BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
「甘い…甘いぞ…。」
深夜、自宅にて。
囲まれるように置かれた大量の駄菓子に、俺は胃と頭を痛めていた。
こうなったのは夕方、あの世間知らずをとある店に連れて行ったのがきっかけだった。
**
「○○!来たわ!!」
「……。」
「手も洗ったわよ!!」
「………。」
俺の目の前いっぱいに両手を開いて見せてくるこころ。
ミュー○のいい匂いがする。
「ねーえ!どうして黙ってるの??
ご機嫌斜めかしら?」
顔を覗き込むように近づいてくる。
わかったから、どアップでも可愛いから。首を傾げるな首を。
「…あのなぁ。来るときは事前に言えって言ってるだろ?
今日も折角来てもらって悪いけど、これから出かけなきゃならないんだよ。」
「あら。お外に行くのね??
どこに行くのかしら?」
「んー…どこって言われると…。薬局とか、ホームセンターとか、まぁ色々だよ。」
「ふーん?黒服の人に、車を出してもらえないか聞いてみるわ!」
「はぁ?近場だし、歩きでいいんだよ。散歩がてらってな。
…いやまて、お前も来るのか?」
「…?」
いやそんな愚問だろみたいな顔されても。
「はぁ……。一緒に散歩、するか?」
「もちろん行くわ!!出かける予定じゃなかったけど、面白そうだわ!!」
「そうかい。…あ、横澤さん、マジで車はいいですから。歩きやすい靴だけ用意したってください。」
「……そうですか。それではこれを。」
横澤さん、とは。弦巻家お抱えの黒服の一人だ。
急に話しかけられたときはびびったが、今じゃすっかり知り合いって感じだ。年も近いんだよな。
因みに性別は…謎だ。
髪が長いから女の人だと思ったけど、見た目だけで判断するなと注意されてしまった。
下の名前も教えてくれないし…。そもそもあの黒い制服も体つきをあやふやにするため、見た目じゃ本当に分からない。
「ほれ、こころ。靴ひも結べるか?」
「んーん。どうしても、ここがキツくなっちゃうのよ。」
蝶結び、できないんだっけか。
あーあー、それじゃお団子だぞ。
「どれ、見せてみ?
…おーこりゃまた随分と固くやったな。」
「すぱげってぃみたいに絡まっちゃったの!」
「怒んな怒んな…。頬パンパンじゃねえか。」
日頃何でも卒なくこなすイメージあるしな。明確に『できない』事自体少ないんだろう。
たまに壁にぶつかると大体こんな感じで拗ねる。
膨らんでいる両頬を挟み込むように手で潰すと、「ぷひゅぅぅうぅ」と空気が抜けた。
膨れっ面も思わずにっこりだ。
「…よし。いくか。」
「えぇ!いつもありがとうね!○○!」
しっかりと手を繋ぎ、外を歩く。
正直、買い物自体そんなに急ぐものでもないし、買うものも急を要さない。
今日は本当に近場の店だけ済ますことに、予定変更しつつ歩いた。
道中のこころは、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、まるで犬の散歩でもしているかのように、引っ張られる腕の疲労感もなかなかのものだった。
振りほどかれないように手を握るので精一杯だ。
何とか目的の店に着いた頃、すっかり息は上がり肩での呼吸を抑えられないほどに。
対照的に、こころはうきうきそわそわと擬音が見えるかのような調子で、入口の自動ドアで遊んでいた。
「まぁまてこころ…ダ○ソーは逃げねえ…。」
「はやく!早く行きたいわ!○○!」
「………ふぅ。よし、手は離すなよ?あと、店の中では静かにな?」
「了解よ!!静かにするわっ!!」
もう山彦レベルで響いてんだよな。
**
…と、当初の心配と予想を裏切るように。
店内でのこころは至って静かなもんだった。
色々興味こそ示し、一歩二歩と踏み出すものの、走って行ったり大声を出したりはしない。
…いや、考えてみりゃ高校生だもんな。ちびっこ感覚で接しちまう節があるなぁ…。
「○○。…ねぇ、○○?」
「んぁ??…どした、こころ。」
「…これ。」
「んー?なんだそのクジラ。」
「んー。」
「……。おぉぉ、ヒンヤリするな。」
「うん……。」
「…どうした、元気ないぞ。疲れちゃったか?」
「んーん。」
なんだろう。落ち込んでるとか、機嫌が悪いとかそういうのじゃなさそうだけど。
「あのね、○○。
んっと、今日は、静かだったでしょ?」
「?あぁ。気味が悪いくらいな。」
「……いつも元気すぎるって、○○が言うから…ちょっと静かにしてみようと、思ったの。
だから、また次も、他のお店に行くときも、連れて行ってもらったり…できるかしら。」
はー。ギャップ。ギャップだよこれ堪らんね。
つまりあれか、いつもは燥ぎ過ぎて俺に注意されるから、お出かけ禁止になるのが嫌で頑張ってみたと。
「いい子か。」
「うん、今日はいい子。」
「そかそか。…でもさ別にいつもだって、うるさいとかって怒ってるわけじゃないぜ?
