BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
すげぇ…すげぇぜ……。
夕刻頃、不意に鳴らされたチャイムにインターホンのディスプレイを見る。そこには、「ドッキリです☆」と言われても納得できるような光景が。
んでそれをバックにぼそぼそと喋る顔見知り。
『○○様、お迎えに上がりました。』
「…あー、うん。今行きますね。」
夏の暑さから見る蜃気楼だろうか。
いや、蜃気楼って機械通しても見れんのかな…。
粗方準備は済ませておいたので、すぐにでも出よう。依頼の品をしまったバスケットを持ち、靴を履く。…ん、スマホの充電もばっちりだ。
謎の緊張があるが、行こう。
意を決し玄関を開けるとそこには―――
「お待たせ、横澤さん。」
「…いえ。」
やっぱり本物だよな。…あの黒塗のリムジン。
あんな長い車体がどうやって入り組んだ住宅街を抜けてきたかは謎だが、弦巻家が抱える運転手だ。今更ツッコまんぞ。
自分でドアを開けなくていいことに戸惑いつつも車内へ。
…どうやら迎えはうちが最後だったらしい。中には、珍しくもガーリィな格好の先客が。
「…あぁ、○○さんの家だったんですか。」
「おっ、美咲ちゃん…だったよね?
今日は随分と……可愛らしい格好だね。」
「ふふっ、合ってますよ。まだ片手で足りるくらいしか会ってませんもんね。
格好はその…一応、招かれの身なので。…似合わない、ですよね?」
「そんなことないさ。あんまりファッションとかは詳しくないけど、似合ってると思うよ。」
「そう…ですか。」
「うん。」
…………。
ま、まあ仕方ないよな。
コミュ障とかじゃないぞ?まだ三回しか会ってないんだからな?あれ、四回か?
沈黙は痛いが、目的地までの辛抱だ。
嘘は言ってないしな。凄い似合ってんだぞ。ほら、上のシャツ?ブラウス?っていうのか?それもなんかすげえし。
下のスカートも…あ、そもそも今までパンツルック?しか見たことなかったから、そのチラチラ見える生足にも驚いちゃうし。
長さもなんか、短いほうだと思うし…うん!全く以て知識と語彙力が足りない!!
「…??」
しかも長く見つめすぎたせいで怪訝な表情をされるというおまけ付きだ。
はぁ…早く着かねえかな。
「○○様、奥沢様。お降りくださいませ。」
「うぉっ」
何だもう着いてたのか…。静か過ぎて気付かなかったぞ。
揺れがないとか静音設計とかそういう次元じゃなかったな。さすが弦巻。
にしても美咲ちゃんはエラく落ち着いてるな。
「美咲ちゃんはよく来るの?」
黒服さんに周りを固められ、黒服さんに道を作られ、その上黒服さんに先導されつつ訊いてみる。
半歩ほど後ろ歩く美咲ちゃんは、そのまま無表情に近い顔で教えてくれた。
「ええまあ、二日に一回くらいですかね。」
「へぇ。…二日に一回?」
「えぇ、学校の帰りとかに。」
「へ、へぇ…。」
めっちゃ来とるやん。そら慣れるわな。
そういえばこころって、学校どうしてんだろ。まさか歩いて通うってことは無いだろうけど、毎日リムジンで送迎か…?
「あ!!来たわね二人とも!!待ちくたびれたわ!!」
「うん、きたよーこころー。」
「お、お邪魔します。」
通されたのは…ここがなんつー名称の部屋かもわからんが、とにかくでかい部屋。
真ん中にはこれまたでかいテーブルがあって、その周りをびっしり椅子が囲っている。
ほー…これまた凄いキメ細かなテーブルクロスだな。これで寝るのもアリだ。
「…アリな訳無いでしょ。」
「鋭いツッコミありがとう美咲ちゃん。」
「…何緊張してんですか。気楽に寛げばいーんですよ。」
「ば、ばかいえ、緊張なんかしてないわい。」
「二人とも、こっちに座って!!」
俺の緊張などお構いなしにこの子は…。
二人の手を取ったこころはそのままテーブルの端、短い辺の真ん中へ。普通のテーブルならお誕生日席って言うんだろうけど…。
椅子が多すぎてどこが真ん中か探すのも一苦労だ。
「○○はここ!美咲はこっちね!!」
「はいはい。」
「こころはどこ座るんだ?」
「あたしはここ!!」
椅子を飛び越えるようにして椅子に座るお嬢様。…今何回転した??義経の八艘跳びを彷彿とさせる軽やかさだったぞ。
これにより席順左から、俺・こころ・美咲ちゃんとなった。ちょうど、将棋の王と金の関係みたいな。
「こころ?…あと何人来るんだ?」
「??今日来るのは二人だけよ?」
「!?」
「??そんなに驚くことかしら??」
こころの回答に思わず固まった。
じゃ、じゃああの大量の椅子は何なんだ??
