BanG Dream! S.S.B.N. - 少女たちとの生活 完結倉庫 - 作:津梨つな
「…あらっ?……あはっ、見て○○!」
「見るから待って…あんまり早足で行かないでくれ……。」
昼過ぎあたりに例の如くこころ嬢が押しかけてきたのをきっかけに、近所をただぶらつくという素敵な時間を過ごしていた。
が、若い子の体力とはやはり恐ろしい。
周りが広くなればなるほど移動のスピードが上がるこころをやや遅れて追いかける俺。…こちとら、黒服さん達から君の安否について一任されてんだ。マジ勘弁してくださいこころさん。
「もう、○○はアレね。運動不足ね。…こんなにか弱き少女の足に敵わないのに、どうしてあたしのボディガードが務まるのかしら?」
「言いたい放題だなぁ君は。」
色々とツッコミ所はあるんだが、取り敢えずお前の行動力にまともについていけるのは美咲ちゃんくらいだと思うぞ。
あの子はホントすごい。眠そうで気だるそうな雰囲気を醸し出しつつ、この元気なお嬢さんと同ポテンシャルで動き回るんだもんな。若さだわ。
「しょーがないわねぇ。今日は○○にペースを合わせてあげるわっ。」
「はいはい、お気遣い感謝しますよ、お嬢様。」
「んっ。…それで、これ見て!!」
「……どこから採ってきたのそれ。」
「そこらじゅうにいっぱい生えてるわ!!」
喜々として突きつけて見せてくるのは大きくて立派な…色とりどりのキノコ。
いつの間にか近所の公園まで来ていたらしい。
…にしても、相変わらずの好奇心と、その怖いもの知らずな度胸に乾杯…じゃなかった感心する。俺そこら辺の雑草であっても素手で触りたくないや。
「よく素手で触れるなぁ。」
「ふふっ、ちょっとひんやりしててね、ふかふかしてて、可愛らしいのよっ。」
「ちゃんと手ぇ洗わなきゃな?」
「ここ!ここよ!…ここの手触りが素敵だわっ!」
キノコの傘にあたる部分、そこの裏か。繊維質がむき出しになっている部分であり、柔らかく滑らかなシルクのようだとこころは言うが…そもそも触りたくないので確かめようもない。
まぁ、本人は満足そうなので放っとくことにしよう。
「……これ、食べられるかしら。」
「言うと思った。…絶対毒あるからやめとけ。」
「あら?○○ってば、キノコ博士??」
「なんじゃそりゃ……普通に、得体の知れないキノコが体に無害だと思う方が無茶だろ…?」
ただの菌やでそれ。何から生えてるかもわからないのに…。
「普通って…何かしら?」
「えっ…。」
「○○の言う普通って、誰が決めたものなの??」
「…んんんん…。」
確かに。振り返ってみれば、"普通"という単語を使う機会は多かったかもしれない。
普通、普通…常識、当たり前…。そういった固定観念に縛られることも、俺をつまらない普通の人間たらしめる要素なのかもしれないな。
流石はこころ。久々ではあるけど、また思わぬところでその独特な観点を見せたな。
「そうだな。普通って言い方はよくないな。」
「良くないとは言わないけど…。そんな言葉で片付けてしまうのは、なんだか勿体無いわっ!