ちゃんと毎回一緒に遊んでるだろうが。」
「…そうなの?」
「あぁ。…だからいつものこころのままでいいんだよ。
無理して何でも我慢しなくていいから。な?」
「…うん。わかった、わ。」
「………。でも今日はちょっと頑張ったからご褒美をあげちゃおうかな。」
「ごほうび…?」
「そのクジラ、買って帰るか。」
「…!!!」
表情がぱっと明るくなる。
まるで向日葵のようだと、柄にもないことも思ってみる。
「ひんやりしてていい手触りだしな。気に入ったんだろ?」
「えぇ!とっても!!」
「うっし。じゃあこれと…なんか適当にお菓子でも買って帰ろ。」
「いいの!?…えっとね、気になったのがいっっっぱいあるのっ!!」
言うや否や、菓子コーナーの方へ走っていってしまった。
うんうん、これが弦巻こころだ。
このぬいぐるみは…300円か。
百均とは言え、普通に品質のいいものは少し高めで売っている。
こういった掘り出し物があるのも、なんとも楽しい店である。
「○○ーー!!!たくさんあるわーー!!」
…やっぱもう少しあの静かなこころのままにしておくべきだったか…。
**
「…楽し…かったか、こころ…。」
「えぇとっても!!○○、辛い?」
「ちょ……っとだけな。これ、全部お菓子だもんな…。」
甘いもんばっか選びよってからに…。
まさか、百均で万札を出す羽目になるとはな。流石の金銭感覚だぜ。
というより、百均どころか百円すら知らなかったっぽいが。
「あなたも楽しそうね!カナコ!!」
「…カナコ?」
「そうよ!!!これ!!」
自慢げにクジラを差し出す。レジを通したあと豪快に値札を引きちぎり、ずっと抱いているのだ。よほど気に入ったと見える。
どうでもいいけど、あんまり張るんじゃない。タダでさえ目立つ胸なんだから。
「…お前、カナコっていうのか…。」
「そうよ!!折角○○から貰った大事なぬいぐるみだもの!!
素敵な名前をつけてみたわ!!」
「どこから出てきたんだ…その、カナコってのは…。」
「??」
キョトン、と。何を聞かれているんだかわからないといった顔をする。
え、カナコって有名人かなんかいたっけ?知らない俺がおかしいの?
「○○、あなたカナコと仲良しじゃないの?」
「初対面のクジラが知り合いたぁ驚いたね。どんな人脈を想像しているのかしらんが、今日が初対面だ。」
「そっちじゃなくて…。」
指をさした先に……。
「…やっぱ女の子なんじゃん、横澤さん。」
**
うむうむ、こころは可愛いし、横澤さんも急に距離が縮まった気がするし。
いや、それよりも――
「菓子は食える分だけ買えって教えなきゃな……。」
<今回の設定更新>
○○:気分は親か。
今回はただ突っ張り棒を一本買いたかっただけなのに…。
こころ:どんどん幼児化している気がする。
すっかり主人公に懐いてしまって、なんだかもう…。
大きいクジラはこころちゃんの上半身くらいあります。
カナコ:横澤さんの方。
黒服陣の中でも割かし責任者的なポジションに就いている人。
意外と明るく、こころとも仲良し。
過保護すぎるあまり主人公に直接注意をしているうちに、少し話すようになった。
長い髪の綺麗な、ちょっとお茶目な27歳。