないけど。」
「俺は思うんだよ…。だからな?決意というか決心というか、そういうものを形にしなきゃいけないと思うんだよ。」
「うん。」
「……だからさ、まだ早いかも知れないとは思ったんだけど、俺は
「……これ?」
本当はもう少し後で、山吹一家の前で場を設けて渡すつもりだったもの。大切な物だし、毎日肌身離さず持ち歩いているものを取り出す。…箱が薄いせいでポケットにも入っちゃうんだよな。
「…?何この箱。」
「開けてみ。」
「…………えっ」
恐る恐る開き隙間から中を覗き込むようにしていた沙綾だったが、間抜けな声を漏らすと同時に俺の顔を見つめる。
……なんだそのキョトンとした顔は。
「これ……え?…えっ??」
「流石に時間もなかったから…給料三ヶ月分とは行かなかったけどさ。
俺は沙綾とずっと一緒に居るために、今日までの日を頑張ってきたつもりだ。」
「これって…そういう、こと?」
「…ん。前にも言ったろ。お前のことが世界で一番大切で、お前の傍だけが俺の居場所なんだ。だからさ……」
俺が用意してきたものはもうこの言葉しか残ってない。
既に涙を零している沙綾の両目をしっかり見据え、そっと握った手は離さずに伝える。
「…高校卒業したら、俺と結婚してくれないか。」
**
「ほら、早く行こ?○○。…今ならまだ二時間目は間に合うよ!」
「……まてまて、靴くらいゆっくり履かせてくれ…」
「だーめ。将来の旦那さんが、遅刻が平気な人なんて嫌だもん。」
「…うし、じゃあ行くか。」
「へへへっ、手繋いでいい?」
「……走りにくくないか?」
これまでのバイト漬けの日が終わっても、これからはパン屋を継ぐ為の修行が待っている。
さっきも「かなりキツい生活になる」とお義父さんに心配されたばかりだけど、俺と沙綾の手に光る決意の証に誓って俺は…
「いーの!……えへへ、ずっと一緒に居ようね?」
「…おう。」
沙綾の一番近くで、沙綾を一番幸せにするって決めたから。
<今回の設定更新>
○○:芸能界の恐ろしさを知った十数日間だった。
悶着を起こすことなく女の子をフれるデキるやつ。
以降また山吹家の住人となる。
紗綾:好きな人が何も伝えてくれてないって不安だよね。
ストレスで何度も体調を崩したそうな。
漸く堕とすとこまで堕としましたね。