…ほら、食べたら大きくなるかもしれないし。」
「…こころが言うとそんな可能性も感じられるから不思議だな。でも食べるんじゃないぞ。」
「えぇぇ??○○は?○○は大きくならないの??」
「なりません。……俺が大きくなったところでなんだっちゅーねん。」
キノコ…大きい……いやいや、こころを前に何を考えてんだ。ベタすぎる。
残念そうにしつつもその目は爛々としており、周囲をキョロキョロと見回す姿は、まるで天敵の気配を探る野生の小動物のようだ。
…あれはまだキノコを探している目だ。
「…んんぅ………。」
「なぁ、まさか今日のお散歩をキノコ探しだけで使い切るつもりかい?」
「うーん…美咲に、お土産に持って行ってあげようと思って…。」
「喜ぶかなぁその土産…。」
「相手はあの美咲よ??…きっと喜ぶわっ!!」
可哀想に、美咲ちゃん。
君はこころの中で、無類のキノコ好きとして認識されているようだ。…まぁ、不思議としっくりくるけど。
「…わかったよ。俺、そこの木陰にいるから、満足するまで集めておいで。
…あんまり遠くに行っちゃダメだぞ?」
「わかったわっ!!○○も、あんまり遠くに行かないでね?」
「木陰で待機っつってるのにどこに行くんだよ俺は…。…わかったよ。
気をつけて行っておいで。」
頷くや否や嬉しそうに駆け出す小さな背中を見送る。
…こういうほのぼのとした時間もいいもんだな。
「…すっかり父親みたいになられて…」
「んあ?…あぁ、あいつ自身の口から"お父様みたいに"って言われたしね。
…俺の中でも親っぽい気持ちが芽生え始めたのかも。」
「性犯罪者の道に目覚めなかったようで何よりです。…てっきり、そっちの気があるかもとヒヤヒヤしておりましたが。」
「………横澤さんって、たまにとんでもないカミングアウトするよね。
…俺そんな危険視されてたの?」
「そりゃぁ、あの弦巻家のご令嬢を自宅に連れ込むような方ですからね。
…おまけにこころ様を見る目はいつもデレッデレ、デレッデレ…」
「してねえよ。」
「ですよね。」
こころがキノコ集めの旅に出た後、木陰で草木の匂いを楽しむ俺の隣に音もなく傅く横澤さん。
すっかり慣れたもんだが、最初は音もなく隣に立つ横澤さんに毎度心拍数を跳ね上げられたものだ。話し始めるとふわふわした横澤さんだが、こんなんでも立派な黒服の一員なのだと再確認できる瞬間でもある。
「キノコ、多分持って帰るよな。」
「…ええ、今バスケットと手拭きセットを用意させてますので。」
「そか。相変わらずいい手際だ。」
「こころ様を理解していればこれくらい、造作もないですよ。」
「…俺もいけんじゃね?」
「……ふふっ、馬鹿言っちゃあいけませんよ。」
「そうだよなぁ。」
「…こころ様、本当に最近は楽しそうで。」
「最近?何かあったっけ?」
「いえ、最近といっても○○様のお家に行くようになってからですかね。」
「…退屈しないからか。」
「真意はわかりませんがね。……特にお誕生会以降なんかは、○○様のお話ばかりしてますよ。」
「…へぇ。」
「○○様と過ごしている間はまさに天真爛漫といったご様子のこころ様ですが、お屋敷では笑顔ひとつ浮かべない方なので。」
「……まじ?」
「マジでございます。」
全く想像できないけどな。
横澤さんの言うことが本当だとしたら、それはそれで見てみたい気持ちもあるし、そんなこころは全く見たくないって気持ちもある。
てっきり家でもあんなだと思ってたし。
「ですからその……ほんの少しのお時間でも、こころ様とご一緒に過ごしていただきたい、というのが私個人の思うところではあります。」
「横澤さんだけの気持ち、ね。」
「ええ。…御当主様などは、また違った見解をお持ちですから。」
「当主……こころの親父さんか。」
弦巻グループの総帥、ブレインと名高いこころの父親。
確かに、そこまで上り詰めた人間であれば後継であるとか、一人娘の交友関係にも目を光らせているものなのかも知れない。
こんなしがない絵描きと連んでいるようじゃ、いずれこころ自身にも何かしら辛い思いをさせてしまうのかも、なんて考えてはいるのだが…。
「確かに、俺みたいな普通の人間じゃ釣り合いも取れないしなぁ。」
「ああいえ、そういうのではありません。
…あの方はとにかく子煩悩ですから。…イマイチ接し方がわからないといいますか。」
「…つまりどういうこと?」
「本当はべったり仲良くしたいみたいなのです。○○様のように。
ただ素直にそれが出来ないために、私たちのような黒服と金銭を与えて好きに使わせるという愛情表現…。要は、物凄く不器用な方なので。」
あ、割と普通のお父さんなんだね。
もっとヤバイ…こう、おっかない感じの人かと思ったけど。
「その為か、親にあたる方の愛情をあまり知らずに育ってしまったので…
○○様には是非、父親のようなポジションから愛情を注いで頂ければと…。」
「父親代わり、ね…。」
「………難しいでしょうか?」
「ただの絵描きにそんなこと頼むとはね…。ま、こんなごくごく普通の一般庶民でよければ、やれるだけやってみるさ。」
まさかそんな大それたプロジェクトの重要ポジションとして見られているとは思わなかった。…本当にいいのかい?お父様や。
「ふふっ…○○様ほど特別な方はそうそういらっしゃいませんよ。」
「…買い被り過ぎだってば。」
<今回の設定更新>
○○:まさかのお父さん設定。
いちゃいちゃに発展できなくてすみません。
こころ:もう毒のほうが逃げていくんじゃないかなってくらい神聖な存在。尊い。
物心ついて以降両親に会ったことがない。
キノコは食べるもの。
横澤さん:もう主人公のお付でいいんじゃないかな。
物凄く信頼している。