「どーせこころのことだし、どこに移動しても座って食べられるように~とかそういうのでしょ。」
「?隙間があるのがなんか嫌だっただけよ?」
「…へへっ」
…思ったよりしょーもない理由だった。
「さてと!そんなことより、参加者は全員揃ったのよ!
始めましょ!!」
「…ん。」
「はいはい。」
かくしてパーティは開かれた。
こころの、誕生日のお祝いだ。
**
パーティも和やかな雰囲気で進み。最初は気になって仕方が無かった黒服達もどんどんと、そういったシステムであるかのような認識にしかならなくなった。
…さすが弦巻家の黒服、驚きの力だ。
俺は席を立ち、だだっ広いテーブルに所狭しと並べられた見るからに金のかかった料理を食べて回った。勿論目的を忘れちゃぁいないが、こういう機会じゃないと食えないものばかりだろうしな。
うん。どれもこれも美味ぇ。…と。
「…卵焼き?」
料理だけを見て歩いていたせいかその違和感にもいち早く気づいた。そんでもって釘付けだ。
これだけの料理が並ぶ中で、シンプルな卵焼き。…これは口へ運ばずにはいられないな。
いただきま…おぉう!これは…!!
「○○?どうかしら、その卵焼きは!!」
「んむんむ…ん、あぁ。パーティ感はないし、急に家庭料理感が出てて気になって食べちゃったけど…。
なんつーか落ち着く味でいいな。これ。」
「本当!?」
「あぁ、俺は好きだなぁこれ。
毎日食べたいくらいだ。」
「……ッ!!やったわ!!!」
聞くなり、ガッツポーズ。すすすっと寄ってきた横澤さんとハイタッチを交わしている。
ははぁ。これやっぱ、こころが作ったんだな。
「こころ、お前、やれば大体なんでもできるタイプだよな。」
「そうかしら?教えてもらったとおりにやっただけよ!!」
「それが難しいんだよ。…にしてもこれはうまい。」
「あのねあのね!!このエリア、全部あたしが作ったやつなのよ!!」
「!?……ほほう、道理で家庭料理が多いわけだ…。」
改めて見てみると、そこには普段見慣れたようでどこか懐かしい品々が並んでいた。
おいおい、このマカロニサラダなんか、俺が昔よく作ってもらっていたような…。
「ん?」
「どーしたの??」
「これは……母さんの……」
そうだ。確かにそうだ。
懐かしい味なんてもんじゃない。まさに実家で出されるそれの味じゃないか。これは…っ!?
「○○様、そちらの料理ですが、レシピを○○様のお母様より仕入れました。」
「…横澤さん。あんたらもう何でもありだな。」
音もなく後ろに立っていた横澤さんに今更驚くこともなく返していると、当初の席から美咲ちゃんの大きな声が響いた。
粗方食べ尽くして満腹になったか、手持ち無沙汰で暇になったか…なんにせよ、俺も戻るしかないわな。
こころも全力ダッシュで向かっちまったし。
あぁ…美少女二人が激しめのスキンシップでべったりしている様子は、遠巻きに見ても十分眼福だなぁ。
「よいせ…っと。」
「掛け声がおじさんですやん…。」
「ははっ。」
若干広すぎる部屋を歩き、自分の席に戻る。美咲ちゃんの弄りにも反応する気力が残っちゃいない。
広すぎんだよ。
**
美咲ちゃんが手渡したのは、綺麗にラッピングされた箱。
水色のリボンが印象的だ。
「わぁ…!!素敵なお人形ね!!!」
「ははは…ありがとう?」
「おぉ、器用なもんだな。羊毛フェルト、だっけ?」
「はい、趣味なんです。一応。」
「ありがとう美咲!!ずっと大切にするわ!!!」
「うん、どういたしましたよー。」
「ふふっ、この二人、あたしと美咲かしら??
