BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
大人になって。中々自由な時間が取れなくなってからの話。
こんなに真剣に、声が枯れるまで歌う事があっただろうか。
それも自宅で。
今日もまたあの歌姫がうちに来ているのだ。…料理を習いに、来たはずなのだが。
「…もう限界なの?料理を教える時はあんなに先生面しているくせに、不甲斐なさすぎる体たらくね。」
「お前と違って毎日歌ってるわけじゃないんだからな…。もう何年大声出してないと思ってんだ。」
「大声を出せと言ってるわけじゃないわ。お腹…そう、この丹田の辺に力を込めて、響かせるように声を」
「だー!もういい!俺に歌は無理だ!飯作るぞ飯!」
「……仕方ないわね。続きはまた次回にしましょう。」
「まだやんのか…。」
普段料理を教えている"礼"として、よりにもよって歌を教えると言いだしたのだ、この姪は。
確かに「お互いの得意分野を教え合うなら、それは高め合うことにも繋がるし」という言い分もわかる。が、それとこれとは別の話だ。俺は元からそういった芸術方面の人間ではないのだ。せめて多少は素質か興味があるものにしてくれ。
と、脳内で悪態をつきつつも手元は着々と料理の準備を進めている。ひまわりがプリントされたエプロンも装備済みだ。
あぁ、エプロンといえば…
「どうだ友希那。料理楽しくなってきたか?」
「?…ええ、まあまあ楽しんではいるわ。」
「そうかそうか。…実は、そんな友希那ちゃんにプレゼントがあります。」
「いらないわ。」
「……ふーん。じゃあいいよ、きょうの料理もなしだ!」
「えっ」
これはどうしても友希那にあげたいプレゼントなんだ。そのためにも、ちょっと大人気ない態度を取る作戦へ移行してみる。
「…じゃあ、プレゼントの内容だけでも、聞くわ。」
効いた。
「そうか。………これだよ。」
差し出したのは黄色とオレンジのチェック柄のエプロン。丈は短いタイプだ。一見普通のエプロンだが裾をよく見ると…子猫が寝転び、寝返りのようにゴロゴロ転がる姿が描かれている。
「ありがたく頂戴するわ。」
ひったくるようにしてエプロンを回収する友希那。
おぉ、眼が輝いているぞ。
「…気に入ったか?」
「ええ、まあね。」
「ただ、そのプレゼントには続きがある。」
「…続き?」
ゴクリ。と。友希那の喉が鳴る。
そう、このプレゼントには続きがある。豪華二本立てってやつだ。
「見るだけなら許可するが…」
「ぜひ見せてもらうわ。」
「これだ。」
そう。それはコック帽。シェフの証。それもでかい肉球のデザインに赤いリボンまで付いたスペシャルな仕様だ。実はこの二つはセットで売られていて、結構なお値段のものではあるのだが…。このパステルっぽい黄色とオレンジが凄く友希那に似合いそうな気がして。
…まぁ、衝動買いって奴をしてしまった訳だが、こんな形で渡す事になるとは。
「こ、これも頂けるのかしら。」
「これはまだ御預けだ。これは……そうだな、もっと料理が上達して、シェフと認められたら贈呈しよう。」
「認められるって…誰に?」
「俺。」
「…………スゥー」
出たなその満足そうな吸気。目標が定まって一段とモチベーションが高まったってところか。
「よし、エプロンつけてみるか。」
「ええ。お願い。」
そう言って両手を突き出す。
肩紐を通してやり、腰紐を後ろに回し交差…前へ持ってきて蝶結び、と。…ん、思ったとおり似合ってる。
「おぉ、友希那。かわいいぞ。」
「そ、そうかしら…色、派手じゃない?」
「全然。すごく映える感じだ。いいなぁ…。素材もいいから似合うんだな。」
「も、もう…。」
「よし、あっちの部屋行こう。鏡見ようぜ。」
隣の部屋へ移動し、身長ほどある姿見の前に立つ。
「…どうだ?」
「悪くないわね。」
「ようし友希那、ポーズだ!ポーズ!」
「ぽ、ぽぉず…?こうかしら…?」
お前…鏡に向かってピースって…。可愛すぎか。
その後もノってきたのか、くるりと回ってみたり招き猫みたいな仕草をしてみたり。今日の料理の授業がファッションショーになってしまう位には楽しんでいたようだ。
勿論、写真もたくさん撮った。
**
結局料理はできなかったが、友希那は終始ご機嫌だった。多分。
家まで送り届けた後に、兄貴に友希那のエプロン姿を送ってみたら、二分と経たずに返信が来た。
『お前が弟でよかった。』
「…………。」
<設定更新>
○○:友希那編だと基本名前を呼ばれない主人公。
姪コンプレックスって何て言うんだろう。
友希那:かわいい。
慣れない燥ぎっぷりに疲れたのか、送ってもらう最中の車内ではガッツリ眠ったらしい。