二人ともふわふわしてて可愛いわぁ…!」
女子力あるなぁ…。
パステルカラーの選択も相まって目に優しい。手触りも良さそうだ。いいなぁ…。
「○○さんにはあげませんよ?」
「わかってるよ。」
「それより、○○さんの番ですよ?」
「はいはい。…ほらこころ、これは頼まれてたやつ。」
「わぁ…!!」
「うぉお…。」
俺がこころ直々に頼まれて用意していたのはケーキだ。
シンプルながら、生クリームたっぷりの土台にイチゴを散りばめたケーキだ。
昔の経験が生きたな。
バスケットは重かったが、喜んでくれているようで何よりだな。
「これ、これよ!…もう食べてもいいかしら!?」
「勿論。食うために作ったんだからな。」
「うふふっ!じゃあ早速…。」
「あ、やっぱストップ。」
あぶねえ、忘れるところだった。
「これを載せないとな…。」
ラップを解き取り出したのはチョコレートプレート。
『こころ 誕生日おめでとう』
勿論、メッセージも自分でやったぜ。
「すごいわ!この文字も食べられるのかしら!?」
「おう、チョコレートだからな。たんとお上がり。」
黒服さんが手際よく切り分け、それをこころが喜々として平らげていく様を幸せな気持ちで眺めている。
おいおい、口の周りクリームだらけにして…。相変わらず子供みたいなやつだなぁ…。
それでも、その笑顔が見たくてつい色々やってしまうんだよなぁ…
ちゃっかりイチゴを多めに掻っ攫っていく美咲ちゃんを横目に見ながらも、癒しのひと時は流れていく。
**
時間もだいぶ遅くなって。
落ち着きを取り戻した邸内はこのパーティの終焉を表しているようだった。
「さてとっ…それじゃあ、あたしからご挨拶するわね!」
言いつつ、俺達の手を握るこころ。
先程までの騒がしい雰囲気はどこかへ。
一息ついて顔を上げたこころは、急に真面目な、どこか遠くを見るような
「…ふたりとも、今日は来てくれてありがとう。
あたしの誕生日…。別に、あたし自身は特別な日だとは思ってなかったのだけれど。」
「……。」
「………。」
「それでも、今年初めて独りじゃない
…上手な言葉選びはできないけれど、産まれただけの日をお祝いしてもらえるって、やっぱり特別なことなのね。」
なんだろう。今はいつもより、こころが大人びて見える。さっきまでまだまだ子供だとか思ってたんだがな。
…いや、確かに一つ、大人になったのか。概念だけではない、誕生日の
こころは相変わらず正面を向いたままで淡々と喋っているように見えるけど、いつものこころとは違う顔つきに見えるんだよな。
靴紐が結べなくて困っているような、手が上手に洗えて喜んでいるようなこころとは、違って。
こころ越しに見る美咲ちゃんも同じようなことを考えて聞いているのだろうか。
「…ねえ、美咲?」
「へっ…え??」
「あなたがくれたお人形。とっても素敵!
…でも、それよりも、毎日あたしと一緒にいてくれて、学校でも面倒を見てくれて…。
それがすごく嬉しいの。」
「…それは、あたしが勝手に…!」
「ううん。こういう時じゃないと言えないから、伝えたいの。
ありがとう美咲。あなたはずっとずっと、あたしの最高の友人よ!」
「ぁ……。」
うーん、ええ話や…。泣いてしまう。
「それから○○。」
「…なんだい。」
「あなたは…あたしが迷惑をかけるようなことをしても、いつも何だかんだで面倒を見てくれる。
怒ることもなく、優しく、お父様みたいに、ね。」
「………。」
「これからも、その…あたしと一緒に過ごしてくれるかしら?」
「……そりゃ、勿論だ。お前が飽きるまでは相手するさ。」
「ふふっ。ありがとう。」
それからこころは立ち上がり、改めてこちらに向き直る。
そのまま満面の笑みを浮かべ、
「二人とも!!これからも末永く、よろしくねっ!!」
あぁ、これからもよろしく、こころ。
誕生日おめでとう。
<今回の設定更新>
○○:美咲と、あとついでに横澤さんとの距離が縮まった気がする。
ケーキは頼まれていたものだったが、別途プレゼントとして髪飾りをプレゼントした。
鯨の形の。
…特に喜ばれなかったためカットされた。
こころ:おめでとう。
これからも世界を笑顔にしてください。
美咲:主人公と内心争っている。こころを賭けて。